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11 とことん自衛官
しおりを挟む「ポム、済まないがもう少し待ってくれ。あの樽まで歩きながら検証してもいいか?」
「良いですが、大丈夫ですか?あしすたんとって何ですか?慌てているようですが…」
「大丈夫だ。使えないと思ったが、まさかの高機能に自分が対応出来ていないだけだ」
ゼンジは衣のうを背負って、歩きながらトランシーバーと交信を始めた。
〔ザッ「アシスタントthis isゼンジ、補佐とはどのような事をするんだ?over」ザザッ〕
〔ザッ『ゼンジthis isアシスタント、補佐とは音声により様々な解説を行い、ゼンジ士長を助ける事ですover』ザザッ〕
(ゼンジ士長?ああ、今の階級は陸士長だったな。これが黒の天使が言ってたシステムの事か?試しに聴いてみるか)
〔ザッ「アシスタントthis isゼンジ、警棒と大楯って何だover」ザザッ〕
〔ザッ『ゼンジthis isアシスタント、警棒とは特殊警棒。伸縮式で材質は金属製です。攻撃力50。消費MP2です。
大楯とは頭部から膝の範囲を覆える程の長さで、攻撃等を防ぐことができます。覗き穴の空いた軽量の金属製です。防御力60。消費MP2ですover』ザザッ〕
(知っている通りの情報だな。他にも何か…そうだ、衣のうからアイテムの取り出し方を聞いてみるか)
〔ザッ「アシスタントthis isゼンジ、衣のうの説明と出し方について教えてくれover」ザザッ〕
〔ザッ『ゼンジthis isアシスタント、衣のうとは、マジックバッグの一種であり、大きさ、重さ、数、全て関係なく無制限に収納する事が出来ます。時間が停止しているので、生きているものは収納することは出来ません。消費MP4です。
自衛官のスキルを使うには、出すイメージをすることにより現れます。over』ザザッ〕
(衣のうからアイテムの出し方を聞いたんだが、言葉足らずだったな。しかしスキルはイメージだけで良いなら、警棒も言葉に出さなくても良かったんじゃないか?要練習だな。それにしてもトランシーバーも、衣のうも高性能だな!黒の天使のお陰だ)
〔ザッ「衣のうからアイテムを取り出す方法を教えてくれ」ザザッ〕
〔ザッ『衣のうの中のアイテムをイメージすると、それが手に吸い寄せられるので、そのまま衣のうから手を出すことにより、中からアイテムが現れます』ザザッ〕
「しまった!this is忘れて普通に話してた!というか要らないのか…それにしてもトランシーバーの対応力、半端ないな!もっと聞きたい!」
〔ザッ「貨幣の種類と、金貨の価値を教えてくれ」ザザッ〕
〔ザッ『貨幣は全て硬貨です。下から順に青銅貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨と上がり、白金貨以外は全て10枚で次の硬貨1枚となります。
金貨の価値は、青銅貨1枚でパンが買えるので、金貨1枚では千個買えます』ザザッ〕
「パンが一個百円として、千個だと金貨の価値は…じゅ、十万円!!」
(金貨21枚あるから、ニ百十万円……)
自然と笑みが溢れた。
「よ~し!どんどん行くぞ!」
〔ザッ「HPとMPを教えてくれ」ザザッ〕
〔ザッ『HPとは、ヒットポイントの略であり、0になると死亡してしまいます。MPとは、ミリタリーポイントの略であり、自衛官のスキルを使用するために必要なポイントです』ザザッ〕
(……聞かなきゃ良かった。聞くべきじゃなかった…また、調子に乗った…まさかのミリタリーポイント)
〔ザッ「マジックポイントじゃないってことは、自分には魔法が使えないのか!? 」ザザッ〕
(頼む違うと言ってくれ!)
