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第百十話
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「それじゃあ、私に力を貸してくれるのですか?」
期待に胸を膨らませたルクスが質問をする。
『……ふむ、確かに力を見せてもらった。そこの二人は特に強かったな。そして、そっちの馬も、猫のお前も悪くなかったな。実力不足ながら、その中で最大の力を発揮していた。とても賢き者たちなのだろう』
竜はただ戦っていただけでなく、ヤマトたちの力を選別していた。その総評を語りだす。
「っ、じゃあ!」
『確かに力は認める――しかし、私が力を貸すことはない』
「……なっ!?」
否定するその竜の言葉はあまりに衝撃的であり、ルクスは絶句して固まってしまう。
「ルクス、落ち着いて。――そのあたりはわかっています。あなたは俺たちの力の選定役。でも、そのお眼鏡にかなった俺たちには資格がある……そういうことですね?」
ルクスを励ますように背中をポンと優しく叩いたのち、黄竜に向かって話したヤマトの言葉に竜はにやりと笑う。
『その通りだ。先ほど言ったように私が力を貸すことはない。しかし、別のものが力となる』
ゆったりと力強く頷いた竜がそう言うと、上空から一人の子竜が降りてくる。
その子竜は若くしなやかで美しい黄色い鱗をしている。大きさも目の前の黄色い竜より小さいが、それでも大型犬くらいのサイズがあった。
『こやつは我が一族のもので、名はまだない。力をつけるためにも、外の世界を知るにはちょうどいい機会だ。――おい、お前は今からそこの者と契約をする。異論はないな?』
念のため竜が質問すると、一度ルクスを見た子竜だったが、黙って頷く。
この状況で拒否の選択肢があるとは思えなかった。
「……あ、あの、本当によろしいのでしょうか? 私の力を認めて頂いたのはそちらの大きな竜殿です。こちらの子竜殿は見ていないのに、それで契約という形でも大丈夫なのでしょうか……?」
子竜の様子を見たルクスは不安そうに申し出た。その言葉に、竜はピクリと眉を動かす。
『――不服か?』
低く唸るような声音で竜がルクスに尋ねる。
「いえ、不服、とは違います。私は子竜殿にも納得した上で、契約に同意してほしいのです」
それまで不安な様子だったルクスも、こればかりは頑として譲らないと強い視線を竜に向ける。
「これは黄龍には引いてもらわないといけませんね。うちのルクスは頑固だ。――だから、子竜。君が納得できなければ今回の話はなかったことで構わないよ」
優しく微笑んだヤマトがルクスの気持ちを汲んで話を進める。ユイナとエクリプスは落ち着いた様子で成り行きを見守っていた。
『……ふむ、お前はどうなのだ?』
ヤマトたちの実力を認めたからこそ、考え直した竜が子竜に尋ねる。
すると子竜は再びルクスをじっと見つめた。
『父様、私はこの猫殿についていきます。父様を前にしても怯まないこの者の心――気に入りました』
くるんと空中で前転した子竜は、決意したように父である竜にはっきりとそう告げる。竜は穏やかに唸ると子竜の旅立ちを許可した。
「――ルクス、今まで特に触れなかったけど、俺たちが戦った大きな竜が黄龍。難しい漢字のほうにあたる。そして成龍になっていないそちらの子竜が黄竜。簡単な漢字の竜のほうになるんだよ」
細かい違いであるが、ヤマトのこの説明を聞くことで、ルクスは一つ納得する。
「なるほど、黄龍と聞いてかなりの実力者であると感じていましたが、私と同じく成長途中の黄竜殿との契約ということになるのですね」
スッキリしたようにうんうんと頷いたルクスは合点がいったようだ。
『猫殿、名前を聞いてもいいか?』
そのルクスの前へと、すうっと滑るように子竜が降りてくる。
「これはこれは失礼しました。私の名前はルクスと申します。あちらにいるヤマト様は私の主人、そしてその隣にいるのが奥方のユイナ様です。それと、私と同じく仲間のエクリプス殿になります」
