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第七十七話
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関所を抜け、封じられた森の中を進む中、ヤマトとユイナは周囲の景色を見ていたが、やはり少しでも道を逸れると分からなくなるくらいの自然が広がっていた。
先頭を歩くグライムスは黙ったままで、真っすぐ森林都市へと向かっているようだ。
しばらくののち辿りついた森林都市――その名の通り、森と街が共生している都市だった。
街と森の境目が曖昧なほど一体化しており、人々が森に寄り添って生きている姿がヤマトたちの目の前にあった。意外にも中は広いように見える。
ぽつぽつと並ぶ建物にはしっかりとツタが絡まり、大通りの端には大きな桜のような木々が並んでいた。
住んでいる人たちは森林の民ばかりで、街行く人々は森で得た素材をうまく生かした服装をしている。
グライムスがいるためか、ヤマトたちを見る街の人々の視線に衛兵たちほどの警戒は見られない。
「……なんか、緑化が進んだような気がするなあ」
「だねえ、花も木も増えてる。街の規模も大きくなってきたよね」
街の入り口付近でぼんやりと立ち尽くした二人はゲーム時代の森林都市と比較して、現在の街を見ていた。まるで数百年の時が経っているかのような大きな変化だった。
「――二人はこの街に来たことがあるのか? ならば、あの実を持ってきたのも納得できるが……私は関所の警備隊長を長年務めているが、君たちを見たことはないぞ?」
ヤマトたちを訝しげな表情で見るグライムスは記憶を辿りながら首を傾げる。
長命であると言われている森林の民の長年という言葉は、数年レベルの話ではなく、それこそ数十年、下手すれば百年以上経過していても不思議ではなかった。ヤマトたちを導いたグライムスもまた見た目以上の年齢であろうことがわかる。
「まあ、こっちも色々事情がありまして……」
全てを話すわけにはいかないため、苦笑交じりでヤマトは無難な言葉をし、その答えを濁した。
「それより、どこに連れて行くのー?」
ぱっと見ただけで気になる店などもいくつかあったが、それらの前を通り過ぎてしまっている。それ故に、さっさと上の者という人たちに会って話を決めたいユイナが不満げに唇を尖らせる。
「……あぁ、もうすぐだ。あの一番大きな建物が見えてきただろ?」
固い表情のグライムスが指差した方向に視線を向けると、そこにはひと際背の高い石の塔が建っていた。
「あんな塔が……」
改めて指摘されると気づくその塔は、草木の蔦などが複雑に絡み、苔もむしているからか自然に溶け込んでいた。ヤマトは内心驚きながら塔を見上げている。
「――ヤマト、あんな塔あったっけ?」
これも覚えがないため、こてんと首を傾げたユイナが確認する。
「あの塔ができたのは今から百年ほど前のことだ」
ユイナの問いに答えたのはグライムスだった。
つまり、ここがエンピリアルオンラインの未来であるとしたら、少なくとも百年の時が経っていると予想できる。
ここに住む者ならば大抵のものが知っていることをヤマトたちが知らないことで、グライムスは人族の者が百年生きているとは思えないため、これまでの発言は恐らく彼らの虚言か勘違いだと思い始めていた。
「……まあいい、さっさと塔に向かおう」
嘘をついている可能性を考えたグライムスの態度は先ほどより固いものになっていたが、ユイナは以前の街との変化に心躍らせており、その態度の変化には気づいていなかった。だが、ユイナと一緒に喜びながらも、ヤマトはその変化をしっかり視界の端に捉えていた。
街を進み、塔に辿りついた一行。中に入ると何やらグライムスが話を進めてくれていた。
「……入るぞ。どうやら会ってくれるそうだ」
まるで会ってくれない可能性もあったかのような口ぶりだったが、その通りなのだろうとヤマトは一人納得していた。ユイナは塔の中に入れたことに興味が向かっており、周囲をきょろきょろと見回している。
グライムスの案内で、塔を登って行き、階でいえば四階あたりまで来たところで一度止まり、少し進んだ先にある扉を開けて中へと入った。
既に連絡がいっているため、ノックは不要だった。
「――グライムスです。はいります」
