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第16話 仲直りしたっぽい
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寒い――またあの夢だ。
僕は、雨の中一人歩いている。この後、父が目の前で――
あれ? 温かくなってきた。いつもだったら、この後に続くはずの映像が、いつまでも流れない。
それどころか、降り続いていた雨は止んで、身体がポカポカしてきた。
気がつくと、目の前に父が両手を広げて立っていて、傍に行くと、ギュッと抱きしめてくれた。トラックは来ない。
――――幸せだ。今が永遠に続けばいいのに。
「――――父さん」
目が覚めた。まだ頭がぼんやりとしている。
それにしても、とても幸せな夢だった。いつもは辛い夢のはずが、今回は違った。
その理由は、すぐに分かった。ルドが、僕の手を握りしめたまま、ベッドに突っ伏して眠っている。
こうして僕の手を握っていてくれたおかげで、悪夢を見ずに済んだのだろう。
昨夜は、ハインツさんと一緒に酒場へ行き、歌を歌ったのは覚えている。その後、皆が喜んでくれて、僕も嬉しくなって、だけど、突然眩暈がして――その後はよく覚えていない。
きっと、とても心配をかけただろうし、約束を破って歌を歌ってしまった。ルドが起きたらちゃんと謝らないと。
「ウィル……? 目が覚めたか。体調はどうだ?」
僕の気配に目を覚ましたルドが、顔を近づけてきたと思ったら、ルドのおでこが僕のおでこにコツンと当たった。
「うん、熱は下がったな」
「あの、ルド……」
謝らなきゃ。一人で旅の資金を工面してくれたのにそれを責めたこと、約束を破って歌ったこと、体調を崩して心配をかけたこと――。
だけど、喉がヒリついて、なかなか言葉が出てこない。もし、許してもらえなかったらと思うと怖い。
「ウィルの気持ちを考えずにすまなかった」
「え――」
それは僕が言うべき言葉なのに、なぜルドが謝るのだろう。
「ウィルを護りたいと思うあまり、自分の意見を押し付けていた。だが、これからは、何事も、二人で相談して決めていこう」
ルドが悪いわけじゃない。僕がただ、何もできない自分に腹を立てて、ルドに八つ当たりをしただけだ。
「ルドは何も悪くない。僕の方こそ、ごめんなさい。僕は、生まれてから今まで、ずっとルドに護られて生きてきたけど、護られてばかりいて、何もできない自分が嫌だったんだ」
「そんなことはない、ウィルは――」
「ううん。最後まで聞いてほしい。ルドは、僕が王子という立場だったから、護ってくれていたのだし、今も、いつか僕がルシャード殿下を退けて王位に就くことを前提に、護衛を続けてくれているんだと思う。だけど、僕は、王位に就く気はないんだ。そのことをルドに言えば、別れなければならないと思うと、なかなか言い出せなかった。だから、ルドに釣り合うくらいの力をつけようと焦ってしまった。でも、もう、これ以上ルドに迷惑をかけるわけにはいかない。今まで、僕を護ってくれてありがとう。そして、たくさん迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。ルドは、もう僕の護衛を――」
続けなくていい、という言葉は、言えなかった。
なぜなら、ルドが、突然、僕を強く抱きしめたから。びっくりして、息が止まってしまった。
「それ以上は言うな!」
「ル、ルド……?」
「俺は――――――」
――コンコン
ルドが何かを言いかけたその時、ドアをノックする音がした。
「おはようございます。ハインツです」
「え、ハインツさん?」
「体調を見に来ました。入ってもよろしいでしょうか」
「あ、どう――」
「待て」
どうぞと言おうとして、ルドに止められる。
「髪の色をまだ変えていない」
「あ、そうだった」
いつものように、光魔法で髪色を変えてもらう。やっぱり、ルドの魔法は温かい。
「入れ」
魔法をかけ終わると、ルドが入室を許可する。
「おはようございます。ウィルの体調はどうですか?」