深く一礼したのち、ルクスは自分の名前だけでなく、ヤマトたちの紹介も合わせて行った。
『承知した。ルクス殿にヤマト殿にユイナ殿、そしてエクリプス殿だな。敬称や口調は変えづらいのでこれで勘弁してほしい』
一つ頷いた子竜はヤマトたちにぺこりと頭を下げる。ヤマトたちも歓迎するように笑顔で受け入れた。
「わかりました。それで、契約ですが……一体どうすれば良いのでしょうか?」
ルクスの問いに子竜は首を横に振る。
『その前にもう一つやってもらわなければならないことがある。――どうか私に名前をつけてくれ』
まさかの言葉にルクスは虚をつかれ、言葉を失ってしまう。
固まってしまったルクスを心配するように子竜が彼の周囲をくるくると旋回していた。
「――ルクス、しっかりしなきゃだめだ。これは重大な役目だからしっかりと考えてつけてあげたほうがいい」
ぽんとヤマトに肩を叩かれ、ルクスはハッとしたように我を取り戻す。
子竜はじっとルクスを曇りない瞳で見ていた。
「そう、ですね。考えます……」
目が合った子竜としばし見つめ合ったのち、ルクスは腕を組んで考え込む。
時間にして、数分ほど沈黙が場を支配する。
皆が皆、ルクスの言葉を待っていた。誰も急かすことはしない。名づけというのは主従関係を結ぶにあたって重要なことだからだ。
「――決めました。ガルプ、でどうでしょうか?」
顔を上げたルクスが名を授ける。子竜はガルプという名を聞くと、すっと目を閉じて自身の中でゆっくりとかみしめていく。
『……私の名前はガルプ。マスタールクスよ、よろしく頼む!』
再び目を開いたガルプがくるんと一回転しながらそう言うと、黄色い身体が光り輝く。
そして、一つの黄色い光の玉になると、ルクスの周囲を旋回し、そのまま胸のあたりから彼の中へと沈んでいく。
こうしてルクスは新たな力を手に入れた。
「ルクス、これで契約完了だよ。名前がないものと契約する場合は名づけがそのまま契約の儀式になるんだ」
おつかれさま、というようにヤマトがぽんとルクスの頭を撫でる。
彼に撫でられながら、自分の中に別のものが取り込まれた感覚に胸を押さえていたルクスは不思議な違和感を感じていた。
「そして、召喚してあげれば呼びかけに応じてガルプも出てくる。召喚の方法は精霊を呼び出す時とほぼ同じだよ」
促されるようにヤマトに言われたルクスは手に魔力を集中する。
「“サモン、ガルプ”!」
そして召喚の言葉を口にすると、手のひらより生まれたゲートを通ってガルプが顕現する。
『マスタールクス、契約はうまくいったようだ。これからよろしく頼むぞ』
「はい、よろしくお願いします」
口調だけとればどちらが主人かわからないやりとりだったが、無事に契約がなされ、繋がりを実感した二人とも、満足しているようだった。
『ヤマト殿、ユイナ殿、エクリプス殿もこれからよろしく頼む。一つ確認だが――あなた方は何を目的に旅をしているのだ?』
ガルプの質問に答えるのはヤマト。
「うーん……具体的な最終目的というのは答えづらい。でも、当面の目標は強くなること、かな」
ヤマトはあえてレベルという言葉は使わなかった。
レベルという概念がわかっているのは、ヤマト、ユイナ、ルクスの三人だけであるためだった。
『なるほど、あいわかった。私はマスタールクスと共に強くなり、あなたがたの力になれるよう尽力していこう』
くるんと回ったガルプはそう宣言する。ルクスがヤマトのことを主人と言ったことから、彼らの目的のために強くなっていくのが最善なのだろうと考えていた。
「ガルプ殿、共にご主人様の力となりましょう」
『委細承知!』
見つめ合いながらしっかりと頷きあうこのやりとりから、二人の気が合うことが伝わってくる。
「それにしても……」
「うん……」
((なんかガルプのしゃべりかた、子どものそれじゃないよなぁ))
――と、ヤマトとユイナは同じ感想を抱いていた。
ヤマト:剣聖LV235、大魔導士LV232、聖銃剣士LV141
ユイナ:弓聖LV233、聖女LV225、聖強化士LV170、銃士LV107、森の巫女LV154
エクリプス:聖馬LV191
