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第1章
第3話
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月曜朝の海岸は信じられないほど広々としていて、あたしがいつも電車に揺られている時間に、こんな世界がすぐそばにあったのかとびっくりする。
学校がイヤなわけでも、友達や家のことがダメなわけでもない。
ただこのまま何にもしないで終わってしまうのかと思うと、果てしなくそれに耐えられなくなっただけ。
清掃ボランティアのおばあちゃんおじいちゃんたちが通り過ぎてゆく。
砂浜にうずくまったままのあたしの隣に、こん棒の転がっていることだけはジロジロ見て、何も言わず通り過ぎていった。
鬼って、普段はどこにいるんだろ。
鬼検索アプリを起ち上げてみても、地図上にはどこにも表示されていなかった。
まぁそんな簡単に見つかっちゃうようなら、『鬼』って言わないか。
こん棒をつかみ立ち上がる。
手についた砂を振り払った。
「えいっ! やぁっ! とぉぅ!」
澄み切った青い空と海に向かって、無心にそれを振り回す。
剣道とかやったことないし、昔見たような気のするアニメの主人公になったような気分で、かっこつけて振ってみたりなんかしてみただけ。
踏み込んだ足から靴に砂が入る。
その靴も靴下も全て脱ぎ捨てた。
体が熱い。
じんわりと汗が浮きあがって、自分の腕すら重たくなってくる。
それでもあたしは振り回し続けた。
「痛っ」
素足に何かを踏んで、こん棒を落としてしまう。
足の裏をのぞき込んだ。
その場にしゃがみこんで小さな貝殻をつまみとると、海に向かって放り投げる。
砂浜の向こうで青い空と海はどこまでも広がっていた。
もう鬼なんていないんだからとか、この世からとっくに滅んだなんて言う人もいるけど、あたしは信じていない。
だって時折痛むこの腕がなによりの証拠だし。
だけどそんなことを言っても誰も相手にはしてくれないから、言わないだけ。
既に滅んだと言われている鬼はまだどこかにいて、それと戦っている人がいる。
周りの人たちはバカなことをと笑うけど、やめるつもりはない。
何度そんな言葉に騙されただろう。
大丈夫だと、平気だと言われて連れて行かれたその場所にはいつだって鬼が潜んでいて、気がつけばガッチリと取り囲まれていた。
そこから抜け出すことは出来るけど、アイツらはいつでもそこにいて、ニヤニヤとあたしを見下ろす。
その姿がどうして他の人には見えないのか、ママにもパパにも分からないだなんて、納得いかない。
気のせいだとか考えすぎだとか、もう子供じゃないだなんて、もっと合理的に考えろとか、損得感情も時には必要だとか、あたしにとって大事なのはそんなことじゃなくって、ただ我慢ならないだけ。
どっちの方が得かだなんてとっくに分かってる。
うまく利用して上手にやっていくのが正解だなんて、言われなくても知ってるよ。
だけどね、そういうことでもなくない?
あたしのこのモヤモヤとした行き場のない感情は、どうすればいいの?