〔ザッ『左様です』ザザッ〕
(異世界に来てまで職業が自衛官だし、魔法は使えないし、何一つ良い事がない)
〔ザッ「職業は変えられるんだろう?転職システムのようなものはないのか?」ザザッ〕
〔ザッ『職業は一人につき一つです。変更は出来ません』ザザッ〕
ゼンジはガックリと肩を落とした。
「どうしました?」
「ポム……自分には魔法が使えない事が判明したよ…だから、MPはエーテルじゃなくて飯で回復したんだ」
「そ、そうでしたか。しかし、カガミゼンジさんには錬金術があります。そんなに落ち込まないで下さい」
「そうだな……そうだな…そうだ…無職だったら、もっと大変だったのかもな」
ニつ目の樽を衣のうに吸い込みながら、ボーッとしたままゼンジは答えていた。
(諦めよう。あの女神様だから仕方ない。ちゃんと説明してくれよ……魔法は、諦めよう)
「魔法、使いたかった……よし諦めた!次だ次!」
〔ザッ「衣のうは出しっぱなしなのか?消す方法はあるのか?」ザザッ〕
〔ザッ『自衛官のスキルで出した物は、消すイメージをすれば無くなります。もしくは、24時間経過すれば、自動で無くなります』ザザッ〕
(なる程。衣のうを消す…消す…)
「消えないぞ!衣のう戻れ!」
そう言いながら衣のうを空に投げた。すると手から離れた途端に、衣のうはパッと目の前から消えた。
「消えた…やっぱりイメージは難しいから、言葉に出すようにしよう」
「消えましたね…」
ポムは口を開けて驚いている。
「ナイスアシスタント!」
魔法が使えない事を知ったため、テンションがガタ落ちだったが、アシスタントのお陰で徐々に回復していた。
(しかし、アシスタントは長くて面倒臭いな)
〔ザッ「ニックネームとか付けてもいいか?」ザザッ〕
〔ザッ『可能です』ザザッ〕
「そうだなぁ。どうせなら、宇宙的な名前が良いな。アシスタントと言えばチューイだな!よし!
…いや待てよ。中尉って言ってるみたいで軍隊っぽくて嫌だな…自衛隊関連も避けよう。ん~他のアシスタントは、やっぱりR2何とかがいいかな?喋れるのは、Cー3P何とかじゃなかったか?じゃあそうだなぁ……『CPO』にしよう!」
〔ザッ「アシスタント、お前は今日からCPO だ」ザザッ〕
〔ザッ『かしこまりましたゼンジ士長』ザザッ〕
「CPOのお陰でこの悲しみも乗り越えられそうだ、CPO最高!」
こうしてゼンジは悲しみを一つ乗り越えたのであった。
しかし、チューイよりもCPOの方が自衛隊に近い事に、ゼンジは気付いてはいなかった。
【CPOとは、Chief Petty Officerの略であり、海自の階級で海曹長のことである。ちなみに、ゼンジの階級は陸士長なので、海曹長であるCPOの方が上官にあたる】
ひと段落したゼンジは、脱出した山を見上げた。
そこには壁のようにそびえ立つ、真っ黒な山が水平線の彼方まで広がっていた。
雨雲は何故か山の手前で途切れていた。しかしそれでも頂上が見えない程高かった。
「山の壁だな…」
『ウホ~~!』
「「!?」」
突如、山の方から大きな鳴き声が聞こえた。
「ドラゴンか!?」
ゼンジは慌てて山を見回すと、少し登った所にゴリラのような灰色の大猿が、ゼンジたちを睨みつけていた。
大猿は立ち上がり、両手を広げて再度鳴き声を上げた。
「あの鳴き声は転がりながら聞いたような…」
その姿は巨大で、広げた腕は四本もあった。大猿は四本の腕でドラミングを始めた。
『ドドドドドドドドドドドドドドドドドド』
「何て衝撃だ。振動がここまで響いてくる!ポム逃げるぞ!」
ゼンジはヘルメットを外し、放り投げた。
「逃げるって、どこにそんな場所があるのじゃ!」
