上 下
13 / 149

第十二話

しおりを挟む
 馬の呼び笛の購入を終えると、ヤマトは旅の準備のために食料や道具の購入をしに雑貨屋や食材屋を巡っていた。

 アイテムボックスは食事などが格納された場合、時間がとまり温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいまま保存されるため、ヤマトは買ったそばからアイテムボックスにしまっていた。

「あっ、それとそれもお願いします」
 食事に寄った店で、美味しい料理が提供されると食器代を払ってまでそれを購入することもあった。美味しいものは大切な人と一緒に共有したいという気持ちからだった。

 あまりに美味しそうに食べるヤマトにそそられた客が同じものを注文したり、彼と同じように持ち帰るという者もおり、その店はヤマトが去ったあともしばらくにぎわい続けた。

 そんな賑わいにも気づかず、ユイナのことを考えながら旅に向けての一通りの買い物を終えたヤマトは宿に向かう。
 いよいよ、合流に向けて動き出すことを早くユイナに伝えたかったからだ。

 部屋は空いており、ヤマトは無事に部屋をとることができる。もちろん防音性の高い部屋を選んだ。
「さて、ユイナは通話できるかな? ――ユイナ?」
 ベットに腰かけたヤマトは優しく指輪に触れながらユイナへの通話を開始する。

 待つこと、一分。なかなか返事が返ってこないため、忙しいのかもしれないとヤマトが通話を諦めようか考え始めた頃。
『――ヤマト?』
 ちょうどそのタイミングでユイナから返事が返ってきた。

「よかった、今通話大丈夫かな?」
『うん! すぐに反応できなくてごめんね、ちょっと寝てたー』
 通話音で慌てて起きたユイナだったが、すぐに頭はしゃっきりとしたようで通話に対応していた。

「あー、それはごめんね。ちょっと話したいことがあったから……」
 寝ているところを起こしてしまった罪悪感からヤマトは謝罪する。
『ううん、気にしないでいいよ。それより話したいことってなぁに?』
 ふにゃりと笑いながら首を横に振るユイナは寝ているところを起こされたことよりも、ヤマトから通話をくれたことに対する嬉しさが強かった。

「えっとね、そろそろデザルガを出て、中央都市リーガイアを目指そうと思ってるんだ」
『ほんと! あ、でも私はもうちょっとこっちでレベル上げしないと大変かも……やっと弓がレベル15になったばかりなんだよね……』
 ヤマトの速度についていけない自分のことをユイナは少し不甲斐なく思い、しょんぼりとしてしまう。

「ううん、いいんだよ。ユイナはユイナのペースで、確実に上がってきてるしね。とりあえず俺はリーガイアに向かうから、その時点でまたどうするか決めればいいよ。俺がそっちの街に迎えに行ってもいいし、途中で合流するのもありだよね」
 優しく答えるヤマトは彼女に気を使ってるわけではなく、単純に思ったことを口にしているだけだった。ずっと昔から変わらない彼の優しい言葉に胸がぽかぽかと温まったユイナは自然と笑顔になっていく。

『ふふっ、やっぱりヤマトはヤマトだなー……』
「えっ? 俺は俺だけど……何を当たり前のことを言ってるの?」
 どうやらその返事はユイナの好みに合わなかったらしく、通話の向こうで彼女は不機嫌そうにつんと口をとがらせていた。

『もー、そういうとこだよ! ヤマトの良くないところ! いいの、なんか雰囲気なの! ヤマトはヤマトなの!』
「……あー、なんかごめん」
 なにが悪かったのかはわからなかったが、ユイナの機嫌を損ねたことだけは理解したヤマトは苦笑交じりで即座に謝罪した。

『いいよっ、許してあげる!』
 理由がわかっていなくても、ヤマトが謝罪をする時は気持ちがこもっていることをわかっているユイナはあっさりと許すことにした。

 そうしてどちらともなく笑いあうこれが二人のなかではお決まりのやり取りのようなものだった。

「とりあえず馬の呼び笛と旅に必要な道具とか食料を買い込んだから、早速明日には街を発つことにするね」
『うん! えへへ……まだ会えないのはわかってるけど、二人の距離が縮まるのはなんか嬉しいね!』
 単純な直線距離が近づくだけだったが、それはユイナを笑顔にする要素だった。

 それから二人は夜遅くまで通話を続ける。再会が近づいたことでより互いを強く意識した二人の通話は日をまたいだころまで続くこととなった。





 翌朝

「ふわぁ……昨日は遅くまで通話しちゃったなあ」
 いつもの格好に旅用のローブを羽織ったヤマトは眠い目をこすりながら、朝の街中を歩いていた。静けさの残る早朝の今は、人の姿もまばらだ。
 早朝に出発すれば、昼過ぎくらいに馬が音をあげて休憩になるような計算だった。

「またすぐに戻ってくるか、それとももう戻ってこないか……わからないけど、行ってきます!」
 ダンジョンにいることが多かったヤマトは、デザルガの街での思い出が少なかったが、それでも今回も旅立ちの最初の街であったため、思い入れがあった。

 決意を胸に街に向けて挨拶をすると、進む先に身体を向けて馬を呼び出すことにした。
「さてさて、どんな感じでくるのやら……――ピー!」
 ゲームの時はメニューで選ぶとその場にポンと現れるだけだったため、わくわくしながらヤマトが笛を吹くと、ほどなくして馬がどこからともなくやってきた。

「ヒヒーン!」
「おうおう、元気だね。それじゃこれからよろしくお願いします」
 ヤマトに駆け寄ってきては元気よく頬ずりをしてくる馬の頭を撫でてから笑顔で挨拶をする。

 彼はこの馬をただの乗り物としては考えておらず、旅の相棒としてとらえていた。
「嫌じゃなければ名前をつけてあげたいんだけど……どうかな?」
 穏やかに問いかけるヤマトの質問を理解しているのか、馬は一瞬考えたようにじっと彼を見つめ、同意するように鼻を鳴らした。

「それじゃあ……お前の名前はエクリプスだ!」
「ヒヒーン!」
 名前を聞いた瞬間、とても気に入ったのか、馬は縦に首を振るとやる気を見せるように大きくいなないた。

「気に入ってくれたみたいだな、よろしくなエクリプス!」
 エクリプスの喜びを感じ取ったヤマトも嬉しそうに笑う。
 さっそく騎乗し、リーガイアに向けて旅立ったヤマト。この時のエクリプスはまだ、移動用に買った馬としての存在だったが……。





ヤマト:剣士LV25、魔術士LV18
ユイナ:弓士LV15
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑された女子少年死刑囚はガイノイドとして冤罪をはらすように命じられた

ジャン・幸田
ミステリー
 身に覚えのない大量殺人によって女子少年死刑囚になった少女・・・  彼女は裁判確定後、強硬な世論の圧力に屈した法務官僚によって死刑が執行された。はずだった・・・  あの世に逝ったと思い目を覚ました彼女は自分の姿に絶句した! ロボットに改造されていた!?  この物語は、謎の組織によって嵌められた少女の冒険談である。

【SF短編集】機械娘たちの憂鬱

ジャン・幸田
SF
 何らかの事情で人間の姿を捨て、ロボットのようにされた女の子の運命を描く作品集。  過去の作品のアーカイブになりますが、新作も追加していきます。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

兄がBLゲームの主人公だったら…どうする?

なみなみ
恋愛
私はどうやら転生したらしい。とはいってもチートな能力も何もない平凡な女子中学生だ。だがしかし。私の記憶が正しければ、転生した私の兄は転生前に私がはまっていたゲームの主人公だ。しかもBL。気がつけば兄と私の周りはイケメンだらけ。どうなる、私の転生生活?! 中学生編がとりあえず完結しました。これ以降は各キャラクターごとに分岐させて、話を進めていく予定です。 各キャラクターごとに別の話だと考えて頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。 BL要素はあまりありません。 すみません! 続きの高校生編は、『兄はBLゲームの主人公……でした』で別に登録させて頂いております。 よろしくお願い致します!

【短編集】恋愛のもつれで物に変えられた男女の運命は!?

ジャン・幸田
恋愛
 短編のうち、なんらかの事情で人形などに変化させられてしまう目に遭遇した者たちの運命とは!?  作品の中にはハッピーエンドになる場合とバットエンドになる場合があります。  人を人形にしたりするなど状態変化する作品に嫌悪感を持つ人は閲覧を回避してください。

巻き添えで召喚された会社員は貰ったスキルで勇者と神に復讐する為に、魔族の中で鍛冶屋として生活すると決めました。

いけお
ファンタジー
お金の執着心だけは人一倍の会社員【越後屋 光圀(えちごや みつくに)】 ある日、隣に居る人が勇者として召喚されてしまうのに巻き込まれ一緒に異世界に召喚されてしまう。 勇者に馬鹿にされた光圀は、貰ったスキルをフル活用して魔族の中で鍛冶屋として自ら作った武器を売りながら勇者を困らせようと決意した!?

誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!? 政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。 十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。 さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。 (───よくも、やってくれたわね?) 親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、 パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。 そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、 (邪魔よっ!) 目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。 しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────…… ★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~ 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。

双子なのに妹はヒロイン!?姉は家政婦(@ ̄□ ̄@;)!!家族の中は格差社会m(。≧Д≦。)mどこにでもカースト制度は存在する(*`Д´)ノ!

音無砂月
恋愛
※アルビノに対する差別言動などが入っています。  苦手な方はご遠慮ください。 内容はちょっと未定です。 アルビノである双子の姉、柚利愛は家族から疎まれ、小学校・中学校時代は虐めを受けていた。 なかなか友達もできず、学校にも家族の中にも居場所のない柚利愛とは違ってアルビノではない双子の妹、由利は家族の愛を一身に受けて育ち、友達も多い。 天然で悪意のない悪意をぶつけてくる由利と悪意のある家族やその他の人達に傷つけられながらも懸命に生きる柚利愛は運命の出会いを果たす。 *一章は重たいです。 二章から明るくなります。 内容的にも軽いものになってくると思います。

処理中です...