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第二十五話

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 中央都市リーガイアに飛び込んできたアニマ族の男は、この街の実力者三人と話し合いをするため、領主の屋敷の応接室へと案内されていた。

「――それで、話を聞かせてもらおうか」
 この場を取り仕切っているのは騎士隊の隊長。領主、グタール、そして騎士隊長の三人の中で最も若かったため、司会を引き受けることになっていた。
 厳しい表情を崩すことがないのは彼の生真面目な性格を表している。

「はあ……まさかこんな大ごとになるとは思わなかったなあ……」
 話を促されたものの、ここまで大物があつまると思っていなかったアニマ族の男はがっくりと肩を落とす。山猫の獣人で、切れ長の目を困ったように垂れ下げながら列席している人物たちを見ていた。

「……あー、その前にいいか? グタール、お前の横にいる二人は誰だ? すぐに出ていくものと思って放っておいたが、この会議に加わるほどの者なのか?」
 それは理解できないというような表情でいる領主の言葉だった。住人の前に出てきた時は貴族ぜんとした態度だったが、この場では応接室のソファにどっかりと腰かけ、砕けた態度と口調になっている。恐らくこれが素の彼だった。

 彼はヤマトとユイナがグタールの横に座っているのを見て、見覚えのないものがこの話し合いに参加することに嫌悪感を抱いたようだ。

「あぁ、こいつらのことなら気にするな。俺が見込んだ冒険者だからな。それに、恐らくだがそいつがこれから話す内容と全く無関係ともいえないはずだ」
 腕を組んで座るグタールは山猫の獣人が何をこれから話すのかおおよその見当はついていた。

「ほう、お前がなあ……まあいいだろう。それで、一体なんの話なんだ?」
 ヤマトたちをチラ見した領主はグタールの言葉にひとまず納得したらしく、山猫の獣人に話を振った。

「えっと、俺はザイガの街で冒険者稼業をしているランレンといいます。それで、俺がここに来た理由なんですが……俺らの街を助けて下さい!」
 はきはきとした口調で言い切ったランレンは勢いよく頭を下げる。彼の言葉に領主は目を細め、騎士隊長は眉をピクリと動かし、グタールはふっと笑っていた。

「ザイガの街の近くに大平原があって、最近そこにモンスターが増えてきたんです。それも尋常じゃない数が……」
 顔色を悪くしながら懇願するように伝えるランレンのそれを聞いたヤマトとユイナは橋での戦いを思い出していた。

「俺もその話を聞いている。その大平原の調査にこの二人をやろうと思っていたんだが……少し遅かったようだな」
 申し訳なさをにじませたグタールの言葉を聞いて、依頼は消滅したと二人は受け取る。

「はっ、たかだが冒険者が二人派遣されたところで何ができるよ。……あぁ、別にお前さんたちの実力がどうこうって話じゃないぞ? 誰が行っても同じだってことだ」
 鼻であざ笑いながらヒラヒラと手を振った領主はグタールの発言に噛みついてくる。
 グタールを認めているからヤマトたちがいることに口出ししないだけで、彼らの実力を認めたわけではないという様子だ。

「ほうほう、だったら領主様の手勢には今回の一件をなんとかできるだけの手駒がいるんですかねえ?」
 それに悪い笑みを浮かべながら噛みつき返すグタール。領主とグタールの間に火花が散っているように見えた。

「……お二人とも、醜い言い合いはその辺にして下さい。今は彼の話を詳しく聞くのが先決です」
 ぴしゃりとその火花をかき消すような冷ややかな騎士隊長の指摘に二人は苦い顔をする。

「平原にモンスターが大量にいるとの話でしたが、それが街まで侵攻してきたということですか?」
 ヤマトは現状がどうなっているのか気になっていたため、他の面々を差し置いて質問をする。

「――えっ? えっと、最初は平原に大量のモンスターがいるだけだったんです。冒険者でパーティを組んで少しずつ削っていたんですけど、つい数日前に急に街の近くまで出没するようになって……気づけばそれがどんどん勢いを増してきたんです」
 ヤマトから話を振られて一瞬驚いたランレンの顔は話を進めるうちにどんどん悲痛なものになっていく。その表情からも相当苦労してここまでたどり着いたのだろうと分かる。

「よく、そんな状況なのにリーガイアまでたどり着きましたね」
 気遣うようなヤマトの言葉に悲痛な面持ちで彼は頷く。
「仲間が道を切り開いてくれたんです。俺が一番動きが素早いからって選ばれたんですけど、そのために何人もの仲間が犠牲になったんです……っ」
 この頃には完全に下を向いてしまっていた。ランレンの震える肩と膝の上で握られた拳から悔しさがにじみ出ていた。

「なるほど……――ということらしいですが、どうしますか?」
 話を聞きだしたヤマトは三人に話を振る。既にこの場はヤマトが取り仕切るようになっていた。話の分かる彼ら三人に任せてもいいのだがまた先ほどのような喧嘩腰になっては困るからだ。

「うーむ、そんな状況では安易に派兵というわけにもいかんなあ」
「そうですね、この街の守備のことを考えたら我々騎士隊もおいそれと街を離れるわけにはいきません」
 悩みながらもきっぱりと告げた領主、騎士隊長の言葉に、やっぱりというような諦めの表情でランレンは悔しそうに歯をかみしめていた。

「はっ、それでよく領主だ騎士隊長だなんて名乗っていられるな。あぁ、いいさ、うちから人を出そうじゃないか。はっはっは、今回も冒険者ギルドの一人勝ちってわけだ!」
 そんな領主と騎士隊長を鼻で笑ったグタールは自信満々の様子で立ち上がって高笑いする。前にも同じようなことがあったのだろう。

「ぐっ……小僧が生意気言いおって、貴様らになんとかできる規模の話でもあるまいが!」
「そうです、我々には我々の任務があるのです。気の向くままに動ける冒険者とは立場というものが違うのですよ」
 グタールの言葉に苛立った領主は噛みつくように怒鳴り、表情は全く変えていないが騎士隊長も怒りをあらわにしていた。

「なんとでも言うがいいさ。――おい、ヤマトにユイナ! 依頼は続行だが少し変更する。大平原に、そしてザイガの街に何が起こっているのか調査してくれ。もちろん、原因がわかったらそれを取り除いてもらって構わない!」
 だがその二人の怒りを気にした様子もなく、グタールはこの場でヤマトとユイナの二人への依頼続行、そして依頼内容の修正を高らかに告げる。

「……おいおい、そいつらにそんな力があるのか? ――おい、お前たちランクはいくつだ?」
 呆れたように肩を竦めた領主はヤマトとユイナを見て頼りないと感じたのか、とりあえず聞いてみるかというようにランクを尋ねる。

「俺はF、彼女はEです」
 ヤマトはなんのことはないと答えるが、それは領主と騎士隊長の笑いを誘い、ランレンの肩をがっくりと落とさせることとなった。






ヤマト:剣士LV35、魔術士LV25
ユイナ:弓士LV30、回復士LV15
エクリプス:馬LV15
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