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2話 歌声と言葉(10/16)

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「じゃあ、空さんとは無事RINE交換できたんだね」
「うんっ!」
「よかったねぇ」
「えへへ」
窓際の一番後ろ。
いつものミモザの席で、ミモザに昨日の結果を話す。
「それで空さん言ってたんだけど、あの曲に今度絵がつくらしいよ」
「……え……?」
私の言葉に、ミモザが固まる。
あれ。そんなに驚くようなことだったかな……?
「……だ、誰の絵……?」
ミモザの声が掠れてる。なんだろう。絵がついたら普通に嬉しいかなって思ったんだけど、何かあったっけ?
「えっと、空さんの曲によく挿絵描いてるこの人。らしい」
スマホで空さんの投稿を見せつつ説明する。
「本当に!? 本当にこの人!?」
「う、うん」
「やだ嘘っ嬉しいっっっ、私この人超絶推してるのよぅーっ」
ミモザの目がキラッキラになってる。
そういえば、ミモザは最初に空さんのこと調べてた時に、そんな事言ってたよね。
「とっっても綺麗な、キラキラした絵を描く人なんだよーっ」
今キラキラしてるのはどう見てもミモザさんですが。と思っていると、聞き慣れた足音が響いてきた。
「じゃ、先生来るから、詳しい話はまた後で聞かせてね」
夢見心地のミモザを残して自分の教室に戻る。
よかった。ミモザが喜んでくれて。
その日の学校ではずっと、ミモザがいつからその人のファンなのか、その人がどんな風にすごいのかという話を聞かされてしまったが、こんな風に夢中で話してくれるミモザも可愛いと思う。

放課後の、勝手知ったるミモザの部屋。
「見て見て!」とミモザにノーパソの画面を差し出される。覗き込んだ先には乙女な世界が広がっていた。
「わぁ……めっちゃ少女漫画っぽい」
「うん、すっごく綺麗でしょーっ」
「へえー、こういう絵を描く人なんだね。空さんの動画では風景のイラストばっかりだったから、私てっきり風景画を描く人なんだと思ってた……」
私の感想に、ミモザも頷く。
「空さんの音楽には人物イラスト使われてないよね」
まあ、この人のキャライラストを使っちゃうと、空さんの音楽がいきなり少女漫画の世界になっちゃいそうだもんね……。
納得しながら、ミモザが見て見てとスクロールする画面を眺める。
鮮やかなフルカラーのイラストは、どれもこれも物凄く綺麗だ。
線は細くて滑らかだし、緻密で繊細な描き込みは背景や小物に至るまでひとつも手を抜かれていない感じがする。
「この人って、プロなのかな?」
「そう思うでしょぅ? それがなんと、私達と同じ、中学生なんだよっっ!?」
ミモザがぎゅっと手を握り締めて教えてくれる。
ミモザは小学生の頃からイラストサイトでこの人の絵を追いかけていたらしい。
去年の終わり頃にこの人がトイッターを始めてからは毎日見に行って、ミモザが十三歳の誕生日に自分のアカウントを作ってからはずっとフォローしているのだそうだ。
そういえばあの頃、勇気を振り絞って推し絵師さんをフォローしたのだと話してくれたのを聞いた気がする。
そんなに好きな絵師さんに絵をつけてもらえるなんて、ミモザが舞い上がるのも無理のない話だ。

……あれ?

「……この人って、女の人だよね?」
絵師さんの名前は、イラスト投稿サイトもトイッターも、どちらも「大地」と表示されている。
私は最初DMで空さんに絵師さんとして大地さんを紹介された時、すっかり男の人だと思っていたんだけど……。
「うん、多分? いつも少女漫画の話してるし……」
そう言ってミモザが大地さんのトイッターを開く。
確かにそこには、少女漫画誌の今月号の何がどうだったとか、誰は誰のことをこう思っているのではという考察と感想がイラスト付きで延々綴られている。
「空さんは、男の人だよね?」
ミモザに聞き返されて、私も「うん、多分?」と答える。
だって、にゃーちゅーぶにもトイッターにも性別の欄なんてないんだもん。
一人称が『僕』だから男の人なのかなって思う事くらいしかできない。

……でも、RINEが繋がった今なら、直接聞いてもいいのかも?
自分のスマホに視線を移せば、そこには音と振動を切っておいたコメント通知が二件表示されていた。

「この二人って、もう一年くらい前からずっと一緒に活動してるよね」
ミモザがノーパソで空さんの動画投稿一覧の日付を確認しながら呟く。
「……空さんと大地さんって付き合ってるのかなぁ……?」
ぽつり。と疑問を漏らしたミモザが、ハッと両手で口を押さえた。
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