ゼンジは後方を見た。
「こっちだ!」
ポムの手を取って走り出した先には、黄金の樽がニつ転がっていた。
「戯け!樽の中では無理じゃ!」
「良いから全力で走れ!」
『ウホ~~!』
大猿は四本の腕と、ニ本の足の六足歩行で、グングン速度を上げて追いかけてきた。
「は、早いのじゃ!捕まるのじゃ~!」
「飛び込めぇぇ~~~!」
ゼンジとポムは黄金の樽に飛び込んだ。
『ウホッ!』
直後、追い付いた大猿が黄金の樽を殴り飛ばした。
樽は、いとも簡単に空中を舞った。
さらに大猿は、落下してくる樽の真下に走り込み、下から猛烈に殴り上げた。
『ウッホッ!』
激しい金属音と共に、樽は再び上空に舞い上がった。
その後も怒りが収まらない大猿は、落下地点でドラミングをして殴り上げる行動を繰り返し続けた。
「上手くいったな」
「し、死ぬかと思ったのじゃ…」
ゼンジとポムは樽には入らず、樽の下にあった地面の亀裂の間に滑り込み、息を潜め身を隠していた。
「取り敢えず、あいつがいなくなるまでここに居よう」
「当たり前じゃ!ここで出て行く戯けはおらぬ!」
「喋り方!!!」
「大きな声を出さなくても聞こえてます」
(……こいつは)
安堵したのも束の間、聞き覚えのある、あの声が響いた。
『グォォォォォ!!!』
「今のは!」
ゼンジは亀裂から恐る恐る顔を出すと、あの黒いドラゴンが大猿と対峙していた。
「黄金の樽を取り戻しに来たのじゃ!怒っておるのじゃ!」
ゼンジの横には、同じようにヒョッコリと顔を出したポムが、この世の終わりと言わんばかりの絶望的な顔をしていた。
「静かに。あいつらが戦っている間に、隙を見て逃げるぞ」
ニ匹の戦闘は、雷の合図で始まった。
雷鳴が轟いた直後、動いたのは大猿であった。大猿は、ドラゴンに向かって走り出し飛びかかる。
しかしドラゴンは羽ばたき、それをかわし、ゆっくり空高く舞い上がった。
今度はドラゴンが地上を睨み、物凄いスピードで、大猿へと向かって急降下を開始した。
大猿も負けじとドラミングを行い、傍にある樽を持ち上げ、降下するドラゴンへと投げつけた。
しかしドラゴンは、ヒラリとかわし、そのままニ本の腕で大猿を鷲掴みにした。
更にその勢いは止まる事なく、大猿を地面に叩きつけた。
爆音と泥水を巻き上げ、衝撃でクレーターが出来上がる。絶叫を上げた大猿は、血を吹き出しグッタリとしているが、ドラゴンは大猿を掴んだまま羽ばたき、再び上空へと舞い上がった。
そして雲の高さまで上昇すると、大猿を掴んでいた手を離した。
叫び声を上げ、もがきながら落下する大猿を、ドラゴンはホバリングをしながら、まさに高みの見物をしていた。
断末魔の叫び声を上げ、地面へと叩き付けられた大猿は、そのまま動かなくなった。
しかしドラゴンは、そこに向かって急降下をし、とどめと言わんばかりに大猿の上に着地した。再び爆音と泥水が巻き上がった。
クレーターの中央には、体が半分埋まった大猿が口を開け息絶えていたが、泥水が流れ込み、それも見えなくなった。
その後ドラゴンは、勝利の雄叫びではなく、勝つ事が当たり前だと言うように、軽くひと鳴きした。
優雅に歩くドラゴンは、ゼンジが回収出来なかった残りの樽ニつを、左右の前足で掴み上げ山へと帰って行った。
「た、助かったのじゃ」
「大怪獣の映画を観てるみたいだな…異世界怖ぇ」
(女神様、こちら自衛官、
いきなりあんなのを見せられてトラウマですよ!異世界が嫌いになりそうです。ドラゴンはもう見たくありません。どうぞ)
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