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第九十八話
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建物から外に出てみると、ヤマトたちがいたのは祠のようで、周囲はうっそうとした木々が茂っており、深い森といった様子だった。木々の葉が擦れる風の音が聞こえてくる程度の静かな森だ。
「あの、ここは森の中、なんですか……?」
近寄った者がいる気配は感じられない。それも長い間。そんな独特の雰囲気が周囲に満ちている。
ルクスは立ち入り禁止の場所に入ったような感覚に落ち着かない様子だった。
「元々はもっと綺麗な平野の中にあったはずなんだけど……明らかに環境が変わってるし、一体何年経ったんだっていうくらいに森がすごいことになってるね」
うーんと唸りながらヤマトは周囲を見渡して感想を言うが、それほどに彼らが知る時との変化は大きかった。
「うわあ、なんかやばそうだけどここだけなのかなあ? 他の島はどうなってるんだろ……」
不安そうな顔でユイナはヴォラーレ諸島の他の島のことを気にしていた。近くにあると言ってもこれだけ森が広がっているとさすがに見えない。
「とりあえず行ってみようか。この島はこのほこら以外にも、小さな町があるはずだったから」
励ますようなヤマトの提案に、ユイナとルクスは頷いた。
見た目以上に森は深く、思ったように進むのは難しかったが、ヤマトが剣で道を切り開くことによって進むことができていた。もちろんただ切り開くだけでは自然破壊になってしまうため、ユイナの魔法で軽く再生しておく。あとは自然に成長していくだろう。
「なんか、いつまでたっても出られないなぁ」
ミニマップを見れば進んでいるのは分かるのだが、全く景色が変わらない。それほどに森が深く、単純作業が得意ではないヤマトは呆れていた。
「ヤマトー、代わろっか?」
気遣うようなユイナの進言に、大丈夫だと笑ってヤマトは首を振る。
「いや、ちょっとダラダラ進むのは飽きてきたからちょっと力を入れてみるよ」
気合を入れたヤマトは両手に剣を持ち、更に剣へ魔力を込めていく。彼の魔力の高まりを二人は感じ取った。
「少し走るから、二人とも遅れないようにね」
狙いすましたように前方を見据えながら、ヤマトは二人に声をかけた。
「わかったー」
「了解ですっ」
その返事が耳に入ると同時にヤマトは鋭く右手の剣を振るう。
その一撃は前方を塞いでいる木を一気に数本勢いよくなぎ倒していく。
かなり立派に太く成長していた幹も一気に吹き飛ばされた。剣戟が走った場所がぽっかりと穴をあけたように視界が開けた。
「すごい……」
それはルクスの言葉だったが、ヤマトのすごさはまだ続く。
「よし、いけるね。それじゃあ……スタート!」
ぐっと足に力を入れたヤマトは、一歩で最高速まで走る速度を上げる。それに合わせて、両手の剣を次々に振るっていく。剣戟が届かなかった部分の先を切り開いていった。
「す、すごい……うわっ!」
先ほどと同じ言葉を口にするルクスだったが、くすっと笑ったユイナに強く背中を叩かれた。
「ルクス、ぼーっとしてると置いてかれるよっ」
ぱちんとウインクをしながらユイナはそれだけ言うと自身も軽い足取りで走り出す。もちろんヤマトがなぎ倒した木々に再生の魔法をかけていくのを忘れない。
ハッとしたルクスが前方を見ると、視認できる範囲にヤマトの姿はなかった。ヤマトが一直線になぎ倒した場所をユイナの魔法が癒やしていくのが視界に移る。
「――っ、まずい!」
そこでやっと自分の置かれた状況を把握したルクスも慌てたように全速力で走っていく。道が一直線に切り開かれていなければ確実にはぐれていたであろうスピードで進んでいくヤマトたちを追いかけるべく、ルクスは風の精霊を出し、追い風にした。
それからものすごい勢いで走ったヤマトが足を止めたのは、時間にして十分後のことであった。
一番先頭を進んだ彼はようやく落ち着いたように息を吐く。ちらりと後ろを振り返れば、切り開いた最初の地点が全く見えないほど遠くまできたのがわかる。
「ふう、こんなものかな」
すっと剣を収めた彼の前方には、ようやく森の外が見えてきていた。そこからはゆっくりと歩き、外を目指していく。
「ヤマトー! 速すぎるよ!」
すると、少し遅れてぴょんと飛び出すようにユイナがヤマトのもとへと到着した。不満そうに唇を尖らせているが、全く息が切れていない。
