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4話 折り紙とシャボン玉(2/4)

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「ひどい……」
シェルカの落とした小さな声に、ニディアがびくりと肩を揺らす。
まずいな。
「シェル……」
「わざとじゃない!!」
ニディアの上げた大声に、部屋中がビリリと揺れる。
「……わざとじゃないのはわかってるよ。これは二つのパーツを組み合わせてるだけだから、すぐ外れるんだ。戻せばいい」
言いながら、俺はコマを拾い上げて元に戻す。
二人から、ホッとした気配を感じる。
……どうしたもんかな。このままにしておく方がいいのかも知れないが……。
俺はシェルカを見る。シェルカはやはり、まだ悲しみを瞳に浮かべていた。
俺は一呼吸だけおいて、ニディアの前にかがみ込んで、声をかける。
「わざとじゃなくても。……それでも、相手を傷つけてしまった時には、その相手を傷つけてしまったという点において、謝る必要があると、俺は思うよ」
金色の瞳が、怒りを宿してカッと六つ見開かれる。
うお。人型になってもさすがドラゴン。すごい迫力があるな……。
「ボクに指図するのか!?」
指図だったか!?
「二つ目の分際で!」
怒りを剥き出しにしたニディアの口元に、グググと立派な牙が現れる。
向こうでリーバちゃんが泣き出したのも気になるが、とにかく今はシェルカを後ろへ下がらせる。
「お前なんか食ってやる!!」
宣言されて、俺はザルイルに渡された拘束用アイテムの腕輪に手をかけた。
俺の仕草に、ニディアが一瞬怯む。
どうやら、彼はこれがなんだか知っているらしい。
……ってことは、この子は今までもこんな風に園で暴れては拘束されてたって事なのか……?
ザルイルは、そうさせたくなくて俺のとこに連れてきたのに……?
「できる物ならやってみろ! どうせ使い捨ての拘束具なんて長く持たない! 拘束時間が切れた時が、お前の最後だ!」
言われて、なるほどと思う。その通りだよな。
ここでニディアを拘束したところで、何も解決しないじゃないか。
いや、というか今まで俺はどうしてた?
注意に暴れたり反発するような子は、今までだっていたじゃないか。
そんな時は……。
ニディアが、拘束覚悟で俺に飛びかかる。
ガブリ、と硬いものが肩に食い込む感触。
「いっ……」
「くそっ防御術か!」
ニディアが忌々しげに耳元で吠える。
……いや、十分貫通しましたけど???
って、これ防御の術がなかったら俺の肩は食いちぎられてたって事か!?
ドラゴン怖すぎるわ!!
俺は心で叫びつつも、ニディアの背を撫でて精一杯落ち着いた声で話しかける。
「よしよし……」
「!?」
「ニディアも、わざとじゃなかったのにコマが壊れてびっくりしたもんな」
ニディアの小さな背が、驚きに揺れた。
じわりと俺の肩から牙を抜くニディアに、俺は痛みを必死で堪える。
「お前…………、拘束具は使わなかったのか?」
ようやくニディアはそれに気付いたらしい。
拘束されるのを覚悟した上で一撃入れにくるなんて、本当に根性あるよなぁ。
俺は、苦笑しつつ答える。
「話して分かる相手に、使うもんじゃないなと思ったんだよ」
「話して……わかる相手……」
ニディアが俺の言葉を繰り返す。
「ああ、俺もニディアも、こうして会話ができるだろ?」
「…………そう、だな……」
それきり黙ってしまったニディアだが、大人しく俺の腕の中で撫でられてるって事は、しばらくこのまま宥めてやる方がいいか……?
けど向こうで泣き出したリーバちゃんの様子は一度見に行った方がいいな……。
「ちょっと移動するぞ。リーバちゃんが泣いてるからな」
怪我のない方の腕で抱き上げれば、ニディアは慌てるようにギュッと俺にしがみついた。

「ヨ……ヨーへー……血が……」
震える声に振り返れば、シェルカが震えている。
しまった。シェルカを怯えさせてしまったか。
俺の肩から流れた血は、床に赤い雫を落としていた。
「シェルカ、治る水を汲んできてくれるか?」
俺が笑って言うと、シェルカは恐怖に引き攣った顔をちょっとだけ緩ませて、慌てて駆け出した。
うーん……、シェルカに関しては、血を見せてしまったのは不味かったかもしれないな。
あまりニディアを怖がらないでくれればいいんだが……。

それでもまあなんとか、一日目は無事に終わった。と言っていいだろうか?
子どもたちは、三人一緒に子ども部屋で寝ている。
ニディアは一人で風呂にも入れると言って一人で入ってしまったし、歯磨きも自分だけでいいと言っていた。なんとか頼み込んで仕上げ磨きはさせてもらったが、あれだけちゃんと磨けているなら、明日以降は無理にしなくてもいいかも知れないな。
それにしてもドラゴンの歯並びはすごかった。あれなら何でも噛み砕けそうだ。

そんな事を思い返しながら、俺は明日の遊びに使うための道具を作っていた。

明日はどうにかして、ニディアとシェルカの間のギクシャクした感じを取っ払ってやりたいな。
針金で作った枠に、くるくるとボロ布を巻きつけつつ、襲い来る睡魔に俺はうつらうつらと船をこいでいた。
これで数は足りるか……。えーと、あと必要なのは……。
段々と、夢と現実の境が曖昧になってゆく。
いや、むしろ今この状態が夢の中なんだっけな……。

よし、できた……。
これで……、一緒に、遊んで……くれ……れ、ば……――。
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