ルクス:聖槍士LV174、サモナーLV198
ガルプ:黄竜LV1
期待に胸を膨らませたルクスが質問をする。
『……ふむ、確かに力を見せてもらった。そこの二人は特に強かったな。そして、そっちの馬も、猫のお前も悪くなかったな。実力不足ながら、その中で最大の力を発揮していた。とても賢き者たちなのだろう』
竜はただ戦っていただけでなく、ヤマトたちの力を選別していた。その総評を語りだす。
「っ、じゃあ!」
『確かに力は認める――しかし、私が力を貸すことはない』
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「ルクス、落ち着いて。――そのあたりはわかっています。あなたは俺たちの力の選定役。でも、そのお眼鏡にかなった俺たちには資格がある……そういうことですね?」
ルクスを励ますように背中をポンと優しく叩いたのち、黄竜に向かって話したヤマトの言葉に竜はにやりと笑う。
『その通りだ。先ほど言ったように私が力を貸すことはない。しかし、別のものが力となる』
ゆったりと力強く頷いた竜がそう言うと、上空から一人の子竜が降りてくる。
その子竜は若くしなやかで美しい黄色い鱗をしている。大きさも目の前の黄色い竜より小さいが、それでも大型犬くらいのサイズがあった。
『こやつは我が一族のもので、名はまだない。力をつけるためにも、外の世界を知るにはちょうどいい機会だ。――おい、お前は今からそこの者と契約をする。異論はないな?』
念のため竜が質問すると、一度ルクスを見た子竜だったが、黙って頷く。
この状況で拒否の選択肢があるとは思えなかった。
「……あ、あの、本当によろしいのでしょうか? 私の力を認めて頂いたのはそちらの大きな竜殿です。こちらの子竜殿は見ていないのに、それで契約という形でも大丈夫なのでしょうか……?」
子竜の様子を見たルクスは不安そうに申し出た。その言葉に、竜はピクリと眉を動かす。
『――不服か?』
低く唸るような声音で竜がルクスに尋ねる。
「いえ、不服、とは違います。私は子竜殿にも納得した上で、契約に同意してほしいのです」
それまで不安な様子だったルクスも、こればかりは頑として譲らないと強い視線を竜に向ける。
「これは黄龍には引いてもらわないといけませんね。うちのルクスは頑固だ。――だから、子竜。君が納得できなければ今回の話はなかったことで構わないよ」
優しく微笑んだヤマトがルクスの気持ちを汲んで話を進める。ユイナとエクリプスは落ち着いた様子で成り行きを見守っていた。
『……ふむ、お前はどうなのだ?』
ヤマトたちの実力を認めたからこそ、考え直した竜が子竜に尋ねる。
すると子竜は再びルクスをじっと見つめた。
『父様、私はこの猫殿についていきます。父様を前にしても怯まないこの者の心――気に入りました』
くるんと空中で前転した子竜は、決意したように父である竜にはっきりとそう告げる。竜は穏やかに唸ると子竜の旅立ちを許可した。
「――ルクス、今まで特に触れなかったけど、俺たちが戦った大きな竜が黄龍。難しい漢字のほうにあたる。そして成龍になっていないそちらの子竜が黄竜。簡単な漢字の竜のほうになるんだよ」
細かい違いであるが、ヤマトのこの説明を聞くことで、ルクスは一つ納得する。
「なるほど、黄龍と聞いてかなりの実力者であると感じていましたが、私と同じく成長途中の黄竜殿との契約ということになるのですね」
スッキリしたようにうんうんと頷いたルクスは合点がいったようだ。
『猫殿、名前を聞いてもいいか?』
そのルクスの前へと、すうっと滑るように子竜が降りてくる。
「これはこれは失礼しました。私の名前はルクスと申します。あちらにいるヤマト様は私の主人、そしてその隣にいるのが奥方のユイナ様です。それと、私と同じく仲間のエクリプス殿になります」
深く一礼したのち、ルクスは自分の名前だけでなく、ヤマトたちの紹介も合わせて行った。
『承知した。ルクス殿にヤマト殿にユイナ殿、そしてエクリプス殿だな。敬称や口調は変えづらいのでこれで勘弁してほしい』
