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第七話

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 ダンジョンを出たヤマトが周囲に人がいないことを確認して通話をとると、ユイナの声が聞こえてくる。
『ヤマト、ねえヤマト! どこにいるの!? 圏外って言われたんだけど……』
 最初は怒るように、最後は不安そうな声でユイナはヤマトに呼びかけていた。ヤマトは彼女にかなりの心配をかけてしまったようだ。 

「ごめんごめん、ちょっとダンジョンに行ってたんだけど……ほら、デザルガの近くの『ガルバの口』」
『え、ヤマト……いきなりダンジョン挑戦したの?』
 まさかろくにレベルを上げずにダンジョンに行くとは思ってもみなかったようで、心配していたのも吹き飛ぶほど、ユイナは少し呆れるような口調で質問してくる。

「ほ、ほら、前にアシッドスライムの討伐方法発見したじゃない? 行くまでに石をたくさん集めてさ、いやあスキルレベル上げるの大変だったよ!」
 彼女の問い詰めるような顔が目に浮かんだヤマトは言いつくろいつつも明るい口調で少しでも誤魔化そうとしていた。壁に身体を打ち付けたせいで汚れた今のヤマトの姿を見たらきっと泣いていたかもしれない。

『はぁー……まあヤマトだったら大丈夫だろうからいいけどねっ。それでガルバの口はどうだった?』
 とりあえず無事に通話できることに安心したユイナは、機嫌を直したのかダンジョン攻略について質問した。

「そうだねえ、一層のアシッドスライムはゲームの時と同じ方法で倒せたから楽勝だったよ。倒せば倒すほどどんどんレベルが上がるから面白かったね。二層のコボルトもいつもの感じで楽勝だったよ、フレイムソードもGETできたからそこからはスムーズにいけたし」
 思い出しながらヤマトは順を追ってダンジョンについて説明していく。

『あー、石投げね! あれは、うん、あれなら確かに楽勝かも。それで、ボスはどうだった? 蜘蛛はさすがに強かったでしょ?』
 なにげないユイナの質問にヤマトは通話のこちら側で頬を掻いている。これを話したらきっと心配させるだろうと分かっていたからだ。

「あー、あれね。うん、蜘蛛だけど――食われてた」
『……えっ?』
 彼の言っていることがどういうことかわからず、ユイナは首をかしげている。

「ボス部屋に入ったらなんかおかしいなあって思ったんだよね。で、よく見たらなぜかミノタウロスがいて、蜘蛛が食べられちゃってたんだよね、こうバリバリっと」
 ヤマトも話を聞く側だったら信じられないだろうなあと思いながら話をしていた。通話の向こうとはいえ、ユイナがどんな顔をしているか彼には手に取るように分かった。

『ミ、ミノ?』
「そうそう、ミノタウロス。いやあ、さすがにあいつは強かったね。しかもさ、あいつの武器って斧のはずなんだけど、俺に攻撃が当たらないとわかると剣に持ち替えたんだよ!」
 ミノタウロスが出たばかりか、挙動まで違ったということをヤマトは驚きながら伝える。

『ええええぇっ? そ、それはおかしいね……うーん、色々と違いがあるのかなぁ……』
「驚いたけど、なんとか倒すことができて最後にはミノタウロスの持ってた剣もGETできたよ。ミノタウロスソードだってさ。――こんなのなかったよね?」
 確認するようにヤマトが口にした武器の名はユイナも初耳であった。

『へー、そんなのもあるんだあ。こっちは最初に話していたとおり、ルフィナの街の冒険者ギルドで依頼を受けてたんだ。達成すると経験値もらえるから、そのへんはゲームと同じ感じでできるみたい! そうそう、アイテムボックスだけど、こっちの人も知ってるみたいだったよ』
「ほー」
 それなら、ある程度アイテムボックスを表で使っても問題ないかもしれないなと思ったところでヤマトに声をかけるものがいた。