「ユイナ、結構早かったね。もっとかかるかと思ってたよ。こっちも久々に全速力出したからさ」
愛しいものを見る優しい眼差しで振り返ったヤマトは早く到着したユイナの頭をゆっくりと撫でる。
「ふっふーん、頑張ったからねえ。あっ、もうちょっと撫でてー、えへへ……」
何度か往復したその手を離そうとしたヤマトをねだるように止めるユイナ。その表情は穏やかな笑顔になっていた。
最強プレイヤーの異名をもつ二人にとって、この程度の距離はマラソンにもならない。
普通の人が一日ほどかけて抜ける森を十分程度で駆け抜けるほど、彼らの体力と敏捷のパラメータは高い。
欲しいアイテムが出るまでダンジョンを何周も駆け抜けた経験からただ深いだけの森を突っ切ることは造作もないことだった。
二人がのんびりとした時間を過ごしていると、彼らが到着してから一時間ほど経過したのち、やっとルクスが到着する。
「はあはあ、おく……はあはあ……れて、はあふう……すいま、はあはあ……せん、はあっ」
ルクスは大きく息をきらしながら、なんとか言いたいことを伝える。ヤマトたちに比べて圧倒的にレベルの低いルクスが全力の彼らに追いつくのはかなり苦労したようだ。それでも十分早い方に分類されるのだが。
「あぁ、ルクス。お疲れ様、結構早かったね、ほらこれ、飲むといいよ」
そう言って笑顔のヤマトが取り出したのは、スポーツドリンクに似た飲み物だった。それも冷たく冷えたものを手渡す。
「はあはあ、ありが……はあは、ございます……」
肩で息をしているため、言葉になっていなかったが、何を言いたいのかわかったヤマトは頷く。
そして、飲み物を一気に飲み干したルクス。ぐびぐびといい飲みっぷりだった。
「ふうふう、やっと落ち着きました」
まだ少し息が乱れているが、それでもなんかまともに話せる程度に回復してきていた。
「それはよかった。ごめんな、本気で走ったから少し速すぎただろ」
困ったように笑いながら、先ほどユイナに言われたことをルクスに確認する。
自分では楽しいとすら思っていたことでも、仲間であるルクスを気遣わなかったことを反省していた。
「す、少し……はあ、いえ――少し……」
あれだけの速度を少しと言えるヤマトにルクスは驚くと同時にがっくりと力が抜けてしまう。
自分の主人はすごいと思っていたが、その度合いが自分とはけた違い過ぎて呆然としてしまったようだ。
「もうヤマトったら……ルクスはまだレベルが上がってないんだから、ヤマトの敏捷パラメーターで本気で走ったら追いつくはずないでしょー?」
ルクスをいたわるようにギュッと抱きしめたユイナが彼のことを考えていないヤマトのことを窘める。
「ははっ、ごめんね。ちょっと進みが悪いのが気になっちゃって、つい思いっきりやっちゃったんだよ。ユイナがカバーしてくれるだろうことは分かってたし、どっちの方向に俺が進んだかはわかるから大丈夫かなあって思ったんだけど」
思わずやってしまったと笑いながらヤマトはすっきりとした表情でそう言う。
「い、いえ……その、落ち着かれたのであれば、それでよかったです!」
だがこの状況にあってもルクスは主人の喜びを優先していた。自分の疲労はそれだけで吹き飛ぶ思いがしていた。
「もー、ルクスはおりこうさんなんだからあ。もう少し周りを見て! って言ってもいいんだよ?」
ルクスがヤマトに一切文句を言わないため、思わずそんなことを言うユイナだったが、そんなルクスのことをいい子だなと思ってもいた。
「いえいえ、私が強くなれば済むだけの話ですので、早くレベルアップしたいものです!」
ユイナの言葉に首を振って否定すると、力強くぐっと気合を入れるルクス。
この先の当面の目的であるレベル上げ。それに近づいているため、ルクスは早く先に進みたいと考えていた。
「~~~っ、ルクス……偉い!」
そんなルクスを見たユイナはふるふると感激に震えた。文句ひとつ言わず、役にたつため強くなりたいという思いを聞いてさらにルクスのことを気にいったようだった。
「――ルクス、今回は俺の配慮が足らなかったよ。ごめん。この先は早くルクスのレベルがあげられるように慎重に、かつなるべく早く進んでいこう」
ルクスの強い思いに触発されたヤマトは頭の中で彼のレベルアップ計画を立てていた。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV25
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV69、銃士LV32、森の巫女LV35
