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15 必殺技

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イセカイザーグリーンに変身したアスカは、村の入り口へ向け風のように走っていた。

「村人に被害を出さずに、一度で全てを倒せるような必殺技は無いのか?」

『説明しよう!
イセカイザーグリーンの必殺技である「グリーンデスサイズ」は、イセカイザーグリーンが敵と認定した相手の命を、一瞬で刈り取るものである。射程距離は半径100メートルである』

「おいおい!それはヒーローが使う技じゃぁねぇだろう!だがまあ、村人を守って敵を倒すという事に変わりはないか……よし!使い方を教えてくれ!」

『説明しよう!
「グリーンデスサイズ」と発声した後、相手を知覚するのと同時に、手の平を相手に向けるとロックする事が出来る。半径100メートル以内の者は全て、ロックする事が可能である。そして手のひらを握り締めると、ロックした相手に対して技が発動するのであ~る』

「良い!技の名前はともかく、何か良い!と言うことはピンクにも必殺技があるのかも!おっと!」

必殺技の説明を受け興奮するグリーンは、気が付けばホブゴブリンたちの目の前に到着していた。急ブレーキをかけ立ち止まると、身に纏っていた風はそのままホブゴブリンたちへとぶつかった。

ホブゴブリンたちは、突然前から突風を受けたのと同時に、目の前に何者かが現れたため、驚き固まっていた。

「あれは何だ?」

「おい!君逃げろ!死にたいのか!」

村人たちが騒ぎ出すと、ホブゴブリンたちも動き始めた。

「覚悟は良いか?グリーンデスサイズ!」

グリーンはホブゴブリンを睨みつけ、右手を前に上げ、手のひらを左端のホブゴブリンへと向けた。するとアナライズと同じように赤色の『+』がホブゴブリンの胸に現れた。

「これがロックか」

それから、右にいる次の標的へ視線を移すのと同時に、手のひらを向けると、次から次へとプラスが現れた。
全てのホブゴブリンをロックしたのを確認し、右へ水平に伸ばしている右手の平を上へ向けた。

「I'm ready」

その言葉の後に、アスカは手のひらを握り締めた。
すると何処からともなく、ホブゴブリンたちの胸元に、密着した状態で風の大鎌が現れた。避ける隙も与えずに一瞬で体に食い込み音もなく切断した。

「なんつ~恐ろしい技なんでしょ~」

目の光を失ったホブゴブリンたちの体は、上下がズレ始め、その場に崩れ落ちた。

ーテレッテレッテ~ツクタンジャジャ~ンジャンー『レベルが上がった』

「グリーンデスサイズ恐るべし……良い子の皆んなは人に向けないようにしてね……つ~かこれはやっぱヒーローが使う技じゃぁねぇだろ!そもそも技名が恐ろしいわ!」

『説明しよう!
「グリーンデスサイズ」別名「死神の風」である』

「そっちの方が怖いわ!」

「うお~~~~!」

「助かった~!」

全てのホブゴブリンが倒された事を知り、村人たちが歓声を上げ始めた。

「ありがとうございます!」

「気にすっ…」

(おっと!声を出すとバレてしまうな……)

グリーンは両手を挙げ歓声に応えた。
すると、村長のムーアンが前に出てきた。

「助かりました。しかし貴方様は何者ですか?その身長、まさかテイマー様では?」

(何だこの爺さんの勘の良さ!)

グリーンは、聞こえないふりをして他の村人の歓声に手を振って応えた。その時だった。

「おい!あれを見ろ!」

一人の村人が、村の入り口を指差した。

「トムとチットじゃないか!」

「無事だったみたいだな」

「あいつらただじゃおかないぞ!」

村人たちが口々に唱えているのは、門を開けっ放しで出て行った二人の子供の事であった。その二人が走って村へ向かっている。

「おい!何かおかしくないか?」

「慌ててるようだな」

「村から煙が上がってるのを見たら驚くわよね」

「いや違う!ゴブリンに追われてるぞ!」

「本当だ!!急げぇ~!」

逃げる子供の後から、斧を持ったホブゴブリンが飛び跳ねながら追ってきていた。

(まだいたのか!)

その時、女の子の方が転んでしまい、ホブゴブリンとの距離が詰まり始めた。

「チット!」

「追いつかれるぞ!」

(まずい!)

