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第九十九話
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森を抜けたそこは小高い丘の上であり、眺めがよく遠くまで見通すことができた。
さあっと吹き抜ける風が三人の頬を撫でた。
「これは……すごいね」
「うん……」
彼らの眼下に広がる風景は、祠の周囲と同様に木々が深く広く生い茂っていた。
その木々の下に何があるかここからでは全く分からないほどである。
「一応あちらに町の形跡があるようですが……」
不安そうな表情のルクスが指差した方向には確かに建造物らしきがあった。
「完全に廃墟だね……人の気配もなさそうだ」
らしき、というように、建物は崩れていたり、ツタがびっしりとおおっていたり、屋根が半壊している。そんなものばかりだった。そう呟くヤマトの表情は暗く影が差す。
「これは人の行き来が無くなったせいかな……?」
「そうかもしれないね」
崩壊した町を見下ろしながら、物憂げな表情のユイナはヤマトの腕にくっついている。
今回、ヤマトたちがここにやってきた方法は、ゲームプレイヤーであれば割と一般的な方法である。
しかし、ゲームプレイヤーがいない今ではヤマトたちくらいにしかやれる人間はいない。
南方の大陸から向かうという手段もあるのだが、相当の奥地にあるため、転移の魔法陣が現存しているかも危うい。
「あの小さな町の人たちしかいなかったとすると、ずっと維持していくのは難しいもんね……」
考え込むようにじっと廃墟となった町を見たユイナはこの浮島にあった町を思い出しながら話す。
「……他の島に行く方法はあるのでしょうか?」
固い表情のルクスはここが駄目なら他はどうなのか? そう考えている。
「もちろんあるよ。――そうだね、そこに向かおうか。ここは小さめの島だけど、他は大きな島があったはずだから」
気持ちを切り替えたヤマトは廃墟と化している町を眺め、目標とする建物があるか確認していた。
「あれ、かな?」
周囲を遠くまでぐるりと見渡し、一つの建物にヤマトは視線を止める。
他の建物と同じく劣化はみられるが、その中でもしっかりと建っているように見える。
「っ、行ってみよう!」
食い入るようにヤマトに顔を近づけたユイナは廃墟となった町を近くで見てみたいという気持ちが強いようで、既に走り出す態勢をとっていた。
「あー、そういえばユイナ、廃墟好きだったっけ」
「うん! なんというか、あの人がいた場所が崩れているもの悲しさとか、そのはかなさががすごく心に響くんだよねえ……」
実際に廃墟に行く機会はリアルではほとんどなく、ネットや写真集で見るだけだったため、実際にそんな場所に行けることにユイナはワクワクしていた。
「な、なるほど……?」
ルクスはなんとかユイナに話を合わせようとしたが、理解の範疇外であるため、微妙な返事をするだけに留まる。
「ははっ、ルクス、無理に合わせなくていいよ。それより、とりあえず行ってみよう」
笑顔のヤマトが声をかけた時には、既にユイナは走っていた。ヤマトが走る気がないとわかると腕から離れて跳ねるように飛び出していく。
「お先にいっくねー!」
ぶんぶんと手を振りながらのその短い言葉の間でも、声が遠ざかっていくのがわかった。
「さ、俺たちも行こうか」
「承知しました」
恭しく頭を下げたルクスと共に、ヤマトはやや足早にユイナのあとを追いかけて行った。
ちなみに、最初の祠の時点ですでにユイナの琴線に触れていたが、それよりも状況把握のほうが優先されたため、彼女は探索を諦めていた。
しかし、今度は小さいとはいえ町であるため、ワクワクを止められなかったようだ。
いち早く町に到着したユイナは、興味深そうに廃墟と化した建物を外からじーっと観察している。
「す、すごいなあ。は、入っちゃダメだよね……?」
興奮交じりではあるが、理性が働いているようで、ユイナは崩れている建物を前にして、倫理観から足を踏み入れられずにいる。
身体をぐっと伸ばしたりひっこめたりしながらうろうろと周囲を見て回るユイナは、知らない者が見たらただの不審者だった。
しばらくしてヤマトたちもやってくる。
「ユイナ、どうしたの? なんか、怪しいけど……」
「ううう、建物の中を見てみたいけど、許可とれてないから……」
そんなことを心配しているユイナを見て、思わずヤマトはくすっと笑ってしまう。
「ユイナ、ここは日本じゃないんだからそこまで細かいことを気にしなくて平気だよ。そもそもここまで崩れているなら、放棄されてからかなり経っているだろうからね」
そう言うとユイナが悩んでいたのをあっさりと吹き飛ばすようにヤマトは一軒の家の中に入っていく。
ところどころ壁が壊れているため、中に簡単に入ることができた。
「ちょ、ちょっとヤマト!?」
慌てたようにヤマトを止めるような口ぶりのユイナだったが、その足はヤマトの後を追っていく。
