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35 ドワーフの聖地

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「真っ暗なのじゃ!」

3つ目の部屋は真っ暗で何も見えなかった。

「皆さんいますか!?」

「ガッハッハ。お前らがいるなら大丈夫だ。行くぞ。ガッハッハ」

ゼンジの問いかけに、ロックジョーが答えたが、笑い声は遠ざかって行く。

「行くってどこに」

その時メロンが震える声で囁いた。

『ゆ、指輪が』

「指輪がどうした?」

『わ、我の指輪が、か、かなり重くなったんだ』

「妾の指輪も少し重くなったのじゃ。でも……」

「メロンの指輪がか?」

『き、きっとドラゴンリングは、元が大きいから、小さくなっても重量は変わらないのかも』

「体積と質量があべこべだな」

「お、重いのじゃ」

「大丈夫か?」

「ダメじゃ。メロンちゃんが重くて進めんのじゃ。メロンちゃんを代わりに持ってくれぬか?」

「分かった。そこを動くなよ」

ゼンジは暗闇の中、ポーラの声が聞こえる方へ両手を出してゆっくりと進んだ。すると、何か柔らかい物に当たった。

「これか?」

「どこを触っとるのじゃ!」

「えっ!」

ゼンジの顔はだらし無く垂れ下がった。誰にも見られなくて良かったと思った次の瞬間、何かが飛んできた。

『いてっ!』

「うおっ!ってメロンを投げるなよ!」

「ガッハッハ。何を遊んどるんだ!さっさと来い」

遠くから、ロックジョーの笑い声が聞こえる。

「でも、暗くてどこに行けば良いのか分かりません」

「右だ。目を凝らして良く見てみろ。入り口が、より暗く見えるはずだ」

ダンバールの指示を聞き、ゼンジとポーラは部屋中を注視した。すると、部屋よりも暗い縦長の穴が、正面と左右、そして後ろにあるのが確認できた。

「見えました!今から行きます!」

「ガッハッハ。目の前まで来たら教えろ」

「了解!さあ、ポーラ行くぞ」

「早く来るのじゃ!」

ポーラの声は、ロックジョーの声がする方から聞こえてきた。

「なっ!もうそっちにいるのかよ!」

『何やってるんだよ。早く動かないと、〈神速〉は身に付けられないよ』

「うるせぇ!早く動くのと、早めに動くのとは意味が違うだろ!ったく、相変わらずポーラはちゃっかりしてるな。それよりも、メロンの指輪は重過ぎる!」

ゼンジはメロンを抱えて、右の縦穴へと向かった。

「はぁ。彼らは何と何の話をしていたのかしら」

何も見えないゼンジとポーラは、殿を務めるリズベスがいることに気づいていなかった。

「ゼェゼェ。つ、着きました」

「ガッハッハ。ベルトのバックルでも重くなったか?大事な物も一緒に、地面に落ちないように気を付けろよ。金の玉が2つあ……」

「行くぞ。着いて来い」

ダンバールはロックジョーの下ネタを切り捨て、暗闇の中、更に暗い縦長の穴を目指して進んだ。

「ロックジョーさんには見えてるのか?……うわっ!眩しい!」

次の部屋は暗闇から一変、光に包まれていた。
正方形の部屋の中央には台座があり、その上の玉が輝いている。

「あの玉はなんだ?LEDか?」

「宝玉には触れるなよ。次も右だ。行くぞ」

「メロンの指輪が更に重くなったな。衣のうに仕舞うか?」

『ダメだよ!外したら付けれなくなるよ』

「そうだな。このまま進むしか無いか」

ゼンジは、メロンではなく指輪を両手に乗せて、右の縦穴へと進んだ。

「ガッハッハ。随分のんびりしたが、産まれてないだろうな?」

「はぁ。まだのようです」

「凄いな。〈探知〉はそこまで分かるんだな」

『そうだよ。ゼンジも目に頼らず、気配を探れば覚えるんじゃない?』

「メロンはそればっかだな。そもそも気配の探り方が分からない。自分には向いてないんじゃないか」

「独り言はそれくらいにしろ。それでは入るぞ」

ダンバールは、メロンがぬいぐるみだと思い込んでいる。それを忘れていたゼンジは、独り言とは程遠い声量で話していた事に気付き赤面した。

ダンバールの後に続き、ロックジョー、ポーラ、ゼンジとメロン、そしてリズベスが縦穴に入った。

『いてっ』

ゼンジは、急に立ち止まったポーラにぶつかり、メロンを落としてしまった。

「ポーラどう…し……た……」

ゼンジもまた、目の前の景色に圧倒されて動きを止めた。

「はぁ。2人とも進んでください。そんな所で止まっていると危ないですよ」

そこは正方形の部屋ではなく、端が見えないほど広い、街の中だった。

一直線に伸びる道の先には、天井と一体化した黒の巨塔がそびえている。

道の脇には、ブロックのような黒い石を積み上げた家が、雑多に建ち並んでいる。
その全ての家の煙突からは、赤、緑、青、そして黄色と様々な色をした煙が、忙しなく噴き出ている。