そんなものを抱えたまま生きろというのが、本当の鬼の正体のような気がしてきて、あたしまますます意地を張る。
だってそうでもしないと、やってらんない。
お日さまはどこまでもキラキラとまぶしくて、それに負けないくらい海もキラキラしていて、あたしはどうしたってそんなキラキラには勝てそうになくて、だけどまぁ相手がお日さまと海とにだったら負けてもしょうがないかなんて、思い直してみる。
「帰ろ」
お腹空いた。
ママからもらったクッキーの袋を開けて食べる。
清掃ボランティアのおじいちゃんがこっちをにらみつけながらまた通り過ぎていったけど、ゴミはちゃんと持ち帰りますよーだ。
時計は9時を過ぎたころで、じゃあ今から学校行っても午前の授業にはまだ間に合うなーとか考えてる自分も、それなりに悪くないと思うんだ。
スカートの砂を払ったら、準備万端。
気分も落ち着いた。
こん棒も忘れない。
もう一度それを肩に担ぎフンと鼻を鳴らすと、あたしは歩き出した。
学校がイヤなわけでも、友達や家のことがダメなわけでもない。
ただこのまま何にもしないで終わってしまうのかと思うと、果てしなくそれに耐えられなくなっただけ。
清掃ボランティアのおばあちゃんおじいちゃんたちが通り過ぎてゆく。
砂浜にうずくまったままのあたしの隣に、こん棒の転がっていることだけはジロジロ見て、何も言わず通り過ぎていった。
鬼って、普段はどこにいるんだろ。
鬼検索アプリを起ち上げてみても、地図上にはどこにも表示されていなかった。
まぁそんな簡単に見つかっちゃうようなら、『鬼』って言わないか。
こん棒をつかみ立ち上がる。
手についた砂を振り払った。
「えいっ! やぁっ! とぉぅ!」
澄み切った青い空と海に向かって、無心にそれを振り回す。
剣道とかやったことないし、昔見たような気のするアニメの主人公になったような気分で、かっこつけて振ってみたりなんかしてみただけ。
踏み込んだ足から靴に砂が入る。
その靴も靴下も全て脱ぎ捨てた。
体が熱い。
じんわりと汗が浮きあがって、自分の腕すら重たくなってくる。
それでもあたしは振り回し続けた。
「痛っ」
素足に何かを踏んで、こん棒を落としてしまう。
足の裏をのぞき込んだ。
その場にしゃがみこんで小さな貝殻をつまみとると、海に向かって放り投げる。
砂浜の向こうで青い空と海はどこまでも広がっていた。
もう鬼なんていないんだからとか、この世からとっくに滅んだなんて言う人もいるけど、あたしは信じていない。
だって時折痛むこの腕がなによりの証拠だし。
だけどそんなことを言っても誰も相手にはしてくれないから、言わないだけ。
既に滅んだと言われている鬼はまだどこかにいて、それと戦っている人がいる。
周りの人たちはバカなことをと笑うけど、やめるつもりはない。
何度そんな言葉に騙されただろう。
大丈夫だと、平気だと言われて連れて行かれたその場所にはいつだって鬼が潜んでいて、気がつけばガッチリと取り囲まれていた。
そこから抜け出すことは出来るけど、アイツらはいつでもそこにいて、ニヤニヤとあたしを見下ろす。
その姿がどうして他の人には見えないのか、ママにもパパにも分からないだなんて、納得いかない。
気のせいだとか考えすぎだとか、もう子供じゃないだなんて、もっと合理的に考えろとか、損得感情も時には必要だとか、あたしにとって大事なのはそんなことじゃなくって、ただ我慢ならないだけ。
どっちの方が得かだなんてとっくに分かってる。
うまく利用して上手にやっていくのが正解だなんて、言われなくても知ってるよ。
だけどね、そういうことでもなくない?
あたしのこのモヤモヤとした行き場のない感情は、どうすればいいの?
そんなものを抱えたまま生きろというのが、本当の鬼の正体のような気がしてきて、あたしまますます意地を張る。
だってそうでもしないと、やってらんない。
お日さまはどこまでもキラキラとまぶしくて、それに負けないくらい海もキラキラしていて、あたしはどうしたってそんなキラキラには勝てそうになくて、だけどまぁ相手がお日さまと海とにだったら負けてもしょうがないかなんて、思い直してみる。
「帰ろ」
お腹空いた。
ママからもらったクッキーの袋を開けて食べる。
清掃ボランティアのおじいちゃんがこっちをにらみつけながらまた通り過ぎていったけど、ゴミはちゃんと持ち帰りますよーだ。
時計は9時を過ぎたころで、じゃあ今から学校行っても午前の授業にはまだ間に合うなーとか考えてる自分も、それなりに悪くないと思うんだ。
スカートの砂を払ったら、準備万端。
気分も落ち着いた。
こん棒も忘れない。
もう一度それを肩に担ぎフンと鼻を鳴らすと、あたしは歩き出した。
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