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2話 歌声と言葉(9/16)
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その部屋には二段ベッドが一つと机が二つあった。
少年が座る壁際の机にはPCのディスプレイが二つとキーボード、ヘッドホンが置かれ、机の下にはPC本体が時折チカチカとランプを光らせている。
背中合わせに置かれた机の上には紙が何枚か広げられていて、髪を一つに括った背の高い少年が背を丸めてタブレット端末に直接ペンを走らせている。
線を引くシュッという音とマウスのクリック音がするだけの静かな部屋で、PCに向かっていた黒ぶち眼鏡の少年が口を開いた。
「……どうしよう大地」
大地と呼ばれた背の高い少年が、手を止めて振り返る。
「ん? 何だ?」
「RINE……交換したいって、言われたんだけど……」
画面を指す少年の指先は震えている。
「へー。積極的だなー」
大地は画面の文字をさっと読むと作業に戻った。
「……断った方がいいよな?」
「何でだよ、繋がってやればいーだろ」
眼鏡の少年は自分のスマホを手に取るとRINEを立ち上げながら言う。
「僕のRINE、親と兄さんとおばあちゃんと従兄と、大地しかいない。……友だち」
その言葉に大地が回転椅子ごと後ろを向いた。
「マジかよ!? ぶははっ。ホントだ。6人っ」
少年の後ろからスマホを覗き込んで、大地が笑う。
「……大地はどうなんだよ」
拗ねたような声に、大地は自分のスマホを取り出した。
「今なー、何人いたっけなぁ? 俺はー……73人だな」
「多い」
「ほとんど喋ったことねー奴もいるし。付き合いでグループに呼ばれたりすっから、数だけは増えてっけどそんな喋ってるわけじゃねーよ」
「そうか……」
「そんで、なんで断ろうと思ったんだ?」
「いや、そんなに親しくない相手だから」
「だから誘われてんじゃねーの?」
「?」
「相手は、お前と仲良くなりたいって思ってくれてんだよ。お前が相手と仲良くしたくないってんなら断ってもいいだろーけど、そうじゃないなら繋がってみればいーんじゃね?」
「…………そうか……」
「ん。RINEは別に仲良しとだけ繋がるツールじゃねーしな」
「分かった。ありがとう大地」
「ま、頑張れ」
「大地はイメージ固まった?」
問われて、大地が何枚かの紙とタブレットの画面を少年に見せる。
「まあ今んとここんな感じだな。あんま動きなしでペラペラのにしたかったんだけどさ、どうしてもこことここは動かしたいっつー欲が出てなー……」
「別に期限はないから、大地が納得するまで描いてくれていいよ」
「つってもなー。俺には俺で他にやりたい事もあんだよ」
「……ごめん」
「謝るとこじゃねーだろ。これも俺が好きでやってる事のひとつだし。あ。もう二人に言っていいぞ。俺が絵つけるって」
「分かった」
答えて、眼鏡の少年は小さく微笑んだ。
***
ああ、朝の空気が美味しいなあっ!
あれから私は、もう七日も続けて遅刻せずに……どころか、小学生の双子たちと毎朝一緒に家を出ていた。
アラームを空さんの音楽にしたおかげか、それとも会長のイケボのおかげか……。うーん、両方かなっ。
このくらい毎日余裕持って出られるなら、また朝から坂の下でミモザと待ち合わせしてもいいなぁ。
昨日は嬉しい事もあって、自然と足取りが軽くなる。
世界中の人に自慢したいくらいの気分だ。
私は、私の有り余るハッピーと元気を分けてあげられるように、今日も元気に挨拶をする。
「おっはよーございまぁぁすっ!!」
「おはようございます」
あああ、会長のお声は今朝も最っ高に甘く優しいイケボですねっっっ!!
なんだか今日の会長の低音ボイスはいつもよりさらに甘くて優しい気がする。
気のせいかな? 私が舞い上がってるからかも?
