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第三十七話 バーデルの質問
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走り出したガレオスは戦火が集中していると思われる場所へと一直線で向かっていく。
「おおおおおおおぉ!」
大声をあげて向かってくる彼に何事かと両陣営が注目する。
その注意が集まっている隙に、リョウカとフランは修道院へと向かった。
「さて、俺はガレオスさんからは外れた場所から崩していくか。しかし、あの人たちも人がいいよな」
首輪をしているとはいえ、バーデルに自由行動を許す三人に対して彼は自然と笑みがこぼれていた。
「信頼なのか、首輪の効力を信じてるのかはわからないが……信じてもらえるだけの働きをするか」
気を引き締めたバーデルは魔力を練りながら魔法王国陣営に向かっていく。ここへ来るまでに彼は既に八大魔導の証であるマントを外し、自身の魔法で燃やしていた。それは彼の決意の表れのようなものだった。
「俺の敵はどいつだ!」
綿密に練られた魔力片手に彼もガレオスほどではないが、覇気をむき出しにして注意を集めていく。
「え、ええい、怯むな! 一人二人増援が来たところで状況は変わらん! 押しつぶせ!」
異様な強さを二人の姿に感じ取った魔法王国の指揮官が動揺する兵士たちに怒鳴り声をあげる。それは己の陣営の不利を信じたくない一心だった。
「い、いくぞおおおお!」
その指示を聞いた兵士たちは上司を信じて自らを鼓舞し、それぞれ修道騎士、ガレオス、バーデルに向かっていく。
修道騎士と魔法王国兵士の戦力差は一目瞭然で、当初、魔法王国側が圧倒していた。しかし、それもガレオスとバーデルの各敵対戦力とぶつかったところから徐々に瓦解していく。
「修道院は落とさせない! 立ち向かう気概のあるやつらはかかってこい!」
ガレオスの気迫に兵士たちは気圧されるが、後方からくる指揮官の怒声に押しとどめられ、なんとかガレオスへと立ち向かっていく。
「そうこなくてはな」
にやりと笑うと、ガレオスは両の手に握られた刀を振るっていく。普通の武器では魔法を両断することは難しいが、ガレオスの刀たちはそれをいとも簡単に行うため、攻撃の通用しない相手を目の前に兵士たちは困惑する。
「や、やつは一体何者なんだ!?」
疑問を口にした者も、次の瞬間にはガレオスの手によって事切れた。それを皮切りに次々に兵士は斬り伏せられていく。もちろん今回も近接魔法が得意な者や、剣に自信のある者もいたが、所詮は魔法兵士の中ではというレベルであり、ガレオスに比肩する者はいなかった。
「もっと強さを見せてくれ、よっと!」
ガレオスは二刀を刀としてだけでなく、本来持っている炎と風の力を引き出して遠距離にいる兵士も巻き込んでいく。その様はさながら暴風雨のようでもあり、兵士たちはなすすべなく次々と倒れていった。
戦況は彼らが飛び込んで来た中央から崩れていき、その動揺は前線や後列にも伝わっていく。全体の状況が見えていない司令官はただ倒せ、進め、引くなと怒鳴り散らすことしかできておらず、全く改善されない状況を見て、次第に焦りを募らせていた。
「くそっ、一体何が起こっているんだ!」
「よう、大変そうだな」
「!?」
焦りから悔しげに拳を握った司令官はここにいるはずのないバーデルに声をかけられ、声が出ないほど驚いていた。
「ははっ、面白い顔だな。それで、これは誰の指示でやってるんだ?」
八大魔導として名の知られたバーデルの顔を知っていた指揮官はなぜここにいるのかわからず、目を白黒させていた。
「おいおい、驚きすぎだろ。まあ、いいから俺の質問に答えてくれ」
自身の質問に答えずに驚いている指揮官に対して呆れたように肩を竦めたバーデルは答えを催促する。
「は、はい! 今回の指示はバーデル様と同じく、八大魔導のフリオン様です」
司令官としての自分よりも圧倒的に立場が上の彼に催促されれば答えないわけにはいかない。慌てたように言葉を発した司令官を横目にバーデルはその名を聞いて顔をしかめた。
八大魔導序列六位『大地』のフリオン。
「あいつが……こいつはやっかいだな」
フリオンはバーデルが会ったことのある八大魔導の一人だった。二つ名のとおり大地を操る能力を持つフリオンは細身の女性で一見強そうには見えないが、魔力量ではバーデルをも超えており、その苛烈な性格には周囲のものも手を焼いていた。
「あ、あの、何か問題でも?」
バーデルの現在の立場を知らない指揮官は、恐る恐るといった様子で彼にお伺いをたてる。
「ん? あぁ、いや、それよりフリオンはここには来ていないのか?」