「ほら、もう家の中も埃とかだらけで人が住んでいた痕跡も全くないよ」
鍋なども置かれているには置かれていたが、取っ手などがとれており、ボロボロになっていた。
埃をかぶる、というよりもうすでに植物に浸食され、独特の造形を生み出している。
「ほらね」
肩を竦めながらヤマトはかろうじてくっついている鍋の反対側の取っ手を持つ。だがそれはヤマトが手を触れた瞬間、鍋からボロリともげてしまった。
「うー……あー、もういっか! 気にし過ぎだったかも――うん、見て回ろう!」
一軒足を踏み入れてしまえば、二軒も三軒も変わらないと思い、ユイナは次々に建物の中に入っていく。吹っ切れた彼女は好き勝手にあちこちに入っては楽しそうに色々見て回り始めた。
「――ルクス、誰か近づいてくるのを感じたら声をかけてくれるかな?」
飛び出していったユイナを見送りつつも、ヤマトも興味があったため、周囲の警戒をルクスに頼み、彼女とは別の建物に足を踏み入れていく。
「はい、承知しました」
深く一礼したルクスはひらりと高い建物に登ると、周囲を観察していく。風の精霊を呼び出してより広い範囲を見張り始めた。
ゆっくりと歩き出したヤマトは無言で散策し始めた。
この町がここまでになってしまった理由――それに対する情報がどこかにないかを調べていく。
一方でユイナは、カメラ機能を使って廃墟の写真を次々に撮っていく。必要はないのだが、手でカメラの枠を作って構図を考えながらシャッターを切っていく。
「――すごい、すごいよ!」
興奮しながら写真を撮りまくるユイナは楽しさいっぱいという様子だが、異様な興奮具合は不審者そのものだった。
「……でも、カメラ機能が使えてよかったあ」
メニュー画面にずっとあったがこれまで優先度が低かったため、試すことすらしなかったカメラ機能。
ここに来て試してみたら狙い通りに写真を撮ることができたのはユイナにとって僥倖だった。
写真がどこに保存されるのかは謎だったが、撮影されたそれらはメニュー画面からいつでも確認することができる。
この機能を使って、ユイナは廃墟だけでなく、密かにヤマトの写真を撮っていたが、それを彼が知るのはまだ先の話だった。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV25
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV69、銃士LV32、森の巫女LV35
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:聖槍士LV28、サモナーLV36
さあっと吹き抜ける風が三人の頬を撫でた。
「これは……すごいね」
「うん……」
彼らの眼下に広がる風景は、祠の周囲と同様に木々が深く広く生い茂っていた。
その木々の下に何があるかここからでは全く分からないほどである。
「一応あちらに町の形跡があるようですが……」
不安そうな表情のルクスが指差した方向には確かに建造物らしきがあった。
「完全に廃墟だね……人の気配もなさそうだ」
らしき、というように、建物は崩れていたり、ツタがびっしりとおおっていたり、屋根が半壊している。そんなものばかりだった。そう呟くヤマトの表情は暗く影が差す。
「これは人の行き来が無くなったせいかな……?」
「そうかもしれないね」
崩壊した町を見下ろしながら、物憂げな表情のユイナはヤマトの腕にくっついている。
今回、ヤマトたちがここにやってきた方法は、ゲームプレイヤーであれば割と一般的な方法である。
しかし、ゲームプレイヤーがいない今ではヤマトたちくらいにしかやれる人間はいない。
南方の大陸から向かうという手段もあるのだが、相当の奥地にあるため、転移の魔法陣が現存しているかも危うい。
「あの小さな町の人たちしかいなかったとすると、ずっと維持していくのは難しいもんね……」
考え込むようにじっと廃墟となった町を見たユイナはこの浮島にあった町を思い出しながら話す。
「……他の島に行く方法はあるのでしょうか?」
固い表情のルクスはここが駄目なら他はどうなのか? そう考えている。
「もちろんあるよ。――そうだね、そこに向かおうか。ここは小さめの島だけど、他は大きな島があったはずだから」
気持ちを切り替えたヤマトは廃墟と化している町を眺め、目標とする建物があるか確認していた。
「あれ、かな?」
周囲を遠くまでぐるりと見渡し、一つの建物にヤマトは視線を止める。
他の建物と同じく劣化はみられるが、その中でもしっかりと建っているように見える。
「っ、行ってみよう!」
食い入るようにヤマトに顔を近づけたユイナは廃墟となった町を近くで見てみたいという気持ちが強いようで、既に走り出す態勢をとっていた。
「あー、そういえばユイナ、廃墟好きだったっけ」
「うん! なんというか、あの人がいた場所が崩れているもの悲しさとか、そのはかなさががすごく心に響くんだよねえ……」
