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第二十九話
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『うおおおおお!』
ゴブリンキングはその膂力を持って、全力でリツを突く。
もちろん、この程度の攻撃はリツであれば容易に受け止めることができる。
この槍はトライデントと呼ばれるもので雷の魔力を放つ武器で一筋縄では終わらないとゴブリンキングは力を込める。
『サンダートラスト!』
そして突きに雷の魔力を付与し、更に回転させることでリツの黒刀を折りにかかる。
「――その程度か?」
しかし、槍は回転することなく、冷たい眼差しを向けるリツによって強引に止められてしまった。
黒刀も折れるどころか、反対にトライデントのほうが曲がってしまっている。
「悪いが、キングと名がつく魔物とは既に何度も戦っているんだよ。お前くらいじゃ相手にならない!」
軽くも鋭い動きでリツは黒刀を一閃すると、すぱっと切られたトライデントの先の部分がボトリと落ちてしまう。
『なっ! こ、これは、魔王様より賜った何物にも負けることのない最強の槍だぞ!』
「じゃあ、そいつが嘘をついたか、それ以上の武器に出会ったことがないだけだろうな」
淡々とゴブリンキングの主張を切り捨てたリツは次々に斬りかかっていき、ゴブリンキングの傷を増やしていく。
リツの攻撃は隙がなく、不完全な武器しか持っていないゴブリンキングは完全に防戦一方であり、その防戦すらも満足にはできていない。
「もう抵抗しないのか?」
『くっ、この、まさか、こんな……!』
ただ森を荒らすだけの指示を受けていた。
たまにやってくるのは近くの街の者くらいで、ゴブリンソルジャーに勝てるかどうか程度の者しかやってこなかった。
しかし、今対峙しているリツは、ゴブリンキングの実力を遥かに上回っていた。
これほどの相手を目の前にするのは初めてだったゴブリンキングは、人の実力を舐めきっていたことを深く後悔した。
「悪いが、無駄に戦い続けるのも疲れるから、このへんで終わらせてもらう」
これ以上戦っても心が熱くなることはないと判断したリツは、それまでの連撃を突然止め、黒刀を鞘にしまい、腰を落として柄に手をかける。
『ふざけるなあああ!!』
武器を納めたのが、完全に馬鹿にしている行為だと判断したゴブリンキングは怒りに震え、槍を捨てて、全力で拳を振り下ろした。
次の一瞬、空気を割るようなキンという金属音がなったのが、ゴブリンキングとセシリアの耳に届く。
「――終わりだ」
『が、ががっ……! な、なんで……』
音だけが耳に届いたが、リツが動いた動作はゴブリンキングの目には見えなかった。
これはゴブリンソルジャーを倒した時にも使った抜刀術であり、リツほどの実力者になると相手に動きを気取られずに刀を抜くことができた。
ゴブリンキングは驚きの表情のまま、その身を切り裂かれた。
急所を突いた一撃は相手に何の猶予も与えないまま、その命を刈り取った。
「ふう……まあ、こんなもんだろ」
こんなもん、と小さく息を吐いたリツが斬り捨てた相手は本来、討伐難易度Aランク以上であり、Aランク冒険者といえども単独で倒すのは命がけの相手であった。
「…………」
この様子を見ていたセシリアはあまりに圧倒的すぎるリツの実力に、声も出せず、ただただ呆然と戦いを見ていた。
「「…………」」
それは残されたゴブリンソルジャー二体も同様であり、自分たちの最強のボスだと信じていたゴブリンキングが負けたことが信じられずにいた。
「それで、お前たちはどうする? まだ俺と戦うつもりか?」
すっと目を細めたリツは黒刀の先端を向けて確認すると、視線をうろうろと泳がせたゴブリンソルジャーたちは一歩二歩と後ろに下がっていく。
「逃げるのは構わないがな……だが、少し俺たちの話を聞いてからでも遅くないんじゃないか?」
慌てた様子のゴブリンソルジャー二体だったが、リツから敵意が失せていくのを感じて、うろたえながらも彼らも武器を降ろす。
「「……ギャッギャ!」」
話を聞かせてくれというように、覚悟を決めたゴブリンソルジャーが口を開く。
「俺たちは街で依頼を受けてこの森にやってきた。依頼内容は、森にいるゴブリン系の魔物を十体以上倒してくること、っていうやつなんだが……その内容は既に達成している。だから、別にこれ以上お前たちと争う理由はないんだ。……たださ、お前たちがここにいると俺は戦わないといけない――俺が言いたいこと、わかるよな?」
先ほどまでの戦意が全くない様子のリツの話に、必死に耳を傾けていたゴブリンソルジャーは何度も頷いている。
「でだ、ここからずっと西に行ったとこに大きな城下町があるんだ。その近くの森に変なゴブリンとオーガがいるはずだから、俺と敵対するつもりがないならそこに行くといい」
「「ギャギャッ!」」
ゴブリンソルジャー二人は慌てたように頭を下げ、リツに最大限の敬意を払う。
そして、まだ生き残っていた仲間をつれて走って行ってしまった。
