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第百二十一話

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 この先のことを考えながら、真剣な表情でヤマトは魔導船を操縦し、黒鳳凰についていく。
 案内されたのは、黒鳳凰の住処《雪の塔》と呼ばれる、縦に長く伸びた白い巨木の天辺だった。

 たどり着いた先で魔導船を浮遊させ、ヤマトたちも巨木の天辺に降り立つ。

「こんな場所が……」
 周囲を見回しながらぽかんと口を開けて呆然と呟くルクスは、その光景に驚いていた。

「まさかこんな状況になっているとはね」
「うん、これは驚いたよ」
 苦笑交じりで前を見るヤマトとユイナは場所よりも、その場にいる面子に対して驚いていた。

『……なぜ父様が?』
 そこにはガルプの父である黄龍の姿があった。ガルプも普段の冷静な表情のままだが、驚き戸惑っている雰囲気だ。

「――黄龍に黒鳳凰に青虎、それに朱亀まで」
 彼らの目の前の巨木の天辺。大きく開けた木の枝で作られた床の上には、ヤマトたちがこれから会いに行こうと思っていた聖獣が全て揃っていたのだ。

『ふっふっふ、驚いたであろう。黄龍がやられたと聞いてな、我が皆を集めたのだ』
 楽しげに笑う黒鳳凰の意図が読めず、ヤマトもユイナも首をかしげていた。

 ゲーム時代、この四者が一か所に集うということはなかった。
 それぞれがそれぞれの領域に住んでおり、そこに迷い込んで来たプレイヤーに課題を出し、それを叶えた者と対戦をして力を示した場合に報酬を渡す――という流れだった。

 それゆえに互いに干渉することもなく、今回のように一同に会することは考えられなかった。

「あなた方の四人……にん、でいいのか……? とりあえずそれでいきます。四人が集まるなんて一体どういうことなのでしょうか?」
 いろいろと頭で予想しながらもゆっくりと問いかけたヤマトの問いに反応したのは、朱亀だった。
 朱亀はその名の通り艶やかな朱い甲羅を持ち、小山ほどの大きな身体を持つ亀の身体をしている。

『まったく、小僧の言うとおりだ……我輩までがわざわざ呼ばれたのはどういうことだ? 我輩がここに来るのは骨が折れたぞ』
『それはおいも同じだ。おいも飛ぶのは難しいからな』
 不満げにぼやく朱亀の言葉に、困ったようにのんびりと間延びした口調で青虎も続く。
 青虎は深い青の縞柄を持つ虎で、通常の虎の何十倍もの大きな身体で床に伏せている。

 そして、どういうことなんだ? と視線をそれぞれが黒鳳凰へと向けていた。

『私もなぜ呼ばれたかについては気になっている。私の場合は飛べるが、その間、住処をあけることになるからな』
 不思議そうに首をかしげている様子から、説明なしでここまでつれてこられたのは黄龍も同様だったようだ。

『――ふっふっふ、この小僧どもが何を目的に動いているのか。それに関して我は予測がついている。貴様らは世界を救おうとしておるのだろう?』
 したり顔で黒鳳凰は楽しそうに言う。しかし、その言葉は的中しているため、ヤマトたちは目を見開いていた。

『やはりな。そして、黄龍の息子は既に小僧どもに力を貸しているようだ。だったら……我らも力を貸してやったほうが話が早いであろう?』
「それは!」
「本当に!?」
 願ってもないその提案に、再度ヤマトたちは驚くこととなる。肝心の契約者であるルクスはあまりの急展開にもう頭がついてきていないのか呆気にとられていた。

『わざわざ四聖獣を集合させて、更に何の試練もなく我の住処にまで貴様らを連れて来ておいて冗談を言うわけがあるまいよ。我のところからも息子を一人だそう――おい!』
 ふんと鼻を鳴らした黒鳳凰がどこへともなく声をかけると、その呼びかけに応じるように小型の黒鳳凰が降り立ってくる。

『ふう、父上の思い付きには敵わんな……まあいい、我が力を貸そう』
 ため息交じりに現れたガルプと同じくらいのサイズの小型の黒鳳凰の一人称は、父と同じであった。少し気位の高そうな強い意思を感じさせる眼差しをしている。

『こやつはなりは小さいが、それなりに力を秘めているはずだ。連れて行くとよかろう』
「あ、ありがとうございます……」
 ようやく我を取り戻したルクスが慌てたようにぺこりと頭を下げる。

『……ふむ、あなたが我のマスターか。よろしく頼む。我の名前はエグレだ』
「エグレ殿、私の名前はルクスです。よろしくお願いします」
 見定めるように上からじろじろと見ながら、横柄な言葉遣いのエグレと、軽く頭を下げ、丁寧な口調のルクス。
 どちらが主人かわからないような両者であった。