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:聖槍士LV28、サモナーLV36
「あの、ここは森の中、なんですか……?」
近寄った者がいる気配は感じられない。それも長い間。そんな独特の雰囲気が周囲に満ちている。
ルクスは立ち入り禁止の場所に入ったような感覚に落ち着かない様子だった。
「元々はもっと綺麗な平野の中にあったはずなんだけど……明らかに環境が変わってるし、一体何年経ったんだっていうくらいに森がすごいことになってるね」
うーんと唸りながらヤマトは周囲を見渡して感想を言うが、それほどに彼らが知る時との変化は大きかった。
「うわあ、なんかやばそうだけどここだけなのかなあ? 他の島はどうなってるんだろ……」
不安そうな顔でユイナはヴォラーレ諸島の他の島のことを気にしていた。近くにあると言ってもこれだけ森が広がっているとさすがに見えない。
「とりあえず行ってみようか。この島はこのほこら以外にも、小さな町があるはずだったから」
励ますようなヤマトの提案に、ユイナとルクスは頷いた。
見た目以上に森は深く、思ったように進むのは難しかったが、ヤマトが剣で道を切り開くことによって進むことができていた。もちろんただ切り開くだけでは自然破壊になってしまうため、ユイナの魔法で軽く再生しておく。あとは自然に成長していくだろう。
「なんか、いつまでたっても出られないなぁ」
ミニマップを見れば進んでいるのは分かるのだが、全く景色が変わらない。それほどに森が深く、単純作業が得意ではないヤマトは呆れていた。
「ヤマトー、代わろっか?」
気遣うようなユイナの進言に、大丈夫だと笑ってヤマトは首を振る。
「いや、ちょっとダラダラ進むのは飽きてきたからちょっと力を入れてみるよ」
気合を入れたヤマトは両手に剣を持ち、更に剣へ魔力を込めていく。彼の魔力の高まりを二人は感じ取った。
「少し走るから、二人とも遅れないようにね」
狙いすましたように前方を見据えながら、ヤマトは二人に声をかけた。
「わかったー」
「了解ですっ」
その返事が耳に入ると同時にヤマトは鋭く右手の剣を振るう。
その一撃は前方を塞いでいる木を一気に数本勢いよくなぎ倒していく。
かなり立派に太く成長していた幹も一気に吹き飛ばされた。剣戟が走った場所がぽっかりと穴をあけたように視界が開けた。
「すごい……」
それはルクスの言葉だったが、ヤマトのすごさはまだ続く。
「よし、いけるね。それじゃあ……スタート!」
ぐっと足に力を入れたヤマトは、一歩で最高速まで走る速度を上げる。それに合わせて、両手の剣を次々に振るっていく。剣戟が届かなかった部分の先を切り開いていった。
「す、すごい……うわっ!」
先ほどと同じ言葉を口にするルクスだったが、くすっと笑ったユイナに強く背中を叩かれた。
「ルクス、ぼーっとしてると置いてかれるよっ」
ぱちんとウインクをしながらユイナはそれだけ言うと自身も軽い足取りで走り出す。もちろんヤマトがなぎ倒した木々に再生の魔法をかけていくのを忘れない。
ハッとしたルクスが前方を見ると、視認できる範囲にヤマトの姿はなかった。ヤマトが一直線になぎ倒した場所をユイナの魔法が癒やしていくのが視界に移る。
「――っ、まずい!」
そこでやっと自分の置かれた状況を把握したルクスも慌てたように全速力で走っていく。道が一直線に切り開かれていなければ確実にはぐれていたであろうスピードで進んでいくヤマトたちを追いかけるべく、ルクスは風の精霊を出し、追い風にした。
それからものすごい勢いで走ったヤマトが足を止めたのは、時間にして十分後のことであった。
一番先頭を進んだ彼はようやく落ち着いたように息を吐く。ちらりと後ろを振り返れば、切り開いた最初の地点が全く見えないほど遠くまできたのがわかる。
「ふう、こんなものかな」
すっと剣を収めた彼の前方には、ようやく森の外が見えてきていた。そこからはゆっくりと歩き、外を目指していく。
「ヤマトー! 速すぎるよ!」
すると、少し遅れてぴょんと飛び出すようにユイナがヤマトのもとへと到着した。不満そうに唇を尖らせているが、全く息が切れていない。
「ユイナ、結構早かったね。もっとかかるかと思ってたよ。こっちも久々に全速力出したからさ」
愛しいものを見る優しい眼差しで振り返ったヤマトは早く到着したユイナの頭をゆっくりと撫でる。
「ふっふーん、頑張ったからねえ。あっ、もうちょっと撫でてー、えへへ……」
