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おまけのノルン視点 恋人の日 6

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「聞いてくれよ。俺ったら繊細だから、お前の死ぬ夢見て、うなされてひどい目覚めだったんだよ、今朝。初陣のあの日、お前がおっ死ぬ夢だった。手だけが見えて、お前だってわかるんだよ」

 俺は、カメリアの、指輪の嵌った手を取る。
 本音を話しても、裸で抱き合っているときは許される気がする。……素面で本音を打ち明けられない臆病な俺の話を、カメリアはふむふむと聞いてくれる。

「私がうっかり、大災の日みたいなどでかい火竜に遭遇したら、まず間違いなく初手で消し炭だから、腕とかも残らないけどね、あはは」
「あははじゃねーよ! やめろよそういうこと言うの! どーすんだよ今晩も悪夢見たら」
「大丈夫だって。悪夢くらいなにさ。あんたと同じ部隊にいた、生き残りの前衛たち、何人現役で残っている? 十人? 十五人?」

 おそらく、二十はいない。生き残って、勤務に支障がない程度まで回復しても、みんな退職していった。

「あの地獄を生き延びて、まだ現役騎士やろうっていう根性があるんだから、あんたは大丈夫だよノルン。吐くくらいきつい訓練だって耐えて、やってきたじゃないさ」
「激務で血尿出たときは、本気で退職するか悩んだぜ。でも死にたくなかったからな。死なれるのもご免だった。それだけだ。騎士辞めて、市民に戻って守られる生活を考えたときもあったが、自分より用兵の下手くそな連中に、命や財産を預けるのだって不安だ。だから最も確実な方法を考えた。そうすると、自分が研鑽して街と自分と――ほかの大事なものを守るのが、一番いいと結論がでた」

 あれ。俺って……。

「ビビリのくせに自信家って、面倒くさ……」
「ぐっ……、視線が刺さる。やめて、石になる」

 十連勤明け、ぐずぐずに疲れて部屋に戻ったら、汚れた洗濯物が山積みになってるのを思い出した。そんな怠い顔をして、カメリアが俺を見ている。面倒くさいヤツだっていう自己分析はできているので、追い打ちはやめてくれ。とくにこのタイミングだと、立ち直れなくなりそうだ。

「んー、そうぐるぐる悩んでるのに、虚勢張って、余計自分のこと追い詰めて焦って、最終的にはちゃんと結果出すノルンが、私は結構好きだけど」
「今のもっかい言ってくれ」
「ひねくれもんのあんたが、弱音はかなきゃやってらんないくらいの気分だっていうなら、そうだな、私がついてるから大丈夫、とだけ言っておこう」
「リクエストをさらっと流しやがったな。なーにが大丈夫なんだよ」

 なぜそんなに自信満々にそんなことを言えるんだ、この女は。裸で、おっぱい腕で隠したまま、得意げに。
 なぜそれで納得しかけてるんだ、俺。

 すました笑顔で「むしろ、だめになる理由がない」とカメリアは嘯く。
 あーあ。俺は脱力して、その言葉を受け入れるしかない。

 考え無しで無鉄砲で傍若無人で口も悪くて、結構バカなこと平気でやらかして俺を焦らせる、一概に扱いやすい可愛い女とは言えないが、隣にいてくれないと俺は困る。
 だからやっぱり、俺にあるのは、自分もカメリアも死なないように尽力するしかない運命なんだろう。

「頼むから、俺の命令無視して自分から死地に突っ込んでいくのはナシにしてくれ」
「ん。覚悟決まった? じゃあ甘やかしてあげたぶん、今度は私を甘やかすことだ」

 カメリアがてきぱきと俺のシャツのボタンを外し始める。自分のズボンの前に手をかけたら、ぺちんと叩かれた。なんだよ自分だって脱がすの好きじゃねえか。おとなしく、されるがままになり、裸になる。

 唇に口付けて、マシュマロのような白い胸を揉みしだく。他はわりかし硬いのに、ここと尻は柔らかい。手の中で適度に反発しながらも形を変える。掌に当たる乳首が、徐々に硬くなっていくのが楽しい。乳房全体を覆ってこねると、くすぐったかったのか、くすくす笑われた。

