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第二十二話

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 出かける準備ができた二人は、互いのベッドに座ってこれからの予定について話し合う。

「と、その前にそれどうする?」
 そう言ってリツが指さしたのはセシリアが両腕につけたままの腕輪だった。
 彼女が寝た時に効果を切ってあるため、今はただ少し綺麗な装飾具の腕輪が彼女の腕で輝いている。

(でかけるとなると、効果発動したままだときついだろうからなあ……)
 途中で魔力切れを起こして倒れても困るだろうし、街を見て回るのに意識が腕輪に向いてしまう可能性が高い。

「そう、ですね……それでは、買い物などが終わってからでも構いませんか? 外で倒れてしまうのはリツさんにご迷惑をおかけしてしまうので……」
 彼が言いたいことを察したセシリアは申し訳なさそうな表情でそんな提案をする。

「あぁ、別に気にしなくてもいいけど、さすがに外だと安心して修業に集中できないからそうしようか。まずはセシリアの装備を買わないと」
(街の近くで見た装備だとちょっとアンバランスだったからなあ……)
 最初出会った時のセシリアは背伸びをしたように鎧を身にまとっていた。

 リツは今から彼女に合った装備は何か考えている。
 ベイクたちから逃げるように着の身着のまま旅に出たため、少しラフな商家の娘風のセシリアはじっとリツに見られて恥ずかしそうに身をよじらせる。

「え、えっと、その、言いづらいのですが、手持ちのお金がそんなになくて、ですね……いえ、でも持ちだしていただいた荷物を処分すればなんとかなるかもしれません……!」
 彼女は更に申し訳なさそうな顔で、装備を買うのも難しい現状を説明する。

「うーん、そうだなあお金なら俺が出すっていうのはきっと気にするだろうから……稼ぐか」
「稼ぐ、ですか?」
 これまで貴族として過ごしてきたセシリアには、なんの後ろ盾もない自分がどうやってお金を稼いでいけばいいのか検討もつかなかった。
 目を何度かぱちぱちと瞬きさせ、驚いている。

「そう、金を稼ぐとなると商売をするか、労働力を提供するか、アイデアをだすか、なんて色々あると思うんだけど……色々な問題を一度に解決しておこうと思って」
 稼ぐと口にした時点で、このやり方を選ぼうと思っていたリツはニコニコしている。

(我ながらいいアイデアだな。これなら……)

「その、問題というのは、例えば私の強さとかでしょうか?」
 彼女が一番に思いついたのは、修業の必要がある自分自身についてだった。

「それも一つ、あとはさっきも言ったように金の問題。それと、俺の身分証の問題だな。この先もここをはじめとしていろんな街に出入りするにあたって、身分証がないというのは不便極まりない」
 正確には持っていないこともなかったが、それは収納してある中にある勇者としても身分証である。
 それはさすがに古すぎるのと、勇者ではない現在は不審に思われてしまうため、使えない。

「なるほどです。ということは、どこかのギルドに所属するということですね」
 この世界では、大体の場合、特定の街に産まれるか、貴族になるか、ギルドに所属することで身分証を持つことができる。

「正解、ただ錬金術ギルドとか、テイマーギルドとか、魔導士ギルドなんかに所属しても金を稼ぐという問題は解決できない。となると……」
 残っているギルドが今回の目的になる。

「冒険者ギルドですね。確かに、あそこならば身分証、お金、それと私の修業に持ってこいですね!」
 戦闘系の依頼を受けることもできるため、戦闘の実戦訓練が行えるのは経験として大きい。
 手を合わせて名案だとセシリアは笑顔で頷いていた。

「というわけで、食事と装備品の購入と冒険者ギルドの登録が今日の目的としよう。登録して、いい依頼があったらそれを受ける。でもって、魔王の情報は手に入ったらいいね、くらいで行こう」
 まずはセシリアの実力を高める――それが今は第一優先である。
 下手に気負いすぎても良くないため、リツはあえて小さな目標を立てていく。

「わかりました!」
 リツには考えがある、と彼女は理解しており、彼の提案に反対するつもりはなかった。

「それじゃ、早速しゅっぱーつ!」
 わざと明るい声で言うと、釣られるように笑ったセシリアと一緒にリツは部屋を出て行った。





「へー、商業都市っていうだけあって人も多いし、色々な店があるんだなあ……」
 昨日は色々見て回る余裕なく食事をとり、すぐに宿に入ったため改めてゆっくりと見て回って感じた街の賑わいに、リツは感心していた。

 ちょうど昼に差し掛かろうという頃合いで、街にはたくさんの人が行きかっていた。
 緊迫した雰囲気は一切なく、心地よい喧騒に包まれた明るい街並みが広がっていた。
 商業都市とあって、多種多様なお店が商店街のように並んでおり、楽しく会話しながら買い物を楽しんでいる様子がうかがえる。

「ですです。店も大きな店から、小さいけど細かい物を専門に扱っている店など色々あるんですよ! 私も両親が健在の頃に何度か連れてきてもらいました」
 そう口にする彼女の表情に悲しみはなく、大事な思い出の一つを話しているという様子である。

「なるほどねえ、種族も多彩だ……」
(人族がやはり一番多いな。獣人の姿もチラホラ……エルフは、いないか。竜人もいないな。ドワーフは、あの店の店主はそうっぽいな。魔族もいないようだ)
 五百年前との違いを感じ取ったリツは、どれくらい世界が変わっているのかを少しずつ探っている。

「この街は商業都市なので、多くの種族が出入りをしているみたいです。ただ、エルフなどはこの大陸ではあまり見かけませんね。東の大陸に世界樹があるので、そちらに多いと思います」
 セシリアはリツがキョロキョロしているのと、表情の変化から、ここにいない種族について知りたいのかもしれないと予想して説明していく。
 貴族令嬢として一般常識の中にこの世界の人口の分布もあった。その知識を披露する。

「あー、確かに。あいつらはあんまり大陸から出たがらないからか……なるほどな。それなら、納得だ。さて、とりあえずは飯ということであそこに入ろうか」
 五百年前のエルフたちを思い出しながら頷いたリツは昨日も立ち寄った例の店を選択する。

「あ、いいですね! 昨日、すごく美味しかったですし、店長さんもウェイトレスさんも良い方でした!」
 セシリアは嬉しそうに手を合わせて笑顔になる。昨日の料理を思い出して、楽しみになっていた。

「それじゃ、朝飯……というには時間が遅いか。昼食はあの店で、客が少なければ街のことも色々聞いてみよう。宿以外にも武器屋なんかの情報も手に入るかもしれない。あとは、女将さんのことについても話してみるか」
 そう口にしたリツはあの店長の表情が大きく崩れるのを予想してニヤニヤと笑っている。

「もう、リツさん。そんな風に笑ってはダメですよ? ちゃんとあったことを話して、あとはちゃんと店長さんの紹介ってことも言ったと言うくらいですから」
 リツをたしなめるようにきゅっと口を尖らせたセシリアはからかうつもりなどはなく、ただ幸せな結末に向かえばいいなと、店長と女将の進展を楽しみにしていた。

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