「あ、お陰様で、今はもう大丈夫です。あれ? ハインツさん、その顔どうしたんですか?」
きっとハインツさんにも迷惑をかけたに違いない。謝ろうと、ハインツさんの顔を見ると、そのキレイな顔に痣ができている。もしかして、僕が倒れたときにぶつかってしまったのだろうか。
「あぁ、これは気にしないでください」
「そうですか……? あの、昨日は色々とすみませんでした」
「いえ、謝るのは私の方です。無理をさせてしまいました」
あれ? いつもはこのあたりで、ルドとハインツさんが口論を始めるのだけど、今日は二人ともやけに大人しい。
沈黙を破り、口を開いたのはルドだった。
「昨夜の話は聞いた。魔法の練習をして、その後酒場で、歌を歌ったと」
「あ、約束を破ってごめんなさい――」
「それはもういい。ウィルがどんなに楽しそうに歌っていたか、その男に聞いた。そんなにウィルが歌が好きだったとは知らなかったんだ。それを無理やり禁じるようなことをして、すまなかった」
「ルド……」
どうしてそんなに優しい言葉をかけてくれるのだろう。簡単な約束も守れない僕に、愛想を尽かせてもおかしくないのに。
「私も、強引にウィルを連れまわしてしまい、反省しています。すみませんでした」
「ハインツさん……」
いつもとは違う雰囲気に、だんだん居心地が悪くなってくる。どう考えても一番悪いのは僕だと思う。
「あの、これでみんな謝ったのだし、これまでのことは全部チャラにして、改めて、三人で仲良く――あ……」
そうだ、さっきルドに、もう護衛をしなくていいと言ったばかりだった。
「ウィル?」
ハインツさんが、言葉に詰まった僕を心配そうに見ている。
「そうだな。ウィルがそれでいいというのなら、俺は構わない。手始めに、三人パーティで冒険者登録するのはどうだ?」
「えっ――?」
そう提案したのは、ルドだった。あんなにハインツさんを毛嫌いしていたのに、ちょっと信じられない。
「それはいい考えですね! そうと決まれば、さっそくギルドに参りましょう!」
色々と疑問は残ったが、どうやら、僕は、まだルドと一緒にいられるらしい。
ルドの気が変わるまでは、僕からはもう何も言わないでおこうと思った。
僕は、雨の中一人歩いている。この後、父が目の前で――
あれ? 温かくなってきた。いつもだったら、この後に続くはずの映像が、いつまでも流れない。
それどころか、降り続いていた雨は止んで、身体がポカポカしてきた。
気がつくと、目の前に父が両手を広げて立っていて、傍に行くと、ギュッと抱きしめてくれた。トラックは来ない。
――――幸せだ。今が永遠に続けばいいのに。
「――――父さん」
目が覚めた。まだ頭がぼんやりとしている。
それにしても、とても幸せな夢だった。いつもは辛い夢のはずが、今回は違った。
その理由は、すぐに分かった。ルドが、僕の手を握りしめたまま、ベッドに突っ伏して眠っている。
こうして僕の手を握っていてくれたおかげで、悪夢を見ずに済んだのだろう。
昨夜は、ハインツさんと一緒に酒場へ行き、歌を歌ったのは覚えている。その後、皆が喜んでくれて、僕も嬉しくなって、だけど、突然眩暈がして――その後はよく覚えていない。
きっと、とても心配をかけただろうし、約束を破って歌を歌ってしまった。ルドが起きたらちゃんと謝らないと。
「ウィル……? 目が覚めたか。体調はどうだ?」
僕の気配に目を覚ましたルドが、顔を近づけてきたと思ったら、ルドのおでこが僕のおでこにコツンと当たった。
「うん、熱は下がったな」
「あの、ルド……」
謝らなきゃ。一人で旅の資金を工面してくれたのにそれを責めたこと、約束を破って歌ったこと、体調を崩して心配をかけたこと――。
だけど、喉がヒリついて、なかなか言葉が出てこない。もし、許してもらえなかったらと思うと怖い。
「ウィルの気持ちを考えずにすまなかった」
「え――」
それは僕が言うべき言葉なのに、なぜルドが謝るのだろう。
「ウィルを護りたいと思うあまり、自分の意見を押し付けていた。だが、これからは、何事も、二人で相談して決めていこう」
ルドが悪いわけじゃない。僕がただ、何もできない自分に腹を立てて、ルドに八つ当たりをしただけだ。
