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第7話
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五時間目と六時間目も終わり、ホームルームの時間がやってきた。
この時間まで俺が呼び出されなかったということは、あれからクラスに何も問題が起こらなかったということだ。
今日はもう、これ以上のもめ事はやめてもらいたい。
次の十分間だけを過ごせば、本日の仕事もやっとお終いだ。
教室に入ると、やはり例の男児二人がとっくみあいの喧嘩をしていた。
今日は一日こんな調子なのか?
俺はもう、心底うんざりしてため息をつく。
こんな状態で、今日のこのクラスの授業を受け持った他の先生方は、どうやって授業進行したんだろう。
「やめなさい」
俺が引き留めに入ると、二人はすぐに離れた。
が、その瞬間、俺に預けられている子どもの方が、相手頬に自分の拳をぶつけた。
「だから、もういい加減にしろって」
俺は、殴ったその子の手を握ると、横に立たせる。
「ほら、帰りの時間だ。早く支度しなさい」
俺がその子どもと手を繋いでいる間、この子は動けない。
彼は何を勘違いしたのか分からないが、にこにことうれしそうにはしゃいでいる。
他の子どもたちは素直に片付けを始めて、すぐに全員が席についた。
その頃合いを見計らって、俺は手を離す。
「お前もさっさとしろ」
俺は教壇の上から『今日のお言葉』を述べる。
一日一日を大切に、精一杯過ごし、明日のための活力にしようという、ありがたいお言葉だ。
全員が席について、静かに、かつ誠実に、そんな俺の話に耳を傾けているのに、彼はランドセルのふたが閉まらないと、一人で騒いでいる。
「ではみなさん、お元気で。また明日、さようなら!」
とりあえずクラスを解散させて、他の子どもたちを家に帰す。
そうしておいてから、俺はその子どものところへ行かざるを得なかった。
「ねぇ先生、今日の晩ご飯はカレーがいい!」
まだ沢山の子どもたちが教室に残っているのに、大声でそんなことを言う。
「分かった。材料を買って帰るから、大人しく家で待ってろ」
「はーい!」
彼はうれしそうに手を振って、教室から飛び出して行く。
悪い子ではないのだ。
ただ、周囲にうまくなじめないだけ。
「先生」
振り返ると、教室に他の子どもたちが全員残っていて、俺を見下ろしていた。
「先生、やっぱりアイツをひいきしてるじゃないですか」
生意気な女の子が口にする。
「そんなことを、先生に向かって言うもんじゃありません」
俺は立ち上がる。
「先生は、この問題はクラスのみんなで解決するべき問題だと思っています」
これ以上、振り回されてたまるもんか。
「どうすればいいだろう。みんなで考えてみようか」
帰りのホームルームは終わっていたが、俺は机を円陣に組ませる。
「みんなで作った決まりを分かりやすく紙に書いて、貼っておけばいいと思います」
「それを忘れないように、毎日朝の会で読んだ方がいいと思います」
「止めるように注意する人を、決めればいいと思います」
「注意された人を表にして、分かりやすくすればいいと思います」
次々と建設的な意見が飛び出す。
なるほど、子供たちの意思は出来る限り尊重するのが教師の役目だと、俺は改めて実感した。
「じゃあ、誰がその役を最初にやるのか、決めなくちゃいけないな」
俺がそう言うと、子供たちは一斉に元気よく手を挙げる。
「最初は先生が決めよう。一番態度のいい子は誰かな?」
素直でかわいい俺の子供たちは、みんな真剣な表情で、背筋を真っ直ぐに伸ばした。
「じゃあ、背中が一番ピンとしていた子にしよう」
俺は、一人の子供の肩に手を置いた。いつも彼と喧嘩をして、殴る方の子どもの肩だ。
子どもたちは翌日、自分たちで作ったクラスのルールを、一覧表にして早速壁に貼りだした。
注意された数は、お当番が名簿にシールを貼っていく。
当番は一週間交替で、その順番も子どもたちが自主的に決めた。
「先生、なにこれ! こんなのダメだよ!」
俺と手を繋いで登校してきた子どもは叫ぶ。
「じゃあ多数決をとろう、賛成の人?」
子どもの顔が青ざめる。
反対者など、他にいるわけがない。
「俺、聞いてないし」
「今聞いただろ」
握りしめるその子どもの手から、俺は自分の手を引き抜く。
「これは先生が決めたことじゃない。クラスのみんなが自主的に話し合って決めたことだ。クラスの一員として、仲間として、どうすべきかは分かるよな」
俺は教壇に立った。
「さぁ、朝のホームルームを始めよう」
にこにこと満足気な、元気な子どもたちの顔が輝いている。
俺が面倒を見ている子どもに対し、いつも殴ることで対抗していた子どもが、『みんなのルールに反対した』という理由で、最初のシールを貼った。
明るい笑い声が教室に響く。
暴力を使わない手段で訴えるということを、学ぶことも大切だ。
このクラスの子どもたちが、どれだけ一方的に誰かを責めたとしても、やがて順番はめぐり、自分が評価される側になるということに、まだ気がついていない。
いや、もしかしたら、もうそれに気づいている子も、この中にはいるのかもしれないな。
子ども同士がお互いに切磋琢磨して、向上に努める姿は、とても美しい。
やがてこのクラスの混乱は収まり、俺はスムーズなクラス運営が可能になった。
子どもの成長を間近に見られることは、本当によろこばしい。
この時間まで俺が呼び出されなかったということは、あれからクラスに何も問題が起こらなかったということだ。
今日はもう、これ以上のもめ事はやめてもらいたい。
次の十分間だけを過ごせば、本日の仕事もやっとお終いだ。
教室に入ると、やはり例の男児二人がとっくみあいの喧嘩をしていた。
今日は一日こんな調子なのか?
