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偶然の旅人
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私の住んでいる地域の桜は、4月2日に満開になるらしい。だが、そんな話はどうでも良いのだ。
今、私は、パソコンの横に置いた二千円札に大変困らされている。目の前に二千円札が存在していて、その存在が私をひどく困惑させている。ちなみに言っておくが、こんな紙幣があったっけ? などと首を傾げるほど私は世間に疎くはない。
ちゃんと二千円札が、2000年に発券されたことくらい知っている。そして、この二千円札は、2001年の4月の桜が咲いている時期に、私が使った二千円札である。間違いない。16年振りに私の手元に戻ってきたようだ。金は天下の回り物というけれど、これはお金を抽象化した概念であると私は認識していた。具体的に、使ったお札がまた自分の所に帰ってくるなんて想像をしたことなど一度もなかった。
どのようにこの出来事を表現して良いのか分からないので、別の話を書く。
私がひいきしている村上春樹という作家の話だ。彼の本、『東京奇譚集』か『めくらやなぎと眠る女』には、いくつか同じ短編が収録されている。今回の小説のタイトルにした『偶然の旅人』も、その二つに収録されている。
同じタイトルを意図的に付ける。あまり褒められたことではない。でも、今回に関しては、『ジャズの神様』なんてものがいるなら、きっと笑って許してくれるだろう。
まぁ、私はジャズは聴かないし、そのジャズの神様が、『よう、楽しんでるかい?(Yo,you dig it?)』なんて今話しかけて来ても、私はきっと「最悪だよ(It’s terrible)」と答えてしまうだろう。
『偶然の旅人』なんてタイトルを付けたら、ハルキスト達が怒るかもしれないとふと思った。ちなみに、私はよく勘違いをされるのだが、ハルキストではない。ノーベル文学賞を取るか取らないか、どうでも良い。やれやれ、と思ったのは、2015年だったであろうか。村上春樹が文学賞を取らなかったことよりも、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチさんが文学賞を受賞した意味を、日本人の私達は、ベラルーシ出身の彼女同様、真剣に考えるべきだ。
と、人を批判することは止めよう。私も、ボブ・ディランの曲とか聴いたことないし……。
私が言いたいのは、タイトルをパクってることを怒らないで欲しいということだ。このタイトル以外では、私の身に起こった出来事を上手く表現できないのだ。
だからちょっとハルキストのご機嫌を取ろうと思う。
村上春樹は、彼の読者層に対して、『職業としての小説家』で、こんなコメントをしている。
ちなみにこの本のタイトルって、マックス・ウェーバーの『職業としての政治』『職業としての学問』からインスピレーションを受けているよね? 厳密にいえば、Vocationなのか、Professionなのかという村上春樹の小説家としての態度と認識が違うのだけど。
って、また激怒されそうな話になりそうなので、話を強引に戻そう。
村上春樹は、彼の読者層に対して、『職業としての小説家』で、こんなコメントをしている。251ページです。『男女の割合がちょうど半々くらいで、女性読者に美しい方が多いということを別にすれば——それは嘘じゃありません——これという共通した特徴が見当たらないのです』
『女性読者に美しい方が多い』
私が言っているのではありません。村上春樹が言っているのです。
・
さて、これくらい前書きをだらだら書いたら、多くの人が途中で読むのを止めているだろう。だから安心して私は、自分のことを語り始められる。じゃあ書くなよ、と言われるかもしれないが、この事は、小説にしておいた方が良い。これは、書き手としての直感だ。だけど、あまりに私的なことが混じりすぎていて、うまくそれを分離できない。この物語をフィクションとして仕上げるのは、私にとって大変な作業だ。
何から書き始めよう。たぶん、一人称で書かねばならない。架空の「私」を造りあげよう。
今、私は、パソコンの横に置いた二千円札に大変困らされている。目の前に二千円札が存在していて、その存在が私をひどく困惑させている。ちなみに言っておくが、こんな紙幣があったっけ? などと首を傾げるほど私は世間に疎くはない。
ちゃんと二千円札が、2000年に発券されたことくらい知っている。そして、この二千円札は、2001年の4月の桜が咲いている時期に、私が使った二千円札である。間違いない。16年振りに私の手元に戻ってきたようだ。金は天下の回り物というけれど、これはお金を抽象化した概念であると私は認識していた。具体的に、使ったお札がまた自分の所に帰ってくるなんて想像をしたことなど一度もなかった。
どのようにこの出来事を表現して良いのか分からないので、別の話を書く。
私がひいきしている村上春樹という作家の話だ。彼の本、『東京奇譚集』か『めくらやなぎと眠る女』には、いくつか同じ短編が収録されている。今回の小説のタイトルにした『偶然の旅人』も、その二つに収録されている。
同じタイトルを意図的に付ける。あまり褒められたことではない。でも、今回に関しては、『ジャズの神様』なんてものがいるなら、きっと笑って許してくれるだろう。
まぁ、私はジャズは聴かないし、そのジャズの神様が、『よう、楽しんでるかい?(Yo,you dig it?)』なんて今話しかけて来ても、私はきっと「最悪だよ(It’s terrible)」と答えてしまうだろう。
『偶然の旅人』なんてタイトルを付けたら、ハルキスト達が怒るかもしれないとふと思った。ちなみに、私はよく勘違いをされるのだが、ハルキストではない。ノーベル文学賞を取るか取らないか、どうでも良い。やれやれ、と思ったのは、2015年だったであろうか。村上春樹が文学賞を取らなかったことよりも、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチさんが文学賞を受賞した意味を、日本人の私達は、ベラルーシ出身の彼女同様、真剣に考えるべきだ。
と、人を批判することは止めよう。私も、ボブ・ディランの曲とか聴いたことないし……。
私が言いたいのは、タイトルをパクってることを怒らないで欲しいということだ。このタイトル以外では、私の身に起こった出来事を上手く表現できないのだ。
だからちょっとハルキストのご機嫌を取ろうと思う。
村上春樹は、彼の読者層に対して、『職業としての小説家』で、こんなコメントをしている。
ちなみにこの本のタイトルって、マックス・ウェーバーの『職業としての政治』『職業としての学問』からインスピレーションを受けているよね? 厳密にいえば、Vocationなのか、Professionなのかという村上春樹の小説家としての態度と認識が違うのだけど。
って、また激怒されそうな話になりそうなので、話を強引に戻そう。
村上春樹は、彼の読者層に対して、『職業としての小説家』で、こんなコメントをしている。251ページです。『男女の割合がちょうど半々くらいで、女性読者に美しい方が多いということを別にすれば——それは嘘じゃありません——これという共通した特徴が見当たらないのです』
『女性読者に美しい方が多い』
私が言っているのではありません。村上春樹が言っているのです。
・
さて、これくらい前書きをだらだら書いたら、多くの人が途中で読むのを止めているだろう。だから安心して私は、自分のことを語り始められる。じゃあ書くなよ、と言われるかもしれないが、この事は、小説にしておいた方が良い。これは、書き手としての直感だ。だけど、あまりに私的なことが混じりすぎていて、うまくそれを分離できない。この物語をフィクションとして仕上げるのは、私にとって大変な作業だ。
何から書き始めよう。たぶん、一人称で書かねばならない。架空の「私」を造りあげよう。
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