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一触即発

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「ヴァードさん……その……昨日のは違いますからね」

「ん?」

「私、なにもしてませんから」

レフィリアは無表情を作って言った。唇をかすかに噛んでいた
女がよくやることだとヴァードは思った

ヴァードとレフィリアは緑の国の王都リセーヌの入り口の一つである
ビスタ門の近くまでやって来た
木々の向こうに苔むして年月の経った城壁があった
あちこちにひび割れや刀傷が刻まれているのが見え、
くぐり抜けてきた戦争の多さを物語っていた
門前には兵舎があり、たくさんの兵がたむろしていた
ヴァードは兵を見て言った

「みな若いな、動きもぎこちない、武具もなまくら
王都門前であるというのに手練の兵隊が見えない
ここまで状況が悪くなっているとは
郊外どころか王都すら満足に防衛できなくなっているということか」

「前からこうなってますよ、本当にご存知なかったのですか」

「調べ過ぎない主義なんだ」

ヴァードは門前にいる衛兵に近づき声をかけた

「そこの御仁!」

衛兵はヴァードの姿を認めるとため息をついた

「なんだい」

やる気のなさそうな声が返って来た
顔を見てみると二十歳そこそこと言った風貌で
幼さと過剰な自信がその表情から臭った
ヴァードは懐から詔書を取り出して言った

「俺はヴァード・アッパード
国王陛下の令旨りょうじを受けて光の国よりここまで……」

「光の国って……へぇ……わざわざ秘境から……はい」

衛兵はヴァードに手のひらを差し出した

「なんだ」

「鈍いのかい、あんた」

ヴァードは手鋏チョキを突き出した

「てめえ、ふざけてんのか!」

「俺はまじめだぞ」

「じゃあ帰れ」

「呼んだのはお前の国王だ、帰るわけにはいかん」

「あんたそれなりに腕は立つみたいだが……
この辺りには俺以外にも百人以上は待機してるぜ
呼べば市街地からもっと来る」

「なら来るまで待ってやる、百人じゃ足りないだろ」

「殺すぞ」

衛兵は腰に提げた剣の柄に手をかけた

「言葉だけか?魔物どもはあんたより威勢が良かったぞ」

ヴァードが戦斧に手をかけようとすると
後ろからレフィリアが飛び出てきて兵士に頭を下げた

「兵士さま!我が従者の非礼をお詫びします
わたくしシルエール商会副会頭の
レフィリア・ラ・シルエールでございます
故あっての長期の旅行より戻って参りました
どうかここは穏便にお通し願えないでしょうか」

「シルエールのご令嬢!?まさかこんなことが……」

衛兵は構えを解いた

「てめえ!商会が後ろ盾だったのかよ!消えろよくそったれ!タチが悪いぜ」

ご寛恕かんじょに感謝いたします、いきますよ!」

レフィリアはヴァードの手を引っ張って門の中へ進んだ
お前の従者になった覚えはないんだが、とヴァードは小声で言った
衛兵はヴァードに向かって叫んできた。

「おいヴァードとか言ったな!俺はピート・パーリンだ!
この因縁覚えておけ!」
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