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第七話
しおりを挟む「あぁ、さっきの……」
まだいたんだ――リュウはそう思うと露骨に面倒そうな表情になる。
「そ、そんな顔しないでよ……助けてもらったお礼をしたいだけなんだから」
どうやらリュウたちを待っていたことに裏はなく、単純に礼をしたいだけだと彼女は不機嫌そうに唇を尖らせている。
「いや、礼なら別に気にしないでくれ」
遠慮するリュウに対して、彼女は納得いかない表情だった。去ろうとするリュウの前に腰に手をあて立ちふさがる。
「ダメです! あのままだったらどうなっていたことか……どうか、ちゃんとお礼をさせて下さい! お願いします!!」
彼女にとって先ほどのことは、最初にとってしまった態度を含めてキチンとしておきたいことだった。
「ふぅ、わかったよ。それじゃあ……俺たちはこの街に来たばかりだから、どこか美味しい店でも紹介してくれると助かる」
ため息交じりにリュウは無難なものの中で、彼女に大きな負担とならず、かつ自分たちにとって助かることを提案した。
「わかったわ、美味しい店を知ってるから行きましょ!」
リュウが礼を受け入れてくれることに喜んだ女性剣士は強引に手を引っ張りながらギルドを出て、行きつけの店へと向かって行く。
女性剣士が案内した店の料理は彼女が美味しいというだけあり、リュウとガトもなるほどと舌鼓を打っていた。
「えへへー、美味しいでしょ! いつも通ってるんだからね……そんなことより改めて、ありがとうございましたっ」
ひとしきり食べた彼女は食事の手をとめ、改まると深々と頭を下げる。
「あぁ、気にしないでくれ。あの時も言ったが、俺たちが勝手にあいつらの相手をしただけのことだからな」
そんな彼女を横目にリュウは果物の乗ったパンケーキを食べながら返事をする。ガトは器用にフルーツサンドを食べている。
「それも、私が変な意地を張ったからでしょ! ……っていけないいけない、恩人を怒鳴っちゃだめね。とにかく、あなたがなんと言おうと私が助けてもらったことは事実だから、ありがとうございます」
彼女は一瞬興奮するが、すぐに冷静さを取り戻して頭を下げた。直情型の性格のようだ。
「わかった、礼を受け取るよ……って、もうおごってもらってるんだがな。それはさておき、俺たちはこのあたりに慣れていないから色々と話を聞かせてくれると助かる」
リュウの言葉に役に立てると考えた女性剣士はドンッと胸を叩いた。
「任せて! 私はここ数か月はこの街に滞在してるからなんでも答えられるわよ! ……そうだ、自己紹介がまだだったわね。私の名前はフラミー、見てのとおり剣士よ!」
元気よく答えた彼女は名前とともに腰にある剣を指差した。青い髪を後ろでまとめている、いわゆるポニーテールは彼女の快活さと相まってとてもよく似合っていた。
「俺たちも自己紹介をしておこう。俺はリュウ、こいつはガト。それで、早速なんだがこの街の特産品とか名物とか教えてくれ。あとは、街としての特徴とかも」
この街はにぎわっているが、まだ入り口からギルドまでの道、そしてギルドからこの店までの道しか歩いていない。
それゆえに、リュウはこの街に住んでいる彼女から見てどう見えるかを聞こうとしていた。
「ふーん、そんなことが知りたいの? まあいいわ、まず特産品ね。この街は主に小麦の生産が有名ね。囲われている街から少し離れたところに麦畑がたくさんあるのよ。その小麦で作ったパンはとても美味しいんだから! この店のデザートにも使われているものはあるのよ!」
リュウが食べたパンケーキ、そしてガトが食べたフルーツサンド――どちらも味はよく、パンの味がしっかりしていて風味もよかった。
「なるほど、確かにいい小麦を使ってるみたいだ」
その味は地球で食べたパンと比較しても遜色のないレベルだった。
「でしょー! あと、名物だっけ? うーん、色々あるけど特に人気なのは食べ物だとその小麦で作ったパンでサンドしたチキンサンドね。鳥はメープルバードという魔物の肉が使われているのよ!」
チキンサンドの味を想像したのかフラミーはにっこりと笑う。その説明を聞いてリュウは一つ疑問に思う。
「……魔物を食べるのか?」
その質問はフラミーにとって意外だったため、目を丸くして返答に困っていた。
「頭領、どうやらこちらでは魔物の肉は食料として重宝されているようにゃのにゃ。ここに来るまでに戦った狼にゃんかはうま味が少にゃくてしかも硬いときて、食べる人は少にゃいようだけどにゃ」
ここで再びガトの豆知識が披露される。
「そうね、猪や鳥、それから兎の魔物なんかはよく食べられるわ。私が特に好きなのはダブルホーンラビットの煮込み料理ね。柔らかく煮込まれたお肉なんか最高よ!」
本来であれば、流れとして街の特徴に話がシフトしていくはずだったが、フラミーによるこの街周辺でよく食べられている食事の話が続いていく。次々にあれが美味しい、これが美味しいと止まらない。
どうやら彼女の唯一といっていい趣味は食べ歩きであるらしく、街の小さな店も全て網羅しており、話題がつきないようだった。
「ガト……俺たちは開けてはいけない箱を開けてしまったのか?」
「そうだにゃ……拙者も食べ物の話にゃら無難だと思ったのにゃけど。どうやら、フラミーさんは詳しいというレベルをはるかにこえているようにゃ……」
最初はどこそこの店の何々が美味いという話だったが、徐々に店員の接客レベルや店の掃除が行き届いているかなどなど細かい話になっていた。止まることのないマシンガントークにリュウとガトはうんざりし始める。
それから二時間は店の席を占有することとなってしまった。
「あら? 二人ともどうしたのかしら? まだまだお勧めのお店はあるのよ?」
辟易とした態度の二人を見てきょとんとした表情でフラミーが首を傾げる。
「い、いや、もう十分だ! 一度に聞いてもわからんし、気になった店はいくつか覚えさせてもらったから、これで大丈夫だ。ご馳走になった、ありがとうな!」
ようやく止まったフラミーの話にリュウはこれ以上付き合わされては叶わないと、ガトを引き連れて慌てて店から出て行った。
それを物陰から見ている影があった……。
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