16 / 51
2話 歌声と言葉(10/16)
しおりを挟む
「じゃあ、空さんとは無事RINE交換できたんだね」
「うんっ!」
「よかったねぇ」
「えへへ」
窓際の一番後ろ。
いつものミモザの席で、ミモザに昨日の結果を話す。
「それで空さん言ってたんだけど、あの曲に今度絵がつくらしいよ」
「……え……?」
私の言葉に、ミモザが固まる。
あれ。そんなに驚くようなことだったかな……?
「……だ、誰の絵……?」
ミモザの声が掠れてる。なんだろう。絵がついたら普通に嬉しいかなって思ったんだけど、何かあったっけ?
「えっと、空さんの曲によく挿絵描いてるこの人。らしい」
スマホで空さんの投稿を見せつつ説明する。
「本当に!? 本当にこの人!?」
「う、うん」
「やだ嘘っ嬉しいっっっ、私この人超絶推してるのよぅーっ」
ミモザの目がキラッキラになってる。
そういえば、ミモザは最初に空さんのこと調べてた時に、そんな事言ってたよね。
「とっっても綺麗な、キラキラした絵を描く人なんだよーっ」
今キラキラしてるのはどう見てもミモザさんですが。と思っていると、聞き慣れた足音が響いてきた。
「じゃ、先生来るから、詳しい話はまた後で聞かせてね」
夢見心地のミモザを残して自分の教室に戻る。
よかった。ミモザが喜んでくれて。
その日の学校ではずっと、ミモザがいつからその人のファンなのか、その人がどんな風にすごいのかという話を聞かされてしまったが、こんな風に夢中で話してくれるミモザも可愛いと思う。
放課後の、勝手知ったるミモザの部屋。
「見て見て!」とミモザにノーパソの画面を差し出される。覗き込んだ先には乙女な世界が広がっていた。
「わぁ……めっちゃ少女漫画っぽい」
「うん、すっごく綺麗でしょーっ」
「へえー、こういう絵を描く人なんだね。空さんの動画では風景のイラストばっかりだったから、私てっきり風景画を描く人なんだと思ってた……」
私の感想に、ミモザも頷く。
「空さんの音楽には人物イラスト使われてないよね」
まあ、この人のキャライラストを使っちゃうと、空さんの音楽がいきなり少女漫画の世界になっちゃいそうだもんね……。
納得しながら、ミモザが見て見てとスクロールする画面を眺める。
鮮やかなフルカラーのイラストは、どれもこれも物凄く綺麗だ。
線は細くて滑らかだし、緻密で繊細な描き込みは背景や小物に至るまでひとつも手を抜かれていない感じがする。
「この人って、プロなのかな?」
「そう思うでしょぅ? それがなんと、私達と同じ、中学生なんだよっっ!?」
ミモザがぎゅっと手を握り締めて教えてくれる。
ミモザは小学生の頃からイラストサイトでこの人の絵を追いかけていたらしい。
去年の終わり頃にこの人がトイッターを始めてからは毎日見に行って、ミモザが十三歳の誕生日に自分のアカウントを作ってからはずっとフォローしているのだそうだ。
そういえばあの頃、勇気を振り絞って推し絵師さんをフォローしたのだと話してくれたのを聞いた気がする。
そんなに好きな絵師さんに絵をつけてもらえるなんて、ミモザが舞い上がるのも無理のない話だ。
……あれ?
「……この人って、女の人だよね?」
絵師さんの名前は、イラスト投稿サイトもトイッターも、どちらも「大地」と表示されている。
私は最初DMで空さんに絵師さんとして大地さんを紹介された時、すっかり男の人だと思っていたんだけど……。
「うん、多分? いつも少女漫画の話してるし……」
そう言ってミモザが大地さんのトイッターを開く。
確かにそこには、少女漫画誌の今月号の何がどうだったとか、誰は誰のことをこう思っているのではという考察と感想がイラスト付きで延々綴られている。
「空さんは、男の人だよね?」
ミモザに聞き返されて、私も「うん、多分?」と答える。
だって、にゃーちゅーぶにもトイッターにも性別の欄なんてないんだもん。
一人称が『僕』だから男の人なのかなって思う事くらいしかできない。
……でも、RINEが繋がった今なら、直接聞いてもいいのかも?