「しっつれいしますー」
「失礼します」
ピンと手を挙げてユイナは元気よく、目上の者に向けた声音でヤマトは恭しく頭を下げて部屋に入っていく。
中にはふかふかのカーペットとその奥に立派で大きな椅子が置いてあり、玉座のような雰囲気があった。
そこにいたのは一人の老人。人の良さそうな穏やかな雰囲気をしている。
「ほうほう、その者たちが例の太陽の宝玉を持ってきたという二人かね……ほうほう、ん? ……何やら見覚えがあるような……いや、気のせいか?」
豪奢な椅子に腰かけた老人の見た目をしている男性の森林の民は入ってきたヤマトとユイナの顔を見て、なにやら記憶に引っかかるものがあったのか、考え込むように顎に手を当てる。
彼がポセイドンやミノスと同じようなことを口にしたため、ヤマトとユイナは顔を見合わせた。
「俺の名前はヤマトと言います、こちらはパートナーのユイナ。――俺たちに見覚えがありますか?」
丁寧に名を名乗り、近寄った二人を老人は目を見開いて再度確認する。
「…………おおおおぉぉぉおおぉ! お主たち、いやあなた様は救国の英雄!」
しばらく考え込んでいた老人は思い出したように勢いよく立ち上がると、感激したように手を広げてヤマトたちを歓迎する。急に持ち上げられたため、ヤマトもユイナも驚き、困惑していた。
「覚えておりませんか? この森林都市――いやこの大陸が魔族に狂わされた巨大な風の精霊に襲われたことを」
老人の伺うようなその話を聞いて、二人はピンとくる。
「「荒れ狂う精霊!!」」
同じ記憶に辿りついた二人の声が揃う。
荒れ狂う精霊とは、エンピリアルオンラインのクエスト【風の大陸を救え】の中で出てくるボスの名前であり、高難易度コンテンツの一つとして数えられる。
これが倒せなくて、ゲームを引退する者も少なくなかったという。
「そうです、そうです。あなた方によって、荒れ狂う精霊が倒されたため、この国は救われたのです。……ただ、あの精霊を持ち込んだのが姿を変えていた魔族の仕業であったため、いま、この国は他種族の流入を極端に制限しているのです……」
思い出してもらえたことを嬉しそうに微笑みながら改めてヤマトたちに感謝する老人。
今の国の在り方に疑問を持ちながらも、安易に否定はできない。その葛藤が彼の様子からうかがえる。
「そ、それよりも長老殿。この二人を知っておいでなのですか?」
ただ一人、状況がわからないグライムスが慌てて話に割り込んで質問をする。
「お主たちのような若い者は知らん話だったな。……その昔、この街、この森、この大陸が絶滅の危機に瀕したことがあった。その時、多くの民が犠牲になった。私の兄弟も命を失った。もう、このまま大陸ごと滅んでしまうのではないかとすら思った。――だが、そこに救世主が現れたのだ」
厳かに語る長老の視線はヤマトとユイナに向いている。救世主と言われた二人は顔を見合わせ、困ったようにはにかみ合う。
「――ま、まさか、この二人が!? ……いや、しかし我々世代が知らない話となると相当昔のことですよね? 彼らがそんな年齢であるようには見せませんが……?」
グライムスのそれは当然の反応ではあったが、長老は彼の反応を見てため息交じりに首を横に振った。
「はあ、お前は物事を見る尺度が小さすぎる。まず事実を受け止めるのだ。彼らは私の覚えている彼らであり、私しか知らない言葉を口にした。ならば、例えその姿が若かろうとも、彼らが救国の英雄なのだ」
しっかりと自信満々に言う長老、それでも納得していない様子のグライムス。
しばらくこの部屋で互いの意見がぶつかった長老とグライムスが黙ったまま、睨み合う。
「……え、えっと、俺たちが誰であるかはひとまず置いておくとして、いくつか聞きたいことがあるんですが、構いませんか?」
沈黙が途切れそうにもなかったため、そろっと話に入ったヤマトは時間をとってもらえるかと問いかけると、グライムスから視線を逸らした長老は笑顔でゆっくりと頷いた。
「もちろんですとも、あなたがたのためであればいくらでも時間など作ります。……グライムス、誰も部屋に入ってこないように扉の外で見張っているんだ」
「……えっ?」
「いいから、早く行かんか!」
急に声を張り上げた長老の喝を受けて、驚き戸惑いながらもグライムスは飛び出すように慌てて部屋を出て行った。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67
