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25 指定場所に居住する義務

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『白い雄鶏亭』で作戦会議をする事になったが、先ずは疲労を癒すため、ゼンジとポーラは寝る事にした。

「お代は頂きません。ごゆっくりお休みください」

部屋を二部屋借りたのだが、キーラは最後まで一部屋でもいいんですよと言っていた。

別れ際、ゼンジはスキルを使い、新たな迷彩戦闘服をポーラに渡した。

ようやく寝れるとゼンジはベッドに横になると、目を瞑り泥のように眠る……つもりだった。

「眠れない!疲れてるのに!」

ゼンジは大声で叫んだ。フカフカのベッドに横になるが目はギンギンに冴えていた。

「どうして寝れない!なんで……まさか。ステータスオープン」

疲労と寝不足により血走る目は、怒りによって更に真っ赤に燃え上がる。

「何だよ!!『指定場所に居住する義務』って!
ここじゃ寝れないって事か!」

頭が真っ白になりフリーズした。

【指定場所に居住する義務とは、自衛隊法によるところの、その名の通り、指定する場所に居住しなければならない。 と言うものである。】

「ど、どうすれば……トランシーバー!」 

スキルを使用すると、指に現れたトランシーバーのボタンを押した。

〔ザッ「CPO、ここで自分は寝れないのか?」ザザッ〕

〔ザッ『ゼンジ3曹、左様です。指定場所に居住する義務の条件を満たす為には、マスターが家を所有する。もしくは契約して家を借りる。この二つのどちらかを満たす事により、何処ででも寝る事が可能になります。これはクエスト等で遠征しても、最終的に必ず帰る場所を指定するという事です』ザザッ〕

〔ザッ「この宿はタダだから寝れないのか!」ザザッ〕

〔ザッ『契約が必要です。お金を払うだけでは「指定場所」にはなりません。契約を行う事で「指定場所」が確立されます。「指定場所」の申請が済むと、今後どこでも、例え野宿でも宿泊する事が可能になります』ザザッ〕

ゼンジの顔は絶望に染まった。

その時、扉を叩く音が聞こえた。

「ゼンジ大丈夫ですか?怒鳴り声が聞こえましたけど」

ゼンジは扉を開け、ポーラを部屋に入れると泣きそうな顔で状況を説明した。

~~~

「要するに、契約をして自分の家か、借家を借りなければ、スキルが発動して眠れないと言う事ですか?」

「そうみたいだ。CPOに確認したんだが、何処かに一軒でも、自宅か借家があれば、他の場所にも泊まれるみたいなんだ。だから今は野宿も出来ない」

「分かりました。テープルさんに借りれる家がないか聞いてみましょう」

二人は重い足取りでフロントに戻った。

テープルを探すゼンジたちに気付いたキーラが、カウンター越しに声をかけてきた。

「やはり一部屋にするんですね!」

嬉しそうに微笑むキーラに、ゼンジは深いため息をついた後、家を借りたい旨を伝えた。

「何日宿泊されても構いません。お代は頂きませんから」

「いやそうじゃないんだ!金を払いたいんだよ!」

ゼンジのイライラは限界に達していた。その時、あの城の王を思い出した。

~~~

「一瞬でも気を抜くな。寝る事も許さぬ。死に恐怖せよ!」

~~~

(王の呪縛がまだ続いてるのか!)

「受け取れません!何もお礼は出来ませんが、せめてこのくらいはさせてください」

「いや!だからっ!」

大声を出すゼンジをポーラが止めた。

「キーラさん、ごめんなさい。彼は錬金術師です。直ぐにでも新たな武器を作らなければなりません。しかし、ここではそれが出来ません。ですから、どんな所でも構いません。今から、契約が出来る施設はありませんか?」

「そうでしたか。大変失礼しました。しかし今の村の状況では、それどころではありませんし、どこも取り合っては貰えないと思います」

「そうですか……」

ゼンジは立つのもやっとであり、体を支えていた両手がズルズルと滑り、カウンターに万歳の状態で倒れた。

「そろそろ限界だ。目眩がする……何処でもいいから部屋を借りないと……」

「あの~。本当に何処でも良いのでしたら、この宿の部屋を契約してお貸しします。錬金術で壊れても構いません。ご自由にお使い下さい」

「本当か!!!是非お願いします!」

「キーラさん。ありがとうございます。10日間契約させて貰えますか?」

「構いません。それでは早速この羊皮紙に……え~っとちょっと待ってくださいね。
期間は10日間。それと金額は私が決めますね!
え~っと銅貨1枚っと。後はここにお名前を書いてください」

「銅貨1枚は安すぎます!」

「ポーラさん。ここは商人の娘として引き下がれません。恩を仇で返す訳にはいきませんから」

「分かりました。ありがとうございます」

朦朧とする意識の中、二人の会話を聞いていたゼンジは涙を流した。

「ありがとう……やっぱり、あの王が特別なんだよな」

ゼンジは震える手で自分の名前を書いた。
そして、ブラックドラゴンの巣から持ってきた、金貨を1枚キーラに渡してお釣りを受け取った。
ステータスを確認すると『指定場所に居住する義務』は消えていた。

その後ゼンジはポーラに支えられながら、部屋に戻りベッドに倒れると、今度はちゃんと死んだように眠り始めた。

