上 下
11 / 15

第11話

しおりを挟む
警察署の取り調べ室というところに、生まれて初めて入った。

テレビドラマと全く同じ作りだ。

俺は余計なものが何一つ置かれていない部屋に案内され、指示された椅子に座る。

「ドラマと一緒ですね」

そう言うと、俺とほぼ年齢の変わらないであろう刑事は、ふっと笑った。

「そうですね」

彼は手にしたファイルを、自分のために広げる。

ぱらぱらとページをめくって、そして手を止めた。

「保護した子どもさんの様子はどうですか? 彼は普段は、事件発覚前までは、どんな子でしたか?」

「特に変わったところはないですよ。ごく一般的な、普通の子どもでした」

「そうですか」

刑事は、にこっと微笑む。

彼の指先に挟まれていた分厚いファイルのページが、パタンと音をたてて倒れた。

「先に逮捕されている彼の父親が、奥さん殺害の容疑を否定しています。そしてそのアリバイが、証明されてしまいました。事件は、ほぼ振り出しといっても過言ではない状況です」

なるほど。

事件の解明が難航している。

それで俺が呼び出されたのか。

「先生は、殺された奥さんと、学校以外の現場での、接点がおありでしたよね」

「えぇ、家庭環境とか児童の生活態度について、個別に色々と相談を受けていました」

それは、俺が担任だったからだ。

「そこに、夫からの暴力も含まれていたんですよね」

「そうです」

彼女はとても困っていた。

だから相談にのった。

というか、個人面談に来て、彼女は子どもの事ではなく、自分の身の上話を延々と続けていた。

次の保護者が待っているのに、時間がおしておして、大変だった。

「その時の奥さんは、どんな様子でしたか?」

あれはいつの話しだっただろう、一ヶ月前? 

いや、もう二ヶ月は過ぎたかな?

「彼女はとても、精神的に不安定になっていて、まともに話しが出来る状態ではありませんでした。それで僕は、よく学校に案内のきている、家庭相談室に相談しろと、アドバイスしたんです」

それを個人的な関係と呼ぶのなら、そうなのかもしれない。

「なるほど。そこはちょっと確認してみますね」

彼はそれをメモにとる。

俺は捜査に協力している。

「それで?」

『それで?』とは、どういう意味だろう。

俺は刑事を見上げた。

俺がわずかに首をかしげると、彼も同じように首をかしげ、目を合わせてくる。

それで黙っているから、どうしていいのか分からない。

「それで、感謝されました」

彼女はそれを受け取って、連絡してみると言っていた。

俺は自分なりに、出来ることはしてやったつもりだ。

「まぁ、学校の担任教師が、どこまで家庭の問題に踏み込んでいいのか、線引きが難しいところではありましたけどね、僕は僕なりに誠意をみせたつもりです。彼女はとても不安定になっていましたので」

夫からの暴力、子どもの不登校と貧困。

絵に描いたような不幸から、彼女は必死で逃れようとしていた。

「水商売をしていたことも、ご存じでしたよね」

「えぇ、生活費のため夫に言われて、でしたよね」

彼女はある晩、とても酔っ払った状態で、泣きわめく子どもと一緒に、俺の家にやってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

眠れない夜の雲をくぐって

ほしのことば
恋愛
♡完結まで毎日投稿♡ 女子高生のアカネと29歳社会人のウミは、とある喫茶店のバイトと常連客。 一目惚れをしてウミに思いを寄せるアカネはある日、ウミと高校生活を共にするという不思議な夢をみる。 最初はただの幸せな夢だと思っていたアカネだが、段々とそれが現実とリンクしているのではないだろうかと疑うようになる。 アカネが高校を卒業するタイミングで2人は、やっと夢で繋がっていたことを確かめ合う。夢で繋がっていた時間は、現実では初めて話す2人の距離をすぐに縮めてくれた。 現実で繋がってから2人が紡いで行く時間と思い。お互いの幸せを願い合う2人が選ぶ、切ない『ハッピーエンド』とは。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

喫煙所にて

千葉みきを
現代文学
真夜中のコンビニで起こった、ヒューマンドラマ

処理中です...