何度か往復したその手を離そうとしたヤマトをねだるように止めるユイナ。その表情は穏やかな笑顔になっていた。
最強プレイヤーの異名をもつ二人にとって、この程度の距離はマラソンにもならない。
普通の人が一日ほどかけて抜ける森を十分程度で駆け抜けるほど、彼らの体力と敏捷のパラメータは高い。
欲しいアイテムが出るまでダンジョンを何周も駆け抜けた経験からただ深いだけの森を突っ切ることは造作もないことだった。
二人がのんびりとした時間を過ごしていると、彼らが到着してから一時間ほど経過したのち、やっとルクスが到着する。
「はあはあ、おく……はあはあ……れて、はあふう……すいま、はあはあ……せん、はあっ」
ルクスは大きく息をきらしながら、なんとか言いたいことを伝える。ヤマトたちに比べて圧倒的にレベルの低いルクスが全力の彼らに追いつくのはかなり苦労したようだ。それでも十分早い方に分類されるのだが。
「あぁ、ルクス。お疲れ様、結構早かったね、ほらこれ、飲むといいよ」
そう言って笑顔のヤマトが取り出したのは、スポーツドリンクに似た飲み物だった。それも冷たく冷えたものを手渡す。
「はあはあ、ありが……はあは、ございます……」
肩で息をしているため、言葉になっていなかったが、何を言いたいのかわかったヤマトは頷く。
そして、飲み物を一気に飲み干したルクス。ぐびぐびといい飲みっぷりだった。
「ふうふう、やっと落ち着きました」
まだ少し息が乱れているが、それでもなんかまともに話せる程度に回復してきていた。
「それはよかった。ごめんな、本気で走ったから少し速すぎただろ」
困ったように笑いながら、先ほどユイナに言われたことをルクスに確認する。
自分では楽しいとすら思っていたことでも、仲間であるルクスを気遣わなかったことを反省していた。
「す、少し……はあ、いえ――少し……」
あれだけの速度を少しと言えるヤマトにルクスは驚くと同時にがっくりと力が抜けてしまう。
自分の主人はすごいと思っていたが、その度合いが自分とはけた違い過ぎて呆然としてしまったようだ。
「もうヤマトったら……ルクスはまだレベルが上がってないんだから、ヤマトの敏捷パラメーターで本気で走ったら追いつくはずないでしょー?」
ルクスをいたわるようにギュッと抱きしめたユイナが彼のことを考えていないヤマトのことを窘める。
「ははっ、ごめんね。ちょっと進みが悪いのが気になっちゃって、つい思いっきりやっちゃったんだよ。ユイナがカバーしてくれるだろうことは分かってたし、どっちの方向に俺が進んだかはわかるから大丈夫かなあって思ったんだけど」
思わずやってしまったと笑いながらヤマトはすっきりとした表情でそう言う。
「い、いえ……その、落ち着かれたのであれば、それでよかったです!」
だがこの状況にあってもルクスは主人の喜びを優先していた。自分の疲労はそれだけで吹き飛ぶ思いがしていた。
「もー、ルクスはおりこうさんなんだからあ。もう少し周りを見て! って言ってもいいんだよ?」
ルクスがヤマトに一切文句を言わないため、思わずそんなことを言うユイナだったが、そんなルクスのことをいい子だなと思ってもいた。
「いえいえ、私が強くなれば済むだけの話ですので、早くレベルアップしたいものです!」
ユイナの言葉に首を振って否定すると、力強くぐっと気合を入れるルクス。
この先の当面の目的であるレベル上げ。それに近づいているため、ルクスは早く先に進みたいと考えていた。
「~~~っ、ルクス……偉い!」
そんなルクスを見たユイナはふるふると感激に震えた。文句ひとつ言わず、役にたつため強くなりたいという思いを聞いてさらにルクスのことを気にいったようだった。
「――ルクス、今回は俺の配慮が足らなかったよ。ごめん。この先は早くルクスのレベルがあげられるように慎重に、かつなるべく早く進んでいこう」
ルクスの強い思いに触発されたヤマトは頭の中で彼のレベルアップ計画を立てていた。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV25
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV69、銃士LV32、森の巫女LV35
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:聖槍士LV28、サモナーLV36
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