~~~

ゼンジが目覚めたのは次の日の朝だった。新しい戦闘服に着替え部屋を出ると、ポーラを含む他のメンバーは既に食堂に集まっていた。

その中で、ノックは新しい斧をホクホク顔で手入れしている。

加えて、白い髭を蓄えた老人と、昼間から酒を飲む筋骨隆々の大男が座っていた。

「ゼンジ殿。こちらへどうぞ。良く眠れたみたいですね。疲れは取れましたか?」

テープルに勧められて、大男とゴードンの間の椅子に座った。
大男が座る椅子は、悲鳴を上げている。

「あ、はい。村が大変な時に遅くまで寝させて頂き、ありがとうございました」

「いえいえ。今、皆で話していたのですが、今回の作戦は、ゼンジ殿がいなければ成り立たない事ですので」

テープルは、申し訳なさそうに言葉を濁した。
それよりもゼンジは、隣の椅子からのSOSが気になり大男をチラリと見た。

「ガッハッハ!テープルから話は聞いた。色々と助かった!ガッハッハ」

大男が笑う度に、椅子から悲痛な声が聞こえる。

「は、はあ」

豪快な笑い声と声量に気後れして、気の抜けた返事を返した。

「おっと自己紹介が遅れたな。
俺の名はロックジョーだ。ダーナハント、という街のギルドマスターをしている。宜しくな。ガッハッハ。で、こっちの爺さんがこの村の村長様だな」

(ギルドマスター?オンラインゲームに出て来る、チームのリーダーの事かな?でも街って言ったよな?)

無精髭を生やし、ボサボサ髪のロックジョーは酒を飲み干すと、キーラにもう一杯と告げた。

「ゼンジ殿、まずはお礼を言わせて頂きます。ありがとうございました。そしてこの村の現状はご覧のあり様です。不躾な事を言うようですが、ゼンジ殿の御力を貸して頂きたい」

村長と紹介をされた、白い髭を蓄えた老人が申し訳なさそうに言った。

「お礼なんてとんでもない!自分も彼らと出逢わなければ、今でも彷徨い続けていた筈です。そして自分は眠れずに死んでいたでしょう。今考えてもゾッとします。自分が出来ることは何でもやります!」

本当に恐ろしい事である。この村に辿り着けず、キーラに出逢わなければ、ゼンジは間違いなく死んでいた。

「済まないが、また働いて貰う事になるぞ。俺たちは全力でバックアップをさせて貰う。先ずはこれを見てくれ」

ゴードンが、机に広げてある羊皮紙を指差した。

「その前に、ゼンジさんには食事をして貰います」

キーラはゴードンを一瞥し、羊皮紙の上にパンと何かの肉を焼いた料理を置いた。

「キーラさんの言う通りです。まずは食事をして頂きましょう。話はそれからです」

テープルとキーラは見つめ合って微笑んだ。

「キーラさん!何から何まで本当にありがとうございます!いただきます!」

ゼンジは手を合わせ食事を始めた。

「食いながら聞いてくれ。これは、この周辺の地図だ。ここがラムドールの村。その隣にある森が、蠢きの森なんだが、ゼンジにはここに同行して貰う」

ゴードンは、森の中央にある湖で指を止めた。

「以前話した通り、この湖周辺はトマトビートルの生息地だった場所だ。話し合いの結果、この場所で何かが起きている可能性が高いという結論に至った。あくまで推測だがな」

ゴードンは、役目を終えたかのように椅子に座り腕組みをした。
続けて村長が咳払いをした。

「ゼンジ殿には、そこを調査していただきたいのです」

「何の調査ですか?」

「はい。テープルから聞いた話によると街道にワイバーンがいたと言う事ですが、これが問題なのです」

「ええ。それは聞きました。普段は山岳地帯にいるはずだと」

「そうです。ロックジョー殿に聞いた話と合わせると、かなり危険な状態です」

「ガッハッハ。ブラックヴァンパイアが繁殖している可能性があるからな。嬢ちゃんエールもう一杯」

「んぐっ!!」

ゼンジは驚き肉を詰まらせた。胸を叩き慌てて水を流し込んだ。

「ヴァンパイア!!!嘘だろ!あのヴァンパイアがいるのか!!」

ゼンジは口から水を撒き散らしながら叫んだ。


(女神様、こちら自衛官、
恋は盲目とか言ってすみません。怪しんだりしてごめんなさい。キーラさんはとても良い人でした。
どうぞ)
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