一つ頷いた子竜はヤマトたちにぺこりと頭を下げる。ヤマトたちも歓迎するように笑顔で受け入れた。
「わかりました。それで、契約ですが……一体どうすれば良いのでしょうか?」
ルクスの問いに子竜は首を横に振る。
『その前にもう一つやってもらわなければならないことがある。――どうか私に名前をつけてくれ』
まさかの言葉にルクスは虚をつかれ、言葉を失ってしまう。
固まってしまったルクスを心配するように子竜が彼の周囲をくるくると旋回していた。
「――ルクス、しっかりしなきゃだめだ。これは重大な役目だからしっかりと考えてつけてあげたほうがいい」
ぽんとヤマトに肩を叩かれ、ルクスはハッとしたように我を取り戻す。
子竜はじっとルクスを曇りない瞳で見ていた。
「そう、ですね。考えます……」
目が合った子竜としばし見つめ合ったのち、ルクスは腕を組んで考え込む。
時間にして、数分ほど沈黙が場を支配する。
皆が皆、ルクスの言葉を待っていた。誰も急かすことはしない。名づけというのは主従関係を結ぶにあたって重要なことだからだ。
「――決めました。ガルプ、でどうでしょうか?」
顔を上げたルクスが名を授ける。子竜はガルプという名を聞くと、すっと目を閉じて自身の中でゆっくりとかみしめていく。
『……私の名前はガルプ。マスタールクスよ、よろしく頼む!』
再び目を開いたガルプがくるんと一回転しながらそう言うと、黄色い身体が光り輝く。
そして、一つの黄色い光の玉になると、ルクスの周囲を旋回し、そのまま胸のあたりから彼の中へと沈んでいく。
こうしてルクスは新たな力を手に入れた。
「ルクス、これで契約完了だよ。名前がないものと契約する場合は名づけがそのまま契約の儀式になるんだ」
おつかれさま、というようにヤマトがぽんとルクスの頭を撫でる。
彼に撫でられながら、自分の中に別のものが取り込まれた感覚に胸を押さえていたルクスは不思議な違和感を感じていた。
「そして、召喚してあげれば呼びかけに応じてガルプも出てくる。召喚の方法は精霊を呼び出す時とほぼ同じだよ」
促されるようにヤマトに言われたルクスは手に魔力を集中する。
「“サモン、ガルプ”!」
そして召喚の言葉を口にすると、手のひらより生まれたゲートを通ってガルプが顕現する。
『マスタールクス、契約はうまくいったようだ。これからよろしく頼むぞ』
「はい、よろしくお願いします」
口調だけとればどちらが主人かわからないやりとりだったが、無事に契約がなされ、繋がりを実感した二人とも、満足しているようだった。
『ヤマト殿、ユイナ殿、エクリプス殿もこれからよろしく頼む。一つ確認だが――あなた方は何を目的に旅をしているのだ?』
ガルプの質問に答えるのはヤマト。
「うーん……具体的な最終目的というのは答えづらい。でも、当面の目標は強くなること、かな」
ヤマトはあえてレベルという言葉は使わなかった。
レベルという概念がわかっているのは、ヤマト、ユイナ、ルクスの三人だけであるためだった。
『なるほど、あいわかった。私はマスタールクスと共に強くなり、あなたがたの力になれるよう尽力していこう』
くるんと回ったガルプはそう宣言する。ルクスがヤマトのことを主人と言ったことから、彼らの目的のために強くなっていくのが最善なのだろうと考えていた。
「ガルプ殿、共にご主人様の力となりましょう」
『委細承知!』
見つめ合いながらしっかりと頷きあうこのやりとりから、二人の気が合うことが伝わってくる。
「それにしても……」
「うん……」
((なんかガルプのしゃべりかた、子どものそれじゃないよなぁ))
――と、ヤマトとユイナは同じ感想を抱いていた。
ヤマト:剣聖LV235、大魔導士LV232、聖銃剣士LV141
ユイナ:弓聖LV233、聖女LV225、聖強化士LV170、銃士LV107、森の巫女LV154
エクリプス:聖馬LV191
ルクス:聖槍士LV174、サモナーLV198
ガルプ:黄竜LV1
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