自分のスマホに視線を移せば、そこには音と振動を切っておいたコメント通知が二件表示されていた。
「この二人って、もう一年くらい前からずっと一緒に活動してるよね」
ミモザがノーパソで空さんの動画投稿一覧の日付を確認しながら呟く。
「……空さんと大地さんって付き合ってるのかなぁ……?」
ぽつり。と疑問を漏らしたミモザが、ハッと両手で口を押さえた。
「うんっ!」
「よかったねぇ」
「えへへ」
窓際の一番後ろ。
いつものミモザの席で、ミモザに昨日の結果を話す。
「それで空さん言ってたんだけど、あの曲に今度絵がつくらしいよ」
「……え……?」
私の言葉に、ミモザが固まる。
あれ。そんなに驚くようなことだったかな……?
「……だ、誰の絵……?」
ミモザの声が掠れてる。なんだろう。絵がついたら普通に嬉しいかなって思ったんだけど、何かあったっけ?
「えっと、空さんの曲によく挿絵描いてるこの人。らしい」
スマホで空さんの投稿を見せつつ説明する。
「本当に!? 本当にこの人!?」
「う、うん」
「やだ嘘っ嬉しいっっっ、私この人超絶推してるのよぅーっ」
ミモザの目がキラッキラになってる。
そういえば、ミモザは最初に空さんのこと調べてた時に、そんな事言ってたよね。
「とっっても綺麗な、キラキラした絵を描く人なんだよーっ」
今キラキラしてるのはどう見てもミモザさんですが。と思っていると、聞き慣れた足音が響いてきた。
「じゃ、先生来るから、詳しい話はまた後で聞かせてね」
夢見心地のミモザを残して自分の教室に戻る。
よかった。ミモザが喜んでくれて。
その日の学校ではずっと、ミモザがいつからその人のファンなのか、その人がどんな風にすごいのかという話を聞かされてしまったが、こんな風に夢中で話してくれるミモザも可愛いと思う。
放課後の、勝手知ったるミモザの部屋。
「見て見て!」とミモザにノーパソの画面を差し出される。覗き込んだ先には乙女な世界が広がっていた。
「わぁ……めっちゃ少女漫画っぽい」
「うん、すっごく綺麗でしょーっ」
「へえー、こういう絵を描く人なんだね。空さんの動画では風景のイラストばっかりだったから、私てっきり風景画を描く人なんだと思ってた……」
私の感想に、ミモザも頷く。
「空さんの音楽には人物イラスト使われてないよね」
まあ、この人のキャライラストを使っちゃうと、空さんの音楽がいきなり少女漫画の世界になっちゃいそうだもんね……。
納得しながら、ミモザが見て見てとスクロールする画面を眺める。
鮮やかなフルカラーのイラストは、どれもこれも物凄く綺麗だ。
線は細くて滑らかだし、緻密で繊細な描き込みは背景や小物に至るまでひとつも手を抜かれていない感じがする。
「この人って、プロなのかな?」
「そう思うでしょぅ? それがなんと、私達と同じ、中学生なんだよっっ!?」
ミモザがぎゅっと手を握り締めて教えてくれる。
ミモザは小学生の頃からイラストサイトでこの人の絵を追いかけていたらしい。
去年の終わり頃にこの人がトイッターを始めてからは毎日見に行って、ミモザが十三歳の誕生日に自分のアカウントを作ってからはずっとフォローしているのだそうだ。
そういえばあの頃、勇気を振り絞って推し絵師さんをフォローしたのだと話してくれたのを聞いた気がする。
そんなに好きな絵師さんに絵をつけてもらえるなんて、ミモザが舞い上がるのも無理のない話だ。
……あれ?