 笑ってられるのも今のうちだぞ。売り言葉に買い言葉はいつものことで、売られたケンカは買う主義だ。余裕がなくても率先して、札束握りしめて買いに行く。とくにベッドの上なら、絶対にだ。
 爪の先で、ぷっくりしてきた乳首の下の方をかりっと引っ掻くと、笑声が跳ねた。高くて甘い声もいいが、ちょっと低めの声が不意に「あん」って裏返るのが最高だと思う。

「ん……ん、ん」

 指先で摘んで、硬くなった乳首を優しくつねると、目をつぶったカメリアの唇から、深い吐息がこぼれる。はじめのころは、これでも恥ずかしがって、体を隠したり声を我慢していた。今は、遠慮なく快楽を貪るために、体を俺に預けてくる。

 くびれた腰を抱き寄せて、ごろんとベッドに倒れ込む。力なく投げ出された白い手が、生成色のシーツに沈んだ。
 触れられて気持ちがいいところは、色づいて主張している。下敷きにした曲線で構成された体を見下ろし、手でまさぐった。つるりと乳房をなで上げると、柔らかな脂肪はぷるんと揺れる。
 すっかり立ち上がった乳首を優しく噛んで、軽く引っ張る。「あ」と鼻に抜ける声を上げ、カメリアがシーツを蹴った。もう片方の乳首を指でこねて、短く断続的にあがる声を楽しむ。

 足首に、なにかが引っかかる。カメリアの足首だ。ねだるように膝小僧で俺の脚をこんこんと叩き、熱を帯びた目で訴える。物欲しそうな顔しやがって。心のなかで舌打ちした。前戯をすっ飛ばして挿入したくなる。

 さっきは嫌がられた、和毛の茂みに手を這わせた。指先が、温かな粘膜に触れる。とろり、蜜をこぼして、触れられるのを期待していたらしい。三本揃えた指の腹で、できる限り丁寧に撫でた。カメリアの眉間に、うっすらシワが寄って、切なげな声が吐息に交じる。

「あ……あぁ……」
「気持ちいいか?」
「……ん、昨夜ゆうべは我慢した、から……あ、ン、一緒に、寝ようって思ってた、のに」

 こういうときだけ素直で甘えてくるの、ずるいよな。わかっていても、ほいほい手玉に取られてしまう。

「あ、……は……」

 指を挿入すると、とろとろになっていた粘膜の道が、快楽を貪るために締め付けてくる。早くひとつになりてえな、と思いながらも、昨夜の約束をすっぽかした埋め合わせをまずはすることにした。

「そこ、気持ちい、い……」

 中の熱い壁を指の腹でぐいぐい押してやると、カメリアが顎をあげて悲鳴じみた声をあげた。脚がぴんと張る。シーツの上で、上半身がよじれて、そのたびに胸が揺れた。目についた赤い乳首を吸うと、一層声が高くなる。

「はあ……ノルン、もっと……ぁあ」

 求められるまま、ねっとり指を包み込む媚肉を刺激した。

「あ、……あ」

 カメリアが、骨ばった足首どうしを絡めて、ひときわ大きく息を吸った。白い喉が反って、ひくつく。直後に、きゅうっと指が膣の粘膜に締め上げられた。

 震える吐息をこぼし、細い体が脱力する。ふんわり赤く上気した肌は、汗ばんでいた。かすかにたちのぼる甘酸っぱい女のにおいに、俺の期待もぐっと高まる。

「なあ」

 みっともないとわかっていても、急かしてしまう。まだ断続的に痙攣している膣から指を抜き、とろとろの蜜で濡れている粘膜をそっと撫でる。ぴくぴく、白い脇腹が跳ねた。

 気だるげに体を捻り、カメリアが目を開く。片頬を緩めて、にやりとした。

「なに物欲しそうな顔してんの。よだれ垂らして」

 痛むほど充血したイチモツを不意に掴まれ、腰が引ける。もっと丁寧に扱ってくれ。
 カメリアはくるりと体をひっくり返し、腰を上げた。後ろからがいいらしい。きゅっと上がった尻の丸みの、割れ目から見える果汁したたる果肉の引力に抗う術もなく、俺は彼女の腰を掴んで、遠慮なく欲望を突き立てた。

「あ、ん……」

 カメリアのかすれた甘い声が聞こえる。俺も、頭の天辺まで産毛が逆立ちそうな快感で、呻く。ぎゅっとシーツを握りしめている金の指輪を嵌めた指を、上から押さえつけるように拘束し、腰を動かした。