エクリプス:聖馬LV133
先頭を歩くグライムスは黙ったままで、真っすぐ森林都市へと向かっているようだ。
しばらくののち辿りついた森林都市――その名の通り、森と街が共生している都市だった。
街と森の境目が曖昧なほど一体化しており、人々が森に寄り添って生きている姿がヤマトたちの目の前にあった。意外にも中は広いように見える。
ぽつぽつと並ぶ建物にはしっかりとツタが絡まり、大通りの端には大きな桜のような木々が並んでいた。
住んでいる人たちは森林の民ばかりで、街行く人々は森で得た素材をうまく生かした服装をしている。
グライムスがいるためか、ヤマトたちを見る街の人々の視線に衛兵たちほどの警戒は見られない。
「……なんか、緑化が進んだような気がするなあ」
「だねえ、花も木も増えてる。街の規模も大きくなってきたよね」
街の入り口付近でぼんやりと立ち尽くした二人はゲーム時代の森林都市と比較して、現在の街を見ていた。まるで数百年の時が経っているかのような大きな変化だった。
「――二人はこの街に来たことがあるのか? ならば、あの実を持ってきたのも納得できるが……私は関所の警備隊長を長年務めているが、君たちを見たことはないぞ?」
ヤマトたちを訝しげな表情で見るグライムスは記憶を辿りながら首を傾げる。
長命であると言われている森林の民の長年という言葉は、数年レベルの話ではなく、それこそ数十年、下手すれば百年以上経過していても不思議ではなかった。ヤマトたちを導いたグライムスもまた見た目以上の年齢であろうことがわかる。
「まあ、こっちも色々事情がありまして……」
全てを話すわけにはいかないため、苦笑交じりでヤマトは無難な言葉をし、その答えを濁した。
「それより、どこに連れて行くのー?」
ぱっと見ただけで気になる店などもいくつかあったが、それらの前を通り過ぎてしまっている。それ故に、さっさと上の者という人たちに会って話を決めたいユイナが不満げに唇を尖らせる。
「……あぁ、もうすぐだ。あの一番大きな建物が見えてきただろ?」
固い表情のグライムスが指差した方向に視線を向けると、そこにはひと際背の高い石の塔が建っていた。
「あんな塔が……」
改めて指摘されると気づくその塔は、草木の蔦などが複雑に絡み、苔もむしているからか自然に溶け込んでいた。ヤマトは内心驚きながら塔を見上げている。
「――ヤマト、あんな塔あったっけ?」
これも覚えがないため、こてんと首を傾げたユイナが確認する。
「あの塔ができたのは今から百年ほど前のことだ」
ユイナの問いに答えたのはグライムスだった。
つまり、ここがエンピリアルオンラインの未来であるとしたら、少なくとも百年の時が経っていると予想できる。
ここに住む者ならば大抵のものが知っていることをヤマトたちが知らないことで、グライムスは人族の者が百年生きているとは思えないため、これまでの発言は恐らく彼らの虚言か勘違いだと思い始めていた。
「……まあいい、さっさと塔に向かおう」
嘘をついている可能性を考えたグライムスの態度は先ほどより固いものになっていたが、ユイナは以前の街との変化に心躍らせており、その態度の変化には気づいていなかった。だが、ユイナと一緒に喜びながらも、ヤマトはその変化をしっかり視界の端に捉えていた。
街を進み、塔に辿りついた一行。中に入ると何やらグライムスが話を進めてくれていた。
「……入るぞ。どうやら会ってくれるそうだ」
まるで会ってくれない可能性もあったかのような口ぶりだったが、その通りなのだろうとヤマトは一人納得していた。ユイナは塔の中に入れたことに興味が向かっており、周囲をきょろきょろと見回している。
グライムスの案内で、塔を登って行き、階でいえば四階あたりまで来たところで一度止まり、少し進んだ先にある扉を開けて中へと入った。
既に連絡がいっているため、ノックは不要だった。
「――グライムスです。はいります」
「しっつれいしますー」
「失礼します」
ピンと手を挙げてユイナは元気よく、目上の者に向けた声音でヤマトは恭しく頭を下げて部屋に入っていく。
中にはふかふかのカーペットとその奥に立派で大きな椅子が置いてあり、玉座のような雰囲気があった。
