106 / 149
第百五話
しおりを挟むそれから東の洞窟を出た三人は本来の目的である、黄竜のいる場所を目指していく。
そこは東の洞窟から更に東に進んだ場所にある、切り立った岩山だった。
「……本当にここが空に浮かぶ島なのか疑問に思うほど広大ですね」
遠目に見える岩山を見てルクスがそう呟く。
彼らの目の前に広がる光景は見渡す限りの広大な山々。地上にあるのと同じ規模で森や山があるため、自分が空に浮かぶ島にいることをつい忘れそうになる。
「あー、わかる。日本と同じとかでかすぎるよね。この場所をほとんどの人が知らないっていうのも信じられなくなるけど、情報網が確立されていないから仕方ないのかな」
困ったように笑いながらヤマトはルクスの言葉に頷く。
プレイヤーは遠距離でも通話する機能がいくつかあったが、NPCは長距離での連絡手段はなく、せいぜいが隣町と話すことができる魔道具があるかどうか程度だった。
「リアルだとネットで一瞬だったりするからね。下手すれば一生を自分の街近辺だけで過ごす人も多いだろうから……もったいない!」
大きなリアクションをしながらユイナはこの世界の人々のことを嘆く。
「さて、まあこの世界のことを今更嘆いても仕方ないから、ここから先の話に移ろうかな」
黄竜と契約する――そう宣言したヤマトだったが、ここから先、どんなことが待ち構えているのか、何も情報を出していなかった。
「何も教えてもらえないのかと思っていたので安心しますね」
今回契約するのはルクスであるため、ほっとした表情になる。
「ははっ、さすがにね。――これから向かう山にいるのは黄竜。その名のとおり黄色の皮膚をした竜だよ。属性は雷で、成龍になると黄龍と呼ばれるようになる。今回会いに行くのは子どもの竜になるわけなんだけど……それでも相当でかい」
ヤマトは大きさを強調するように、一瞬ためてからそのサイズを口にする。
「デカイ、ですか」
オウム返しのルクス。その大きさを想像してみるが、見たことがないためにぼんやりとしたイメージを頭の中で描く。
「まあ、でかさはそれとして、ゲームと同じであれば戦ってこちらが勝てば仲間になってくれる。結構な大きさだから、常に同行するのでは目立ってしまう……でもサモナーがいればいつでもどこでも召喚することができるようになるんだ」
戦うと聞いて、ルクスの表情が固くなる。
「そう、こいつが相当に強いんだよ。竜種の中でも結構上位にあたる。ゲーム時代でも結構みんな苦戦して、一つの壁としてあげられるほどだったよ。さっきいったように雷の属性だから、強力な雷を落としてきたり、雷の玉を撃ってきたりと遠距離攻撃をバスバス使ってくる」
ヤマトはゲーム時代に黄竜と戦った時のことを思い出して思わず苦笑する。
だが一方で、ここまでの説明を聞いたルクスの顔色はあまりよくない。
「あの、近距離攻撃がメインの私では戦いようがないのでは……」
不安そうに槍を握ったルクスがヤマトを見上げる。
ルクスの戦い方のメイン――槍はもちろん近距離での攻撃になり、精霊は遠距離といってもそれほど強力な攻撃方法は持っていない。
「そこは連携だよ!」
割り入るように声を張り上げたユイナがどーんと胸を張ってそう言う。
「そう、連携だね。何もルクスが一人で戦うわけじゃないんだよ。今度は俺とユイナも一緒だから。俺とユイナで道を作るから、二人で近づいて近接戦闘にうつろう」
茶目っ気たっぷりに笑いかけながら、ヤマトはルクスの肩にポンッと手を置く。
ハウンドフェンリルの時とは異なり、今度は三人で戦うことを強調する。
「そうそう、今度は私も本気で頑張っちゃうからね!」
力強く頷いたユイナは力こぶを作る真似をする。
そんな二人の応援がルクスの胸を強く打った。
「っ……それはとても心強いです。お二人と一緒なら負ける気がしませんね!」
これは言葉だけでなく、心の底から思っていた。
ヤマトとユイナとともに戦うと考えるだけで、ルクスは身体の底から力が湧き上がってくるようであった。
「そうそう、ドーンと大船に乗ったつもりで行こう! うっ……げほげほっ」
ユイナはドーンという言葉と同時に胸をドーンと叩くが、加減を誤り、ついむせてしまった。
「ま、まあ、そういうことだよ。俺もユイナも強力な職業持ちだし、レベルもそれなりに上がってるから、黄竜と戦うのはなんとかなる、はず」
そんなユイナの背中をさすりながらヤマトはルクスを励ます。
さすがにゲームのままではいかないであろうと予想できるため、どうなるかヤマトにも幾分かの不安はあった。
「ちなみに、レベル上げのために向かう――と、確かそう話していたと思うのですが、黄竜と戦うことでそのレベル上げに繋がるのでしょうか?」
ともすれば、レベル上げが本来の目的であったことを忘れてしまうような旅路であったが、ルクスはそこをぶれずに覚えていた。
「おー、覚えていたんだ。黄竜と戦うこと自体はレベル上げとは関係ないんだけど、契約してルクスが呼び出すことができたら、次の場所に移動しやすくなるんだよ。そして、そっちがレベル上げに適した場所なんだよ」
嬉しそうに笑ったヤマトはネタ晴らしをする。その説明を受けて、ルクスはなるほどと頷いた。
「それを聞いてスッキリしました! そのためにはまず黄竜との契約が大事になるということですね」
今回、ルクスがサモナーを選んだために、このルートを通ることとなった。
もし、誰もサモナーを選んでいなければ別のルートを選ぶのだが、そちらは更に遠回りになってしまう。
「その通りさ――だから頑張って絶対に勝とう」
ヤマトは静かに、だが力強い眼差しでルクスとユイナのことを見ていた。
「はいっ!」
「おー!!」
気合いみなぎる表情で頷いたルクスと元気よく腕を高くつき上げたユイナがその言葉に返事をする。二人の瞳にも強い決意が漲っていた。
そんな話をしていると、あっという間に岩山に到着する。
「さあ、ここが黄竜が住むと言われている山――ドラゴンズランスだよ」
黄竜をはじめとするドラゴンが住んでおり、とがったように切り立った岩山がまるで槍のようであるため、そう名付けられた地。
実装されたばかりの頃、この山の名前を聞いたプレイヤーは全員が同じことを思った――まるで武器のような名前の山だ、と。
ヤマト:剣聖LV218、大魔導士LV214、聖銃剣士LV85
ユイナ:弓聖LV215、聖女LV205、聖強化士LV120、銃士LV79、森の巫女LV94
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:聖槍士LV114、サモナーLV141
0
お気に入りに追加
1,771
あなたにおすすめの小説
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
旦那様に離縁をつきつけたら
cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。
仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。
突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。
我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。
※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。
※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
旦那様が不倫をしていますので
杉本凪咲
恋愛
隣の部屋から音がした。
男女がベッドの上で乱れるような音。
耳を澄ますと、愉し気な声まで聞こえてくる。
私は咄嗟に両手を耳に当てた。
この世界の全ての音を拒否するように。
しかし音は一向に消えない。
私の体を蝕むように、脳裏に永遠と響いていた。
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる