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第五十八話
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「……何かわかるのかな?」
「うーん、私たちは大したことわからなかったからねえ」
念のため、初めてこの魔道具を入手した時、彼らは何かわからないかと試してみたことがあった。だが二人のアイテム鑑定では簡単な説明がでる程度であり、詳細まで把握することはできなかったのだ。
「――ふむ、この魔道具は高位の魔族が作ったもののようだな。闇の魔力がかなり強く入っている」
じっくりと魔道具を鑑定しているポセイドンのその言葉を聞けば、ヤマトたち以上に情報を引き出せていることがわかる。
「欠片でそこまでわかるなら……これだとどうでしょう?」
「おぉ、これは壊れていないものか。どれどれ」
壊さずにとっておいた魔道具を受け取ると、ポセイドンは再度鑑定をしていく。
今度は先ほどよりも長い時間をかける。室内を沈黙が支配する。
「うううう、うううおおおおお」
その瞬間、倒れていたトリトンが突如飛び起きてヤマトへと襲い掛かる。
戦う準備のできていないヤマトだったが、反射的に風の障壁を張り、ユイナを背に庇いつつそれを防いだ。
「――お前は、寝ていろ!!」
鑑定に集中していたポセイドンの怒りの鉄拳がトリトンへ容赦なく振り下ろされると、トリトンはそのまま床にめり込んで再び意識を失った。
「えぐい……」
「やばいね」
ポセイドンのすさまじい一撃を目の当たりにしたヤマトとユイナは、ぴくぴく震えているトリトンを見て密かに同情していた。
「これくらいでは死ぬこともないだろう。……それよりも、魔道具についてわかったことがある。この魔道具にはかなりの量の闇の魔力が込められている。これだけのものを作り出すことができるとなるとおそらくは魔王の側近クラスに違いないであろう。そして、そこにあるだけで周囲に多大な影響を及ぼしている」
そう語るポセイドンの表情は厳しいものだった。今は彼の力によって魔道具の能力が抑え込まれているようだ。
「魔王の側近……根が深い問題みたいだ」
予想以上の結果にヤマトは困った表情をしながら魔道具をみている。
「そこの馬鹿が飛び上がったのもその魔道具の影響だろう。また起きないようにしまっておいてくれ」
返すように差し出されたそれをヤマトはすぐに魔道具をアイテムボックスへしまった。
「とりあえず、トリトンの身体の中に残っている魔道具の欠片を取り出しておこう」
すっと立ち上がって息子に近づいたポセイドンがおもむろに手をかざすと、トリトンの腹部からバラバラの魔道具の欠片がゆっくりと浮かび上がっていく。
「――ふん!」
そして、力強い掛け声とともに欠片が粉々になる。粉になったそれらは跡形もなく消えた。
「おぉ、すごい」
あっという間のできごとにヤマトは素直に称賛する。
「これで、目覚めれば少しは何か話せるだろう」
一見無表情にも見えるポセイドンは息子の身体の異物がなくなったことに安心しているようだった。
「ユイナ、回復を」
「りょーかい!」
笑顔で大きく手を挙げて駆け出したユイナはトリトンのもとへ近寄ると、回復魔法をかける。
柔らかで温かい光がトリトンを包み込むと、みるみるうちに見た目の傷が癒えていく。
傷が全て消え去ったころ、トリトンはゆっくりと意識を取り戻した。
「……う、ううん……」
今度の声は先ほどのような狂った声ではなく、正常な声だった。
「よかった、目が覚めたみたい」
ふわりとほほ笑んだユイナは魔法をそっと止めて、ヤマトのもとへと戻っていく。
「こ、ここは……と、父さん!?」
「父さん? ではない!! 何をしとるんだお前は!!」
混乱しつつ目覚めたトリトンはきょろきょろと周囲を見渡し、父親の姿を見て驚く。
どんと仁王立ちするポセイドンは大きな声でトリトンを叱責した。あまりの大声に建物がびりびりと震えている。
「……っ!? ご、ごめんなさいいいい!」
怒声に飛び起きたトリトンはぶるぶると怯えて身体を小さくしている。
「ちょ、ちょっと待って下さい。ポセイドン様、病み上がりの彼を叱らないで上げて下さい。トリトンさんは魔道具を飲み込んでいた状態を覚えていないのかもしれないし、もし覚えているのならその時の話を聞きたいのでどうか……」
慌てたように会話に参加してきたヤマトに落ち着いた声音で言われると、ふと考え込んだポセイドンは怒気を収める。
「……おい、馬鹿息子。一体何があったのか話してやれ」
ぶっきらぼうにそう投げかけられたトリトンはひとまずポセイドンの怒りが収まったことにほっとしていた。
「君たちが僕を助けてくれたのかい? ありがとう、父さんの怒りを収めてくれて助かったよ」
穏やかな表情で頭を下げるトリトンの姿は、先ほど戦ったぼんやりとしたトリトンとは全く別物だった。
「何か飲み込んだのは覚えているんだけど、どんな状況だったか、なんでそれを飲み込んだのかまでは覚えていないんだ……ごめんね。それで、飲み込んだあと外で何があったのかも覚えていなくて……」
申し訳なさそうに続けられた彼の話を聞いて、有益な情報が得られずヤマトとユイナは肩を落とす。
「……でも、自分の意識に関しては覚えていることがあるんだ。これは僕が神に類する存在だから覚えていたことなのかもしれないけどね。――意識が闇にとらわれていく、心の闇に語り掛けてくる、意識が徐々に削られていく、あの声は……強い力を持っていた」
それが魔道具に操られている状態のトリトンの状態だった。彼も最初は抵抗したのだろうが、それでも飲み込まれてしまったことを悔しそうに語る。
「これは……この世界も色々とあるみたいだなあ」
話を一通り聞いて噛みしめるようにつぶやくヤマト。
ゲームの時にはなかった大きな問題。それをヤマトは世界的な問題であると捉えていた。
「――む、この世界とはどういうことだ?」
ぼそりと呟いたその声はポセイドンの耳に届いていたようで、不思議そうに首をかしげている。
「あぁ、すみません。……あなたなら話しても問題ないと思いますが、俺と彼女は本来この世界の人間ではないんです。つまり……」
そこから自分たちはこの世界によく似た【エンピリアルオンライン】というゲームをしていたこと、気づけばこの世界に取り込まれていたこと、同じようで地味に違うここがどういう世界なのかわからないこと――それをヤマトは説明していく。
「ふむふむ、それはなかなかに興味深い話だ。お前たちの状態を見る限り、確かに普通の人間とは違うようだな。……この世界は我々よりも高位の神が生み出した世界だ。それがお前たちにとってどのようなものかはわからんが、だが何か役目があるようだということはわかる」
落ち着いた口調で話すポセイドンの言葉をヤマトとユイナはしっかりと聞き漏らさないようにしつつ、聞き入っていた。自分たちではわからないことを彼ならば知っているのかもしれないという気持ちがあったからだ。
「――もう一つ、私が知っている、というよりも感じていることを話しておこう」
ポセイドンの言葉が何かあるのかと思わせるような響きを持っていたことで、緊張の面持ちでヤマトとユイナはごくりと息をのんだ。
「最初にお前たちに会った時から感じていることだが……私はお前たちと会ったことがあるという記憶を持っているようだ」
それは衝撃的な言葉だった。
ヤマト:剣聖LV200、大魔導士LV195
ユイナ:弓聖LV197、聖女LV185、聖強化士LV37
エクリプス:聖馬LV113
「うーん、私たちは大したことわからなかったからねえ」
念のため、初めてこの魔道具を入手した時、彼らは何かわからないかと試してみたことがあった。だが二人のアイテム鑑定では簡単な説明がでる程度であり、詳細まで把握することはできなかったのだ。
「――ふむ、この魔道具は高位の魔族が作ったもののようだな。闇の魔力がかなり強く入っている」
じっくりと魔道具を鑑定しているポセイドンのその言葉を聞けば、ヤマトたち以上に情報を引き出せていることがわかる。
「欠片でそこまでわかるなら……これだとどうでしょう?」
「おぉ、これは壊れていないものか。どれどれ」
壊さずにとっておいた魔道具を受け取ると、ポセイドンは再度鑑定をしていく。
今度は先ほどよりも長い時間をかける。室内を沈黙が支配する。
「うううう、うううおおおおお」
その瞬間、倒れていたトリトンが突如飛び起きてヤマトへと襲い掛かる。
戦う準備のできていないヤマトだったが、反射的に風の障壁を張り、ユイナを背に庇いつつそれを防いだ。
「――お前は、寝ていろ!!」
鑑定に集中していたポセイドンの怒りの鉄拳がトリトンへ容赦なく振り下ろされると、トリトンはそのまま床にめり込んで再び意識を失った。
「えぐい……」
「やばいね」
ポセイドンのすさまじい一撃を目の当たりにしたヤマトとユイナは、ぴくぴく震えているトリトンを見て密かに同情していた。
「これくらいでは死ぬこともないだろう。……それよりも、魔道具についてわかったことがある。この魔道具にはかなりの量の闇の魔力が込められている。これだけのものを作り出すことができるとなるとおそらくは魔王の側近クラスに違いないであろう。そして、そこにあるだけで周囲に多大な影響を及ぼしている」
そう語るポセイドンの表情は厳しいものだった。今は彼の力によって魔道具の能力が抑え込まれているようだ。
「魔王の側近……根が深い問題みたいだ」
予想以上の結果にヤマトは困った表情をしながら魔道具をみている。
「そこの馬鹿が飛び上がったのもその魔道具の影響だろう。また起きないようにしまっておいてくれ」
返すように差し出されたそれをヤマトはすぐに魔道具をアイテムボックスへしまった。
「とりあえず、トリトンの身体の中に残っている魔道具の欠片を取り出しておこう」
すっと立ち上がって息子に近づいたポセイドンがおもむろに手をかざすと、トリトンの腹部からバラバラの魔道具の欠片がゆっくりと浮かび上がっていく。
「――ふん!」
そして、力強い掛け声とともに欠片が粉々になる。粉になったそれらは跡形もなく消えた。
「おぉ、すごい」
あっという間のできごとにヤマトは素直に称賛する。
「これで、目覚めれば少しは何か話せるだろう」
一見無表情にも見えるポセイドンは息子の身体の異物がなくなったことに安心しているようだった。
「ユイナ、回復を」
「りょーかい!」
笑顔で大きく手を挙げて駆け出したユイナはトリトンのもとへ近寄ると、回復魔法をかける。
柔らかで温かい光がトリトンを包み込むと、みるみるうちに見た目の傷が癒えていく。
傷が全て消え去ったころ、トリトンはゆっくりと意識を取り戻した。
「……う、ううん……」
今度の声は先ほどのような狂った声ではなく、正常な声だった。
「よかった、目が覚めたみたい」
ふわりとほほ笑んだユイナは魔法をそっと止めて、ヤマトのもとへと戻っていく。
「こ、ここは……と、父さん!?」
「父さん? ではない!! 何をしとるんだお前は!!」
混乱しつつ目覚めたトリトンはきょろきょろと周囲を見渡し、父親の姿を見て驚く。
どんと仁王立ちするポセイドンは大きな声でトリトンを叱責した。あまりの大声に建物がびりびりと震えている。
「……っ!? ご、ごめんなさいいいい!」
怒声に飛び起きたトリトンはぶるぶると怯えて身体を小さくしている。
「ちょ、ちょっと待って下さい。ポセイドン様、病み上がりの彼を叱らないで上げて下さい。トリトンさんは魔道具を飲み込んでいた状態を覚えていないのかもしれないし、もし覚えているのならその時の話を聞きたいのでどうか……」
慌てたように会話に参加してきたヤマトに落ち着いた声音で言われると、ふと考え込んだポセイドンは怒気を収める。
「……おい、馬鹿息子。一体何があったのか話してやれ」
ぶっきらぼうにそう投げかけられたトリトンはひとまずポセイドンの怒りが収まったことにほっとしていた。
「君たちが僕を助けてくれたのかい? ありがとう、父さんの怒りを収めてくれて助かったよ」
穏やかな表情で頭を下げるトリトンの姿は、先ほど戦ったぼんやりとしたトリトンとは全く別物だった。
「何か飲み込んだのは覚えているんだけど、どんな状況だったか、なんでそれを飲み込んだのかまでは覚えていないんだ……ごめんね。それで、飲み込んだあと外で何があったのかも覚えていなくて……」
申し訳なさそうに続けられた彼の話を聞いて、有益な情報が得られずヤマトとユイナは肩を落とす。
「……でも、自分の意識に関しては覚えていることがあるんだ。これは僕が神に類する存在だから覚えていたことなのかもしれないけどね。――意識が闇にとらわれていく、心の闇に語り掛けてくる、意識が徐々に削られていく、あの声は……強い力を持っていた」
それが魔道具に操られている状態のトリトンの状態だった。彼も最初は抵抗したのだろうが、それでも飲み込まれてしまったことを悔しそうに語る。
「これは……この世界も色々とあるみたいだなあ」
話を一通り聞いて噛みしめるようにつぶやくヤマト。
ゲームの時にはなかった大きな問題。それをヤマトは世界的な問題であると捉えていた。
「――む、この世界とはどういうことだ?」
ぼそりと呟いたその声はポセイドンの耳に届いていたようで、不思議そうに首をかしげている。
「あぁ、すみません。……あなたなら話しても問題ないと思いますが、俺と彼女は本来この世界の人間ではないんです。つまり……」
そこから自分たちはこの世界によく似た【エンピリアルオンライン】というゲームをしていたこと、気づけばこの世界に取り込まれていたこと、同じようで地味に違うここがどういう世界なのかわからないこと――それをヤマトは説明していく。
「ふむふむ、それはなかなかに興味深い話だ。お前たちの状態を見る限り、確かに普通の人間とは違うようだな。……この世界は我々よりも高位の神が生み出した世界だ。それがお前たちにとってどのようなものかはわからんが、だが何か役目があるようだということはわかる」
落ち着いた口調で話すポセイドンの言葉をヤマトとユイナはしっかりと聞き漏らさないようにしつつ、聞き入っていた。自分たちではわからないことを彼ならば知っているのかもしれないという気持ちがあったからだ。
「――もう一つ、私が知っている、というよりも感じていることを話しておこう」
ポセイドンの言葉が何かあるのかと思わせるような響きを持っていたことで、緊張の面持ちでヤマトとユイナはごくりと息をのんだ。
「最初にお前たちに会った時から感じていることだが……私はお前たちと会ったことがあるという記憶を持っているようだ」
それは衝撃的な言葉だった。
ヤマト:剣聖LV200、大魔導士LV195
ユイナ:弓聖LV197、聖女LV185、聖強化士LV37
エクリプス:聖馬LV113
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