6 / 15
第六話
しおりを挟む「さっきはどうもありがとう、ちょっと慌ててたからあんな失礼なことを言っちゃって……ごめんなさい!」
すぐさまリュウたちに近寄って来た女性剣士は、周囲の視線がある中で急に大きな声で礼を言ったかと思うと、今度は深々と頭を下げた。
「あー、いや……頭を上げてくれないか?」
あまりの女性剣士の勢いに周囲の視線が集まる。リュウは困った様子で女性剣士に声をかけた。
「許してくれるの!?」
ガバッと音を立てて彼女は勢いよく顔を上げる。その表情は弾けるような笑顔だった。
彼女は肩より長い青のロングの髪を一本に結い上げ、同じく青い瞳が印象的な女性だった。
「あ、あぁ、気にしないでくれ。その話は俺たちも全然気にしてないから……そこを通してくれるか?」
リュウたちの進行方向を塞ぐ形でいる女性剣士はそれに気づいて慌てて横に飛びのいた。
「ご、ごめんなさい! 私ったら、気づかなくて……本当にごめんなさい!」
終始謝りっぱなしの女性剣士に、このままでは話が進まないとリュウは彼女を放置して受付へと向かうことにした。
「すいません、冒険者登録をしたいんですがこちらで大丈夫ですか?」
先ほどまでの口調と変わって、丁寧な口調で受付嬢に質問するリュウ。ギルドに入ってからここまでずっと注目されていたため、そんな喋り方もできるのかと意外なところで驚かれることになる。
「えっと、別の受付ですか?」
「はっ、い、いえいえ! こちらで大丈夫です。申し訳ありませんでした」
首を傾げたリュウの質問に慌てて受付嬢が返事をし、謝罪をする。
「それはよかった。俺と、こっちのガトの二人を登録したいのですが……」
確認がとれるとリュウは笑顔で彼女に登録申請をしたいことを告げる。それまで無表情だった分、こういった表情を見せたリュウに受付嬢はドキッとしてしまう。
「わ、わかりました! それでは、こちらにご記入下さい。その、もし文字が書けないようでしたら、代筆も可能ですが……」
受付嬢がいつも口にしている決まった言葉だったが、彼女は今それを口にするのは失礼にならないかと考えてしまっている。
「お気遣いありがとうございます。一応自分たちで書けますので……ガトも書けるよな?」
「もちろんにゃ!」
背の低いガトはカウンターにしがみついて、器用にペンを持ち、自分の分の用紙に記入していく。
ここに来るまでの間、街中で看板などを見かけたがそれらの文字をリュウは難なく読み取ることができた。こちらの世界の独自の文字であったが、どうやら女神の配慮でこの世界の言葉を読み書きできるようになっているようだった。
「リュウさんとガトさんですね……職業はに、忍者? これはなんでしょうか? 聞いたことがないのですが……」
この世界に忍術というスキルは存在する。しかし、職業としての忍者は存在していたとしてもリュウとガトの二人だけであるため、知らないのも当然のことだった。
「ええっと、まあそういうのをやっているんですが……ダメでしょうか? なんだったら、剣士とか無難なのに変更しておきますが」
困ったような表情のリュウの申し出に受付嬢はしばし考え込む。
「…………まあ、いいと思います」
考えた結果の答えはシンプルなものだった。実際、他の冒険者も剣士として登録しておきながら別の武器を使うものもいる。
冒険者ギルドの登録とはその程度のものだった。
「他の方とパーティを組む場合に弊害がありそうですけど、お二人で既に組んでいらっしゃいますので気にしなくても大丈夫かと思います」
笑顔になった受付嬢にそう言われてリュウとガトは安心する。他の職業に変えるのは難しいことではないが、この世界で忍者として生きていく二人にとって、一種の意思表明のようなものでもあるためだった。
「それじゃ、登録お願いします」
「承知しました。少々お待ち下さい」
受付嬢は二人が記入した内容を元にカードの登録を行っていく。
しばらくすると、カードができあがり二人に手渡された。
「なくしてしまいますと、発行にお金がかかってしまいますのでくれぐれも紛失しないよう注意して下さい。お願いします」
過去に何人もの冒険者がカードを無くし、そして何人もの冒険者が受付でごねたことを思い出しながら二人に懇願する。紳士的な態度の二人がなくすことはそうないとは思ったが、受付嬢に染み付いた過去の記憶がそうさせた。
「わ、わかりました。ありがとうございます。……他に何か注意することはありますか?」
「そうですね……依頼を受ける時は、あちらのボードにある依頼を確認してから、剥がすことなくこちらにどの依頼を受けるか伝えて下さい。細かい説明はまたその時にしたほうがわかりやすいかと思われます……そうだ! お二人ともカードに魔力を流して下さい」
カードに情報を登録し、持ち主の魔力を流すことで全ての登録が完了するものであるための言葉だった。
「魔力……か」
魔力と言われる力はわからなかったが、リュウは適当に何か自分の中の力を流しこむようにしてみる。
だがいまいちカードに反応はない。
「魔力にゃ?」
両手でカードを持つガトは明確に魔力を流しこんでいるように見えた。魔力に反応しているのか、淡くカードが光っているからだ。
「ガト、できるのか?」
「うーん、にゃんとにゃくだけど魔力の流れがわかるのにゃ」
この世界に生きているものは、多かれ少なかれ魔力を持っている。ガトは地球では猫だったが、新しく生を受けて転生したような形になるため、魔力に対しての感覚は強かったようだ。
「ガトさんは完了ですね。リュウさんは……」
二人の視線を受けながら、リュウは色々イメージして試してみる。
「あっ!」
「できたにゃ!」
試していく内に、カードがぼわっと光を薄く放った。これで二人ともカードの登録が完了したこととなる。
「よかった……。それじゃあ、ありがとうございました。――ガト、少し街を回ってみよう」
「はいにゃ!」
リュウは色々と確認しなければならないと考え、ガトと外で話すことにする。
「お二人とも、依頼を受けて頂ける際はギルドにいらして下さい。それでは、お気をつけて」
柔らかく微笑む受付嬢の見送りを受けて、リュウとガトは冒険者ギルドをあとにする。
「――って、ちょっと待って! 待ってたんだから無視しないでよ!」
だが慌てたように二人のことを止めたのは、先ほどの女性剣士だった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~
桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。
そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。
頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります!
エメルロ一族には重大な秘密があり……。
そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる