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ミリア激怒する

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娘はポーラと名乗った
愛想のある笑顔で顔色も良く
花柄の刺繍をあしらったエプロンをつけ
長い髪を後ろで束ねていた
ポーラに満面の笑みで案内されて二人は店内に入った
看板には白鹿亭しろじかていと書かれてあった

夜の稼ぎ時だというのに
酒瓶の並ぶ店の中は空席だらけで
客の姿は一人もなかった
テーブルの上に太った中年の男が突っ伏していた
顔には殴られたような傷跡があった

「お父ちゃん、待ってて!
いま手当するから」

ポーラはカウンターの下から薬箱を取り出して
男の傷口に薬を塗り始めた

「ぼくも手伝います
怪我の治療なら少しは」

ミリアは男の頭に手際よく包帯を巻いていく

「ぼく?えっ……男の子なの!?
私よりずっと綺麗……
あっああ!?、いいよ、手伝わなくても……」

ポーラは顔を赤くしてミリアの横顔に見とれていた
男は深く息をついて、ゆっくりと体を起こした

「ありがとうポーラ、少し楽になったよ
ああそれと……あなたがた……
父親のガルデンです
娘を助けていただいて……」

「支払いまでしていただいたの……」

「そ……そんなことまで!
ああ……ありがとうございます」

ガルデンとポーラはさめざめと泣いていた
人の良さそうな顔をしてはいるが
どこか、なにか、作り物のような気配をヴァードは感じた

「……あんたがこの店の主人か
山登りをしようとしたら
官舎で足止めを食ってしまってな
ここに10日ほど泊めてほしい
適当な空き部屋でいい、代価は払うぞ」

「いいですとも
何日でも泊まっていってください
大したもてなしはできませんが……」

「助かる、あのままだと凍死するところだったからな
それと……食事を作ってくれないか、腹が減ってな」

「そうしたいのは山々なのですが……
うちには食べ物がほとんどないのです」

「なんでだ、ここは酒場じゃないのか」

「さきほど店の前にいた男……
強盗団の一員です
先週、突然この街にやってきて
中央市場の商品を強引に買い占め
食料品の値段をとてつもない
値段に吊り上げてきたのです
私たちは商売をするためにやつらから
高値を仕入れざるをえなくなって……
店の資金繰りが……
わたしたち自身も10日ほどロクに食べていないのです……」

「それで……
借金をせざるをえなくなって……
お金が足りなくて……」

「王都でいろいろと騒ぎがあって
いま輸送が滞っていますから
嫌でも奴らから買わざるを得ないのです……
そして金の払えなくなったものは
店を取り上げられていって……
うちももうダメでしょう……
まだまだ支払いがまだまだ残っていまして……
もうすこし金貨があれば……」

ミリアは不正義に対して激しく怒った

「食料で人を脅すなんて許せない!
ヴァードさん!なんとかしましょう!
この街の人のためにも」

しかしヴァードは手のひらで顔を覆いながら
笑いをこらえていた

「いや……
ちょっと……まて……ミリア……
くっくっく……」

「ヴァードさん!」

ヴァードは落ち着いてミリアに言い聞かせた

「いいかミリア、耳をすませろ
よく音を聴いてみるんだ」

「えっ?……はい……」

ミリアは目を閉じた
義憤ぎふんにかられた表情がみるみる真顔に戻り
また眉を釣り上げてガルデンとポーラを睨みつけた

「え、ミリアくん……顔……怖いよ……」

ヴァードはガルデンに向かって叫んだ

「おいガルデン!
さっきくれたやった1000枚!
お前がふところにおさめたんだろ?
それじゃ足りないのか?」

ガルデンとポーラは一瞬ぎょっとした表情を見せたが
すぐに取り繕った

「……どういう意味ですかな?」

「それに……10日もろくに食べていないにしては
お前、やけに肥えてるじゃないか
どんな健康法を使っているんだ?」

「ああ!いや、それはですね……」

慌てふためくガルデンをよそに
ミリアはベルトから短剣を数本抜いて
電光石火の速さで投げつけ、酒場の壁に深く突き刺さった
壁の向こうから痛ああああい!、という男たちの悲鳴が聞こえた

「この街のネズミは言葉を喋るみたいですね」

扉を開け、すきま風とともに
毛皮をまとった男たちが酒場になだれ込んできた
みな、手に刃物をちらつかせ、
殺意をみなぎらせた瞳で睨みつけてきた
その中に、さきほど店先でヴァードが殴りつけた男も混じっていた
ガルデンは「まだ早い!」と怒鳴りつけていたが
男たちの怒りはおさまらないようだった

「おう!さっきはよくもやってくれたな!
不意打ちで不覚をとったが、正面からなら負けはしないぞ」

「猿芝居で同情を惹いて
大金をせしめることができればそれで良し
それがかなわなかったら
因縁をつけ刃物をちらつかせてぼったくる……
そういう寸法か、まわりくどいことをする
金が欲しいなら最初から素直に言えばいい」

「うるせえ!」「さっさと有り金おいていけ!」「死ね!」

男たちは口々にヴァードとミリアを罵り始めた
そろそろ頃合いかと思い、ヴァードは力瘤をつくって拳を握りしめた
が、その時、おもむろにミリアがすたすたと店内を歩いて
食器のおさめてある戸棚を蹴り倒した
散乱した食器のなかからフォークとナイフを一本一本拾い集めて
指の間に挟んでいくのだった
ヴァードは息を呑んだ

「おい!ガキなにして……」

ミリアが両腕をふわりと動かすと、空気が金切り声をあげ
男たち全員の片方の目玉にフォークやナイフが正確に突き刺さっていた
情けない悲鳴をあげて男たちは床を転げ回った
ガルデンとポーラは真っ青になって震え上がっていた
ミリアはガルデンに料理ナイフを突きつけてささやいた

「ガルデンさんどうする?
このおじさんたち、次は完全に見えなくなっちゃうよ」

ガルデンは失禁していた
ヴァードは慌てて止めに入った

「ミリア待て待て待て!もうそれ以上はいい!
俺たちは寝床と食い物が確保できればそれでいいんだ」

「えっ……あ……!ヴァードさん……ぼくは……」

「もう!何日でもぉ!好きなだけぇ!泊まっていってくださいいいい!
市場が乗っ取られたのも、食べ物が足りないのも全部嘘ですうううう!
飲み物も食べ物もぉ!ぜんぶ無料にさせていただきます!!」

ガルデンの裏返った悲鳴が店内に響き渡った
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