記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく

かたなかじ

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第十話

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 成り行き上、獣人の子どもたちに魔術を教えることになった優吾だったが、魔術を広めることは前世でもやろうと思っていたことであったため、さほど悩まずに決断していた。

「じゃあ、自己紹介しますね。僕はビーア、熊の獣人です。よろしくお願いします」
「俺はワルファ、狼の獣人だ。よろしくな!」
「僕は猫の獣人のカッツです。よろしく」
 子どもたちはそれぞれの名前と種族を順番に述べていく。

「ビーアにワルファにカッツだね。俺は人族の優吾。君たちに魔術を教えることになるけど、俺にも生活があるから一から十まで全部教えることはできない。だから、基礎的なことを伝えるからそれを各自が人に見られない場所で練習するように」
 優しく言い聞かせるような優吾の言葉に子どもたちは素直に頷く。

「じゃあ、まずは魔力の練り方についてだね。――君たちは自分の中の魔力を感じたことはあるかい?」
 優吾からの問いに三人は首を横に振っていた。

「なら、そこからだね。今から順番に君たちの中に俺の魔力を注入する……といっても少量だから安心してほしい。それが起爆剤になって君たちの身体に眠っている魔力を呼び覚ますはずだよ」
 この手順は通常、魔法を習得する場合では絶対にありえない手順だった。そもそも魔法というものは元々才能があるものしか使えないという理解になっているためである。

「いくよ」
 優吾はビーア、ワルファ、カッツの順番に魔力を流し込んでいく。

「わ、わわわ、なんだこれ!」
「なんか変な感じがする!」
「うーん、でも温かいような気もするね」
 これは流しこまれた順番の反応だった。自分の中に直接不思議な感覚が流れ込んできたことで驚きと困惑に包まれているようだった。

「まずは、俺が流した魔力を常に意識しておくんだ。それが身体になじんだら次は君たちの魔力を呼び覚ますことになる。それがこれからすぐなのか、家に帰ってからなのか、寝て起きてからなのか、寝てる間なのかはそれぞれ異なるからね。まずは魔力が目覚めてからかな」
 優吾は今日の指導はここまでだと立ち上がる。軽く服に着いた草を叩いて払っている。

「……えっ、終わり?」
 あまりにあっけないため、ワルファが驚いて優吾に聞くが、彼はポンッとワルファの頭に手を置いた。
「今はそう思うかもしれないけど、帰ったらわかるはずさ……かなりきついよ。まあ、ゆっくりとやっていこう。明日元気だったら同じくらいの時間にここに集まって。それじゃあね」

 あっさりと終わってしまったことに呆然とする三人を残して楽しげに笑った優吾は森の中へと戻って行った。

 その日、三人は夜中ほぼ同時に魔力が覚醒し、結局その感覚のせいで朝まで寝られずに苦しむこととなり、優吾の言葉が正しかったことをそれぞれ身をもって実感することになる。





翌朝

 子どもたちのことを心配しつつも、優吾は朝からポーション作りにいそしむことにする。
「さて、必要な材料も一通りそろってるから作り始めるかな」

 早朝であり、まだ日が昇ったばかりだったが、優吾はひんやりとした空気が漂う外で材料の下準備を始めていた。
 細かい道具類などは錬金術師の店で購入しており、それでも足りない場合は木を魔術で加工して作り出した。

「まずは、これとこれをすりつぶしてっと」
 作業台も作っておいたため、その上で材料の加工を始めていく。その際にも魔術を使って、効率化を図っていた。

「次は蒸留水が必要だったな。魔術で出せばいいか」
 魔法と違い、魔術は汎用性に富んでおり、少しずつ感覚を取り戻した手つきのおかげもあって作業はどんどん進んでいく。

「次にこれを全部鍋にぶち込んでっと」
 材料が入って火にかけられた鍋の中身は匙でかき回すと次第に緑色になり、ぐつぐつと煮えていく。
「あとは、水分を足しながら煮込めば完了だな……」
 想像通りにできていく中身に満足したように頷いた優吾は日用品で足りないものを片手間でいくつか作りながら、鍋に随時水を足していく。




 そんなこんなで一時間ほど経過したところで鍋の中身を覗く。
「うん、確かこんな色だったな」
 匙で掬うと濃い緑色をしており、お世辞にも強力なポーションには見えなかったが、優吾はそれを布に乗せて水分だけを別の鍋に分けていく。

「うん、これで大丈夫だな。効果も……ちゃんとポーションになってる。あとは、これに加水して薄めれば完了だね」
 鑑定魔術をかけて確認しつつ、さらに水分を加え、程よいところで店で買った小瓶にわけていく。
 優吾が作ったそのままを使ってしまっては強力すぎるため、あえて薄めることでそれをごまかしていた。

「今日はこれを売りに行って、帰りに彼らの修行ってところかな」
 予定を決めると優吾はできあがったポーションに蓋をしてカバンにつめ、出かける準備を始めた。





 街に辿りついた優吾は真っすぐ錬金術師キセラの店を目指す。
 扉を開けて中に入ると今日もキセラがカウンターの向こうで店番をしていた。

「はい、いらっしゃい。おや、あんた今日も来たのかい。今日も買い物?」
「いや、今日はこれを買い取ってもらいたくてきました」
 緩く首を横に振った優吾はカウンターの上に取り出したポーションを乗せる。

「どれどれ」
 早速作ってきたんだろうとキセラはそれを手にとって鑑定していく。
「これは蓋をあけて中を見てもいいかい?」
「もちろん」
 にっこりとほほ笑む優吾の返事を受けたキセラは蓋をあけて、一滴指の先に垂らす。

「ふむ、綺麗だね。効果のほうは……――これは!」
 簡易的なものではあったが、鑑定能力を持っているキセラは優吾のポーションの効果に大きく目を見開いて驚く。

「――あんた、これを一体どこで手に入れたんだい?」
「えーっと、自分が作ってきたんですけど何かまずかったですか?」
 あまりに鋭いキセラの目線に、薄めたのがまずかったのか、昔の作り方だったのがまずかったのかと内心ドキドキしながら優吾は返事を返した。

「いいや、これはすごくいいものだよ。これならあたしが作ったものよりも高い値段をつけられるさ! ……しかし、これをあんたがねえ……人は見かけによらないもんだね。他にも在庫はあるのかい? 良ければ全部買い取らせてもらうよっ」
 キセラが思っていた以上に食いついてきたため、優吾は戸惑いつつも作ってきたポーションを全て取り出した。

「こんなに! これだけのものをこれだけの数一晩で作ってくるなんてあんた一体……いや、詮索は野暮だね。とりあえずあんたが持ってきたポーション十五本全て買い取らせてもらうよ。銀貨十五枚でどうだい?」
 優吾は適正な価格なのかわからなかったが、全ての在庫が一掃できるので、ただただ頷いた。実際には通常のポーションよりもかなり高い値段での買取だったため、知らず知らずのうちに優吾は大儲けしていた。

 その金で再び瓶や材料を購入していく。
「また持ってきてくれたら買い取るよ」
 いいものを手に入れてホクホク顔のキセラは優吾が持ってきたポーションに商機を見出していた。
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