上 下
26 / 39

26 ブラックヴァンパイア

しおりを挟む

「ヴァンパイア!!!嘘だろ!あのヴァンパイアがいるのか!!」

ゼンジの口から飛散した水は、向かいに座るノックの顔に盛大に掛かった。

「ウォ~ン。落ち着けゼンジ。お前が言ってる、ヴァンパイアとは多分違うぞ」

ノックは顔を拭きながら答えた。

「違う?自分が知ってるヴァンパイアは血を吸う化け物だぞ!」

「ガッハッハ!そうだな!そいつがヴァンパイアだ」

「じゃあ合ってるじゃないか!」

「ウォ~ン落ち着けと言っただろ?ロックジョーさんも勘違いするような言い方はやめて下さい」

ノックは、ギルドマスターであるロックジョーにはまともに目を合わせる事は出来ず、下を向きながら呟いた。

「これが落ち着いていられるか?ヴァンパイアだぞ!空想上のとんでもない化け物だぞ!」

「ガッハッハ!空想上などではない。ヴァンパイアは実在する」

「ウォ~ン。ロックジョーさん少し黙っててください。話が進みませんから」

ゼンジをからかい続けるロックジョーに対して、ノックはとうとう指摘をしてしまった。

「ガッハッハ……俺に黙れだと?」

一瞬にして場の空気が凍りつく。

ノックは顔にかかった水ではなく、今度は噴き出す汗を拭い始めた。

「ロックジョーさん。からかうのはその辺でやめてやってください。ノックも悪気があって言ったんじゃないんで」

ゴードンもやはり、ロックジョーを見る事はせず、噴き出す汗を拭った。
ロックジョーは、残りのエールを一気に飲み干した。

「ガッハッハ!冗談だ。嬢ちゃんエールもう一杯!
俺は、ギルドマスターとしてではなく、客としてこの村に来たんだが、目当ての物は手に入らず、手出しが出来ない村の状況に腹が立っててな。ちょっとしたストレス発散だ」

そしてロックジョーは豪快に笑ったが、ノックとゴードンはその後、一言も発する事はなかった。

「この村は、ギルドマスターのロックジョー殿でさえ手出しが出来ないそうです。勘違いしないで頂きたいのは、一人では無理だという事です」

村長が髭を触りゼンジを見た。その顔は険しい。

「ガッハッハ!恥ずかしい話だ。ギルドマスターが聞いて呆れる。俺が解決出来ないとは、まさかこんな事が起ころうとはな。村で暴れるのは可能だが終わりが見えん!元を潰さん事には、永遠とループしてしまうだろう」

ロックジョーは、キーラからエールを受け取ると笑顔を消した。

「そこでお前さんの力を借りたい。これはクエストではない。俺からの頼みだ。聞けばお前さんはギルドに属してないそうだな。しかし、受けるのであれば、報酬は俺が出す!どうだ?」

ゼンジは被せ気味で返事をした。

「やります!」

ロックジョーはエールを飲み干すと、再び豪快に笑った。

「ガッハッハ!気に入った!相手がヴァンパイアと知っても尚、やると言うその根性!気に入ったぞ!ガッハッハ!」

ロックジョーは、キーラに再びエールの注文をした。

「からかって済まなかった。試した訳じゃないんだが、結果としてそうなったな。ガッハッハ!」

「いえ構いません。勝手に慌てたのは自分です」

「ガッハッハ!では早速本題に入ろう。問題点は三つある」

ロックジョーは人差し指を立てた。

「まず一つ目は、俺一人では無理だという事だ。
この村を守りつつ、元凶を見つけ出し、潰さないといけないからだ。そして、そこの符術師には、この村を覆う程のデカい結界は張れない。だから俺も動けない」

続けて中指も立てた。

「二つ目は、森に解毒薬を持ち運べない。あいにくマジックバッグは置いてきたんでな」

最後に、三本目の薬指を立てた。

「三つ目はブラックヴァンパイアだ。ブラックヴァンパイアはヴァンパイアではない。
正式名称、ブラックリーチヴァイパー・サックワイバーンという、蛇のような蛭のモンスターだ。名前が長いんで、俺たちはブラックヴァンパイアと呼んでいる」