「今日も朝から元気いいなー。つかめちゃくちゃご機嫌だな?」
あれから新堂さんは時々こんなふうに声をかけてくれるんだよね。
この人はどうも、ここを通る生徒の三分の一くらいには話しかけてるように見える。顔が広いというか……元々フランクな人なんだろうな。
「えへへー。分かっちゃいます?」
「……まあ中学にもなってスキップしながら登校されればな……」
新堂さんのツッコミは聞かなかったことにして、私はウキウキの理由を自慢する。
「憧れの人とRINE交換しちゃったんですよーっっ!」
「へー、よかったなー」
「はいっ♪」
新堂さんの軽い返事をもらって、私はそのままスキップで下駄箱に向かう。
会長さんにも『よかったね』ってあのイケボで言ってもらえたら最高だったんだけど、もう私の後ろに次の人が来てたし、そっちを見てたのかな。
後ろを振り返らなかった私は、全然知らなかった。
会長が、私が通り過ぎた後、どんな顔をしていたのか。
少年が座る壁際の机にはPCのディスプレイが二つとキーボード、ヘッドホンが置かれ、机の下にはPC本体が時折チカチカとランプを光らせている。
背中合わせに置かれた机の上には紙が何枚か広げられていて、髪を一つに括った背の高い少年が背を丸めてタブレット端末に直接ペンを走らせている。
線を引くシュッという音とマウスのクリック音がするだけの静かな部屋で、PCに向かっていた黒ぶち眼鏡の少年が口を開いた。
「……どうしよう大地」
大地と呼ばれた背の高い少年が、手を止めて振り返る。
「ん? 何だ?」
「RINE……交換したいって、言われたんだけど……」
画面を指す少年の指先は震えている。
「へー。積極的だなー」
大地は画面の文字をさっと読むと作業に戻った。
「……断った方がいいよな?」
「何でだよ、繋がってやればいーだろ」
眼鏡の少年は自分のスマホを手に取るとRINEを立ち上げながら言う。
「僕のRINE、親と兄さんとおばあちゃんと従兄と、大地しかいない。……友だち」
その言葉に大地が回転椅子ごと後ろを向いた。
「マジかよ!? ぶははっ。ホントだ。6人っ」
少年の後ろからスマホを覗き込んで、大地が笑う。
「……大地はどうなんだよ」
拗ねたような声に、大地は自分のスマホを取り出した。
「今なー、何人いたっけなぁ? 俺はー……73人だな」
「多い」
「ほとんど喋ったことねー奴もいるし。付き合いでグループに呼ばれたりすっから、数だけは増えてっけどそんな喋ってるわけじゃねーよ」
「そうか……」
「そんで、なんで断ろうと思ったんだ?」
「いや、そんなに親しくない相手だから」
「だから誘われてんじゃねーの?」
「?」
「相手は、お前と仲良くなりたいって思ってくれてんだよ。お前が相手と仲良くしたくないってんなら断ってもいいだろーけど、そうじゃないなら繋がってみればいーんじゃね?」
「…………そうか……」
「ん。RINEは別に仲良しとだけ繋がるツールじゃねーしな」
「分かった。ありがとう大地」
「ま、頑張れ」
「大地はイメージ固まった?」
問われて、大地が何枚かの紙とタブレットの画面を少年に見せる。
「まあ今んとここんな感じだな。あんま動きなしでペラペラのにしたかったんだけどさ、どうしてもこことここは動かしたいっつー欲が出てなー……」
「別に期限はないから、大地が納得するまで描いてくれていいよ」
「つってもなー。俺には俺で他にやりたい事もあんだよ」
「……ごめん」
「謝るとこじゃねーだろ。これも俺が好きでやってる事のひとつだし。あ。もう二人に言っていいぞ。俺が絵つけるって」
「分かった」
答えて、眼鏡の少年は小さく微笑んだ。
***
ああ、朝の空気が美味しいなあっ!
あれから私は、もう七日も続けて遅刻せずに……どころか、小学生の双子たちと毎朝一緒に家を出ていた。
アラームを空さんの音楽にしたおかげか、それとも会長のイケボのおかげか……。うーん、両方かなっ。
このくらい毎日余裕持って出られるなら、また朝から坂の下でミモザと待ち合わせしてもいいなぁ。
昨日は嬉しい事もあって、自然と足取りが軽くなる。
世界中の人に自慢したいくらいの気分だ。
私は、私の有り余るハッピーと元気を分けてあげられるように、今日も元気に挨拶をする。
「おっはよーございまぁぁすっ!!」
「おはようございます」
あああ、会長のお声は今朝も最っ高に甘く優しいイケボですねっっっ!!
なんだか今日の会長の低音ボイスはいつもよりさらに甘くて優しい気がする。
気のせいかな? 私が舞い上がってるからかも?
「今日も朝から元気いいなー。つかめちゃくちゃご機嫌だな?」
あれから新堂さんは時々こんなふうに声をかけてくれるんだよね。
この人はどうも、ここを通る生徒の三分の一くらいには話しかけてるように見える。顔が広いというか……元々フランクな人なんだろうな。
「えへへー。分かっちゃいます?」
「……まあ中学にもなってスキップしながら登校されればな……」
新堂さんのツッコミは聞かなかったことにして、私はウキウキの理由を自慢する。
「憧れの人とRINE交換しちゃったんですよーっっ!」
「へー、よかったなー」
「はいっ♪」
新堂さんの軽い返事をもらって、私はそのままスキップで下駄箱に向かう。
会長さんにも『よかったね』ってあのイケボで言ってもらえたら最高だったんだけど、もう私の後ろに次の人が来てたし、そっちを見てたのかな。
後ろを振り返らなかった私は、全然知らなかった。
会長が、私が通り過ぎた後、どんな顔をしていたのか。
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