「……この人って、女の人だよね?」
絵師さんの名前は、イラスト投稿サイトもトイッターも、どちらも「大地」と表示されている。
私は最初DMで空さんに絵師さんとして大地さんを紹介された時、すっかり男の人だと思っていたんだけど……。
「うん、多分? いつも少女漫画の話してるし……」
そう言ってミモザが大地さんのトイッターを開く。
確かにそこには、少女漫画誌の今月号の何がどうだったとか、誰は誰のことをこう思っているのではという考察と感想がイラスト付きで延々綴られている。
「空さんは、男の人だよね?」
ミモザに聞き返されて、私も「うん、多分?」と答える。
だって、にゃーちゅーぶにもトイッターにも性別の欄なんてないんだもん。
一人称が『僕』だから男の人なのかなって思う事くらいしかできない。
……でも、RINEが繋がった今なら、直接聞いてもいいのかも?
自分のスマホに視線を移せば、そこには音と振動を切っておいたコメント通知が二件表示されていた。
「この二人って、もう一年くらい前からずっと一緒に活動してるよね」
ミモザがノーパソで空さんの動画投稿一覧の日付を確認しながら呟く。
「……空さんと大地さんって付き合ってるのかなぁ……?」
ぽつり。と疑問を漏らしたミモザが、ハッと両手で口を押さえた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ドラゴンテールドリーマーは現在メンテナンス中です
弓屋 晶都
児童書・童話
『友達って、なんだろう……』14歳がゲームと現実を行き来する幻想成長譚。
こんなご時世で、学校の友達と遊ぶ場所もスマホゲームの中になりがちな今日この頃。
中学二年生の『花坂みさき』はデータのダウンロード中に寝落ちて、
チュートリアルを終えたばかりのMMORPGアプリの世界に入り込んでしまう。
現実世界では窮屈な女子グループの中で自分を見失いつつあったみさきが、
ゲームの中で可愛いペットや新たな友達と出会い、自分を変えたいと願い始める。
しかし、そんなゲーム世界にもウイルスの脅威が迫り……。
ファンタジックなゲーム世界と現実世界が、夢の中で交差する。
魔法とドラゴンの炎舞う、七色に輝く大龍のエンディング。
現代に生きる少年少女の、優しい成長物語です。
※こちらは、小学校高学年から中学生を読者に想定した内容となっています。
難しめの漢字は開き気味です。
子ども達の知っている単語には説明が出ません。
逆に大人は普通に知っているような単語に説明が入ることもあります。
(2022ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)
【クラフト小学校】消えた水着写真と爆破予告【ぬいぐるみグループ】
弓屋 晶都
児童書・童話
私には誰にも言っていないヒミツがある。
それは、私が金色の魔法の針で、ぬいぐるみに命をあたえられるってこと。
ある日、親友の咲歩が学校で水着の写真をぬすまれてしまう。
教室には誰もいなかったけど、咲歩のランドセルについていたぬいぐるみなら、何か見てたかも?
これは、魔法の針の出番だよね!
……でも、咲歩になんて言ったらいいのかな?
----------
このお話は、五年生の樹生みこと(主人公)が、友達やぬいぐるみたちの力を借りて写真をぬすんだ犯人を探すうちに、新しい出会いや事件に巻き込まれてゆくワクワクドキドキのお話です。
お話自体は小学四年生から読めますが、ふりがなは振っていないため、分からない漢字はお家の人に聞くか、国語辞典で調べてみてくださいね。
新訳 不思議の国のアリス
サイコさん太郎
児童書・童話
1944年、ポーランド南部郊外にある収容所で一人の少女が処分された。その少女は僅かに微笑み、眠る様に生き絶えていた。
死の淵で彼女は何を想い、何を感じたのか。雪の中に小さく佇む、白い兎だけが彼女の死に涙を流す。
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
佐渡島のあやかし(第3話)など 短編集
あさのりんご
児童書・童話
☆1話【小さな恋のメヌエット♪】:六年一組の音楽の時間に ちょっとした事件が起こりました。すみれちゃんのリコーダー(笛)とロビンのリコーダーが、すり替えられていたのです。『間接キス~~』と騒ぐリョウマ。犯人らしきリョウマには、好きな女子がいて……☆2話【反転ロボット】:ロボットの心が反転して、性格が真逆に!もちろん街は大混乱。パニックは止まりません……(第1話~第4話はお好きな話からお読み下さい) ※番外編:『うさぎになったアンジェラ』連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる