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「っ、フィア」
「ん……、嫉妬、するわ。ルイスは、わたくしの」
「フィア、もう良いだろ。抱かせてくれ」

 激しい熱に燃える瞳がソフィアを射抜いた。

 彼女は一瞬息を殺され、もう一度唇を寄せてくる男に正気を取り戻す。

 ソフィアは慌ててその唇を手で塞ぎつつ、不機嫌そうに視線で咎めてくるルイスに微笑んだ。

「ルイス、いつから貴方、私を」

 ソフィアが最後まで問いかけ終える前に、ルイスが彼女の小さな手を口元から剥がした。低音が、躊躇いなくその耳に囁く。

「初めから、貴女に惹かれている」
「はじめ、って……っあ、ん、」

 ソフィアの理性を削ぐように胸の飾りを熱心に引っ掻いたルイスは、組み敷く女の瞳が、徐々に熱っぽく揺れていくのを見取っていた。番がルイスの熱に溺れていくさまを見ているのが、彼はいっとう好きだ。

「初めて貴女と目を合わせた時、この世の奇跡を呪った」
「のろ、……っ、あ、まっ」
「フィア、貴女が俺の番であることは、すぐに分かった。人族の貴女には感じられないだろうが、俺は」
「まっ、て……? つ、つがい?」
「なぜ驚く」
「え、ええ? そんな、だって」
「なぜ疑う?」

 ——だって、貴方の番は、シェリーのはずだ。

 ソフィアは言葉にならず、呆然と男を見つめていた。彼女がどれほど信じられない思いで見上げていようと、ルイスは怪訝そうに眉を顰めるだけで、言葉を撤回しようとはしない。

「フィアが感じられないのは無理もない。俺たちは種族が違う」
「しゅ、ぞくが違っても、番になる、ものなの?」
「そうらしいな。現に俺がそうだ」
「さっかく、ではなくって?」
「なぜ否定する?」

 恋人のように寝台で戯れている。そのはずが、拒絶をするのはおかしい。

 ソフィアはそのことに思い至って、慌ててルイスの唇に吸い付いた。

 ルイスは触れあうだけの口づけを好んでいる。ソフィアは聞かれたくないことを問われそうになるたび、この方法で難を逃れていたのだが。

「フィア、答えろ」
「いえ、ですから……、しんじられな、くて」
「なぜだ。これほどまでに交接しておきながら、他の女性を恋い慕う男に見えるのか」
「それは」

 そのようには見えないから、ソフィアは何度も混乱させられていた。まさか、己がこの男の番であるなどと思うはずもない。

 ルイスは自身の感情が全く番に伝わっていなかったらしいことを察し、深くため息を吐いた。

 ソフィアがびくりと反応する。

「フィア」
「ん、…‥はい」

 耳元にたっぷりと艶を含んだ声を囁かれたソフィアは、無意識に身体を捩らせながらか細く答える。

 まさか、ルイスの番が自分であるなど、やはり信じられない。そうだとするならば、ソフィアがこれからしようとしていることは、彼の人生を酷く苦しめるものになるかもしれない。

 あるいは、本当に二人でこのままどこかへ、逃げることもできるのではないか。

 ソフィアが混乱しながら夢想していたのは、愛する者とともにあることのできる架空の未来だ。

 叶うはずもない。

「フィア」
「は、い」
「フィア」
「ルイ、ス?」
「貴女を愛している。フィアは俺の番だ。……俺が、貴女以外に欲を催すことは一生ない。これ以前にも、今後にもだ。よく覚えておけ」
「これ、いぜん……?」
「フィア以外と交接しようと考えたことはない」

 信じがたい言葉にも、正しい言葉にも聞こえた。ソフィアははじめ、この男が初心で生真面目な堅物騎士だと思っていたのだ。その通りだった。ただ一人、ソフィア・フローレンスの前を除いて。

「フィア、愛してる」
「ルイ、ス、まって」
「まだ待たせるのか?」
「だって、待って、落ち着い……」
「フィア、貴女に俺の思いが全く伝わっていないことはよくわかった。今宵、全てたっぷりと教える」
「おまちに、なって、ひゃ、ぅ!?」

 胸を弄っていたはずの手が、あっさりと股ぐらに触れ、迷いなくソフィアのアンダーショーツを脱がせた。

「フィアの身体は、とっくに俺を待ちくたびれているが」
「やっ、……っひ、んんん、っ、ぁ、ああ」

 ぐちゅり、と卑猥な音を立ててたっぷりと蜜を纏わせたルイスの長く太い指がソフィアの蜜口に飲み込まれて行く。

 押し込まれる度、くぷ、と音を立てているようにさえ感じられて、ソフィアは羞恥心に我を忘れて頭を振り乱した。

 これが始まると、ソフィアはただ与えられる刺激に酔って、ルイスに縋り付くか弱き者になってしまう。

「たっぷり咥えこんでいる。フィア、気持ちが良いのか?」
「や、っ、はな、話、っ、ああっ」

 必死で抵抗するソフィアは、乱雑に突っぱねた手が、大きな指に制圧されたのを感じ、肩を震わせる。

 逃げられるはずもない。

 ルイス・ブラッドの愛は、激しい執着の炎の中にある。何度も感じさせられていたことを思い出したソフィアは、捕らえた番を見下ろす男の瞳が子どものように嬉々として輝いていることを知った。

 ルイス・ブラッドの瞳が星のように輝くのは、実のところ、番であるソフィア・フローレンスを見つめている間だけだ。彼女はそれも知らず、ただ、美しい輝きに魂を奪われ、息をのんでいた。

「フィア。貴女の拒絶は戯れにしか見えない」

 ソフィアのとろけきった瞳を見下ろすルイスは、とうとうそのか弱い抵抗を封じて、興奮を抑えることなく服を脱ぎ散らかした。

 たっぷりと口づけながら、ソフィアの蜜壺の浅い部分を引っ掻き、簡単に極めるソフィアの身体に唾液を含ませる。すでに十分な体液を取り込んでいるソフィアは、淫靡なやり取りに頬を赤く染めて泣きそうに眼をゆがめた。

「てかげん、してくださ、る?」
「フィアの頑張り次第だな」

 厳しい教官のように囁いたルイスは、不満げに眉を顰めるソフィアを咎めて蜜口に咥えさせる指先の数を増やした。

「あぅっ……やっんん! ひ、ぁ」
「すぐに飲み込んで……フィアは覚えが良い、いい子だな」
「ちが、っあん!! ひっ……、ふ、ぁっ……!」

 彼はすでに蜜口を見ていなくとも、どのように弄ればソフィアが達してしまうのか熟知している。もう何度も咥えさせた陰唇は、すっかりルイスの虜だ。

 ルイスが弄りやすいように無意識に股を開くソフィアが可愛らしい。ルイスは冷静さを残した瞳のソフィアがしどけなく欲に酔いながらも己を見上げてくる愛おしさで、今すぐにでも深く繋がり合いたい欲望に駆られる。

「フィアはここも好きだろ」
「ん、っ、ひ、っ!! あ、ああっ」

 ルイスはたっぷりと誑かすように囁き、指先を突き入れつつ親指の腹で陰核を撫でつけた。

 ソフィアは些細な刺激にも腰を浮かせて法悦の波に飲みこまれる。昼の思い通りにならない可愛らしさとは違った従順な姿に、ルイスは囚われ続けている。

「貴女が好いなら、もう一度ここに触ってやるが」
「……ん、ふ、っ、いじ、わる……っ」
「昼の貴女も、俺にはつれない態度ばかり取っている」

 ルイスはそれが、彼女の使命のために必要な演技であることを既に知っている。それを教えても良いと思えるほどソフィアの近くに己が存在しているのだと理解すると、ルイスはやはり浮かれずにいられない。
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