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第二十七話

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「わかりました!」
 リツの指示を受けて剣を強く握るセシリアは気合十分だった。
 魔物との戦闘は初めてではないが、リツと組んでからの初戦闘は彼女の緊張を高めている。

「――はい、ストップ。それじゃ、きっと大きな怪我をしちゃうし、すぐにばてちゃうよ」
「……えっ?」
 リツに止められたセシリアは、きょとんとした顔で振り返ると、自分の身体を確認していく。
 自然と気合が入りすぎて緊張で身体がこわばっており、肩もガチガチになっている。
 腕輪には魔力を流せているが、明らかに必要量を大きく上回っていた。

 それを自覚したとたん、セシリアの身体に疲労感が押し寄せた。

「さっきの素振り、あの時みたいに落ち着いて、一定量の魔力を腕輪に流して、相手の動きをよく見ながら戦うんだ……いいね?」
 目と目を合わせて、ゆっくりと言い聞かせるように改めてリツが説明する。

「は、はい」
 セシリアはといえば、リツとばっちり目が合っていることで、緊張が走り、顔が赤くなっている。
 しかし、その緊張で上塗りされたおかげか、肩の力は抜けていた。

「”風の加護がありますように”……さ、これで大丈夫。今度は落ち着いていってみよう」
 リツはぽつりとつぶやくようにそっとなにかの魔法を彼女にかけて、背中を軽くとんっと押して送り出す。

「いきます!」
 しっかりと地面を蹴って走りだすセシリア。
 手前の一体しか視界に入っていなかった先ほどまでとは違い、その奥に数体いるのをしっかりと視認できていた。

(私を奥に引き込んで、一斉に襲ってくるつもりですね……でも!)
 それがわかっていれば、対処することができる。
 しかも、先ほどフルヒールポーションを飲んだことで身体が軽くなっている。

「やああっ!」
 いつもよりも素早い動きで距離を詰めると、セシリアは手前のゴブリンの首をすぱっと切り落とした。

「「「ぎゃぎゃぎゃっ!」」」
 そのタイミングに合わせて隠れていた三体のゴブリンがとびかかってくるが、予想していた彼女は後方に跳躍することでその攻撃を見事に回避する。

「せやああああ!」
 そのまま地面に攻撃してしまったことで一瞬動きが止まったゴブリン三体に対して、剣を横凪ぎに一閃することで一度に三体を撃破する。

「……ふう、我ながらちゃんと動けた気がします」
 あっという間に四体のゴブリンを倒せたことに満足したセシリアは、剣についた血を払って鞘に収めようとした。

「ギャギャ!」
 その瞬間、伏兵として木の上に隠れていたゴブリンアーチャーが矢を放つ。

「――えっ!?」
 倒した四体で終わりだと思っていたセシリアは、矢の方向に視線を向けるが剣は半分以上鞘に入っており、今からでは対応できない。

 リツも、少し離れた場所にいるため援護も期待できない。

(もう、ダメ!)
 身がすくんで固まってしまったセシリアは思わず目を瞑ってしまう。
 思えば、街の防衛戦で命を失うはずだった自分がここまで生きてこられたのは奇跡である。
 だから、ここで人生が終わっても仕方ない、とこの一瞬でそこまで考えていた。

「…………あれ?」
 しかし、いつまでたっても矢が飛んでこないため、彼女は恐る恐る目を開いていく。

 すると、そこにはセシリアまでは届かず、空中で止まっている矢があった。
 セシリアと矢の間には緑色の風の障壁が貼られていたのだ。
 一本目でダメだとわかったゴブリンアーチャーは二の矢、三の矢と立て続けに打っていたが、どれも風の障壁によって遮られていた。

「油断大敵ってね」
 セシリアの耳元で優しく笑うリツの声がする。

「リツさん」
 声に振り向こうとした瞬間には、ゴブリンアーチャーはリツの魔法で倒されて木の上から落下していた。

「はい、これで完了。セシリア、ゴブリンは集団戦を好むから目の前の数体を倒せても油断したらダメだよ。まあ、今回は結構うまく隠れてるやつだったから仕方ないけどさ」
「ご、ごめんなさい……」
 自分の失敗に気づき、それを見越してリツが防御壁を張ってくれたことを理解して、セシリアはがっくりと肩を落としてしまう。

「ははっ、いいよ。別に今回は練習だし、俺もゴブリンアーチャーがいるのをわかっていてあえて黙っていたから」
 そう言うと、リツは彼女の頭を軽くポンポンと撫でる。
 これで落ち込みが解消されるわけではないが、セシリアは頬を赤く染めて少しだけ気持ちが軽くなるのを感じていた。

「今回の戦闘は、腕輪に流す魔力量を維持したままゴブリンを倒すというものだった。でもって、最初の一体が囮なのをわかったうえで攻撃して、すぐに後ろに下がってから再度残りを倒した。この一連の動きの中で魔力は常に一定にできていたのがよかったよ」
 リツは失敗を責めるのではなく、今回できた成功を褒めていく。
 実際のところ、最後のゴブリンアーチャー以外のセシリアの動きはとても良かったのだ。

「しばらくは腕輪をつけたままで、魔力操作の練習を続けてもらうことになるけど、それが完璧にできるようになれば攻撃に魔力を使うこともできるし、周囲の感知に魔力を使うこともできる。そうすれば……」
 ここまで言ってリツはニヤリと笑った。

「先ほどのように隠れている魔物に気づくこともできるってことですね!」
 今やっていることが自分の力を伸ばし、先ほどの失敗を補うことができるとわかったセシリアは満面の笑みになっていた。

「そういうこと。つまり、今の魔力コントロールが上達すれば、更に上のこともできるようになるってわけだ。俺も昔はそれやらされたからなあ……」

 この腕輪を作ってくれたのは勇者パーティがお世話になったドワーフの職人で、竜人の仲間による説明で作っていた。
 腕輪をつけて修業をしたことで、リツも格段に強くなることができ、勇者としての力も自在に使えるまでになっていた。

「リツさんもこれをつけていたんですか?」
 小首を傾げて質問するセシリアに、リツはくすっと笑ってしまう。

「なかなか可愛い反応をするもんだなあ。そう、それは俺のお古なんだよ。本当な五つくらい作ってもらうはずだったんだけど、魔物が街を襲ってきてそれどころじゃなくなってさ……」
 その時の戦いを思い出したリツの表情には悲しみがにじんでいる。

「ま、でも一つだけでも残っててよかった。あ、ちゃんと洗ってあるから安心して」
「ふふっ、ありがとうございます。でも、リツさんのお古って聞いてちょっと嬉しいです!」
 リツがむりやり話を明るい方向に切り替えたことに気づいたセシリアは、その話題にあえてノることで雰囲気をそちらにシフトさせていった。
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