彼女がいたら、既に決着はついていたであろうと予想できるが、念のため確認をとる。
「はい、まずは我々が先行してフリオン様はあとから来るとのことです」
八大魔導の機嫌を損ねたくない指揮官はフリオンの話を思い出しながら即座に答えた。
「そうか、なら今がチャンスか……ありがとうな。お礼に苦しまないように死なせてやるよ。“逆巻く炎”!」
「はっ?」
バーデルが何を言っているのか理解できないまま、彼は炎の渦に飲み込まれていった。この魔法は術者を中心に炎を渦を生み出して周囲にいる者を飲み込んでいくものだった。
その威力は絶大で、彼を中心とした半径数十メートルは灰燼と化した。
「ふむ、これでだいぶ削れただろ」
単独戦闘が多い八大魔導ならではの魔法だったが、近くの兵士を薙ぎはらい、周囲の兵士の動揺を誘うのに十分なものだった。
「なかなかやるな。しかし、少し前まで仲間だったやつらを敵に回して心は痛まないのか?」
「今更何を言ってる……俺はこいつらには思い入れはない、そもそも他国の人間だしな。今の俺の主人はあんたたちなんだから、あんたたちが肩入れする者たちに敵対するものは誰であれ、俺が倒すべき相手だ」
その隙に背後にきたガレオスの問いにバーデルは思ったままを答えた。それはガレオスの表情を晴れやかな笑顔に変えていた。
「お前なかなかいいな。やっぱり俺の目に狂いはなかったみたいだ」
背中合わせに会話をしていると、徐々に兵士たちが集まってきていた。それは遠巻きであり、どうやら遠距離魔法で攻撃をするつもりのようだった。
「は、八大魔導っていったって、序列八位だ! みんなで攻撃すれば倒せるぞ!!」
囲んだ兵士の中でも階級が高いものがそう声をかけて、魔法を一斉に発動させる。一人の力が通用しないならと数で押す作戦に変えたようで、兵士たちの頭上には大勢で練り上げた魔法が発動の時を待っていた。
「あんなこと言われているがいいのか?」
この状況になってもガレオスは慌てる様子はなかった。
「あー、まあいいんじゃないか? 序列が一番低かったのは本当のことだからな……倒せるってところは間違っているが」
対するバーデルもガレオスと戦った時のように怒る様子はなく、頭を掻きながらその言葉を甘んじて受け入れていた。
「そうか、だったらその力見せてやろう」
ガレオスはそう言うと兵士の合図とともに放たれた魔法に向かって飛び出していく。その背を見つめながらバーデルはその場で足を止めて魔法を受け止めるつもりだった。
二人が魔法に飲み込まれたのを確認すると、兵士たちからは歓声があがっていた。
「おおおおおおおぉ!」
大声をあげて向かってくる彼に何事かと両陣営が注目する。
その注意が集まっている隙に、リョウカとフランは修道院へと向かった。
「さて、俺はガレオスさんからは外れた場所から崩していくか。しかし、あの人たちも人がいいよな」
首輪をしているとはいえ、バーデルに自由行動を許す三人に対して彼は自然と笑みがこぼれていた。
「信頼なのか、首輪の効力を信じてるのかはわからないが……信じてもらえるだけの働きをするか」
気を引き締めたバーデルは魔力を練りながら魔法王国陣営に向かっていく。ここへ来るまでに彼は既に八大魔導の証であるマントを外し、自身の魔法で燃やしていた。それは彼の決意の表れのようなものだった。
「俺の敵はどいつだ!」
綿密に練られた魔力片手に彼もガレオスほどではないが、覇気をむき出しにして注意を集めていく。
「え、ええい、怯むな! 一人二人増援が来たところで状況は変わらん! 押しつぶせ!」
異様な強さを二人の姿に感じ取った魔法王国の指揮官が動揺する兵士たちに怒鳴り声をあげる。それは己の陣営の不利を信じたくない一心だった。
「い、いくぞおおおお!」
その指示を聞いた兵士たちは上司を信じて自らを鼓舞し、それぞれ修道騎士、ガレオス、バーデルに向かっていく。
修道騎士と魔法王国兵士の戦力差は一目瞭然で、当初、魔法王国側が圧倒していた。しかし、それもガレオスとバーデルの各敵対戦力とぶつかったところから徐々に瓦解していく。
「修道院は落とさせない! 立ち向かう気概のあるやつらはかかってこい!」
ガレオスの気迫に兵士たちは気圧されるが、後方からくる指揮官の怒声に押しとどめられ、なんとかガレオスへと立ち向かっていく。
「そうこなくてはな」
にやりと笑うと、ガレオスは両の手に握られた刀を振るっていく。普通の武器では魔法を両断することは難しいが、ガレオスの刀たちはそれをいとも簡単に行うため、攻撃の通用しない相手を目の前に兵士たちは困惑する。
「や、やつは一体何者なんだ!?」
疑問を口にした者も、次の瞬間にはガレオスの手によって事切れた。それを皮切りに次々に兵士は斬り伏せられていく。もちろん今回も近接魔法が得意な者や、剣に自信のある者もいたが、所詮は魔法兵士の中ではというレベルであり、ガレオスに比肩する者はいなかった。