「もしあいつらに会うことができれば面白いけど……ってか、思っていた以上の大物が出てきたから、ついつい俺だけで戦っちゃったなあ、ごめん」
ゴブリンソルジャーの背を見送った後振り返ったリツが申し訳なさそうに全て倒してしまったことをセシリアに謝罪する。
ここにはセシリアの修業のためにきたはずだったのに、これではただ自分の力を見せるだけで終わってしまっていた。
「い、いえいえ! リツさんのすごさを改めて認識したところです……。街での戦いでの奮戦ぶりもすごかったですが、こうやって一対一での戦闘をみると別のすごさがわかりました!」
ゴブリンキングを相手にしても圧倒的なまでの勝利を収めたリツに対して、セシリアは目を輝かせながら感動していた。
「ははっ、まあ仮にも魔王に挑戦しようとしているくらいだからこれくらいはね。それより、ゴブリンたちの死体をこのままにしておくわけにもいかないから、解体して燃やしちゃおうか」
魔物の死体をそのままにしておくと、やがて腐敗していき、アンデッドモンスターになる可能性がある。
ゆえに、キッチリ解体を行うか、燃やすなどの処置が必要になってくる。
「はい! あ、でも……解体ってやったことが……」
冒険者でもない限り、普通は魔物の解体などしたことがある者はおらず、セシリアも例に漏れずそんな経験はなかった。
「まあ、そうだろうね。というわけで、俺が実際にやってみせるよ。セシリアは見学してて、もしきついなって思ったら離れていいからね」
ゴブリンは比較的人に近い身体のつくりをしているため、女性にはきついだろうとリツは配慮している。
「だ、大丈夫です……!」
少しでも役に立てるようにと、内心怯えつつもセシリアは気合を入れている。
「そうか? まあ、無理はしないように……といっても、ゴブリン系の魔物は使える素材がほとんどないんだよね。例えば狼系の魔物だったら、爪、牙、骨、毛皮なんかも素材になる。だけど、ゴブリンは魔核だけしか素材にならないんだ」
少し残念そうなリツはそう言いながら、近くのゴブリンの胸を解体用のナイフで切り開いていく。
最初は人の形に似ているゴブリンの身体に手を付ける様子に戸惑っていたセシリアだったが、リツの手際のよい処理を見て勉強しようというほうに意識が向いていった。
「この胸のあたりにある、キラキラと輝いている石が魔核だよ。俺たち人間でいう心臓。これは色々な魔道具に使うことができるから、需要は絶えない。というわけで、ゴブリンたちの胸を開いて魔核を取り出すことになるんだけど……やってみる?」
「はい!」
即答したセシリアはリツからナイフを受け取ると、近くにいるゴブリンから魔核を取り出していく。
「…………できました!」
そして、それを嬉しそうにリツのもとへと持ってくる。
(おぉ、抵抗とかはなくできたな。これなら……)
「それじゃ、残りのゴブリンたちの魔核を手分けして集めよう!」
「おー!」
それから、二人は倒したゴブリンたち全ての魔核を取り出していくこととなる。
魔核を取り出したゴブリンはリツの魔法で燃やして処分した。
ゴブリンキングはその膂力を持って、全力でリツを突く。
もちろん、この程度の攻撃はリツであれば容易に受け止めることができる。
この槍はトライデントと呼ばれるもので雷の魔力を放つ武器で一筋縄では終わらないとゴブリンキングは力を込める。
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しかし、槍は回転することなく、冷たい眼差しを向けるリツによって強引に止められてしまった。
黒刀も折れるどころか、反対にトライデントのほうが曲がってしまっている。
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『なっ! こ、これは、魔王様より賜った何物にも負けることのない最強の槍だぞ!』
「じゃあ、そいつが嘘をついたか、それ以上の武器に出会ったことがないだけだろうな」
淡々とゴブリンキングの主張を切り捨てたリツは次々に斬りかかっていき、ゴブリンキングの傷を増やしていく。
リツの攻撃は隙がなく、不完全な武器しか持っていないゴブリンキングは完全に防戦一方であり、その防戦すらも満足にはできていない。
「もう抵抗しないのか?」
『くっ、この、まさか、こんな……!』
ただ森を荒らすだけの指示を受けていた。
たまにやってくるのは近くの街の者くらいで、ゴブリンソルジャーに勝てるかどうか程度の者しかやってこなかった。
しかし、今対峙しているリツは、ゴブリンキングの実力を遥かに上回っていた。
これほどの相手を目の前にするのは初めてだったゴブリンキングは、人の実力を舐めきっていたことを深く後悔した。
「悪いが、無駄に戦い続けるのも疲れるから、このへんで終わらせてもらう」
これ以上戦っても心が熱くなることはないと判断したリツは、それまでの連撃を突然止め、黒刀を鞘にしまい、腰を落として柄に手をかける。
『ふざけるなあああ!!』
武器を納めたのが、完全に馬鹿にしている行為だと判断したゴブリンキングは怒りに震え、槍を捨てて、全力で拳を振り下ろした。