「――お、おい! お前、戻ってきたのか?」
 それは、入り口でヤマトの入場の対応をしてくれた兵士だった。ヤマトが転移した先は、入り口から離れた場所であり、声が聞こえた兵士が心配したのか様子を見に来ていた。

『あっ、誰か来たみたいだね。一回切るね! またあとで!』
 周囲の声が通話を通じて聞こえたらしく、ユイナはヤマトの反応を待たずに通話を切った。

 ユイナの声は指輪を通じないと聞こえないため、何事もなかったようにヤマトは立ち上がって兵士へ笑いかける。
「あなたは入り口にいた兵士さん……無事帰りましたよ!」
 少し土埃で薄汚れながらも無事な様子のヤマトを見て兵士は驚いていた。

「と、とりあえずこっちに来てくれ。疲れただろうから、詰め所で休むといい」
「えっと……はい、ありがとうございます」
 どうしようかとヤマトは一瞬考えるが、兵士の申し出を受け入れることにした。




 小屋に辿りつくと、お茶が出され、テーブルを挟んでヤマトの対面に兵士が座る。
「――それで、どうだったんだ?」
「どう、といわれても……まあなんとか」
 ヤマトはざっくりとした質問を受けたため、困ったような笑みで濁したような返事を返すだけに留まる。

「あ、あぁ、いやすまんな。入り口から出てこなかったということは、ボスを倒して転移してきたんだろ? 見たところ大きな怪我もしていないみたいだが、ボスはどうだった?」
 兵士の質問にヤマトはしばし沈黙する。

 ボス部屋に蜘蛛がいたということは、本来のボスは蜘蛛であるはずであり、あの場所にミノタウロスがいたことは異常なことであるはずだった。
 それを話すか話すまいか、ヤマトは考えていた。

「……ど、どうした? そんなにつらかったのか?」
「いえ、そういうわけではないんですけど……そうですね、ボスは強かったです。事前に聞いていたボスよりも強かったように感じました。初挑戦だったので、聞いた話と照合するしかないんですけど、挑戦する人には注意喚起してもらえるといいかもしれません」
 真剣な表情でヤマトは真実を秘密にしつつ、それでも何かあるぞと知らせることにした。

 さすがにミノタウロスまで倒したことが明るみに出るのは今の段階では避けておきたいことだった。冒険者登録もしていない、装備も整っていない彼が明らかに中ランク以上の冒険者が倒すようなモンスターを相手にしたというのは異常だと思われるとヤマトは判断した。

「ふーむ、なるほどな。危険だと伝えることはできないが、いつもより気をつけたほうがいいかもしれないとは伝えるようにしよう。それで賭けのほうなんだが……」
 これが本題であったらしく、兵士はヤマトから受け取った金貨の袋をすっと取り出す。

「無事戻って来たからにはこれを返さないとな。それと、俺の短剣もお前にやろう」
 差し出された短剣を見て、その賭け自体が中に入るための方便だったため、ヤマトはそんなやりとりをしたことをすっかり忘れていた。

「あぁ、そういえばそんなことも……うーん、短剣はもらいます。でも、お金は受け取って下さい、そのお金で新しい短剣を買ってもらえれば――それと、今後このダンジョンに挑戦する人がいたらさっきの注意をお願いします。その料金替わりってことで」
 少し悩んだのち、笑顔でヤマトは短剣を手にして、金貨の入った袋はそのまま兵士に押し返した。

「そ、そうか? 悪いな、その短剣も普通の短剣だから明らかに俺のほうが得をしてるんだが……まあ、注意のことは相方にも伝えておくよ」
 申し訳なさそうに笑った兵士のその返事を聞いてヤマトは爽やかな笑顔で頷いた。

「それじゃあ、お茶ご馳走さまでした。俺は街に戻りますね」
 ヤマトは立ち上がって会釈をすると、街へと戻っていった。





ヤマト:剣士LV19
ユイナ:弓士LV8

短剣
 一般的な短剣
 安価で購入することができるため、一つ買っておくと便利に使える
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