『仕方ない、それなら我輩も……でてこい』
 ここまで来たのには何かあるだろうとは思っていたため、少し嫌そうな顔をしながらも朱亀が呼びかける。
 すると、朱亀の影からもぞもぞと小型の赤い亀が姿を現した。
『眠い……るくす、よろしく。名前はトルトー……』
 むにゃむにゃと寝ぼけ眼のまま、ルクスの足元までとことことやってきたトルトと名乗る亀は、そのまま眠りについてしまう。リクガメほどの大きさで、甲羅にのろのろと身体をしまい、寝息が聞こえてくる。

「えっと、その、よろしくお願いします……」 
 その反応にルクスは戸惑いながら返事をする。
 ガルプやエグレが呆れたように見ているが、マイペース過ぎるトルトには通じていないようだった。

『はあ……それじゃあおいだけ出さないわけにもいかないか。彼らに力を貸してやってくれ』
 困ったような青虎の言葉に応えて、背中からこれまた青い小型の虎がぴょーんと飛び出すように降りてくる。

『しゃあないなあ! 俺の力を貸してやるよ! おうおう、俺の名前はティグだ。よろしく頼む!』
「よ、よろしくお願いします。私はルクスです」
 のんびりしたトルトの次に出てきたのが、暑ささえ感じるほどの元気なティグ、やや押され気味になりながらもルクスは返事をする。ティグは楽しそうにルクスの周りを駆けて回り、ぶんぶんと尻尾を揺らしていた。

 四聖獣の子どもたちに囲まれたルクスはそれぞれと契約を交わしていく。
 今回は名づける必要がなかったため、互いの名と意思を確認し合い、身体の色と同じ光の玉となった彼らを身体に取り込むことで契約となる。

『うむうむ、これだけの力が集まれば戦いやすいであろう。我は貴様らに期待しているぞ』
 それぞれが力を貸してくれたことに満足そうな黒鳳凰を、他の三聖獣が目を細めてみていた。

『……なぜ、この者たちにそこまで肩入れをするのだ?』
 黄龍からの鋭いツッコミに、ギクリという音が黒鳳凰から聞こえてくる。ビクッと身体を揺らして壊れた機械のように硬い動きで振り返る。

『さ、さっき言ったではないか。黄龍がやられたと聞いて、こやつらの目的を予想して、世界の平和のためならと……』
『――嘘だ!』
 それはルクスに召喚され直した黒鳳凰の息子の言葉だった。エグレは問い詰めるようにびしりと声を上げる。

『父上はこの間、ここに魔族がやってきて、この場所を好き勝手荒らされたことにイライラしていたのを知っていますよ!』
『うぅ、エグレよ……それを言わないでくれ……』
 格好いいことを言っていた黒鳳凰の言葉は建前であった。息子であるエグレの言葉にしおしおと身を小さくしていく。

「なるほど……それは大変でしたね。――どういう理由があるにせよ、皆さんから力を貸してもらえるのはとてもありがたいです。魔族がここにも手を出してきたのも気になることですしね」
 気遣うようなヤマトの言葉に、黒鳳凰は目を輝かせて勢いよく顔を上げる。

『そ、そう、そうなのだ! つまるところ、理由がどうあれ目的が世界平和に繋がれば我の言葉は嘘ではないのだ。そうだそうだ、だからこの集まりは正しいのだ!』
 威勢よく声をあげて取り繕う黒鳳凰のことを、他の三聖獣をはじめとした聖獣たちが呆れたように見ている。

 最初に魔導船にとりついた時の黒鳳凰は威圧感があったが、今の彼からはコミカルな雰囲気が感じ取られるため、それを見たヤマトたちの顔には笑顔が浮かんでいた。

「それよりも俺が一番気になるのは、俺たちが魔王を倒そうとしているとあなたが知っていた理由です」
 ヤマトが不思議そうに尋ねた問いに、黒鳳凰はすぐに答える。
『うむ、そのへんは魔族が聞いてもいないのにペラペラと言っていたぞ。魔族はお前たちが魔王を打倒しようとしているのを掴んでいるようだったな』
 なんてことないように告げられたその言葉に、ヤマトは言いようのない不安を覚えていた。







ヤマト:剣聖LV745、大魔導士LV622、聖銃剣士LV541
ユイナ:弓聖LV723、聖女LV627、聖強化士LV582、銃士LV492、森の巫女LV487
エクリプス:聖馬LV672
ルクス:聖槍士LV656、サモナーLV599
ガルプ:黄竜LV226
エグレ:黒鳳凰LV1
トルト:朱亀LV1
ティグ:青虎LV1
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