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第百十八話

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「――魔術師として研究と鍛錬を続けていた私はいつしか創生の大魔術師などという大それた名をもらいましたが、その名に負けないようにと様々な魔法を操り、考え、生み出していきました。使える者も私しかいないような特殊な魔法も多く存在します」
 ゆっくりと思い出すように、自らの力についてグレデルフェントは話していく。

「そして、その中である一つの魔法を作ることに成功しました。それは今、私が存在するこの世界の平行世界を見ることができるというものです」
 それを聞いたヤマトとユイナは驚くこととなる。

「へ、平行世界!? パラレルワールドを確認することができるのですか?」
 食い入るようなヤマトの問いに、苦笑交じりのグレデルフェントは頷く。

「はい、ですがなんでもかんでも見ることができるというものではありません。時間限定、タイミングもまちまちと……全てを見通すには程遠い代物でした。しかし、その魔法がある時、一つの光景を見せてくれたのです」
 グレデルフェントが感じ入るように目をそっと閉じて言ったその光景に、ヤマトとユイナは心当たりがあった。

「――厄災の神との戦い」
 ポツリとつぶやいたヤマトの言葉に、ユイナと顔を上げたグレデルフェントが頷く。

「その通りです。あなたがたお二人と、そのお仲間数人であなたがたの世界の魔王を倒した瞬間を見たのです。それ以前に見たいくつかの光景では、魔王を倒すのは無理だ、誰も倒すことができない――そういった会話を見ました。しかし、あなたがたはそれを達成した」
 ゲーム――エンピリアルオンラインで実装されてからどのプレイヤーも倒せずにいた最終ボスである厄災の神。しかし、ヤマトたちのパーティがその最初の討伐メンバーとなった。

「確かに、エンピリアルオンラインでは俺たちが一番最初にあのボスを倒しました」
 あの時の感動は忘れられない、という気持ちのこもったヤマトの言葉はグレデルフェントの話を裏付ける。

「その瞬間から、私は召喚の魔法を調べ始めたのです。ただの召喚ではなく、あなたがたを指定して召喚する魔法を。……すいません、勝手なことをしましたが、そうでもしなければこの世界を救えないと思ったのです」
 ぐっと硬い表情で俯くグレデルフェントは謝罪しながらも、仕方がなかったと話す。

「……正直、こっちの世界に来た時はそれはもう驚きました。彼女とも離れ離れになったし、レベルも一に戻っているし、通常の通話機能も使えない。アイテムや装備もない――もうとんでもない状況でした」
 ぽつりぽつりとヤマトはこの世界に来た当初のことを思い出しながら語っていく。
 何と言ったらいいか言葉にできない思いが胸にこみ上げ、ただ黙って聞くグレデルフェントの顔には影がかかっていく。

「でも、実際にゲームの世界を体験できて、楽しかったです! 今もここに来るまでに結構レベルが上がったし、こうしてユイナやルクスとも合流できたし、ゲームにはなかった特別な機能も使えるし……。うん、いまはすごく楽しんでます。世界を救うとか大それた話からはずれますけど、俺はここに来られてよかったと思ってますよ?」
 ハッとしたように顔を上げたグレデルフェントの目にはにっこりと楽しそうに笑うヤマトの表情が眩く映る。グレデルフェントはヤマトの言葉に救われた気持ちになっていた。

「――ねえねえ、私たちがボスを倒してから召喚されるまでそんなに時間が経ってなかったと思うんだけど、そんなにすぐに召喚魔法を作れたの?」
 これは黙って話を聞いていたユイナの疑問だった。その声音にグレデルフェントを責めるものはなく、単純に頭に浮かんだ疑問を口にしただけのようだ。

「えっと、そうですね。実際にこの魔法を作るのにかかった時間は数か月になります。元々召喚に関してはいくつか調べていたのでそれをベースに作り上げました。お二人の時間の流れとの齟齬に関しては、私の平行世界を見る魔法が不完全だったのと、もしかしたらこちらとそちらの世界での時間の流れが違うのかもしれませんね」
 魔法の説明をする時のグレデルフェントは楽しそうであった。ふわりと柔和な笑みを浮かべて話す。

 ゲーム世界ではリアルの地球時間よりも時間経過が早く進む。
 そう考えれば、グレデルフェントの話にはある程度納得がいく――ユイナはそう判断した。

「それで、召喚した理由はわかりました。そのうえでいくつか確認したいのですが、よろしいですか?」
 事のあらましは聞けたため、この先を考えなければならないとヤマトは表情を引き締めてグレデルフェントへと質問をする。

「えぇ、もちろんです。……といっても私が答えられるものしか答えられませんが」
 困ったような表情でそう言うグレデルフェントに、ヤマトは頷き、質問を開始する。

「まず、その魔王はどこにいるんですか? ここまでいくつかの街や大陸に行きましたが、魔王の話は聞きませんでした」
 最初に来るであろう質問として考えていただけに、どう答えるのが正解か少し思案したグレデルフェントがゆっくりと口を開く。

「――いま、この世界で魔王の存在を知る者はほとんどいないと思います。しかし、魔族の存在は人々も、お二人も認識されているかと思います」
 この言葉にはヤマトもユイナも頷いていた。ここまでに魔物を呼び集める魔道具を破壊した際に何度か魔族と戦闘したこともあった。

「その魔族たちを統べる王、それが魔王なのです。魔王は各地に配下の魔族を派遣して、世の中を混乱に陥れようとしています。ですが私はそれを知っていても、戦う力がありません……だから、戦うことができる人物を呼びよせることで、代わりに戦ってもらおうと考えたのです……!」
 創世の魔術師などと言われながらも戦えない自分の不甲斐なさ、そして別世界にいたヤマトたちに頼るという判断を下してしまった浅ましさなど、さまざまな感情がグレデルフェントの心の中には渦増していた。ぐちゃぐちゃになった心境がそのまま表情に現れている。

「……わかりました。俺たちが本当に魔王を倒すことができるかわかりませんけど、全力を尽くします。――ねっ?」
 グレデルフェントを励ますようにしっかりと頷いたヤマトがみんなに振り向いて同意を求めると、彼が判断したなら問題はないと力強く頷くユイナ、ルクス、ガルプ、エクリプスの姿があった。

「っ……あ、ありがとうございます!」
「いいんです、創生の大魔術師グレデルフェントさん。俺たちはあなたが作った様々なものに助けられました。それにこの世界を楽しませてもらっています。だから、俺たちにできることはやろうと思います。それに――それが俺たちがこの世界に呼ばれた理由のようですからね」
 とんっと胸に拳を当てながらニッと笑ったヤマトは、自分が与えられた役目を果たそうと決めていた。

 それは、ヤマトのパートナーであるユイナも、ヤマトの使い魔であるルクスも同様だった。







ヤマト:剣聖LV745、大魔導士LV622、聖銃剣士LV541
ユイナ:弓聖LV723、聖女LV627、聖強化士LV582、銃士LV492、森の巫女LV487
エクリプス:聖馬LV672
ルクス:聖槍士LV656、サモナーLV599
ガルプ:黄竜LV226
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