上 下
82 / 149

第八十一話

しおりを挟む

 ヤマトの職業――剣聖と大魔導士。
 ユイナの職業――弓聖と聖女、そして聖強化士。

 彼らのメイン職業である剣聖と弓聖が装備できるものの中で、秘蔵していた最上級のものを探して身に着ける。

 ゲーム時代、レベル1000まで上げた彼らが集めた品はそれこそ多岐にわたり、中にはもう二度と手に入らないであろうレアリティの高いものが職種ごとに全て揃っていると言っても過言ではなかった。
 だからこそそれらを装備しただけで、レベルが百以上上がったのと同じだけの効果をもたらすことになることは明らかだ。

「昔の自分たちに感謝だね。同じ装備をこれから手に入れようとしたらいくら時間があっても足りないくらいだよ」
「だねえ。これだったら、この先も全力で進めそうだね!」
 実際に取り出したものを装備してみると、動きを邪魔することなくそれぞれの身体にフィットし、また力が漲ってくることも感じられた。

 それぞれ今まで装備していたのは剣聖と弓聖の初期装備より少し強い程度のものであったため、それを装備していた頃との違いをはっきりと感じ取っていた。

 ヤマトが装備したのは【轟天シリーズ】と呼ばれるもので、剣、兜、鎧、籠手、足、脚のそれぞれに轟天の名にふさわしい輝きに満ちた爽やかなデザインが施されているのが特徴だ。
 ユイナが装備したのは【風雷シリーズ】と呼ばれるもので、弓、兜、鎧、籠手、足、脚のそれぞれに風雷の名にふさわしいスッキリとした綺麗なデザインが施されているのが特徴だ。

 アクセサリ系はまだ確認できていないが、潤沢な品揃えがあるため、二人に不安はない。

「んふふ、今ならトリトンともまともにやりあえそうだねっ」
「うん、これならまだまだ先に進める」
 二人は自分たちのステータスをみて、それぞれの力を確認していた。レベルや能力もそうだが、強い装備を身に着けることでより実力を発揮できそうだと嬉しそうにしている。

「失礼しま……おぉ! お二人ともとても良くお似合いですね!」
 ルクスは部屋に入ってくると、二人の姿を見て、感激したように手を合わせ、まずは褒めることから入る。
 しかし、これはルクスにとってお世辞でもなんでもなく、それぞれの装備自体が恰好良いものであり、見目麗しいヤマトとユイナ自身の容姿もあいまってとても似合っていたからだった。

「……そ、そう? そう言ってくれると嬉しいな。装備自体も強いし、これなら次に行けるはずだ」
「ありがと、ルクス! 今は武器と防具だけだけど、アクセサリ系も確認すれば、かなりの底上げになるから楽しみっ」
 照れ交じりのヤマトとにっこりと笑顔のユイナ。そんな二人を見てルクスは疑問が一つ頭に浮かぶ。

「あの……お二人はどこに行こうとされているんですか……?」
 次に行ける――そのユイナの言葉がルクスは気になっていた。不安そうに彼らに尋ねる。
 なんとなくではあったが、ルクスもここが以前とは違う状況にあることは感じていた。

「――ルクスは今がどんな状況になっているかわかるかい?」
 視線を合わせるようにしゃがんだヤマトは穏やかな表情でルクスの質問に質問で返す。
 尋ねられたルクスは嫌な顔一つせず、その質問に答えようと考え始めた。

「そう、ですね……つい数時間前に目覚めたばかりですので、わかるというほどではありません。それを前提としてですが、私がご主人様にお仕えしていた場所とは似て非なる場所であるような気がします。なんといいますか、あの時はこのように自我がなく、お二人に自分の考えを話すことができませんでした。……その、言い方が合っているかわかりませんが、自分がシステムの一部だったというような……」
 どう話したらいいか悩みながらもルクスは自身の考えを一生懸命言葉にする。
 その話を聞いてルクスの状態も、ポセイドンやミノスと同じような状況であると理解できる。

「理解できるかわからないが、どうやらルクスは頭がいいようだから話しておいたほうがいいかもしれないね」
 立ち上がってユイナの方を向き、そう言ったヤマトに彼女は笑顔で頷いた。