「は、……あ、ぁ、ああ」

 悦ばせたくて、じっくりゆっくり責めようという挿入当初の計画なんか、すぐに忘れちまう。喘ぐカメリアの肩を掴み、欲望のままに腰を打ち付けた。肉がぶつかる音がする。汗ばんだ滑らかな背中を撫で回し、そのまま前面に手を滑らせて、動きに合わせて揺れている乳房を鷲掴みした。掌にあたった乳首を手荒につまんで、白い背中を反らせる。ぎゅっと膣が締まって、一気に追い詰められた。

 切りそろえられた茶色の髪がぱさぱさ当たる細い首に目が行く。思いのままに噛み付いて、柔らかくて冷えた耳たぶも唇で喰む。

「あっ」

 悲鳴をあげ、カメリアがのけ反って逃げる。強引に追いかけたら、突っ張っていた彼女の腕がかくんと折れた。ベッドに突っ伏した背中に覆いかぶさって、髪の毛を掻き分け、首筋に口づける。俺が腰を打ち付けるたび、耳元で押し殺した悲鳴があがるのが、たまらなくいい。その声にたしかに快感の色が宿っている。

「ん、ぅ……ノル、ん……、も……だめ……っ」

 それまでシーツを頑なに握りしめていたカメリアの手がぎこちなく動いて、俺の手を握った。こういうところを可愛いと思ってしまう俺はチョロいんだろうな。諦めと、嬉しさがないまぜになる。ぐ、と最奥に押し付けるようにカメリアを穿った。

「う、ぁっ」

 高い声とともに訪れた、幸福な圧迫感に俺もたまらず吐精した。
 脳髄が焼けるような、空白の時間。どっと心臓が大きく拍動し、ようやく息ができるようになる。

「はあ……」

 息を吐いて、足が不自由だと気づいた。俺の右足首に、カメリアの両の足首がぎゅっと絡みついている。本人はベッドに顔から突っ伏していて、肩を上下させている。弱々しく呼吸して、わずかに横を向いた顔に見えるまつげが、ふるふると揺れていた。

 骨が浮く脇腹を手で撫でたら、「くすぐったい」と苦情がとんできた。
 まだ俺の右足首を拘束したままの二本の足を、左足でちょいちょいとつつく。速やかに拘束が解除された。
 名残惜しさを覚えながら、ものを引き抜く。その瞬間に、カメリアが小さく身震いして、俺は口の端が上がってしまった。

「まだ引っ付いていたかったらいいんだぜ? ほれほれ」

 得意になって、細いふくらはぎをつま先で撫でると、カメリアが膝を折りたたんで丸くなった。鬱陶しそうに鼻を鳴らして小さくなり、やり返してこない。ということは、ご機嫌斜めだ。今日は余韻を楽しみたい気分だったのか。
 なあ機嫌直せよ、いいことしたばかりだろ。それともまだ足りないか?

「昨日、部屋に来なかったから、何かあったのかと思った」

 俺の冗談の前に、カメリアの独白が始まった。声音が真剣で、これは茶化したら駄目なやつだと、口をつぐむ。

「直前に、言い合いしたから。どうせいつものしょうもない言い合いだったけど……あんたが約束すっぽかしたの初めてで、びっくりした。心配した」

 なにをどう心配したのか。言葉が足りない説明だが、なんの言い合いしたかもすっかり忘れていた俺でも、ピンとくる。

「だから朝、部屋に行った。そしたらあんたがアホ面でうなされてて、殺意が湧いた」

 頬に口づける。カメリアが無理やり振り返って唇を寄せてきた。俺の体の下で器用に仰向けになり、背中に腕を回ししがみついてくる。

「俺、自分のことでいっぱいいっぱいになってたな。悪かった」

 心底反省すると、素直に言葉にできるもんだ。

「おまけに、逃げでプロポーズしてくるとか、見損なった」
「ごめんな。今度仕切り直す」
「遠慮する。プロポーズ詐欺前科二犯のおおばかものめ」
「そう言うなって」

 カメリアは目の前でべえっと舌を出してしかめっ面をしたあと、噛み付くように口付けてきた。

 体をずらし、求められるまま抱き合って、またひとつになる。快感を味わうため、愛情を確かめるため、楽しむために抱き合うことはしてきたが、労るために相手を抱くのは、俺には初めてのことだった。


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