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第23話 ランダム封入っぽい

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 食堂に移動すると、さっき目が合った客の男たちが、まだ食事をしていた。
「あ、さっきの――」
 僕たちの姿を見て、男たちの方から話しかけてきた。
「俺たちは冒険者やってるんだけど、君たちもかい?」
「あ、はい。僕――わたしたちも冒険者なんです」
 怪しまれてはいけないと、なるべく、愛想よく返事をした。
「奇遇だね。この辺の森は、レアアイテムを落とす魔獣がいるからね。君たちもそれ目当てかな?」
「はい、そんな感じです」
「それにしても、美人だね。どこからきたの? 俺たちと一緒にお茶でもどう?」
 ――ん?
「そうだ。よかったら一緒に魔獣狩りに行かない?」 
「そんなところ立ってないで、隣に座りなよ。俺らが奢るからさ、何でも頼んでいいよ」
 ――この感じ、なんかすごく――ナンパっぽくないか?
「え、えっと……」
「では、羊のステーキ、トウモロコシのスープ、パン、ミルクを四人分お願いします」
「は?」
 いつの間にか、僕の隣に立っていたハインツさんが、満面の笑みで男たちに答える。
「おや? 奢ってくれるのではないのですか?」
「え、いや、まぁ……」
 ハインツさんの押しの強さに負け、結局、彼らは、僕たち四人に食事を奢ってくれることになった。
 情報収集もしたかったし、彼らにはちょっと申し訳ないけれど、丁度よかった。
 彼らは二人組のパーティで冒険者をしていて、主に、魔獣が落とすレアアイテムを売ることで生計を立てているそうだ。
 それとなく、エルフの里のことも聞いてみたところ、17年前の大火で滅んだと聞いて以来、その後のことは何も知らないようだった。
 僕もハインツさんに聞くまでは知らかったし、やはり、少しずつ復興していることを知っている人間は少ないようだ。
 彼らに奢ってもらい、情報まで貰って、こちらは何も返さないというわけにもいかないので、お礼に、僕の歌を聴いてもらうことになった。
 すると、話を聞いた宿屋の店主に、夜、客が多いときに、ぜひ店で歌ってくれとお願いされたので、応じることにした。
 ただ歌を披露するだけではなく、僕が歌っている間に、ルドたちが、集まった客から情報収集する予定だ。

***

「はじめまして。冒険者をしながら旅をしているウィルです。今日は歌を歌います」
 小さな村なので、それほど人は集まらないだろうという僕の予想を裏切り、小さな宿屋の食堂は、村人や旅人で満員になっていた。100人くらいはいるだろうか。座り切れずに、立って見ている客もいる。
「今朝ウィルちゃんを見たときは、こんな別嬪さんがこの世にいたのかって、思わず見惚れちまったよ!」
「いや~俺もさ。こうして可愛いウィルちゃんの歌が聴けるってんだから、仕事を早く切り上げて駆け付けたよ!」
 僕が女性になったときの美貌は、この村の人たちにも有効だったようだ。
 フライハルトで歌っていたこともあり、以前よりは緊張しなかったけれど、初めて歌を聴いてもらう人たちばかりなので、ちょっとドキドキしている。
 今日の衣装は、ハインツさんの趣味で、大胆に胸元が開いていて、太ももまでスリットの入ったロングドレスだ。 ミニスカートよりはまだマシかもしれないが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 選曲に迷ったが、今日は、前世で流行していた、女性の曲を歌うことにした。せっかく女装しているので、挑戦してみることにした。
 アメリカの人気カントリー歌手のラブソング、グラミー賞で全六部門の賞を獲得したイギリス人歌手の失恋ソングを歌って、しっとりしたところで、最後に、日本の北海道出身の実力派女性歌手の前向きになれる曲を歌った。
 女性の姿になると、男性のままでは出せないキーも歌えるから気持ちいい。

