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第九十七話

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 海神ポセイドンの加護を受けているからなのか、海は穏やかで、一行の航海を止めるものはおらず、順調に目的の場所へと向かって行く。

「――その場所というのはどんな場所なのでしょうか?」
 目的のモノに対する情報を与えてくれないため、これから向かう場所についてだけでも何か聞けないかとルクスは質問する。

「そうだねえ、これから向かう場所は……とても綺麗な場所のはずだよ。普通の方法では人が踏み入ることができない場所だから、人類に荒らされるということもないはずだしね」
 ネタバレにならない程度に言葉を選ぶヤマトの話を聞いて、ルクスは自分が住んでいた大陸を思い出す。

「もしや、西の大陸のように何か障壁となるようなものがあるのでしょうか?」
 西の大陸では風の障壁によって、外部からの侵入を拒んでいる。
 普通の方法では中に入ることができないという意味では共通するため、北東の大地も同様に何かの障壁に囲まれているのではないか?――それがルクスの予想だった。

「あー、まあ半分当たってるかな?」
「えー、それで当たりって言っちゃっていいのー?」
 苦笑交じりのヤマトは正解よりの判断、不満そうに唇を尖らせたユイナは不正解よりの判断を下す。

「……ふーむ、それでは一体どのようなものなのでしょうか?」
 ヤマトは主人であるため、なんだかんだ自分に甘いと考えて、物をハッキリというユイナの性格から自分の考えが正解には遠いものなのだろうと考える。

「そんなに難しい顔をしなくても答えは――ほら目の前に!」
 ヤマトが指し示した方向にルクスは視線を向ける。
 今いるのは海のど真ん中。だが、水蒸気によるものなのか、前方に水煙がたっており、前方に何があるのかルクスには見えなかった。

「ルクス違うよ、もっと上だ」
 促されるようにヤマトにそう言われて、ルクスは視線を上にあげていく。ぐぐっと反り返るほど上を見た彼は大きく目を見開いた。

「あれは……水、いえ、滝!?」
 ルクスが見上げた空から大量の水が降ってきていたのだ。ちょうどそのとき、雲がさあっと抜けて晴れ渡り、彼の目にその正体が映る。

 太陽の眩しさに目を細めつつ、その水の流れを辿っていくと、空高くに浮いている島から水が落ちてきていた。
 それらは一つだけの島にとどまらず、いくつかの島が同じように近くに点在している。

「そう、ここの上にあるのは浮遊島。複数の浮き上がった島からできている――浮遊列島ヴォラーレ諸島さ!」
 そこはルクスの持っていた地図にも載っていない、幻の島と呼ばれている場所であった。

「ルクスは運がよかったねえ。いつもはもっと水煙が強かったり、雲が出てたりして島が見えることはほとんどないんだよー」
 機嫌良く笑ったユイナはルクスの頭を優しく撫でながら言う。

 ヤマトたちは自身のマップで現在地を確認することができるため、迷うことはほとんどなく、ヴォラーレ諸島の場所も把握できている。
 しかし、通常の地図ではその島を確認することができないため、海を航行していると時たま空から大量の水が降ってくる場所があるという程度の認識だった。船乗りの間では有名なおとぎ話である。

「こ、これはすごいですね。まさか島が空に浮かんでいるとは……」
 ポカンと口を開けたルクスの視線は上空に固定され、浮かぶ島々をぼんやりと見ていた。

 ヤマトはゆっくりとヴォラーレ諸島の真下に移動していくが、そこでルクスが首を傾げる。
「海の上にいる我々がどうやってあの島まで行くのでしょうか……?」
 その問いに顔を見合わせたヤマトとユイナがニヤリと笑う。

「一般的な手順としては、南方の大陸に向かって奥地にある場所から通じている転送の魔法陣を使うことになっているんだ。店で手に入るような大型の鳥のマウントで向かおうとする人もいるんだけど、あの島の周囲には複雑な結界が張られていたり、急激な天候の変化が起こったりするから、普通のマウントだとおいそれと近づけるものでもないんだよね」
 もっと簡単に行ける方法はないかとルクスが考えようとしたが、それは先にヤマトによって潰される。

