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3話 放送室と部長 (19/20)

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「愛花?」
「ぇ、ぁ。ううん。それで相談って何?」
ミモザは首を振って頭を切り替えると、本題へ挑む。
「新堂さんは、麗音さんを殴っちゃったでしょ? それで、新堂さんは生徒会が訴えられるのが怖いみたいなのね」
「う、うん……」
「だから新堂さんに、暴力事件を他の人に言われたくなかったら、会長の声を録音してくるように言ったらいいんじゃないかなっ!」
「アキちゃん……」
ミモザは深く息を吐いた。
「「それは脅迫だ」よ」
麗音とミモザの声が重なる。
「あ。そっか。これが脅迫か。じゃあ三人で新堂さんを脅迫しようよっ」
にっこり笑顔で言われて、ミモザと麗音が面食らう。
「いやせめて、提案とか交渉のカタチにしようよ……」
ミモザが困った顔で言えば、麗音は真剣な表情で問う。
「敵に塩を送るような真似をしていいのか」
「はいっ。だって部長さんも大事なファンの一人ですから。私はファンの人達に元気もらって生きてるので、ファンの事も応援したいと思ってます」
「私は……アキちゃんがそれでいいなら」
「それに、せっかくの対決なんだし勝負は正々堂々やりたいじゃないですか。私は麗音さんの音楽とっても素敵だと思いました。もし麗音さんが一人じゃご両親を説得できない時には、私も説得お手伝いしますからっ。いつでも呼んでくださいねっ!」
麗音は返す言葉が見つからないのか、ただただ目を丸くしている。
ミモザが申し訳なさそうに口を挟む。
「ただその……私達の事は内緒にしていてくださいね」
「無論だ。決して口外しないと誓おう」
はっきり宣言されて、ミモザは自嘲とともに苦く笑う。
「ありがとうございます……」
「ありがとうございますっ。あのっ、もしよかったら麗音さんのチャンネル名とか教えてもらってもいいですか?」
「う、うむ……投稿はLeonだ。コメントにはLeonNoteという……」
「「LeonNote!?」
アキとミモザの声が重なる。
「あの絵文字連打の人!?」
「テンションが違う!!」
「見えないだけで、脳内は常にあのテンションなの!?」
「い、いやその……」
「わあーっ。会いたかった、LeonNoteさんっ」
アキに頭をぎゅっと抱き抱えられて、麗音が盛大に動揺する。
「いつもいつもコメントありがとーっっ。すっごく元気もらってるっっ」
「やっ、やめたまへっ」
「きゃーっ、ちょっとアキちゃんっ、部長さん目が回ってるよぅぅ、今はやめてあげてーっ」


楽しそうに笑い合う二人と耳まで真っ赤にしている麗音の姿を、陸空と新堂はガラス越しに眺めていた。
陸空は直立不動のまま。新堂はキャスター付きの椅子に逆向きに座っている。
「おーい。怖い顔になってんぞー」
新堂に言われて、陸空は歪めた眉のまま相棒を一瞥して言い捨てた。
「お前の顔の方がひどいよ」
「はぁ……。だってさー、俺はもー、ハートが砕けてるわけ、バッキバキに。あーもーあれだよな。愛花ちゃん、この先俺と口きいてくんねーのかなぁ?」
「……ごめん。僕がここに来たのが間違いだったよ」
陸空は内ポケットからスマホを取り出すと、そこへ視線を落とす。
いつもは少しでも長く見ていたいと思う彼女の笑顔を、なぜか今は見ていたくなかった。
「ちょいそのメッセージ見せてみ?」
新堂に言われて陸空はアキとのRINEを見せる。
「えーと『放送部長さんに呼び出されたので、放課後放送室に行くことになりました』か……、あー……別に助けてくれとは書いてねーなぁ」
「……ごめん」
「いや、俺でも行くよ。こんなんもらったら。明希ちゃん達も話してみるまで相手が何考えてるかわかんなかったんだろうよ。だから念のためにお前にそれを送った」
「…………ごめん」
「別にお前は悪くねーよ。俺が考えなしのうっかり者なだけっすわ」
「……」
「なー。俺何要求されんだと思う? アキちゃん一体何考えてるわけ? 俺正直けっこー怖いんだけどさ?」
「僕にできることなら、なんでも協力するよ」
「マジで頼むぜ会長ーっ」
涙目で見上げられて、陸空はなんとか苦笑を返した。
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