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16 スフィアから来たぬいぐるみ
しおりを挟む「ところでメロンは、どうしてこんな所にいるんだ?」
ポーラに抱えられたまま、ほっぺをプニプニされているメロンに聞いた。
『聞きたいの?涙を拭く準備は出来てる?これから話すのは、聞くも涙、語るも涙の物語だよ』
「いーから話せよ」
『やっぱりマスターを付けさせようかな?」
「是非聞かせて下さい」
『うむ。何から話そうか……』
「聞くも涙、語るも涙の物語を聞かせろよ」
『物には順序があるんだよ。まずは、我がマスタードラゴンだと理解したと思うけど、そもそもマスタードラゴンとは何者なのか知ってる?』
「理解はしてないが、まぁドラゴンの頂点だろ?」
『良く出来ました。ただ、何故ドラゴンの頂点なのか?それは……』
「一番強いからだろ?」
『照れるじゃん!で何が知りたいのかな?』
「ほほう。マスタードラゴンはアホなのか?」
『ポーラー。ゼンジが意地悪する~』
「ゼンジ、メロンちゃんを虐めないでください」
「…了解しました。それで!そのマスタードラゴン様は、何故こちらにおいでなのですかっ!?」
『良くぞ聞いてくれた。実は我はマスタードラゴンではない』
「でしょ~ね。お前、はっ倒すぞ!」
『おい!話の腰を折るな!黙って聞け!』
「おまっ!……了解」
『マスタードラゴンとは、この世に一体しか存在しないんだ』
「……」
『……』
「……」
『おい!ここは、何だって!?って大声で聞き返すところだよ!』
「お前が黙れって言ったんだろうが!!はぁ~。じゃあ聞くぞ…何だって!?」
『そんなに驚く事ではない!』
「腹の中の綿を全部抜いてやろうか!」
『ぎゃ~~~~!ドラゴンスレイヤー!』
「話が全く進んでないぞ!」
『貴様がいちいち絡んでくるからだ!』
「なっ!?……了解。続けてくれ」
『ウオッホン!マスタードラゴンは、全てのドラゴンの頂点にいるんだ。そしてその下に、十二の属性を司る、十二体のドラゴンがいるのさ。さらにその下に、それぞれの属性を備えた、様々なドラゴンが分類されている。それら全ての頂点に立つマスタードラゴンは、十二の属性全てを使えるんだよ』
「……」
『残念ながら、今は使うことができないんだ』
「……」
『それはね、我はこの世界の住人ではないからだよ』
「……」
『そうだよ。実は我は表の世界から来たんだ』
「……」
『……』
「……」
『ちょっとは反応してよ!相槌は許可する!』
「いや、普通に驚いてたんだが。色々と聞きたいことがあるが……表の世界とは、異世界の事か?」
『違うよ』
「じゃあ、このナイナジーステラとは、また別の世界があるのか?」
『そうだ。知らないのか?ここは裏の世界。そして表の世界の名は、ナイナジースフィア。我は、そこから来たんだよ』
「どうしてこっちが裏なんだ?」
『ん~。そういうもんだからなぁ~。強いて言えば、スフィアの方が、魔素が大量にあるからだと思うよ』
「マソって何だ?」
『簡単に言えば、魔法を使うためのエネルギーだよ。それが大気中や水中、土の中とかに多く含まれてるから、魔法の威力も回復力も高いんだ』
(ゲームで良く聞く、マナみたいなもんかな?)
「その魔素ってのが多いから表なのか?」
「魔素が豊富にある世界。別名、魔界。魔界は住人もモンスターも、ここより遥かに強いからね。要はスフィアの方が、全てにおいて優れてるからって事かな』
「裏の世界の、弱いモンスターに囲まれて泣いてたのは、どこのどいつだ?」
『仕方ないだろ!この姿は仮の姿だし!』
「仮の姿?どうしてぬいぐるみなんだ?」
『……騙されたんだ!信じてたのに……信じてた仲間たちに…騙されて…奪われたんだ』
「奪われた?何を?」
『マスタードラゴンって、名前とか種族名じゃないんだよ。十二の属性の代表が闘って、勝利した者に与えられる名誉なんだ。
我はその闘いで勝ち上がり、ドラゴンの頂点に立った。そして負けた各代表は、属性の指輪を勝者に譲るんだよ。その指輪を十二個装備することで、全ての属性が使えるようになる。
その時、名実共に名誉ある最強の称号、マスタードラゴンを与えられるんだ。でも、その指輪を奪われちゃった』
「十二個全て奪われたのか!?」
メロンは、右の手の平をゼンジに向けて、小指につけている指輪を見せた。
『今つけている、聖竜の指輪だけは取り返したんだけど、他の指輪は我を騙した者共が、裏の世界、つまり、ここ、ステラへと持って逃げたんだ。我はそれを追って来た!この指輪を全て取り戻す!それまでは表の世界、スフィアには帰らない!絶対に』
「そうか」
ゼンジは真剣に聞いていた。そしてポーラと目を合わせてうなずいた。
「じゃあ、一緒に探そう!」
『……良いのか?』
「勿論ですよ。私たちにも手伝わせて下さい」
ポーラもメロンの、小さな翼を触りながら微笑んだ。
『ありがとう。だけど、我は聖魔法しか使えないよ…しかも、初級魔法だけなんだ』
「マスターヒールは、かなり上級じゃないのか?」
『実はただのヒールだよ。雰囲気でマスターを付けただけで……ごめん、ただのヒールなんだ』
「いや、メロンのマスターヒールで、自分は救われたんだ。大したもんだよ!」
「私たちの目的も出来ました!これからは、指輪を探す旅にしましょう」
「ああ、元々あてもなかったからな。そこは臨機応変に対応可能だ!」
『……貴様ら』
「そうだな!決まりだ!そう言えば、さっきの黄金郷からこれを、拝借してきたぞ」
ゼンジは衣のうの中から、金の指輪や宝石を取り出した。
「この中にあるか?」
『……ない。と言うか、こんなに小さくないんだ』
「どういうことだ?メロンがつけてる指輪は、これより小さいぞ」
ゼンジは、ブラックドラゴンの巣から、危険手当と称して持ち出した指輪を見せながら言った。
『それは普通の指輪でしょ?これは別名ドラゴンリングと言って、ドラゴン専用の指輪なんだ。つける者のサイズによって大きさが変わる、マジックアイテムだよ。これは外すと通常サイズに戻るんだ。そしてドラゴンが装備すると、そのドラゴンに応じてサイズが合うようになるんだ』
メロンは小さな右手をクルクル回して、小指に付けている指輪の、表と裏を見比べていた。それを見ていたゼンジがある事に気付いた。
「ドラゴン以外は装備出来ないって事か。しかしその指輪、どこかで見たことがあるよな…」
『本当に!?それはどこで見たんだ?外して見せようか?』
「ん~」
ゼンジは腕を組み、空を仰いで思考を巡らせた。
(こっちの世界に来てまだ日は浅い。見たとしたら、最初の城のアーノルド王……違うな、ゴブリンとオークも違うし、黄金の馬車か?いや、あそこの中の樽には……)
「そうか!樽だ!」
『樽?』
「ああ、黄金郷の柱だ!」
「あの柱がどうしたんですか?壊れて、樽になりましたよね?」
ポーラはメロンの角をモニモニしていた。
「あの柱は樽かと思ったが、底も蓋もなかったよな?だからもしかしたら。衣のう!」
ゼンジは、スキルを使用して衣のうを出現させた。
『……』
訝しむメロンを他所に、衣のうの中から黄金の樽を二つ取り出した。
『あった~!こ、これだ!炎竜の指輪と、地竜の指輪!』
その樽だと思っていた指輪は、良く見ると下から上へ炎のようなラインが入っており、中央には燃えるように美しい石が嵌められていた。もう一つの指輪は、砂が流れるようなラインであり、大地のような暖かさが感じられる優しい茶色の石だった。
「やっぱりそうか!」
『いきなり二つも見つかるなんて!貴様ら!これをどこで手に入れたの?』
「ここに来る前に、ブラックドラゴンの巣から拝借したんだ」
「そうなんです。後、二つあったのですが、取り戻しに来たブラックドラゴンに、持ち帰られました」
ポーラが残念そうに伝えた。
『ブラックドラゴン?』
「そこに戻れば、二つあるのは分かっているんだが、今は無理だ……相手が強すぎる」
『でも、良かった』
「良かったですね」
「さあ!つけてみてくれ!」
『良いのか?譲ってくれるのか?』
「譲るも何も、これは元々メロンの物だろ?」
『ありがとう!』
ピッピッピッと可愛らしい足音を鳴らして、指輪へと近づいたメロンは、右手を指輪の入り口につけた。そして下を向き、ゆっくり目を閉じた。
ゼンジもポーラもワクワクしていた。
暫くすると、メロンは目を開けて、ゼンジたちへと振り向いた。
『これ、どうやってつけるんだ?』
「…全ての時間を返してくれ」
『触れたら大きさが変わる筈なんだよ!!』
「ドラゴンと認識されてないんだろ?ぬいぐるみだから」
『ぐぬぬ…やはり表の世界に行かないと、装備できないのかなぁ?よし!表の世界に連れていってよ』
「指輪を全て取り返すまでは、絶対に戻らないんじゃなかったのか?そもそも、表の世界への行き方が分からないだろ!」
『時は常に前向きなんだよ!後ろ向きな事を言うんじゃない!!』
「こんな場面じゃなければ、きっと名台詞なんだろうな!」
『お願~い、ポ~ラ~!表の世界に連れてって~』
「指輪も、表の世界に行く手段も、絶対に見つけますからね!メロンちゃん!頑張りましょう!」
『ありがとうポーラ!』
メロンはポーラに抱きつき、ポーラから見えない角度で、ゼンジに向けて、口角を上げニヤリと悪い顔をした。
「こ、この野郎……」
ゼンジはポーラに見えない角度で、握り拳に力を入れた。
『臨機応変に対応しないとね』
ゼンジの握り拳に、血管がビキビキ盛り上がった。
「ぬいぐるみのクセに……」
ポーラは満面の笑みで、メロンに頬擦りしていた。
(女神様、こちら自衛官、
世界が二つあるって本当ですか?ナイナジーステラのモンスターでさえ強いのに、ナイナジースフィアのモンスターを考えると、恐ろしくてたまりません。でもメロンを見てると、大したことなさそうなんですが。どうぞ)
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