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十八節
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翌朝になって、うとうととした後で目を覚ますと、部屋はもぬけの空だった。
俺はふらふらと立ち上がる。
板の間では、関と葉山が朝飯を食っていた。
「早かったのだな」
「お前が遅いだけだ」
葉山は箸を置いた。
「では関どの、大変世話になった。このご恩は決して忘れぬ」
「いえいえ、大変なお勤め、ご苦労さまでした」
関と葉山は、揃って頭を下げる。
俺は出された膳の箸をとった。
「では、先に失礼する」
葉山はすたすたと、振り返りもせずに出て行った。
俺はその背中を見送る。
関はまだゆっくりと、飯を食べていた。
「あいつは一体、何しに来てたんだ?」
「お仕事ですよ。とても心労の大きな、お役目を引き受けておいでだ」
俺は関を振り返る。
関は白飯を口に運んだ。
「何かしゃべったのか?」
「そりゃあ少しくらいは、話しをしましたよ」
「何を話した」
関はため息をつく。
「ここで私が何を話しても、どうせあなたは納得なさらないでしょう?」
俺はそれには答えず、みそ汁をあおる。
「そうそう、昨夜から気になっていたのですが、あなたから何か、とても不思議なよい香りがします。なんのお香ですか?」
「知らん。で、月星丸の容態はどうだ」
関はため息をつくと、珍しく片肘をついて俺を見上げた。
「全く。あなたのその鈍感さというか、無神経さというか、その思慮と関心のなさには時折呆れます」
その言葉に、俺はムッとする。
「どういう意味だ」
「さぁね。ご自分でお気づきにならない限り、その病も治りませんよ」
「なら放っておけ。馳走になったな!」
俺は食べ終わった椀を、ドンと膳に置いた。
「で、月星丸の容態は!」
「すっかりよくなったようですよ」
「あれだけの怪我をしておいてか」
「えぇ。今朝早くに、私が止めるのも聞かず、ここを出て行きました」
関の顔を見る。
俺は立ち上がった。
俺はふらふらと立ち上がる。
板の間では、関と葉山が朝飯を食っていた。
「早かったのだな」
「お前が遅いだけだ」
葉山は箸を置いた。
「では関どの、大変世話になった。このご恩は決して忘れぬ」
「いえいえ、大変なお勤め、ご苦労さまでした」
関と葉山は、揃って頭を下げる。
俺は出された膳の箸をとった。
「では、先に失礼する」
葉山はすたすたと、振り返りもせずに出て行った。
俺はその背中を見送る。
関はまだゆっくりと、飯を食べていた。
「あいつは一体、何しに来てたんだ?」
「お仕事ですよ。とても心労の大きな、お役目を引き受けておいでだ」
俺は関を振り返る。
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「何かしゃべったのか?」
「そりゃあ少しくらいは、話しをしましたよ」
「何を話した」
関はため息をつく。
「ここで私が何を話しても、どうせあなたは納得なさらないでしょう?」
俺はそれには答えず、みそ汁をあおる。
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「知らん。で、月星丸の容態はどうだ」
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「全く。あなたのその鈍感さというか、無神経さというか、その思慮と関心のなさには時折呆れます」
その言葉に、俺はムッとする。
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「なら放っておけ。馳走になったな!」
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「で、月星丸の容態は!」
「すっかりよくなったようですよ」
「あれだけの怪我をしておいてか」
「えぇ。今朝早くに、私が止めるのも聞かず、ここを出て行きました」
関の顔を見る。
俺は立ち上がった。
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