「もっと強さを見せてくれ、よっと!」
ガレオスは二刀を刀としてだけでなく、本来持っている炎と風の力を引き出して遠距離にいる兵士も巻き込んでいく。その様はさながら暴風雨のようでもあり、兵士たちはなすすべなく次々と倒れていった。
戦況は彼らが飛び込んで来た中央から崩れていき、その動揺は前線や後列にも伝わっていく。全体の状況が見えていない司令官はただ倒せ、進め、引くなと怒鳴り散らすことしかできておらず、全く改善されない状況を見て、次第に焦りを募らせていた。
「くそっ、一体何が起こっているんだ!」
「よう、大変そうだな」
「!?」
焦りから悔しげに拳を握った司令官はここにいるはずのないバーデルに声をかけられ、声が出ないほど驚いていた。
「ははっ、面白い顔だな。それで、これは誰の指示でやってるんだ?」
八大魔導として名の知られたバーデルの顔を知っていた指揮官はなぜここにいるのかわからず、目を白黒させていた。
「おいおい、驚きすぎだろ。まあ、いいから俺の質問に答えてくれ」
自身の質問に答えずに驚いている指揮官に対して呆れたように肩を竦めたバーデルは答えを催促する。
「は、はい! 今回の指示はバーデル様と同じく、八大魔導のフリオン様です」
司令官としての自分よりも圧倒的に立場が上の彼に催促されれば答えないわけにはいかない。慌てたように言葉を発した司令官を横目にバーデルはその名を聞いて顔をしかめた。
八大魔導序列六位『大地』のフリオン。
「あいつが……こいつはやっかいだな」
フリオンはバーデルが会ったことのある八大魔導の一人だった。二つ名のとおり大地を操る能力を持つフリオンは細身の女性で一見強そうには見えないが、魔力量ではバーデルをも超えており、その苛烈な性格には周囲のものも手を焼いていた。
「あ、あの、何か問題でも?」
バーデルの現在の立場を知らない指揮官は、恐る恐るといった様子で彼にお伺いをたてる。
「ん? あぁ、いや、それよりフリオンはここには来ていないのか?」
彼女がいたら、既に決着はついていたであろうと予想できるが、念のため確認をとる。
「はい、まずは我々が先行してフリオン様はあとから来るとのことです」
八大魔導の機嫌を損ねたくない指揮官はフリオンの話を思い出しながら即座に答えた。
「そうか、なら今がチャンスか……ありがとうな。お礼に苦しまないように死なせてやるよ。“逆巻く炎”!」
「はっ?」
バーデルが何を言っているのか理解できないまま、彼は炎の渦に飲み込まれていった。この魔法は術者を中心に炎を渦を生み出して周囲にいる者を飲み込んでいくものだった。
その威力は絶大で、彼を中心とした半径数十メートルは灰燼と化した。
「ふむ、これでだいぶ削れただろ」
単独戦闘が多い八大魔導ならではの魔法だったが、近くの兵士を薙ぎはらい、周囲の兵士の動揺を誘うのに十分なものだった。
「なかなかやるな。しかし、少し前まで仲間だったやつらを敵に回して心は痛まないのか?」
「今更何を言ってる……俺はこいつらには思い入れはない、そもそも他国の人間だしな。今の俺の主人はあんたたちなんだから、あんたたちが肩入れする者たちに敵対するものは誰であれ、俺が倒すべき相手だ」
その隙に背後にきたガレオスの問いにバーデルは思ったままを答えた。それはガレオスの表情を晴れやかな笑顔に変えていた。
「お前なかなかいいな。やっぱり俺の目に狂いはなかったみたいだ」
背中合わせに会話をしていると、徐々に兵士たちが集まってきていた。それは遠巻きであり、どうやら遠距離魔法で攻撃をするつもりのようだった。
「は、八大魔導っていったって、序列八位だ! みんなで攻撃すれば倒せるぞ!!」
囲んだ兵士の中でも階級が高いものがそう声をかけて、魔法を一斉に発動させる。一人の力が通用しないならと数で押す作戦に変えたようで、兵士たちの頭上には大勢で練り上げた魔法が発動の時を待っていた。
「あんなこと言われているがいいのか?」
この状況になってもガレオスは慌てる様子はなかった。
「あー、まあいいんじゃないか? 序列が一番低かったのは本当のことだからな……倒せるってところは間違っているが」
対するバーデルもガレオスと戦った時のように怒る様子はなく、頭を掻きながらその言葉を甘んじて受け入れていた。
「そうか、だったらその力見せてやろう」
ガレオスはそう言うと兵士の合図とともに放たれた魔法に向かって飛び出していく。その背を見つめながらバーデルはその場で足を止めて魔法を受け止めるつもりだった。
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