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第八話

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 店を出て、フラミーと別れるとリュウとガトは町の外へと向かって行く。

 二人の間に会話はなかったが、二人とも何者かの気配に気づいており、同じく相手がそれに気づいていることもわかっていた。


 しばらく無言で進む二人は、街から距離をとったところで振り返った。

「――おい、ついてきてるのはわかってるから出て来いよ」

 一見しては誰もいないように見えたが、木陰から人が数人出てくる。


「お前たちは……誰だ?」

 訝しげに相手の顔を見るリュウは一瞬見覚えがある気がしたが、やはり誰だかわからなかった。

「くそっ! 街でお前たちに絡まれた冒険者だ!」

 覚えられていないことに苛立った先頭の男がリュウのことを怒鳴りつける。


「頭領、フラミーさんに絡んでいた冒険者にゃ」

 こそっとガトに耳打ちされて、そこでようやくリュウは思い出した。

「そういえば、そんなやつらもいたな。……それで、その冒険者がなんのようだ?」

 名前がわからないため、リュウはとりあえず相手が名乗ったとおり、冒険者と呼ぶことにした。


「くそっ、舐めやがって! おい、お前たち出てこい!」

 舌打ち交じりの男の合図で後方からぞろぞろと人相の悪い男たちが集まってきた。


「ふむ、これはもしかしてそういうことか?」

「だにゃ、まあ本来にゃらフラミーさんから金や装備を奪えていたところを、我々に邪魔をされたからその報復といったとこにゃ」

 だがリュウたちは焦った様子がなく、まるでちょっとした雑談をしているかのような雰囲気だった。


「ふざけやがってえええええ! やっちまええええ!」

 男の仲間はこんな優男と猫に何を息巻いているんだ? と疑問に思いつつも武器を手にしてリュウたちを囲んだ。


「――なぁ、こういう場合ってどうしたらいいんだ?」

 男たちへの対処をどうするのが正解なのか、それをガトに尋ねる。お尋ね者になりたくはないからだ。

「そうだにゃあ……恐らくにゃけど、殺してしまっても問題はないと思うにゃ。正当防衛だし、この世界の倫理的に命を守るためにゃらやっても恐らく大丈夫にゃ」

 そら恐ろしいことをガトはさらっと言うが、確かにそれがこの世界での当たり前だった。


「ふむ、殺さない場合はどうなる?」

 地球でも忍の仕事で人を殺すことがあったリュウは、自らの身を守るために殺すことは別段抵抗はなかったが、他の方法もあるのかと確認する。


「そうですにゃ、ちょっと人数が多いけど捕まえて警備隊に突き出すとおいう方法があるにゃ。その場合、こいつらが犯罪者だった場合は報酬をもらえることもあるにゃ」

 リュウにしてみれば殺すのは簡単だった。強力な忍術で圧倒すればいい。

 しかし、プライドを守るために仕返しにやってきた者たちを、それくらいのことで殺すのはさすがに忍びないと思えてもいた。


「よし、だったら捕まえるぞ。ガト一緒にやるぞ、ダメージは与えてもいい――だが殺さずに拿捕だ」

「はいにゃ!」

 二人は同時に印を結んでいた。何を使うか口にしていなくても、示し合わせたかのようにその忍術を選択する。


「「分身の術!」」

 相手の数は十七人、ガトの分身の数は五、そしてリュウの分身は十。あっという間に分身の数が増え、男たちは戸惑っている間に腹を、首を、顎を打たれ、バタバタと気絶していった。


 リュウの分身の術の最大に人数は十をはるかに超えていたが、ここではあえてそこで止めて男たちを二人だけ残す形にする。


「お、お前ら、なんだその技は!?」

「こいつらが一瞬でやられただと!?」

 残った二人は目の前で繰り広げられたことを心の中では信じられずにいた。しかし、それでもリュウとガトに対していつでも対応できる姿勢と意識は保ったままでいた。


「残ったのはお前たち二人だが、どうする? まだやるか?」

 すっと目を細めたリュウが二人を残した理由の一つはこうやって最後の決断を下す役目を負わせるため。

「くっ、ど、どうする?」

「ここまでやられて、このままってわけにもいかないだろ!」

 時間の猶予が与えられたことで男たちは相談していた。彼らはとあるクラン――いわゆる冒険者の集団に所属していた。


「あんたたちの実力なら、俺たちと戦って無事にすまないことはわかっているだろ?」

 彼らを残した二つ目の理由――それはぱっと見ただけでリュウは二人の実力が他の男たちと比較して抜きんでていることを感じ取ったためだった。


「お、おい、あんたたちならやれるだろ? なんたってBランク冒険者なんだからよう!」

 そもそもの戦いの発端となった男が後ろの木陰から残った二人に懇願するように声をかける。既に倒れている男たちの冒険者ランクはDランク、よくてCがいるかくらいだった。


 しかし、残された二人のランクはB。他の男たちと比較して多くの経験を積み、何が危険で何が大丈夫なのかという危機察知能力も高くなっていた。それもランクを上げるために必要なものだからだ。

「……だけど、引けないな」

「……あぁ、仲間をやられたわけだからな」

 力の差を感じつつも、理由はどうあれ、自分の仲間が目の前でやられてそれをみすみす放っておくことはできない。


 それが彼らなりの仲間意識だった。決意を秘めたように二人が武器を構えて飛びかかって来る。

「あんたたちの決断はそうなったのか。戦わずに済めばと思ったんだが……仕方ない、行くぞ!」

 掛け声はガトに向けたもの。二人がそれぞれ一人ずつBランク男の相手をする。


 相手が来る速さ以上にリュウは素早い動きで男の一人に迫っていく。

「突進か!」

 そして、そのまま突っ込んでいく――と見せかけて、目の前で瞬時に移動して後ろに回る。

「悪いな」

 ぼそりとつぶやいて手刀を首に撃ち込もうとする。


「甘い!」

 しかし、それは男がかがんだことで避けられてしまう。Bランクと言われるだけあり、リュウの一撃をかわした男はかがんだ姿勢のままくるりと振り返りざまに剣でリュウを斬りはらった。
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