次の一瞬、空気を割るようなキンという金属音がなったのが、ゴブリンキングとセシリアの耳に届く。
「――終わりだ」
『が、ががっ……! な、なんで……』
音だけが耳に届いたが、リツが動いた動作はゴブリンキングの目には見えなかった。
これはゴブリンソルジャーを倒した時にも使った抜刀術であり、リツほどの実力者になると相手に動きを気取られずに刀を抜くことができた。
ゴブリンキングは驚きの表情のまま、その身を切り裂かれた。
急所を突いた一撃は相手に何の猶予も与えないまま、その命を刈り取った。
「ふう……まあ、こんなもんだろ」
こんなもん、と小さく息を吐いたリツが斬り捨てた相手は本来、討伐難易度Aランク以上であり、Aランク冒険者といえども単独で倒すのは命がけの相手であった。
「…………」
この様子を見ていたセシリアはあまりに圧倒的すぎるリツの実力に、声も出せず、ただただ呆然と戦いを見ていた。
「「…………」」
それは残されたゴブリンソルジャー二体も同様であり、自分たちの最強のボスだと信じていたゴブリンキングが負けたことが信じられずにいた。
「それで、お前たちはどうする? まだ俺と戦うつもりか?」
すっと目を細めたリツは黒刀の先端を向けて確認すると、視線をうろうろと泳がせたゴブリンソルジャーたちは一歩二歩と後ろに下がっていく。
「逃げるのは構わないがな……だが、少し俺たちの話を聞いてからでも遅くないんじゃないか?」
慌てた様子のゴブリンソルジャー二体だったが、リツから敵意が失せていくのを感じて、うろたえながらも彼らも武器を降ろす。
「「……ギャッギャ!」」
話を聞かせてくれというように、覚悟を決めたゴブリンソルジャーが口を開く。
「俺たちは街で依頼を受けてこの森にやってきた。依頼内容は、森にいるゴブリン系の魔物を十体以上倒してくること、っていうやつなんだが……その内容は既に達成している。だから、別にこれ以上お前たちと争う理由はないんだ。……たださ、お前たちがここにいると俺は戦わないといけない――俺が言いたいこと、わかるよな?」
先ほどまでの戦意が全くない様子のリツの話に、必死に耳を傾けていたゴブリンソルジャーは何度も頷いている。
「でだ、ここからずっと西に行ったとこに大きな城下町があるんだ。その近くの森に変なゴブリンとオーガがいるはずだから、俺と敵対するつもりがないならそこに行くといい」
「「ギャギャッ!」」
ゴブリンソルジャー二人は慌てたように頭を下げ、リツに最大限の敬意を払う。
そして、まだ生き残っていた仲間をつれて走って行ってしまった。
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ここにはセシリアの修業のためにきたはずだったのに、これではただ自分の力を見せるだけで終わってしまっていた。
「い、いえいえ! リツさんのすごさを改めて認識したところです……。街での戦いでの奮戦ぶりもすごかったですが、こうやって一対一での戦闘をみると別のすごさがわかりました!」
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「ははっ、まあ仮にも魔王に挑戦しようとしているくらいだからこれくらいはね。それより、ゴブリンたちの死体をこのままにしておくわけにもいかないから、解体して燃やしちゃおうか」
魔物の死体をそのままにしておくと、やがて腐敗していき、アンデッドモンスターになる可能性がある。
ゆえに、キッチリ解体を行うか、燃やすなどの処置が必要になってくる。
「はい! あ、でも……解体ってやったことが……」
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「だ、大丈夫です……!」
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「そうか? まあ、無理はしないように……といっても、ゴブリン系の魔物は使える素材がほとんどないんだよね。例えば狼系の魔物だったら、爪、牙、骨、毛皮なんかも素材になる。だけど、ゴブリンは魔核だけしか素材にならないんだ」
少し残念そうなリツはそう言いながら、近くのゴブリンの胸を解体用のナイフで切り開いていく。
最初は人の形に似ているゴブリンの身体に手を付ける様子に戸惑っていたセシリアだったが、リツの手際のよい処理を見て勉強しようというほうに意識が向いていった。
「この胸のあたりにある、キラキラと輝いている石が魔核だよ。俺たち人間でいう心臓。これは色々な魔道具に使うことができるから、需要は絶えない。というわけで、ゴブリンたちの胸を開いて魔核を取り出すことになるんだけど……やってみる?」
「はい!」
即答したセシリアはリツからナイフを受け取ると、近くにいるゴブリンから魔核を取り出していく。
「…………できました!」
そして、それを嬉しそうにリツのもとへと持ってくる。
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