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2話 歌声と言葉(13/16)
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――今、なんておっしゃいました!?
私の、名前、呼びませんでしたか!?
振り返れば、そこにはやはり池川会長がいた。
驚きのあまりに見開いた瞳から、涙がひと粒ポロリとこぼれる。
そういや涙を堪えてたんだっけ。驚きすぎて忘れてた。
慌てて制服の裾で目を擦れば、誰かに腕を止められる。
「乱暴に擦んなよ、肌に悪いぞ」
差し出されたのはきちんとアイロンのかけられたハンカチ。
「あ、新堂さんもいたんですね」
「いきなり酷くね?」
「何かあったの?」
心配そうな囁きイケボっっっ!!
「大丈夫ですよっ。ちょっと目にゴミが入っただけで……」
「何一人でゴミ運んでんだよ。いじめられてんのか?」
「新堂……」
「へーきだよ、こんな朝から走ってきて大きな声出せるやつがいじめられっ子な訳あるか」
ケロッと答える新堂さんに苦笑しながら、心配そうな会長に私も言葉を足す。
「今日はたまたま相手が休みで、ちょっと他の子も捕まんなかったんです」
新堂さんって結構人のことよく見てるよね。
多分私がミモザだったら、こんなジョークは言わないんだろうなぁ。
「ほら、ゴミは俺らが運んどくから、えーっと1-Cな」
新堂さんがひょいと私の手からゴミ箱を奪うと、ゴミ箱に書かれたクラス名をよむ。
「暁さん、僕達が運んでもいいかな?」
まっ、また……。
「私の名前……いつの間に……」
「名札ついてんだろ」
「でも会長私の事後ろから呼びましたよっ!?」
「俺もお前の名前くらい覚えてるぞ。暁明希だろ?」
「フルネームっ!?」
「学校のやつ半分くらいはフルネームで言えるぜ?」
「生徒会役員さんってすごい……」
「いやまー、他のやつがどんだけ覚えてるかは知らねーけどさ。ほら、ここはもういいから。具合悪いならさっさと帰ってゆっくり休めよー」
新堂さんの大きな手に背中を押されて、教室の方へと方向転換させられる。
今更自分で運ぶって言うのも言いづらいし、ここは甘えちゃおうかな。
「あ、ありがとうございます……。あ、ハンカチもありがとうございました」
ハンカチを返せば受け取った新堂さんがふき出す。
「ぶはっ。お前、普通こーゆーのは洗って返すもんだろ。こんなんじゃフラグ立たねーぞ?」
「新堂さんとフラグ立っても困りますから」
「お、俺の名前も覚えてくれたんだ?」
新堂さんが嬉しそうに笑う。
私はもう一度「ありがとうございます」と二人に頭を下げた。
「おー、気をつけて帰れよー」
「また明日」
『また明日』かぁ。いい響きだなぁ……。
心配そうにかけてくださったお声の数々も、しっかり脳内に保管してある。
会長のスペシャルボイスを沢山拝聴できたおかげで、なんか色々回復したような気がするなぁ。
帰宅して自室のベッドに寝転がってスマホを見れば、コメント通知の追加が3つと、RINEの通知。
空さんから話しかけてくれるのって初めてだ。
開いてみれば、空からのRINEは誹謗中傷が来てないかと心配する内容だった。
『僕みたいに音楽動画だけ上げてるような人だと少ないんだけど、アキさん達は日常動画も色々上げてるから、来てるんじゃないかなって……心配になって……』
こんなに長い文章送ってくれたの初めてじゃない?
『ちょっとはきてますけど、大丈夫ですよー』
と正直に答えれば、オロオロと心配そうな猫のスタンプが入る。
ああ、今日は会長さんもそんな風に心配してくれてたなぁ。
『見てくれる人が増えれば、こういうのも増えるって事は覚悟の上ですっ』
あの音楽動画はあれからずっと再生数を伸ばし続けている。
エゴサすれば嬉しいコメントだっていっぱいもらえてたし、私もあの曲には力をもらっている。
ぐっと力こぶを作っているムキムキのスタンプを送ってみたら、空さんが『!?』と驚いてる猫のスタンプを送ってきた。
『空さんは大丈夫なんですか?』
『僕の方も来てはいるけどね。削除してるよ』
『えっ、空さんどんなこと言われるんですか!?』
『ぅぇえ、それ聞く?』
あれ、空さん困らせちゃったかな?
でもこんな素の答えをもらえることが既に嬉しくて、私は『ワクワク』スタンプを送ってしまう。
『うーんと……、この曲に似てる、パクリだーとか。コード進行がなってない、もっと勉強しろーとか……』
『ほわぁ……』
そんな事、私なら死ぬまで誰にも言われることないだろうなぁ。
的外れな感想を抱いているうちに、空さんが続ける。
『……なんか、何でこんなこと言われてんのかなって……。色々考え始めると、本当落ち込むよね……。曲全部消そうかなって思う事も、しょっちゅうだよ』
『ええっ!?』
私は驚いた気持ちのまま驚愕のスタンプを連打する。
空さんってクールに見えてたけど、意外と打たれ弱い?
芸術家ってやっぱり繊細なんだね。
『……でも、大地が絵を描いてくれた動画を勝手に消すわけにもいかなくて、毎回そこで踏み止まるんだ。あいつに聞いても、絶対ダメだって言うだろうから』
空さんは、大地さんのこと『あいつ』って呼ぶんだ?
『あの、ちょっと私、気になってるんですけど……、聞いてもいいですか?』
空さんは『OK』のスタンプを送ってくれる。
『大地さんって女の人なんですか?』
私の、名前、呼びませんでしたか!?
振り返れば、そこにはやはり池川会長がいた。
驚きのあまりに見開いた瞳から、涙がひと粒ポロリとこぼれる。
そういや涙を堪えてたんだっけ。驚きすぎて忘れてた。
慌てて制服の裾で目を擦れば、誰かに腕を止められる。
「乱暴に擦んなよ、肌に悪いぞ」
差し出されたのはきちんとアイロンのかけられたハンカチ。
「あ、新堂さんもいたんですね」
「いきなり酷くね?」
「何かあったの?」
心配そうな囁きイケボっっっ!!
「大丈夫ですよっ。ちょっと目にゴミが入っただけで……」
「何一人でゴミ運んでんだよ。いじめられてんのか?」
「新堂……」
「へーきだよ、こんな朝から走ってきて大きな声出せるやつがいじめられっ子な訳あるか」
ケロッと答える新堂さんに苦笑しながら、心配そうな会長に私も言葉を足す。
「今日はたまたま相手が休みで、ちょっと他の子も捕まんなかったんです」
新堂さんって結構人のことよく見てるよね。
多分私がミモザだったら、こんなジョークは言わないんだろうなぁ。
「ほら、ゴミは俺らが運んどくから、えーっと1-Cな」
新堂さんがひょいと私の手からゴミ箱を奪うと、ゴミ箱に書かれたクラス名をよむ。
「暁さん、僕達が運んでもいいかな?」
まっ、また……。
「私の名前……いつの間に……」
「名札ついてんだろ」
「でも会長私の事後ろから呼びましたよっ!?」
「俺もお前の名前くらい覚えてるぞ。暁明希だろ?」
「フルネームっ!?」
「学校のやつ半分くらいはフルネームで言えるぜ?」
「生徒会役員さんってすごい……」
「いやまー、他のやつがどんだけ覚えてるかは知らねーけどさ。ほら、ここはもういいから。具合悪いならさっさと帰ってゆっくり休めよー」
新堂さんの大きな手に背中を押されて、教室の方へと方向転換させられる。
今更自分で運ぶって言うのも言いづらいし、ここは甘えちゃおうかな。
「あ、ありがとうございます……。あ、ハンカチもありがとうございました」
ハンカチを返せば受け取った新堂さんがふき出す。
「ぶはっ。お前、普通こーゆーのは洗って返すもんだろ。こんなんじゃフラグ立たねーぞ?」
「新堂さんとフラグ立っても困りますから」
「お、俺の名前も覚えてくれたんだ?」
新堂さんが嬉しそうに笑う。
私はもう一度「ありがとうございます」と二人に頭を下げた。
「おー、気をつけて帰れよー」
「また明日」
『また明日』かぁ。いい響きだなぁ……。
心配そうにかけてくださったお声の数々も、しっかり脳内に保管してある。
会長のスペシャルボイスを沢山拝聴できたおかげで、なんか色々回復したような気がするなぁ。
帰宅して自室のベッドに寝転がってスマホを見れば、コメント通知の追加が3つと、RINEの通知。
空さんから話しかけてくれるのって初めてだ。
開いてみれば、空からのRINEは誹謗中傷が来てないかと心配する内容だった。
『僕みたいに音楽動画だけ上げてるような人だと少ないんだけど、アキさん達は日常動画も色々上げてるから、来てるんじゃないかなって……心配になって……』
こんなに長い文章送ってくれたの初めてじゃない?
『ちょっとはきてますけど、大丈夫ですよー』
と正直に答えれば、オロオロと心配そうな猫のスタンプが入る。
ああ、今日は会長さんもそんな風に心配してくれてたなぁ。
『見てくれる人が増えれば、こういうのも増えるって事は覚悟の上ですっ』
あの音楽動画はあれからずっと再生数を伸ばし続けている。
エゴサすれば嬉しいコメントだっていっぱいもらえてたし、私もあの曲には力をもらっている。
ぐっと力こぶを作っているムキムキのスタンプを送ってみたら、空さんが『!?』と驚いてる猫のスタンプを送ってきた。
『空さんは大丈夫なんですか?』
『僕の方も来てはいるけどね。削除してるよ』
『えっ、空さんどんなこと言われるんですか!?』
『ぅぇえ、それ聞く?』
あれ、空さん困らせちゃったかな?
でもこんな素の答えをもらえることが既に嬉しくて、私は『ワクワク』スタンプを送ってしまう。
『うーんと……、この曲に似てる、パクリだーとか。コード進行がなってない、もっと勉強しろーとか……』
『ほわぁ……』
そんな事、私なら死ぬまで誰にも言われることないだろうなぁ。
的外れな感想を抱いているうちに、空さんが続ける。
『……なんか、何でこんなこと言われてんのかなって……。色々考え始めると、本当落ち込むよね……。曲全部消そうかなって思う事も、しょっちゅうだよ』
『ええっ!?』
私は驚いた気持ちのまま驚愕のスタンプを連打する。
空さんってクールに見えてたけど、意外と打たれ弱い?
芸術家ってやっぱり繊細なんだね。
『……でも、大地が絵を描いてくれた動画を勝手に消すわけにもいかなくて、毎回そこで踏み止まるんだ。あいつに聞いても、絶対ダメだって言うだろうから』
空さんは、大地さんのこと『あいつ』って呼ぶんだ?
『あの、ちょっと私、気になってるんですけど……、聞いてもいいですか?』
空さんは『OK』のスタンプを送ってくれる。
『大地さんって女の人なんですか?』
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