「え?ヘビのようなヒルですか?ブラック、ん~とヴァイパー?……え~とブラックヴァイパーでいいんじゃないですか?」

「ブラックヴァイパーというモンスターは他にいる。勿論ブラックリーチヴァイパーとリーチヴァイパーもな。ガッハッハ。ここいらの奴らには、この略称は常識だ。まあ呼び方なんて、この際どうでも良い。
いいかブラックヴァンパイアは、ワイバーンに寄生する珍しい蛭だ。ワイバーンが近くにいるという事は、こいつがいる可能性がかなり高い」

「そんな……ドラゴンに寄生するなんて」

「そうだ。そしてワイバーンは毒に弱い。だから湖には近寄らない。毒を持つ、バルーンモスキートがいるからな。そしてブラックヴァンパイアも毒を持っている。血を吸うのを悟られない為の麻痺毒だ。しかし、こいつは自分では毒が作れない」

「まさか!バルーンモスキートの血を吸って毒を取り込んでいるんですか?」

「半分正解だ。血を吸うんじゃない。喰うんだ」

「食べるんですか……」

「ガッハッハ!そうだ。毒を喰うのは雌だけだ。雌は産卵前に、デーモンスパイダーという岩場に生息する毒蜘蛛を喰らい、自ら体内に毒を取り込む。そして毒にまみれた卵を産む。外敵に食われないようにする為にな。そこから孵化した奴らもまた、毒まみれって事だ。その生態に最適な場所がこの湖だ。外敵がいない、こいつには格好の餌場となる」

ゼンジは固唾を飲んだ。

「そして、こいつのたちが悪い所は、主食が血という事だ。もう分かっただろうが、トマトビートルを喰っているのだろう。吸うのではなく喰っている筈だ。となると、わざわざ毒に弱いが、危険なワイバーンに寄生する必要もなくなってくる。と、言うのが俺の憶測だ。ガッハッハ!ほぼ間違いないだろうがな」

ロックジョーは、話終えるとエールを飲み干した。

「何か質問はあるか?」

ゼンジはロックジョーの問いに目を閉じて考えた。

「状況は理解しました。ですがどうして自分が、この村ではなく湖に行くのでしょうか?」

「ガッハッハ!それはお前さんが、毒の効かないマスクとマジックバッグを持っているからだ。俺には使えんのだろう?それに、この村には俺がいた方がいいだろうからな。何が起こるか分からん。ワイバーンが襲ってくる可能性もゼロではない」

(しまった!錬金術のアイテムは自分にしか使えない事にしてたんだった……墓穴をほった。虫だらけの森には入りたくないが、ワイバーンよりはましか?)

「了解!しかし連絡はどうしますか?」

「それはこいつらがやってくれる」

ノックとゴードンは背筋を伸ばし硬直した。

「ブラックヴァンパイアの位置も、そいつがいれば分かるだろう」

リッキーは、指をさされると大きな声で返事をした。

「こっちからの連絡は、俺の連れを行かせる。そいつは今、村を調査中だ。遊んでるかもしれんがな」

ロックジョーは大声で笑い、何杯目かも分からないエールを、水でも飲むかのように飲み干した。

「ガッハッハ!お前さんの錬金術はかなり強力だと聞いた。だが無理はするな!危険だと感じたら直ぐに引き返せ。作戦を立て直す」

「了解!それでは掛かります!」

ゼンジとポーラは立ち上がった。

「嬢ちゃんは残った方が良いんじゃないか?」

「いえ。私は回復魔法が使えます。いざと言う時の為にゼンジについて行きます」

ポーラはメロンを抱きしめて、ゼンジにウィンクをした。

「ガッハッハ!そうか。分かった。二人とも、くれぐれも無理はするなよ」

「「はい!」」

「これが事実ならば生態系が崩れて、森がとんでもないことになります。手遅れになる前に、どうか宜しくお願いします」

村長が立ち上がり、深々とお辞儀をした。

「全力を尽くします」

それに対し、ゼンジは敬礼をした。

「お気を付けて!少しですが解毒薬です」

テープルが、解毒薬の入った麻袋を渡した。

「そうだ。キーラさん、干し肉があれば幾つか分けてください」

「おつまみ用でよければありますよ」

「ありがとうございます」

ゼンジは金貨1枚と、40個の干し肉を交換した。

その後地図を受け取り、右手と右足を同時に出して歩く、カチコチになったハウンドドッグの三人を引き連れて森へと向かった。


(女神様、こちら自衛官、
ギルドマスターって何なのか聞くのを忘れてました。かなり強いのは三人を見て分かりましたが。
どうぞ)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

処理中です...