「綺麗なのじゃ!」

「街がある……」

左側の奥は草原、右側の奥は削れた岩肌が続いている。

「そこを退け!道の真ん中で突っ立ってるな!」

後ろから声をかけられ振り向くと、バイコーンが引く荷馬車が、ゼンジたちに迫っていた。

「うおっ!」

ゼンジは慌ててポーラの手を取り、道の脇まで走った。

「はぁはぁ。危なかった。自分たちの後ろからも来てたのか?」

荷馬車はゼンジたちと同じく、縦長の穴から出てきた。

「順路は違うが、外から来ている。我々が通った道が最短だが、一部のドワーフしか使えない」

「そう言えばメロンは!」

メロンは地面にうずくまり、両手で頭を抱えていた。メロンは偶然にも、バイコーンと荷馬車に踏まれてはいなかった。

「すまないメロン」

「メロンちゃん!大丈夫じゃったか?」

『怖かったよぉ』

メロンはパタパタと翼を動かし、ポーラの胸に飛び込んだ。

「メロン指輪は重くないのか?」

『あれ?大丈夫みたい』

メロンは指輪をはめた腕を、グリングリンと回して見せた。

「本当じゃ!軽いのじゃ!指輪が元に戻ったのじゃ!」

「この広い空間は特殊で、天井だけがマグネタイトだ。だからマグネタイトの吸着力が弱まる。しかしそれとは逆に、不純物を多く含む金属は強く引かれる。それが、我らドワーフの聖地だと言う所以なのだ」

「さっぱりわかりません」

ゼンジの言葉にダンバールが続けた。

「我らドワーフは鍛治を生業としている。と言っても、酒の次に好きな趣味みたいなもんだ。煙突から煙が出ているだろう。あれは金属を鍛錬して出来る不純物だ。この地では、剣や鎧の製造の過程で不純物が自然と出て行き、天井に吸い込まれる。よってこの地で作られた物は、自ずと最高級の逸品が出来上がる」

「なる程……と言う事は、ポーラの指輪は最高級品って訳だな」

『我の指輪もだね』

メロンがボソリと付け加えた。

「ガッハッハ。これだから説明は嫌なんだ。時間がかかり過ぎる。ダンバールはそれが狙いなんだろうがな。これ以上引き延ばされると産まれてしまう。さっさと行くぞ。ゼンジ、あの塔に向かう」

ロックジョーは道の真ん中を、ズカズカと歩き始めた。

「はぁ。ヒッポが待機している手筈でしたが、もう諦めたのですか?」

「産まれてしまった。今更何をしても時は戻らない」

ダンバールは、そびえる塔を悲痛な面持ちで見上げた。

「はぁ。ヒッポがいないと登れません。ここで待っててください」

リズベスはそう告げると姿を消し、先を進むロックジョーの隣に現れ再び消えた。
ロックジョーは立ち止まり、ゼンジたちの元へ引き返した。

「ヒッポって誰なのじゃ?」

「ここに連れてくるよりも、自分たちがあの塔に行く方がスムーズじゃないか?」

「ガッハッハ。来たみたいだぞ。ゼンジ、ヒッポには乗れるか?」

左側の草原の上空に、何かが3つ視認できる。

「モンスターじゃ!飛んで来るのじゃ!」

近付くにつれ、輪郭がはっきりとしてくる。
それは鷲の顔と翼を持ち、その下には猛獣を思わせる足のある生物だった。

「あれはグリフォン!逃げるのじゃ!」

グリフォンとは鷲の前半身に、ライオンの後半身を併せ持つ、凶暴なモンスターである。

「ガッハッハ。ちと違うな。ヒポグリフだ」

目の前に降り立ったのは3頭のヒポグリフ。グリフォンと間違えるのは当たり前である。
グリフォンとの違いは1箇所。後半身が馬という部分のみ。

『ヒポグリフは、グリフォンよりも大人しいんだよ』

『ギュォン』

「ど、どう見ても凶暴そうですが?」

猛禽類の目に睨まれたゼンジは、威圧に耐えかね一歩下がっていた。それとは対照的に、ポーラはヒポグリフを触っていた。

「可愛いのじゃ!モフモフするのじゃ!」

「はぁ。3頭借りて来ました。お金はロックジョーさんにつけときましたから」

「ガッハッハ。そう言う事だ。このヒッポはテイムされている。ビビらんでさっさと乗れ!」

ロックジョーは、リズベスが乗るヒポグリフに飛び乗った。

「ゼンジ早うせい!ヒッポちゃんに乗るのじゃ!」

ポーラは既にヒポグリフに騎乗していた。

「安定の、ちゃっかりだな」

『我はそこも気に入ったんだよ』

メロンはパタパタと羽ばたいて、ポーラの元へ飛んで行った。

ゼンジはポーラの後ろに、ダンバールは残りの1頭に跨った。

『ギュオ~ン』

3頭のヒポグリフは、黒の巨塔へと翼を広げた。


(女神様、こちら自衛官、
ダンジョンの中に街がありました!カラフルな煙が、とても綺麗な街並みです。どうぞ)
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