俺はもう、心底うんざりしてため息をつく。
こんな状態で、今日のこのクラスの授業を受け持った他の先生方は、どうやって授業進行したんだろう。
「やめなさい」
俺が引き留めに入ると、二人はすぐに離れた。
が、その瞬間、俺に預けられている子どもの方が、相手頬に自分の拳をぶつけた。
「だから、もういい加減にしろって」
俺は、殴ったその子の手を握ると、横に立たせる。
「ほら、帰りの時間だ。早く支度しなさい」
俺がその子どもと手を繋いでいる間、この子は動けない。
彼は何を勘違いしたのか分からないが、にこにことうれしそうにはしゃいでいる。
他の子どもたちは素直に片付けを始めて、すぐに全員が席についた。
その頃合いを見計らって、俺は手を離す。
「お前もさっさとしろ」
俺は教壇の上から『今日のお言葉』を述べる。
一日一日を大切に、精一杯過ごし、明日のための活力にしようという、ありがたいお言葉だ。
全員が席について、静かに、かつ誠実に、そんな俺の話に耳を傾けているのに、彼はランドセルのふたが閉まらないと、一人で騒いでいる。
「ではみなさん、お元気で。また明日、さようなら!」
とりあえずクラスを解散させて、他の子どもたちを家に帰す。
そうしておいてから、俺はその子どものところへ行かざるを得なかった。
「ねぇ先生、今日の晩ご飯はカレーがいい!」
まだ沢山の子どもたちが教室に残っているのに、大声でそんなことを言う。
「分かった。材料を買って帰るから、大人しく家で待ってろ」
「はーい!」
彼はうれしそうに手を振って、教室から飛び出して行く。
悪い子ではないのだ。
ただ、周囲にうまくなじめないだけ。
「先生」
振り返ると、教室に他の子どもたちが全員残っていて、俺を見下ろしていた。
「先生、やっぱりアイツをひいきしてるじゃないですか」
生意気な女の子が口にする。
「そんなことを、先生に向かって言うもんじゃありません」
俺は立ち上がる。
「先生は、この問題はクラスのみんなで解決するべき問題だと思っています」
これ以上、振り回されてたまるもんか。
「どうすればいいだろう。みんなで考えてみようか」
帰りのホームルームは終わっていたが、俺は机を円陣に組ませる。
「みんなで作った決まりを分かりやすく紙に書いて、貼っておけばいいと思います」
「それを忘れないように、毎日朝の会で読んだ方がいいと思います」
「止めるように注意する人を、決めればいいと思います」
「注意された人を表にして、分かりやすくすればいいと思います」
次々と建設的な意見が飛び出す。
なるほど、子供たちの意思は出来る限り尊重するのが教師の役目だと、俺は改めて実感した。
「じゃあ、誰がその役を最初にやるのか、決めなくちゃいけないな」
俺がそう言うと、子供たちは一斉に元気よく手を挙げる。
「最初は先生が決めよう。一番態度のいい子は誰かな?」
素直でかわいい俺の子供たちは、みんな真剣な表情で、背筋を真っ直ぐに伸ばした。
「じゃあ、背中が一番ピンとしていた子にしよう」
俺は、一人の子供の肩に手を置いた。いつも彼と喧嘩をして、殴る方の子どもの肩だ。
子どもたちは翌日、自分たちで作ったクラスのルールを、一覧表にして早速壁に貼りだした。
注意された数は、お当番が名簿にシールを貼っていく。
当番は一週間交替で、その順番も子どもたちが自主的に決めた。
「先生、なにこれ! こんなのダメだよ!」
俺と手を繋いで登校してきた子どもは叫ぶ。
「じゃあ多数決をとろう、賛成の人?」
子どもの顔が青ざめる。
反対者など、他にいるわけがない。
「俺、聞いてないし」
「今聞いただろ」
握りしめるその子どもの手から、俺は自分の手を引き抜く。
「これは先生が決めたことじゃない。クラスのみんなが自主的に話し合って決めたことだ。クラスの一員として、仲間として、どうすべきかは分かるよな」
俺は教壇に立った。
「さぁ、朝のホームルームを始めよう」
にこにこと満足気な、元気な子どもたちの顔が輝いている。
俺が面倒を見ている子どもに対し、いつも殴ることで対抗していた子どもが、『みんなのルールに反対した』という理由で、最初のシールを貼った。
明るい笑い声が教室に響く。
暴力を使わない手段で訴えるということを、学ぶことも大切だ。
このクラスの子どもたちが、どれだけ一方的に誰かを責めたとしても、やがて順番はめぐり、自分が評価される側になるということに、まだ気がついていない。
いや、もしかしたら、もうそれに気づいている子も、この中にはいるのかもしれないな。
子ども同士がお互いに切磋琢磨して、向上に努める姿は、とても美しい。
やがてこのクラスの混乱は収まり、俺はスムーズなクラス運営が可能になった。
子どもの成長を間近に見られることは、本当によろこばしい。
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