「実はね、ちょっとずるなんだけど、一度行ったことがある人はもう再びあそこに行くためにアイテムをもらうことができるんだよ。それがこれさ」
 にっこりと笑いながらヤマトが取り出したのは、【導きの杖】。
 先端に雲のようなふわりとしたモチーフがついている細い杖だ。ゲーム時代にいったことのある二人は、自分たちの家にこれを保存しておいてあったのだ。

「この杖の先から、浮島の転移魔法陣と繋がる道が生み出されて……そして」
 ヤマトが杖を掲げると、その言のとおり、杖の先端にある雲のモチーフからキラキラと光の結晶が生まれ、それが細く高く昇っていくと、浮島の一つへと繋がっていく。
 最初は光の大きさも小さなものだったが、今ではヤマトたちを船ごと飲み込めるほどの大きさに変化していた。

「さあ、ヴォラーレ諸島に出発だ!」
 光に包まれたヤマトたちは船もろとも滑るように光の道を通って、浮島へと移動していく。
「わ、わわわわっ!」
 ルクスは急に船が浮き上がった浮遊感に驚き、声を出してしまう。

「ゴーゴー!」
 船の先頭で手を伸ばしたユイナはノリノリで行く先を見つめていた。




 滑るようにゆっくりと浮上していくため、時間はかかったが、問題なく浮島へと到着する。
 最後には光が強くなったため、あまりの眩しさに三人は目を瞑っており、瞼の裏で光がおさまったのを感じるとゆっくりと目を開いていく。

「……どうやら問題なく到着したかな?」
 ヤマトたちは船に乗ったまま、転移先の魔法陣の上にいた。
 魔法陣のサイズは直径五メートルほどの大きさで、魔法陣は建物の中に設置されている。船は海水の上にあるわけではないが、しっかりとその場に固定されていた。

「前に来た時より、なんというか……」
「ボロくなってるね!」
 困ったような表情でヤマトが言葉を選ぼうとした隣で、無邪気な笑顔でユイナはストレートな物言いで言い放つ。

 実際そのとおりで、建物はゲーム時代にヤマトたちが訪れた時よりかなり劣化しており、手入れがされているようには見えなかった。

「魔法陣自体は魔法で空間に刻まれているものだから大丈夫だろうけど、これはちょっと酷いね」
 ぐるりと周囲を見渡すと、建物自体もところどころ崩れており、長い年月が経っているのが一目でわかる。ゲームの時よりも未来の世界だということが如実に伝わってきた。

「でもさ、ここまでなるなんて一体何があったんだろうね?」
 西の大陸のように閉鎖空間になっていれば時間の流れが変わっているだろうと思っていただけに、ユイナもこの状況になっていることに疑問を覚えていた。

「……外に出てみよう。船はアイテムボックスにいれておくよ」
 みんなが船を降りたのを確認したヤマトは乗ってきた船に手をあてると、それをアイテムボックスの中に収納する。ぱっと目の前から消えた船はヤマトのアイテムボックスの一覧の片隅にあった。
 ここは状態が悪いため、西の大陸の時のように置いていって何かあっては困るためだ。

「す、すごいですね。船も入るのですか……」
「そうだよ、色々便利だよね。――さあ先に進もう」
 そこそこの大きさの船がぱっと目の前から消えたことに、ルクスは大きく驚いた。
 茶目っ気たっぷりに笑ったヤマトを先頭に、一行は浮遊列島ヴォラーレ諸島の探索へと進む。








ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV25
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV69、銃士LV32、森の巫女LV35
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:聖槍士LV28、サモナーLV36

導きの杖
 先端に雲のモチーフがついた細い杖。
 魔力を込めるとキラキラとした光の結晶を生み出し、浮遊列島ヴォラーレ諸島への道を作り出す。
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