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3話 やっぱりめちゃくちゃデカかった(1/3)
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「なんだ、この音!?」
「これは、巣の結界を許可されてない人が通った時の音だよ!」
俺の問いに答えるライゴ、その声は不安に染まっている。
「それってまさか……」
「「シェルカ!!」」
俺はライゴとともに叫ぶと、まだここへきてから一度きり通ったのみの扉へと走る。
扉は開いた。
けれど俺はそこを通れなかった。
バチっと静電気を何倍にもしたような派手な音がして、部屋の中へと弾き飛ばされる。
俺は咄嗟にリーバちゃんを守るように抱き抱えたまま、壁に背を打ちつけた。
「……ってぇ……」
リーバちゃんは驚いた顔をしていたが、涙は逆に引っ込んだらしい。
「ライゴ! その辺にシェルカがいないか探してくれ!」
俺と違って外に出られたライゴに俺は声をかける。
「探してるー! でもいないよぉ……っっ」
ライゴの涙混じりの声。
そうだよな、不安だよな……。
くそっ、こんな時に俺が外に出られないなんて……っっ。
リーバちゃんを巻き込まないように、部屋に戻って安全なサークル内にそっと下ろす。
「ごめん、ちょっとだけ待っててくれな!」
俺は結界と呼ばれるそれにもう一度体当たりする。
今度は弾かれないように、体重をかけて、前傾姿勢で。
バチバチと電流が走るような感覚がめちゃくちゃ痛いが、じわりと肩が外に出て、このまま強引に突破できると踏んだ。
火傷のような赤い傷が、幾筋も体に浮かぶ。
それでも、なんとか俺は結界を通り抜ける事ができた。
「ライゴ!」
外で不安げにシェルカの名を呼びながらキョロキョロしていたライゴが、茂みの向こうを見たまま、ハッとした顔をする。
駆け寄りながら視線の先を辿れば、そこには確かにシェルカがいた。
どこから引きずってきたのか、大岩に乗って、木の枝を握って、精一杯腕を伸ばしている先には、蜂の巣……っていや、それ蜂の巣って言っていいレベルか!?
デカすぎんだろ!!
「シェルカ! やめろ!!」
叫んだつもりの俺の声は途中から掠れて消える。
シェルカの木の枝が、蜂の巣を掠める。
デカすぎる蜂の巣から出てきた蜂は、やっぱりめちゃくちゃデカかった。
「シェルカ!」
虫嫌いのシェルカは、蜂の姿に完全に怯え、立ちすくんでいる。
蜂は、そんなシェルカに敵意をむき出しにして襲いかかった。
「伏せろ!」
掠れた声で叫ぶも、シェルカは動けない。
必死で走って、シェルカに覆い被さるようにした瞬間、脇腹から背までをざっくりと熱い感触が走った。
「――ゔぁっっ!!」
「ヨーへーっ!!」
シェルカの声に涙が滲んでいる。
「シェルカ……。巣まで……、戻れるか……?」
俺はなるべく優しい顔を作って言った。
こんな時、こっちがパニックになっては子どもまで動揺する。
怪我の時こそ平静に。だ。
シェルカは目にいっぱい涙を溜めて、どうしたらいいのかわからない顔をしている。
ライゴに連れて帰ってもらおうにも、ライゴも蜂が怖いのか近くまで来れずにいる。
「俺と……、一緒に、走るぞ、いいな?」
引き裂かれた背中が痛くて、何度も息が詰まる。
俺が走れるかどうかは分からなかったが、一人で行けと言って頷くような子ではない事は分かっていた。
シェルカが涙を溜めたまま頷く。
「パチが……」
震えるようなライゴの声。その指が俺たちの後ろを指している。
ってか『パチ』かよ、こんな凶悪なナリして名前が可愛いな!!
けれど振り返った風景には可愛さのかけらもなかった。
いつの間にやら、巣からぞろぞろと出てきた蜂……いやパチが空一面に広がっている。
一匹のパチが群れの前で合図するようにくるりと回ると、それらは一斉に襲ってきた。
「くそっ、シェルカ! 俺の下から出てくんなよ!」
俺は、シェルカを守るようにその上に覆い被さった。
俺の体ひとつで、シェルカを守り切れるだろうか。
そんな不安を噛みつぶしながら息を詰めた時、空に轟音が響き渡る。
バリバリと響くそれは、いくつもの稲妻が一斉に降ってきたかのようだった。
次いで、ぼとぼとと周囲に何かが落下する音。
こんがりと焦げ臭いような、どこかいい匂いなような、そんな匂いにつられるようにして俺はじわりと顔を上げた。
「……これは、どう言うことだ……」
ザルイルの強ばったような声。
ああ、そうか、あの結界を破ったから、駆けつけてくれた……のか……。
ホッとした途端、俺の意識は暗闇へと沈んだ。
「これは、巣の結界を許可されてない人が通った時の音だよ!」
俺の問いに答えるライゴ、その声は不安に染まっている。
「それってまさか……」
「「シェルカ!!」」
俺はライゴとともに叫ぶと、まだここへきてから一度きり通ったのみの扉へと走る。
扉は開いた。
けれど俺はそこを通れなかった。
バチっと静電気を何倍にもしたような派手な音がして、部屋の中へと弾き飛ばされる。
俺は咄嗟にリーバちゃんを守るように抱き抱えたまま、壁に背を打ちつけた。
「……ってぇ……」
リーバちゃんは驚いた顔をしていたが、涙は逆に引っ込んだらしい。
「ライゴ! その辺にシェルカがいないか探してくれ!」
俺と違って外に出られたライゴに俺は声をかける。
「探してるー! でもいないよぉ……っっ」
ライゴの涙混じりの声。
そうだよな、不安だよな……。
くそっ、こんな時に俺が外に出られないなんて……っっ。
リーバちゃんを巻き込まないように、部屋に戻って安全なサークル内にそっと下ろす。
「ごめん、ちょっとだけ待っててくれな!」
俺は結界と呼ばれるそれにもう一度体当たりする。
今度は弾かれないように、体重をかけて、前傾姿勢で。
バチバチと電流が走るような感覚がめちゃくちゃ痛いが、じわりと肩が外に出て、このまま強引に突破できると踏んだ。
火傷のような赤い傷が、幾筋も体に浮かぶ。
それでも、なんとか俺は結界を通り抜ける事ができた。
「ライゴ!」
外で不安げにシェルカの名を呼びながらキョロキョロしていたライゴが、茂みの向こうを見たまま、ハッとした顔をする。
駆け寄りながら視線の先を辿れば、そこには確かにシェルカがいた。
どこから引きずってきたのか、大岩に乗って、木の枝を握って、精一杯腕を伸ばしている先には、蜂の巣……っていや、それ蜂の巣って言っていいレベルか!?
デカすぎんだろ!!
「シェルカ! やめろ!!」
叫んだつもりの俺の声は途中から掠れて消える。
シェルカの木の枝が、蜂の巣を掠める。
デカすぎる蜂の巣から出てきた蜂は、やっぱりめちゃくちゃデカかった。
「シェルカ!」
虫嫌いのシェルカは、蜂の姿に完全に怯え、立ちすくんでいる。
蜂は、そんなシェルカに敵意をむき出しにして襲いかかった。
「伏せろ!」
掠れた声で叫ぶも、シェルカは動けない。
必死で走って、シェルカに覆い被さるようにした瞬間、脇腹から背までをざっくりと熱い感触が走った。
「――ゔぁっっ!!」
「ヨーへーっ!!」
シェルカの声に涙が滲んでいる。
「シェルカ……。巣まで……、戻れるか……?」
俺はなるべく優しい顔を作って言った。
こんな時、こっちがパニックになっては子どもまで動揺する。
怪我の時こそ平静に。だ。
シェルカは目にいっぱい涙を溜めて、どうしたらいいのかわからない顔をしている。
ライゴに連れて帰ってもらおうにも、ライゴも蜂が怖いのか近くまで来れずにいる。
「俺と……、一緒に、走るぞ、いいな?」
引き裂かれた背中が痛くて、何度も息が詰まる。
俺が走れるかどうかは分からなかったが、一人で行けと言って頷くような子ではない事は分かっていた。
シェルカが涙を溜めたまま頷く。
「パチが……」
震えるようなライゴの声。その指が俺たちの後ろを指している。
ってか『パチ』かよ、こんな凶悪なナリして名前が可愛いな!!
けれど振り返った風景には可愛さのかけらもなかった。
いつの間にやら、巣からぞろぞろと出てきた蜂……いやパチが空一面に広がっている。
一匹のパチが群れの前で合図するようにくるりと回ると、それらは一斉に襲ってきた。
「くそっ、シェルカ! 俺の下から出てくんなよ!」
俺は、シェルカを守るようにその上に覆い被さった。
俺の体ひとつで、シェルカを守り切れるだろうか。
そんな不安を噛みつぶしながら息を詰めた時、空に轟音が響き渡る。
バリバリと響くそれは、いくつもの稲妻が一斉に降ってきたかのようだった。
次いで、ぼとぼとと周囲に何かが落下する音。
こんがりと焦げ臭いような、どこかいい匂いなような、そんな匂いにつられるようにして俺はじわりと顔を上げた。
「……これは、どう言うことだ……」
ザルイルの強ばったような声。
ああ、そうか、あの結界を破ったから、駆けつけてくれた……のか……。
ホッとした途端、俺の意識は暗闇へと沈んだ。
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