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優雅に娶られる
*
しおりを挟む手入れのされた奥ゆかしい日本庭園の中を通り抜ける。庭は所々苔むしていて、それがまた歴史ある風情がある。
敷石を踏みしめながら、私達は来賓別邸へとたどり着いた。
別邸へと目をやると、直ぐ様父様が近づいてきた。
「遅いぞ凛子。早く入らんか。」
「すみません、父様。」
聞けば来客まであと数分。
玄関口から入り、下駄をきちんと揃えてから客間に向かった。
今まで入ったことがない上客用の客間。
入れば桧の心地よい薫りがする。
そして、私は淑やかに座布団に正座して、時を待つ。
数刻して、「来客の方が、無事に着きました。」報告があった。
待ちに待った来客、私の顔がパッと明るくなる。
「凛子、俺と結婚するんだ。もう決定だ。異論は認めない。」
数秒だった。襖が開いて、見目麗しい男前が出てきて、そして、こう言ったのだ。
紺碧のスーツに漆黒のネクタイ、手入れのいき届いた純白のワイシャツが、上等の男だということをイヤというほど解らせてくる。
あまりにも立派すぎる男前は、私に近づいて、跪き手をとってきた。
「ここにいる時間は無い。もう出発するからな、凛子。」
「…っ!?なんで!?」
突然の展開に思考が追いつかない。
さっきから、凛子凛子って、呼ぶ口調が馴れ馴れしすぎるにも程があるし。
急速すぎるのでは、この男。
いくら、上客といえど、私を秒で娶るなんて…。
娶るなんて!?
そうこう考えて、事の重大さに気づく間に、私は男前に手を引かれて、迎えの車の前まで着ていた。
ロールスロイスの扉が御付きの者に開かれて、私は社内に押し込められていく。
「よし、予約済みのレストランまで行ってくれ。」
「かしこまりました、旦那様。」
このまま、順調に出発しそう。
私と男前は社内で隣同士で密着してるけれど、男前の隣に居て、安心するような。
…なんでかな?どこか懐かしい感じがするのは。
私が、謎の男前の顔を見つめていると、父様の大声がした。
「麟斗様!娘をどうか、宜しく頼みます!!」
深々と礼をしながら、父様は私達を乗せた車を見送っていた。
いや、待ってよ!?今さっき「りんと」って言った?
…「りんと」って、あの「麟斗くん」?
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