「う゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!! ウ゛ィ゛ル゛ち゛ゃ゛ーーーーーーーん゛!!!!!」
 歌い終わった瞬間、宿屋の食堂が、まるで、ヴィジュアル系バンドのライブ会場のようになった。歌を静かに聴いていた客たちが、野太い大きな声で僕の名前を叫んでいる。フライハルトのときと同じように、泣いている人もいた。
 ルドたちはどうだろうか。うまく有用な情報を集められただろうか。
 お辞儀をして簡易的に作ってもらったステージを降り、ルドたちの姿を捜す。
 ルドは後ろの方で、腕組みをして立っていたが、目が合うと、微笑んでくれた。どうやら必要な情報は得られたようだ。
 ルドの隣には、エタが立っていた。目を輝かせて、客たちと一緒に拍手してくれている。可愛い。
 ハインツさんはというと――あの人、何やってるんだ?
 ハインツさんがどこにもいないなと思って、店内を見回すと、売店のカウンターを占領して、何かを売っているようだ。
 何をしているのか確かめようと、ハインツさんのところへ向かう。
「ウィルの絵姿が描かれたペンダントはいかがでしょうか~! 一つ500マイロです!」
「ハインツさん、何してるんですか……?」
 なんと、彼は、いつの間にか用意した僕の絵姿をはめ込んだペンダントを売ろうとしていた。そんなもの売れるわけないと思うのだが、僕の歌を聴き終えた客たちが、ハインツさんの元へ群がり始めた。
「俺はこの、正面を向いて微笑んでいる一番のウィルちゃんが欲しい!」
「私は、愁いを帯びた横顔が美しい五番のウィルちゃんをくれ!」
「お客さん、順番に並んでくださいね! 恐れ入りますが、どのウィルが出るかは運次第となっています。すべて、中身が見えない袋に入っていますので、購入後、袋を開けて、お確かめください。 お一人様二十個までの購入が可能です! 通常のウィルが全十種類、見本には出ていない、秘密のあんなウィルや、こんなウィルが全三種類です。なくなり次第終了となります! ちなみに、あちらが交換スペースとなっております」
「はぁ~…………」
 ため息しか出ない。そのやり方って、日本でもよくあったやつ。ファン心理を逆手に取って、お金を湯水のように使わせる販売方法と聞いている。
 前世の僕のファンクラブでは、そういうグッズ販売のやり方はしていなかったけれど、知り合いが出演した、アニメ原作の舞台のグッズとかでは、よく行われていると教えてもらったことがある。まさか異世界でもそんな商売方法を考え付く人がいるとは。
 あ、まずい。歌を歌ったせいもあり、眩暈がしてきた。
「ウィル、部屋に戻ろう」
 僕がふらついたタイミングで、ちょうどよくルドが傾いた身体をキャッチしてくれた。
「ありがとう。でもちょっと今は眩暈がひどくて、階段を上がれそうにないから、少し待ってて――わぁ!」
 待っててほしいと言おうとしたのに、ルドが突然僕を抱き上げた。これって、『お姫様抱っこ』ってやつだよね!? スカートを履いているから仕方ないとはいえ、こんなふうに抱かれると、すごく恥ずかしい。
「うわ~~~~~~!!!! 俺のウィルちゃんが~~~~!!!!」
 その様子を見た客たちが、一斉に悲鳴を上げた。今まで商売に夢中で、目がマイロマークになっていたハインツさんも、悔しそうにこちらを睨んでいる。
「ルド、早く部屋に連れて行って……!」
 この姿を皆に見られていると思うと恥ずかしくてたまらなくて、早く部屋に連れて行ってくれるよう、ルドにお願いした。
「エタもお部屋に戻るよ?」
「ぷぅ~~~~!!!!」
「え?」
「ボクも抱っこ!!」
 あらら。エタも抱っこしてもらいたくなっちゃったか。
「部屋に戻ったら抱っこしてあげるからね?」
「違うもん! ボクが抱っこするの!」
「ええ!? エタが抱っこするの?」
「うん! ボクがウィルを抱っこする!」
「それはちょっと難しいんじゃないかな?」
「いやぁ~! 抱っこする!!! うわーーーーん!!!」
「わぁ! エタ、ちょっと落ち着いて!」
 しまった。エタが泣きを始めてしまった。助けを求めて、ルドの顔を見ると、彼は、一度僕を下ろし、暴れるエタを肩に担いだ。まさか――
「わぁ~!!」
 ルドは、エタを肩に担いだ後、再び僕をお姫様抱っこした。この人、どんだけ力持ちなの!?
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