「ルドは何も悪くない。僕の方こそ、ごめんなさい。僕は、生まれてから今まで、ずっとルドに護られて生きてきたけど、護られてばかりいて、何もできない自分が嫌だったんだ」
「そんなことはない、ウィルは――」
「ううん。最後まで聞いてほしい。ルドは、僕が王子という立場だったから、護ってくれていたのだし、今も、いつか僕がルシャード殿下を退けて王位に就くことを前提に、護衛を続けてくれているんだと思う。だけど、僕は、王位に就く気はないんだ。そのことをルドに言えば、別れなければならないと思うと、なかなか言い出せなかった。だから、ルドに釣り合うくらいの力をつけようと焦ってしまった。でも、もう、これ以上ルドに迷惑をかけるわけにはいかない。今まで、僕を護ってくれてありがとう。そして、たくさん迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。ルドは、もう僕の護衛を――」
続けなくていい、という言葉は、言えなかった。
なぜなら、ルドが、突然、僕を強く抱きしめたから。びっくりして、息が止まってしまった。
「それ以上は言うな!」
「ル、ルド……?」
「俺は――――――」
――コンコン
ルドが何かを言いかけたその時、ドアをノックする音がした。
「おはようございます。ハインツです」
「え、ハインツさん?」
「体調を見に来ました。入ってもよろしいでしょうか」
「あ、どう――」
「待て」
どうぞと言おうとして、ルドに止められる。
「髪の色をまだ変えていない」
「あ、そうだった」
いつものように、光魔法で髪色を変えてもらう。やっぱり、ルドの魔法は温かい。
「入れ」
魔法をかけ終わると、ルドが入室を許可する。
「おはようございます。ウィルの体調はどうですか?」
「あ、お陰様で、今はもう大丈夫です。あれ? ハインツさん、その顔どうしたんですか?」
きっとハインツさんにも迷惑をかけたに違いない。謝ろうと、ハインツさんの顔を見ると、そのキレイな顔に痣ができている。もしかして、僕が倒れたときにぶつかってしまったのだろうか。
「あぁ、これは気にしないでください」
「そうですか……? あの、昨日は色々とすみませんでした」
「いえ、謝るのは私の方です。無理をさせてしまいました」
あれ? いつもはこのあたりで、ルドとハインツさんが口論を始めるのだけど、今日は二人ともやけに大人しい。
沈黙を破り、口を開いたのはルドだった。
「昨夜の話は聞いた。魔法の練習をして、その後酒場で、歌を歌ったと」
「あ、約束を破ってごめんなさい――」
「それはもういい。ウィルがどんなに楽しそうに歌っていたか、その男に聞いた。そんなにウィルが歌が好きだったとは知らなかったんだ。それを無理やり禁じるようなことをして、すまなかった」
「ルド……」
どうしてそんなに優しい言葉をかけてくれるのだろう。簡単な約束も守れない僕に、愛想を尽かせてもおかしくないのに。
「私も、強引にウィルを連れまわしてしまい、反省しています。すみませんでした」
「ハインツさん……」
いつもとは違う雰囲気に、だんだん居心地が悪くなってくる。どう考えても一番悪いのは僕だと思う。
「あの、これでみんな謝ったのだし、これまでのことは全部チャラにして、改めて、三人で仲良く――あ……」
そうだ、さっきルドに、もう護衛をしなくていいと言ったばかりだった。
「ウィル?」
ハインツさんが、言葉に詰まった僕を心配そうに見ている。
「そうだな。ウィルがそれでいいというのなら、俺は構わない。手始めに、三人パーティで冒険者登録するのはどうだ?」
「えっ――?」
そう提案したのは、ルドだった。あんなにハインツさんを毛嫌いしていたのに、ちょっと信じられない。
「それはいい考えですね! そうと決まれば、さっそくギルドに参りましょう!」
色々と疑問は残ったが、どうやら、僕は、まだルドと一緒にいられるらしい。
ルドの気が変わるまでは、僕からはもう何も言わないでおこうと思った。
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