グリーンは風を身に纏い、門の外へ駆け出した。

(間に合わない!風よ頼む!)

身に纏っていた風が更に強く吹き始め、イセカイザーグリーンの体は宙に浮いた。

(飛んだ……)

そのまま体を地面と水平にすると、とてつもない速さで子供たちとすれ違い、ホブゴブリンに肉薄した。

『ゲギャ!?』

「ゲッ!」

グリーンは急に止まれない。そのまま頭からホブゴブリンにぶつかると、止まる事なく体を突き抜けた。

「うぇ~、気持ち悪りぃ~」

体を突き抜け不快な気持ちになっていたが、気付くと、とんでもないスピードで村から遠ざかっていた。

「止まれ!止まれ~っと!」

体勢を立て直し両手足を広げ、空中で急ブレーキをかけて止まった。
すると、体に纏っていた風は突風となり、目の前の森にぶつかると、全ての葉っぱをむしり取り、枯れ木の道が出来上がった。

「ふぅ。まぁ何とか間に合ったな」

グリーンが振り向くと、胴体に風穴を開けたホブゴブリンは、驚き固まっていたチットに力なく倒れ込み始めた。

「チット危ない!」

「お兄ちゃん!助けて!」

「まずい!ここからじゃ無理だ」

グリーンは再び風を纏い、猛スピードでチットに向かい飛翔を始めた。しかし、間に合わない。トムも慌てて駆け寄り、手を伸ばすが間に合わない。ホブゴブリンは水飛沫を上げ、チットを潰すように倒れてしまった。

「クソッ!」

グリーンは間に合わなかった。

「チットォ~!」

トムが悲痛な叫び声を上げる。

「お兄ちゃん?」

しかし幸運にも、体に空いた穴からヒョッコリ現れたチットは無傷だった。チットはトムと抱き合うと、手を繋いで走って村に戻って行った。

「ほっ。作戦通り!」

グリーンはゆっくりと停止した。

「グリーンの能力にも慣れてきたぞ。半径100メートルの風を自由に操れるってことは、俺が中心だから結局、どこまでも飛べるってことか?グリーン最高かっ!」

空中で上下左右、バク宙、あぐらをかいて回転等、飛ぶ感覚を楽しんだ。

「しまった!まだ他にもいるなんてことはないよな?」

空高く上昇し周囲を見下ろした。

「他にはいないみたいだな」

安全を確認して地面に降り立った。
すると、再び村から歓声が沸き起こった。

「恥ずかしいけど村に戻るか……」

ゆっくりと地上に降り立ち、子供たちの後を追いかけようとしたその時、炭になった門の枠である見張り台が、音を立てて倒れ始めた。

「キャー!」

見張り台の下を、丁度子供たちが通過するところだった。トムとチットは手を繋いだまま、倒れ来る瓦礫に足をすくませている。

「立て続けにイベントが発生しすぎだろっ!」

グリーンは再び風を身に纏った。
地面から軽く浮き上がると、身体を倒して低空で子供の元へと急いだ。

瓦礫が目前に迫ったトムとチットは動くことも出来ず、口を開けてただそれを見つめていた。

「よっと!」

突如目の前に風と共に緑の人の背中と、なびくマフラーが現れた。

「危なかったな。もう大丈夫だ!」

迫り来る瓦礫を片手で受け止めるその人に、トムは一瞬で心を奪われた。

「あ、あ、ありがとう」

「動けるか?」

「うん!」

「向こうへ走るんだ」

そう言われて、子供たちはようやく動き出し大人たちの元へと走り出した。


一方、イセカイザーグリーンの仮面の中の、アスカの顔は緊張に襲われていた。

(ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!かなりヤバイ!)

HP(ヒーローポイント)を使い果たし、アスカは既にイヤーカフからの警報を耳にしていた。

(体の力が抜けていく!動けない!ここで変身が解けると正体がバレてしまう!いやその前に瓦礫に押し潰されて死んでしまう!)

既に警報は5回鳴っており、後5回で変身が解けてしまう。

「ピンチワーン」


『畳み掛けるピンチにアスカは対応出来るのか?
村人の前で変身が解ける。イコール死。
瓦礫に押し潰される。イコール死。
絶体絶命。イコールヒーロー!
さらばアスカ!さらばイセカイザー!
次回予告
さらば!』

「さらばってなんだよ!怖ぇなおい!!」
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