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#33
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「あらそう。それじゃあクラウディオが仕事している間、一人なの? もしなんだったらうちに来る?」
「いえ、大丈夫です。出張といっても一月ですから」
わたしは磨きあげたグラスを、棚に戻した。マスターはバックヤードからお酒を卸している最中だ。
最近、常連になったこのオクタヴィアは潔いベリーショートの黒髪がよく似合う、フリーのジャーナリストだ。クラウディオが仕事帰りに<ルーチェ>に連れてきて、以来たびたび遊びに来てくれる。
彼女は、グラスに残ったチェリーを口に放り込んで、言った。
「しっかし、不幸続きよね。南区でたった一つの教会が半壊して、神父様が亡くなったでしょ? その神父様を含めて遺体泥棒に遭った人たちはたくさんいるけど、結局犯人は捕まらないし。遺体だって神父様だけじゃない戻ってきたのは。やっぱり普段の行いって大切なのかしら。神父様の後を引き継いだ美人シスターもそう言っていたし……」
相次いだ遺体泥棒に関する記事を書いていた彼女は、小首を傾げた。
わたしは、心の中で彼女に話しかける。
(大丈夫、新月になればまた出てくるから。嫌でも)
「ところでさ、遺体安置所で遺体泥棒が出たとき、あなたケータリングに行っていたんでしょ? もしかして、現場を見たりしてない?」
シャツの胸ポケットからさっとペンを取りだして、あっと言う間に聞き込みの体勢に入る。
さてどう言い逃れよう。グラス片手に困っていると、ドアベルが新客の入場を告げた。
「いらっしゃいませ。お席はカウンターでよろしいですね」
客は唇の端をつり上げると、オクタヴィアの隣に座った。
派手な出で立ちの新客を見て、オクタヴィアは顔をしかめた。わたしに視線で「危ない客よ」と忠告してくれる。きっと、新客のジャケットの内側から凶器の柄も見えているのだろう。
けれどわたしはなに食わぬ顔で尋ねた。
「お飲物はなににしますか」
「飲み物より先に飯。久々にサングエに来たんだ、まずは腹を満たさなきゃな」
「ではメニューはどれになさいます? パスタにピッツァ……、それとも、いつもの?」
ケチャップがハートを描いたオムレツを指さすと、シャンパンゴールドのシャツに黒のダウンジャケットを着込んだ客は、
「もちろん、いつもの」
汚れたユーロ硬貨をぶちまけて、笑った。
(了)
「いえ、大丈夫です。出張といっても一月ですから」
わたしは磨きあげたグラスを、棚に戻した。マスターはバックヤードからお酒を卸している最中だ。
最近、常連になったこのオクタヴィアは潔いベリーショートの黒髪がよく似合う、フリーのジャーナリストだ。クラウディオが仕事帰りに<ルーチェ>に連れてきて、以来たびたび遊びに来てくれる。
彼女は、グラスに残ったチェリーを口に放り込んで、言った。
「しっかし、不幸続きよね。南区でたった一つの教会が半壊して、神父様が亡くなったでしょ? その神父様を含めて遺体泥棒に遭った人たちはたくさんいるけど、結局犯人は捕まらないし。遺体だって神父様だけじゃない戻ってきたのは。やっぱり普段の行いって大切なのかしら。神父様の後を引き継いだ美人シスターもそう言っていたし……」
相次いだ遺体泥棒に関する記事を書いていた彼女は、小首を傾げた。
わたしは、心の中で彼女に話しかける。
(大丈夫、新月になればまた出てくるから。嫌でも)
「ところでさ、遺体安置所で遺体泥棒が出たとき、あなたケータリングに行っていたんでしょ? もしかして、現場を見たりしてない?」
シャツの胸ポケットからさっとペンを取りだして、あっと言う間に聞き込みの体勢に入る。
さてどう言い逃れよう。グラス片手に困っていると、ドアベルが新客の入場を告げた。
「いらっしゃいませ。お席はカウンターでよろしいですね」
客は唇の端をつり上げると、オクタヴィアの隣に座った。
派手な出で立ちの新客を見て、オクタヴィアは顔をしかめた。わたしに視線で「危ない客よ」と忠告してくれる。きっと、新客のジャケットの内側から凶器の柄も見えているのだろう。
けれどわたしはなに食わぬ顔で尋ねた。
「お飲物はなににしますか」
「飲み物より先に飯。久々にサングエに来たんだ、まずは腹を満たさなきゃな」
「ではメニューはどれになさいます? パスタにピッツァ……、それとも、いつもの?」
ケチャップがハートを描いたオムレツを指さすと、シャンパンゴールドのシャツに黒のダウンジャケットを着込んだ客は、
「もちろん、いつもの」
汚れたユーロ硬貨をぶちまけて、笑った。
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