7 / 7
桜は散らねばならない
しおりを挟む
最後に壮大な作り話をしたいと思う。
当時の私は、彼の連絡先の電話番号が分からなくなっても、彼の名前はしっかりと覚えていた。今の私も、彼の名前を覚えている。
どうやら彼は、絵描きとして有名になったわけではないけれど、年に何回か個展を開いているようだ。福岡、大阪、京都、名古屋、東京、仙台、札幌など、割と大きな都市のデパートで個展を開いているようだ。
実は、私は一度、彼の個展に行ったことがある。未練があったわけではない。単に暇だったからだ。
縦三十センチ、横二十センチくらいの絵が、十万円とかそこらの値段なようで、結構な価格だと思う。「売約済」という札が掛けてある絵が多かった。商売繁盛結構なことである。
そして、個展の隅っこに、非売品の絵が掛けてあった。
桜並木の絵だった。私の見覚えのある絵でもあった。その絵で、私が知らないことと言えば、その桜並木の絵には、桜を見上げている少女がいることである。後ろ姿だけで、顔は描かれていない。
彼の絵は精緻だ。よく目を凝らして見ると、当時私が来ていた高校の制服と同じ制服であることが分かる。モデルの少女は長髪だ。当時の私と同じくらいの長さだ。
その桜並木の絵の制作年代は、2001年だった。他の売約済みの絵は、2010年以降の作品だ。彼が画家として脂がのってきたのは、きっと2010年以降なのだろう。
きっと、2001年の当時、美大生であった彼の絵画など、値段が付かないのだろう。限られたデパートのスペースで、非売品のその絵を飾るのあたり、彼はあまり商売上手ではないのではないか、と心配になる。
ちなみに、絵画を観て泣いたのは、その時一度だけだ。
残りの人生でも、私を泣かせるような絵には、もう二度と出会わないと思う。
桜は散らねばならない。
当時の私は、彼の連絡先の電話番号が分からなくなっても、彼の名前はしっかりと覚えていた。今の私も、彼の名前を覚えている。
どうやら彼は、絵描きとして有名になったわけではないけれど、年に何回か個展を開いているようだ。福岡、大阪、京都、名古屋、東京、仙台、札幌など、割と大きな都市のデパートで個展を開いているようだ。
実は、私は一度、彼の個展に行ったことがある。未練があったわけではない。単に暇だったからだ。
縦三十センチ、横二十センチくらいの絵が、十万円とかそこらの値段なようで、結構な価格だと思う。「売約済」という札が掛けてある絵が多かった。商売繁盛結構なことである。
そして、個展の隅っこに、非売品の絵が掛けてあった。
桜並木の絵だった。私の見覚えのある絵でもあった。その絵で、私が知らないことと言えば、その桜並木の絵には、桜を見上げている少女がいることである。後ろ姿だけで、顔は描かれていない。
彼の絵は精緻だ。よく目を凝らして見ると、当時私が来ていた高校の制服と同じ制服であることが分かる。モデルの少女は長髪だ。当時の私と同じくらいの長さだ。
その桜並木の絵の制作年代は、2001年だった。他の売約済みの絵は、2010年以降の作品だ。彼が画家として脂がのってきたのは、きっと2010年以降なのだろう。
きっと、2001年の当時、美大生であった彼の絵画など、値段が付かないのだろう。限られたデパートのスペースで、非売品のその絵を飾るのあたり、彼はあまり商売上手ではないのではないか、と心配になる。
ちなみに、絵画を観て泣いたのは、その時一度だけだ。
残りの人生でも、私を泣かせるような絵には、もう二度と出会わないと思う。
桜は散らねばならない。
0
お気に入りに追加
8
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
帰ってくる紙幣の話から半村良の『赤い斜線(たしかそんな題)』と言う短編を思い出した。
……
ある商売人の元に、赤い斜線の入った一万円札が来て、支払いに使ったら戻ってくる、支払いに使ったら戻ってくる。
を、何度も繰り返し、その分売上が減少、商売がたち行かなくなってホームレスに(この辺の理屈がよく解らん……読んだの小学生の頃だし)
そしたら今度はその一万円札が男が困窮したときに風に吹かれてとかたまたま落ちてたとかで帰って来て困窮をしのげる。
を繰り返してる男。
最後にはその一万円札がへたってきていて『あと何回俺のところに来るのだろう』と男が心配し、インタビュアー(男の聞き書きと言う形で著述)に、『兄さんの財布にも赤い斜線の入った一万円札はないかい?』
で、インタビュアーの財布にもしっかり入ってました。
ってオチです。
こっちはちょっとホラー入ってます。
社怪人様
ご感想ありがとうございます。
半村良という作家をすみません、知りませんでした……。
wikiで調べたら、辛うじて「戦国自衛隊」を知っているという感じです。原作というか映画のタイトルを知っているだけでした。
ですが、直木賞を受賞している作家の作品を連想していただけるとは、光栄の極みです!
ホラーで言えば、捨てたはずのものがいつの間にかまた同じ場所に戻ってきている、なんて話は良く聞きますね(*^_^*)
ちなみに、今回の拙作の発想の下地となった作品は、二つあります。
(ご感想を下さった意図が、『よくある設定だった』ということを婉曲に表現されている気がしたので、
ご指摘の通りです、という意味で、元ネタを披露させていただきます)
角田光代『旅する本』という作品です。新潮文庫『さがしもの』という文庫本に収録されています。
もう一つが、誰かの自伝だったと思うのですが、タイトルとか忘れました!
『子どもの時に来ていたセーターを古着として売った。そして、大学生ぐらいでバックパッカーで発展途上国を旅していたら、
そのセーターを着ている子どもと出会った。そして、紛れもなく自分が昔着ていたセーターだった!』
というような話です。
あとは、電話番号がメモしてあるお札に巡り合ったという私の実体験でしょうか。
でも、ありふれた設定の拙作に、感想を戴けて感謝です!