そこにいたのは一人の老人。人の良さそうな穏やかな雰囲気をしている。
「ほうほう、その者たちが例の太陽の宝玉を持ってきたという二人かね……ほうほう、ん? ……何やら見覚えがあるような……いや、気のせいか?」
豪奢な椅子に腰かけた老人の見た目をしている男性の森林の民は入ってきたヤマトとユイナの顔を見て、なにやら記憶に引っかかるものがあったのか、考え込むように顎に手を当てる。
彼がポセイドンやミノスと同じようなことを口にしたため、ヤマトとユイナは顔を見合わせた。
「俺の名前はヤマトと言います、こちらはパートナーのユイナ。――俺たちに見覚えがありますか?」
丁寧に名を名乗り、近寄った二人を老人は目を見開いて再度確認する。
「…………おおおおぉぉぉおおぉ! お主たち、いやあなた様は救国の英雄!」
しばらく考え込んでいた老人は思い出したように勢いよく立ち上がると、感激したように手を広げてヤマトたちを歓迎する。急に持ち上げられたため、ヤマトもユイナも驚き、困惑していた。
「覚えておりませんか? この森林都市――いやこの大陸が魔族に狂わされた巨大な風の精霊に襲われたことを」
老人の伺うようなその話を聞いて、二人はピンとくる。
「「荒れ狂う精霊!!」」
同じ記憶に辿りついた二人の声が揃う。
荒れ狂う精霊とは、エンピリアルオンラインのクエスト【風の大陸を救え】の中で出てくるボスの名前であり、高難易度コンテンツの一つとして数えられる。
これが倒せなくて、ゲームを引退する者も少なくなかったという。
「そうです、そうです。あなた方によって、荒れ狂う精霊が倒されたため、この国は救われたのです。……ただ、あの精霊を持ち込んだのが姿を変えていた魔族の仕業であったため、いま、この国は他種族の流入を極端に制限しているのです……」
思い出してもらえたことを嬉しそうに微笑みながら改めてヤマトたちに感謝する老人。
今の国の在り方に疑問を持ちながらも、安易に否定はできない。その葛藤が彼の様子からうかがえる。
「そ、それよりも長老殿。この二人を知っておいでなのですか?」
ただ一人、状況がわからないグライムスが慌てて話に割り込んで質問をする。
「お主たちのような若い者は知らん話だったな。……その昔、この街、この森、この大陸が絶滅の危機に瀕したことがあった。その時、多くの民が犠牲になった。私の兄弟も命を失った。もう、このまま大陸ごと滅んでしまうのではないかとすら思った。――だが、そこに救世主が現れたのだ」
厳かに語る長老の視線はヤマトとユイナに向いている。救世主と言われた二人は顔を見合わせ、困ったようにはにかみ合う。
「――ま、まさか、この二人が!? ……いや、しかし我々世代が知らない話となると相当昔のことですよね? 彼らがそんな年齢であるようには見せませんが……?」
グライムスのそれは当然の反応ではあったが、長老は彼の反応を見てため息交じりに首を横に振った。
「はあ、お前は物事を見る尺度が小さすぎる。まず事実を受け止めるのだ。彼らは私の覚えている彼らであり、私しか知らない言葉を口にした。ならば、例えその姿が若かろうとも、彼らが救国の英雄なのだ」
しっかりと自信満々に言う長老、それでも納得していない様子のグライムス。
しばらくこの部屋で互いの意見がぶつかった長老とグライムスが黙ったまま、睨み合う。
「……え、えっと、俺たちが誰であるかはひとまず置いておくとして、いくつか聞きたいことがあるんですが、構いませんか?」
沈黙が途切れそうにもなかったため、そろっと話に入ったヤマトは時間をとってもらえるかと問いかけると、グライムスから視線を逸らした長老は笑顔でゆっくりと頷いた。
「もちろんですとも、あなたがたのためであればいくらでも時間など作ります。……グライムス、誰も部屋に入ってこないように扉の外で見張っているんだ」
「……えっ?」
「いいから、早く行かんか!」
急に声を張り上げた長老の喝を受けて、驚き戸惑いながらもグライムスは飛び出すように慌てて部屋を出て行った。
ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67
エクリプス:聖馬LV133
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