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第六話 捜索隊長交代

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 駆け出したゴールは隣で武器を構えるフラックに質問する。
「それなりにはですね、ただ……これほどの数のモンスターを相手にするのは初めてなので少し自信はないかもしれないですね」
 不安をごまかすように軽口を言うが、その彼の表情は真剣なものだった。普段のふにゃっとした表情も今は引き締まっている。
「そっちの二人はどうだ?」

 ゴールに話を振られたのは隊長に命じられて駆け付けた騎士二人だったが、目の前にいるモンスターの数に顔から血の気が失せていた。
「返事も難しいか……だったら、なんとしても自分の身は守れ。モンスターは俺とフラックでなんとかする!」
 大きなその言葉は騎士たちにとって非常に頼もしく感じられ、二人の表情に生気が戻っていく。
「どうした、返事をしろ!」
 さらに二人に気合を入れるようにゴールが呼びかける。

「「は、はい!」」
 威勢のいい二人の返事を聞いたゴールは、今度は副長へと視線を移す。
「さあ行くぞ、あんたもやばそうだったら下がっていいからな」
 その言葉が合図となり、ゴールはたどり着いた広場にいる大勢のモンスターの群れに飛び込んで行った。
「お、おい、そんな中心に飛び込まなくても」
 外側の敵から順番に倒そうと考えていたフラックの考えとは全く違う展開に戸惑い、彼は最初の一歩が遅れることになった。

 しかしそれを気にも留めず、ゴールは一人で修羅のごとき戦い振りを見せていた。
「うおおおおおおおお!!」
 大剣がひと振りされるごとに、数体のモンスターが真っ二つにされ、そのままの勢いで壁に叩きつけられていく。その勢いに巻き込まれたモンスターが一緒にたたきつけられ、大剣が振り下ろされた先は一筋の道ができていた。
「ぬおおおおお!!」
 ゴールの攻撃はシンプルで、振り回された大剣によってモンスターを次々に粉砕していく。

「な、なんなんだあれは……」
 戦う覚悟をしていた副長と騎士二人だったが、ゴールの戦い振りを見て、広場の入り口でそれぞれ剣を構えたまま動けずにいた。
「ふ、副長殿。あの方は一体……」
 それに返す言葉をフラックは持ち合わせていなかった。しかし自分以上に驚いている者を見たため、少しずつ冷静さを取り戻していく。
「み、見惚れている場合じゃない。僕たちもいくぞ!」
 彼ばかりにやらせるわけにはいかないというフラックの掛け声ではっとなり、騎士二人も副長に続いてモンスターに攻撃を始めていく。

「お、あいつらも動いたな。俺も負けていられんな、ぐおおおおお!!」
 騎士たちの戦いを見て、ゴールは更に奮起して攻撃を繰り出していく。通常であれば、時間経過と共に武器の切れ味が鈍ったり、動きの精細さが見られなくなるものだったが彼は逆にどんどんその動きがよくなっていく。武器も同様で切れ味を増しているように見えた。
「こんなに暴れたのは久しぶりだ、いくぞおおおおおおお!」
 既に周囲のモンスターはその数を半分以下に減らしていた。

「あ、あの副長。失礼かもしれませんが、あの方は本当に人間なのでしょうか?」
 そう聞かれたフラックは眉をひそめて、的確な返答ができずにいる。
「うーん、いや、人間なんだろうけど……規格外というか、なんかすごいですね」
 彼らも戦闘中だったが、ほとんどのモンスターがゴールに集中していため、話すくらいの余裕を持って戦うことができていた。
「うおおおおおお!!」
 振り回す大剣に次々と倒されていくモンスター。その数も残り五十を切っていた。そのモンスターたちがすべて倒されるのも今や時間の問題であった。
「……なんか私たちの出番はほとんどなかったですね」
「あ、あぁ」
 ゴールの戦い振りを見て、安全を確保した三人は呆然としてそれを見ていた。

「これで……最後だ!!」
 ゴールの掛け声とともに、広場にいたモンスターは一掃されることとなった。
「ふむ、こんなものだな……あんたちもご苦労さんだったな」
 敵を一掃したことを確認した彼は懐から出した用紙で大剣を拭きながら戻って来た。
「いや、いやいや、僕らなんて何にもしてないくらいだよ! 君すごいね!」
 副長はゴールの強さに驚き、感動し、どこか誇らしくあるため、興奮のまま背中を何度もたたいた。
「あいたたた」
 しかしダメージを受けたのは副長のほうであった。

「む、すまんな。それよりも先に進もう」
 確かに魔物の群れは脅威だったが、わざわざここに調べに来るほどの価値があるのかどうかそれすらも怪しかった。しかしそれは同時に、これから先に何かあるかもしれないという予感をにおわせている。
「お、おい、貴様が仕切るな! 隊長は私だぞ!!」
 今まで隠れていた捜索隊長が現れ、ゴールが次の行動を決めていたことに憤慨していた。

 その様子を見て、フラックはどこか諦めた表情で口を開いた。
「あの、隊長。我慢しようかとも思っていましたが、もう駄目です。僕に隊長権を返してもらいます」
 隊長、いや元隊長は目と口を開いて驚いていた。副長こと新隊長は既に元隊長に見切りをつけていた。
「そ、そんな」
 何とか撤回してもらおうと考えるが、フラックの表情は普段のほにゃりとしたものではなく非常に厳しいものであった。コネだけでここまでやってきた元隊長に打つ手はなく、仕方なく諦めるしかなかった。
「ふむ、それでそろそろ進んでもいいか?」
 ゴールは階級の話に興味がなく、先のことが気になっている様子だった。

「えぇ、構いません。あなたがこの場で一番実力があるみたいですし、ゴールさんの指示を聞くことにしましょう」
「なっ! なんてことを……」
 フラックは元隊長の抗議の言葉を睨み付けて黙らせた。
「ひっ!」
「彼のことは気にしないでくれ」

 にっこりとした笑顔でそう告げた彼にゴールは新隊長の指示に頷いて進むことにした。
 進む道中にはまたモンスターがいたが、ゴールの攻撃によってそれらはことごとく倒されていく。
「これは、臭うな」
「えぇ、大当たりかもしれないですね」
 ゴールとフラックがそう言いあうが、他の面々はなんのことか分かっていない様子だった。

 先に進めば進むほどに敵の強さがあがっていた。だがそれをゴールがあっという間に倒してしまうため、それはわかりづらかったが確実なものだった。そしてゴールとフラックはそれを如実に感じ取っている。
 通路を進んで行くとやがて天井の高い大きな広場へとたどり着いた。
「これは正解らしいな」
「えぇ」
 一行の眼前にいたのは、そこらへんのモンスターに比べて非常に巨大なゴーレムだった。ゴールが街で倒したものは数メートルの大きさだったが、目の前にいるそいつらは、明らかに十メートルを超えている。それが一体、そして街に現れたのと同種のゴーレムが二体いた。

「よく、洞窟の中にこんなスペースがあったもんだな」
 ゴールはその空間の広さに驚いていた。洞窟の入り口の高さをはるかに超える天井の高さであり、ゴーレムが三体動き回っても問題ないほどの広さがとられていた。
「俺があのデカブツの相手をしよう。あんたたちは、二手に分かれて小さい二体を頼む」
「僕が一体相手をする。君たちは二人で一体を!」
 ゴールとフラックの指示によって、三手に分かれての戦闘が今始まった。
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