実際に廃墟に行く機会はリアルではほとんどなく、ネットや写真集で見るだけだったため、実際にそんな場所に行けることにユイナはワクワクしていた。
「な、なるほど……?」
ルクスはなんとかユイナに話を合わせようとしたが、理解の範疇外であるため、微妙な返事をするだけに留まる。
「ははっ、ルクス、無理に合わせなくていいよ。それより、とりあえず行ってみよう」
笑顔のヤマトが声をかけた時には、既にユイナは走っていた。ヤマトが走る気がないとわかると腕から離れて跳ねるように飛び出していく。
「お先にいっくねー!」
ぶんぶんと手を振りながらのその短い言葉の間でも、声が遠ざかっていくのがわかった。
「さ、俺たちも行こうか」
「承知しました」
恭しく頭を下げたルクスと共に、ヤマトはやや足早にユイナのあとを追いかけて行った。
ちなみに、最初の祠の時点ですでにユイナの琴線に触れていたが、それよりも状況把握のほうが優先されたため、彼女は探索を諦めていた。
しかし、今度は小さいとはいえ町であるため、ワクワクを止められなかったようだ。
いち早く町に到着したユイナは、興味深そうに廃墟と化した建物を外からじーっと観察している。
「す、すごいなあ。は、入っちゃダメだよね……?」
興奮交じりではあるが、理性が働いているようで、ユイナは崩れている建物を前にして、倫理観から足を踏み入れられずにいる。
身体をぐっと伸ばしたりひっこめたりしながらうろうろと周囲を見て回るユイナは、知らない者が見たらただの不審者だった。
しばらくしてヤマトたちもやってくる。
「ユイナ、どうしたの? なんか、怪しいけど……」
「ううう、建物の中を見てみたいけど、許可とれてないから……」
そんなことを心配しているユイナを見て、思わずヤマトはくすっと笑ってしまう。
「ユイナ、ここは日本じゃないんだからそこまで細かいことを気にしなくて平気だよ。そもそもここまで崩れているなら、放棄されてからかなり経っているだろうからね」
そう言うとユイナが悩んでいたのをあっさりと吹き飛ばすようにヤマトは一軒の家の中に入っていく。
ところどころ壁が壊れているため、中に簡単に入ることができた。
「ちょ、ちょっとヤマト!?」
慌てたようにヤマトを止めるような口ぶりのユイナだったが、その足はヤマトの後を追っていく。
「ほら、もう家の中も埃とかだらけで人が住んでいた痕跡も全くないよ」
鍋なども置かれているには置かれていたが、取っ手などがとれており、ボロボロになっていた。
埃をかぶる、というよりもうすでに植物に浸食され、独特の造形を生み出している。
「ほらね」
肩を竦めながらヤマトはかろうじてくっついている鍋の反対側の取っ手を持つ。だがそれはヤマトが手を触れた瞬間、鍋からボロリともげてしまった。
「うー……あー、もういっか! 気にし過ぎだったかも――うん、見て回ろう!」
一軒足を踏み入れてしまえば、二軒も三軒も変わらないと思い、ユイナは次々に建物の中に入っていく。吹っ切れた彼女は好き勝手にあちこちに入っては楽しそうに色々見て回り始めた。
「――ルクス、誰か近づいてくるのを感じたら声をかけてくれるかな?」
飛び出していったユイナを見送りつつも、ヤマトも興味があったため、周囲の警戒をルクスに頼み、彼女とは別の建物に足を踏み入れていく。
「はい、承知しました」
深く一礼したルクスはひらりと高い建物に登ると、周囲を観察していく。風の精霊を呼び出してより広い範囲を見張り始めた。
ゆっくりと歩き出したヤマトは無言で散策し始めた。
この町がここまでになってしまった理由――それに対する情報がどこかにないかを調べていく。
一方でユイナは、カメラ機能を使って廃墟の写真を次々に撮っていく。必要はないのだが、手でカメラの枠を作って構図を考えながらシャッターを切っていく。
「――すごい、すごいよ!」
興奮しながら写真を撮りまくるユイナは楽しさいっぱいという様子だが、異様な興奮具合は不審者そのものだった。
「……でも、カメラ機能が使えてよかったあ」
メニュー画面にずっとあったがこれまで優先度が低かったため、試すことすらしなかったカメラ機能。
ここに来て試してみたら狙い通りに写真を撮ることができたのはユイナにとって僥倖だった。
写真がどこに保存されるのかは謎だったが、撮影されたそれらはメニュー画面からいつでも確認することができる。
この機能を使って、ユイナは廃墟だけでなく、密かにヤマトの写真を撮っていたが、それを彼が知るのはまだ先の話だった。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV25
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV69、銃士LV32、森の巫女LV35
エクリプス:聖馬LV133
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