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15 なぜか、お茶会

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 ネモフィラ主催のお茶会、カトレアの歓迎の席から一週間が経ちました。あれから、私はカトレアと話をする機会を持てません。学ぶ教室が別なので、話しかけに行くタイミングを掴めずにいます。
 遠くからカトレアの顔を見ている限り、明るい表情をしているので、学園での生活に馴染んでいるように思えます。

「ピアニー? 昼食はどうされるのかしら? 今日は殿下と?」

「いえ……。今日は、読んでいる途中の物語を読みながら昼食を食べようかと思っているの」

「あら? それは王都で今流行の……。感想を聞かせてくださいな」

「えぇ。ご興味があるなら、お貸ししますわよ」

 メイドのドラセナが私に熱心に勧めるので読むことにした物語です。

 粗筋としては、継母に虐げられた貧乏な貴族の娘が、主神ディオニュソスに祝福され、美しいドレスを着て舞踏会に紛れ込みます。そして、そこで一緒に踊った隣国の貴公子と恋に落ちる。しかし、主神ディオニュソスの祝福は一日限りの祝福で、時間が過ぎてしまえば、煤で汚れた衣装に戻ってしまう。屋根裏部屋で眠る生活にまた戻ってしまう。ついにその少女は自分の名前を明かせずに舞踏会場から去ってしまう。追いかける貴公子。必死にその場から逃げようとする娘。娘は祝福が解けぬうちに屋敷へと帰ろうと急ぐ余り、履いていた靴の片方を落としてしまいます。
 
 まだ、この先を読んではいないのですが、大体想像がつきます。黒部春子として読んだ、聞いたことのあるシンデレラのお話とほぼ同じ筋のお話です。貴公子がその靴を手がかりに、その娘を探し出し、見つけ、そしてそのままその娘は貴公子と結ばれる、という結末になるのでしょう。

 私がこの物語から学ぶべき事。それは意地悪な継母の立ち振る舞いです。私は、この物語で言ってしまえば、意地悪な継母の役割をディオニュソスから与えられている。無理難題を押しつけたり、掃除の行き届いていない場所を見つけ、そして鬼の首を取ったかのように責め立てる。

 継母は、どんな気持ちでその娘を虐げていたのでしょうか。

 若くして亡くなった前妻を未だに忘れられていない夫に不満があるのでしょうか。

 前妻の子どもだから憎いのでしょうか。

 どうしてこの物語の悪役である継母は、悪いことをするのでしょうか。愛情の裏返しであったのでしょうか。ただ、不器用なだけであったのでしょうか。

 主神ディオニュソスから、自分がその前妻の娘を虐げれば、やがてはその娘は幸せに暮らせると知っていた? 私のように。だから酷いことができたのでしょうか。

 継母が虐めたから、この娘は貴公子と結ばれて幸せに暮らすという結末を迎えられたのか。それとも、継母が虐めたこととは関係無く、この娘は貴公子と結ばれたのか。
 私の頭の中は、堂々巡りが続いています。私は当てもなく、学園の中を歩き回ります。

「あら?」

 噴水の近くの樹木の下に設置された休憩用のテーブルに、カトレアがテーブルクロスを引いています。カトレアは何をやっているのでしょうか? 侍女を雇う余裕がないということは大体想像していたのですが、自分でテーブルクロスを敷く。わざわざ持って来たのでしょうか? それに、紅茶のセットも見えます。

「ごきげんよう。カトレア様」

「ご、ごきげんよう。ピアニー様」

 カトレアの表情は少し硬いです。お互いに先週でのことは忘れたことになっていますが、カトレアは気にしている。

「ここで何をなさっているの?」

「いえ、お茶会の準備をしている所です。あの、この場をお使いになるお積もりだったのですか? それならば直ぐに別の場所に移動しますので」とカトレアは慌てて敷いたテーブルクロスをまたたたみ始めました。

「私は散歩をしていたところです。あなたが何をしているのか少しばかり気になって」

「いま、お茶会の準備をしている所です。実は、アウンタールでも紅茶を作り始めまして、皆さんに飲んで戴きたいと思っていたのですが……。紅茶の葉を他の貴族の方に勧めるのは失礼に当たることだと、注意を受けまして。だから、お茶会を開くことにしたのです」

 確かに他の貴族に、新しい紅茶の葉を勧めることはマナー違反ですが、それでお茶会を?
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