「――ルクス、俺たちはこの世界をゲームで遊んでいたんだ……」
 そこから、ゲームとはどんなもので、どう遊んでいたか。
 そして、自分たちがこの世界に来た時の話。ここまでどんな戦いをしてきたのか。それをヤマトは順番に話していく。

 静かに話に聞き入っているルクスはヤマトの話を彼なりに理解していった。





「……なるほど、それではお二人はそのゲームの中に飛ばされてしまったということですね。そして、ここは世界として存在しているため、私や他のキャラクターがお二人とお話ができると」
 納得がいったように結論を出したルクス。彼の理解度の高さにヤマトとユイナは驚いていた。

「ルクス、頭いいんだね……初めて聞くような言葉もあったのに」
 自分だったら、まず疑うことから入るため、ここまですんなりと理解できなかっただろうとユイナは思っていた。理解できたルクスを褒めるようにその艶やかな毛並みを優しく撫でる。

「ふふっ、お二人が私に嘘をつくはずがありませんからね! その点で素直に聞くことができました。聞きなれない単語はとりあえず別の言葉に置き換えながら聞いていましたっ」
 くすぐったそうに微笑むルクスはなんでもないことのように言うが、それすらも二人には驚くべきことだった。

「とりあえず今の状況に関して理解してもらえたみたいだから話を戻そう。俺たちがどこに向かうのか、だけど……正直なところ、よくわかっていない。ポセイドンに会ったのも、ミノスに会ったのも、森林の民の長老に会ったのも――結局全て成り行きだったからね」
 そこまで話してお茶を一口含む。少し冷えたお茶はヤマトの気持ちをスッキリさせた。

「海から別の街に行きたい、封じられた森に行くために、そしてここに来るために、その目的のために向かっていたらたまたま彼らに会っただけで……だから、自分たちから動くとなると何を優先すべきなのか、少し困ってるんだ」
 それがヤマトの素直な気持ちだった。悩んでいるようだったが、苦笑交じりに話すヤマトの雰囲気に暗さはない。

 ちなみにその隣で難しい顔で頷いているユイナは、適当に色々な街を巡ってみようとだけ考えていた。

「なるほど……それでは、少し現在の世界の状況を確認していきましょう! 確か地図があるはずです。それも、変化があれば最新版に更新されるものが確かあそこに……少々お待ち下さいませ!」
 彼らの助けになればとルクスは自分の部屋に急いで戻って行った。

「……なんかルクス頼もしいね」
「うんっ! 可愛いし、頭いいし、頼りになるねー!」
 二人ともふにゃりと目を細めてルクスが出て行った扉を見ながら、彼のことを称賛していた。







ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67
エクリプス:聖馬LV133

轟天シリーズ
 剣聖が装備できる最上級の装備。
 突き抜けるような蒼天をイメージした青と白を基調としたデザイン。
 シリーズが全て揃うと《轟天覇王》というコンビネーションが発動し、全ステータスが底上げされる。

風雷シリーズ
 弓聖が装備できる最上級のもの。
 吹き抜ける爽やかな風ととどろく雷鳴をイメージした緑と黄色を基調としたデザイン。
 シリーズが全て揃うと《疾風迅雷》というコンビネーションが発動し、全ステータスが底上げされる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

記憶喪失の逃亡貴族、ゴールド級パーティを追放されたんだが、ジョブの魔獣使いが進化したので新たな仲間と成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
7歳の時に行われた洗礼の儀で魔物使いと言う不遇のジョブを授かった主人公は、実家の辺境伯家を追い出され頼る当ても無くさまよい歩いた。そして、辺境の村に辿り着いた主人公は、その村で15歳まで生活し村で一緒に育った4人の幼馴染と共に冒険者になる。だが、何時まで経っても従魔を得ることが出来ない主人公は、荷物持ち兼雑用係として幼馴染とパーティーを組んでいたが、ある日、パーティーのリーダーから、「俺達ゴールド級パーティーにお前はもう必要ない」と言われて、パーティーから追放されてしまう。自暴自棄に成った主人公は、やけを起こし、非常に危険なアダマンタイト級ダンジョンへと足を踏み入れる。そこで、主人公は、自分の人生を大きく変える出会いをする。そして、新たな仲間たちと成り上がっていく。 *カクヨムでも連載しています。*2022年8月25日ホットランキング2位になりました。お読みいただきありがとうございます。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

処理中です...