私が救えなかった少女

ももさん

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ゲームセンター……2

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 こまめは水を買い、私と石丸は缶コーヒーを買った。

 コーヒーとタバコは合うんだと石丸は言ったが、それは私も同感だった。数年前まではそれらばかりやっていた。おかげで事務所の臭いは酷いものになっていた。

 石丸はコーヒーを飲みながら、自慢げに犯罪を語りだした。

「俺はオヤジ狩りが嫌いでね、なんて言ったてスリルがない。だから金がほしくなった時は、そこらにいるヤンキーから金を巻き上げるんだ。俺だと気づいたやつはニコニコ笑いながら金を出すが、ときたまバカがいやがる。モグリなんかもしれねえが、俺に向かって吠えて気やがる。そんときは顔面ををへこませてやるんだ。謝っても許してはやらない。言葉がなくなるまで殴ってやる。街で俺の顔を見て、小便をちびってしまうくらいな。
 それがすっきりするんだ。人を殴れておまけに金まで手に入る。あいつらも一度はカツアゲをしたことがあるだろう、天誅だよ天誅。奪われた金は授業料ってもんさ。
 バイクを乗っていやがったら、それをもらい売ってやる。親切なことに、くれと言っても断りやしねえんだ。それが金になるのなんの」

 笑いどころのない小話をかたり終えると、石丸はコーヒーをあおった。

 こまめはくつくつと笑いながら話を聞いていた。私はあくびを噛み殺していた。

 昔からそうだった。石丸は犯罪自慢が大好きだった。どんな悪行でも、人に話さなくてはいられなかった。まるで善行をおこなったように、自慢げに語る。こなした数だけ、勲章になると思っているのだ。
 それのおかけで色々な噂が立ち、石丸の周りにはこまえといった同類以外、誰も寄り付かなくなった。

 石丸は缶コーヒー飲みきるとゴミ箱に捨て、タバコは吐き捨てると踏みつけた。

「千春、おりゃあ明日A高のやつと喧嘩すんだよ。俺のことなんて簡単にのめせるなんていうからよ」

「それが」と私は訊ねた。
「実は立ち会い人を探していてね、考えておいてくれよ」
「答えは決まっているぞ」

 都合よくその言葉は聞こえなかったのか、石丸は返事もせずゲーム機へ向かって歩き出した。
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